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【PTSOI特別企画】なべごく! ~渡辺雄也のドラフトの極意~

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この記事では、渡辺雄也さんが覚前輝也さんにドラフトを指南する形で、「普段渡辺さんがドラフトの最中にどんなことを考えているか」をお伝えします。初心者~中級者向けにわかりやすく語っていただいたので、ぜひドラフト時の参考にしてください。なお、取材をプロツアー『イニストラードを覆う影』の3日目に行なったため、写真内では会場で購入したスペイン語版パックを使用しています。

※生徒役の覚前さんには、あえてドラフト知性が低めのキャラを担当していただきました。いつもはこんな感じではないのでご安心ください。(笑)

 

 

 

覚前「かーっ、ドラフト勝てねーなー!」
渡辺「よし、先生がドラフトの極意を教えてあげようじゃないか。」
覚前「お願いします!」

●1パック目で得られる情報とは?

覚前「じゃあさっそくナベ先生、どうすればドラフト勝てるんですか?」
渡辺「試しにパックを1つ開けて、てるや君ならどれをピックするか見せてみたまえ。」
覚前「どれどれ……(開封して並べていく)」

 

02

 

1パック目の初手
《既決殺人犯/Convicted Killer(SOI)》
《溺墓の寺院/Drownyard Temple(SOI)》
《グリフの加護/Gryff’s Boon(SOI)》
《憑依の外套/Haunted Cloak(SOI)》
《本質の変転/Essence Flux(SOI)》
《ジェイスの精査/Jace’s Scrutiny(SOI)》
《聖戦士の相棒/Cathar’s Companion(SOI)》
《縫合の刻み獣/Stitched Mangler(SOI)》
《枝細工の魔女/Wicker Witch(SOI)》
《腕っぷし/Strength of Arms(SOI)》
《溶岩の地割れ/Magmatic Chasm(SOI)》
《苛虐な魔道士/Sanguinary Mage(SOI)》
《冷静な建築家/Stoic Builder(SOI)》
《マウアー地所の双子/Twins of Maurer Estate(SOI)》

A_1パック目

 

渡辺「このパックなら、てるや君がどれを取るかは手に取るようにわかるよ。」
覚前「弱いレア引いちゃってがっかり。このパック、断トツで《グリフの加護/Gryff’s Boon(SOI)》が強いじゃん。ほかは全然ダメ。ノータイムでこれ取って回すよ!
渡辺「ブブーッ!!!」

 

03

 

覚前「えーっ、何がいけないの!?」
渡辺「いいかい、ドラフトというゲームは1パック目から得られる情報がすごくたくさんあるんだ。《グリフの加護/Gryff’s Boon(SOI)》を取るのはいい。僕も一番強いそれを取るよ。」
覚前「じゃあいいじゃん!」
渡辺「いや、このパックからはほかにも読み取れる情報がたくさんある。今ここには14枚のカードがあり、1周して返ってきたときには8枚のカードがなくなっている。その消えた8枚のカードは、非常に大きな情報。なので、まずはこのパックの内容をしっかり覚えよう。」
覚前「けどナベ先生、みんなが何を取るかなんてわからないじゃないですか~。」
渡辺「正確にはわからないけど、予測はできる。たとえば、《グリフの加護/Gryff’s Boon(SOI)》がなくなっていたとして、残りの13枚からてるや君だったら何を取るかね?」
覚前「うーん、青やりたいなら《縫合の刻み獣/Stitched Mangler(SOI)》だし、赤やりたいなら《既決殺人犯/Convicted Killer(SOI)》。黒やりたいなら《マウアー地所の双子/Twins of Maurer Estate(SOI)》かな。」
渡辺「つまり、君のほかの人たちもそんなふうに考えてピックしていくわけだ。だから、1周してこないカードはある程度想像がつく。どれがなくなりそうか、考えてごらん。」
覚前「うーん、この5枚はなくなってそうかな。あとはわかんないな~。」

04

 

渡辺「そもそもこのパックには緑が1枚しかないから、緑をやってるプレイヤーは必然的に《冷静な建築家/Stoic Builder(SOI)》を取るしかない。なので、ほぼ確実にこれも消えているはずだ。」
覚前「なるほどね。」
渡辺「あと1枚どれがなくなるか、このパックはカードの強さが拮抗しているから難しいね。ちょっと置いておこう。」
覚前「了解。」
渡辺「まず僕はいつも、パックをA、B、C、Dの4つのグループに分けるんだ。最初に消える強いカードがA。次になくなりそうなのがB。Cはぎりぎり1周するかしないか。Dはほとんどピックに値しないカード。」
覚前「ふむふむ。」
渡辺「まず、Aグループの中から自分がどれかを取る。AとBのカードが順に取られていって、1周するとCグループの中からどれかが返ってくる。それを予測するんだ。」

 

B_グループ分け

↑先生によるグループ分け

 

渡辺「もし《聖戦士の相棒/Cathar’s Companion(SOI)》が返ってきたら、初手の白と合わせられるからOK。《枝細工の魔女/Wicker Witch(SOI)》が返ってきたら、無色だから何にでも使えてそれもまたよし。《本質の変転/Essence Flux(SOI)》が返ってきたら青白が視野に入る。つまり、このパックを開けた時点で、2色目としては青が有力というところまでわかるんだ。」
覚前「おおー、白青かー。」

 

ナベ先生の応用編:

「《本質の変転/Essence Flux(SOI)》にはスピリットシナジーがあるから、スピリットの点数を少し高めにピックしていけば、1周してきたこれを確保できたとき、リターンがでかい。そこまで考えられると、よりドラフトが強くなるね。」

極意その1:1パック目をグループ分けし、返ってくるカードはどれかを考えよう!

 

 

●下の人の色を想像する

渡辺「1パック目から得られる情報はまだ終わりじゃないよ。もう1つ大事なことがある。下の人がやる色だ。ここから下流で白ができる人数はどれくらいだと思う?」
覚前「白できるのは、せいぜい1人かな?」
渡辺「そうだね。このパックには白の有力なカードが少ないから、下は白をやりづらいはず。それに加えて、このパックだったら下家とさらにその下家はおおむね強い順に《縫合の刻み獣/Stitched Mangler(SOI)》と《マウアー地所の双子/Twins of Maurer Estate(SOI)》を取るだろうという予測ができる。そうすると、黒と青は下がやりそうだから、特に2色目として黒は避けたほうがいいという情報も得られる。この先自分が黒を取っちゃうと、下と黒がかぶる可能性が高い。」
覚前「そうすると返しのパックが弱くなっちゃうもんね。」
渡辺「その通り。あと、緑のカードが薄いから、自分が緑に参入したら返しは緑がおいしい可能性が高い。」
覚前「上家が緑やってなかったら、ウハウハまであるね。」
渡辺「この環境は緑が強いから、上が緑やってるかどうかは察しにくいけど、自分がこのパックを流したうえで、かつ緑をこの先せき止め続けると、返しで緑がおいしくなりそうだから、2色目は緑もアリ。ざっとこんな情報が手に入るね。」

極意その2::下の人が何をやるか予測して、それを避けよう!

 

 

●グループ分けのやり方は?

覚前「ナベ先生、質問なんですけど。A~Dのグループの分け方はどうすればいいんですか?」
渡辺「いい質問だね。最初のうちは、正直できない。」
覚前「できない!?」
渡辺「なぜなら、カードを知らないから。最初のうちは、漠然と強いなーと思うカードをAにするくらいでいい。ただ、アバウトでもいいから、グループ分けする作業だけは絶対やったほうがいいよ。強いと思ったカードが返ってくるなら、自分の基準が回りとずれてるってわかるから、それを繰り返して矯正していけばいいんだ。」
覚前「逆に、使ってみて弱かったなと思ったら次から点数下げたらいいしね。」
渡辺「卓の中で基準がずれてることも最初のうちは多いけど、それでも自分でグループ分けしては修正していくことが大事だよ。少しずつグループ分けの精度を上げていくことこそ、ドラフトの練習というものだからね。」
覚前「先生はこの練習をいつやってるの?」
渡辺「僕はドラフト合宿でやるよ。一番自分の考えを試せるし、終わった後で『どうだった?』ってみんなで話し合うことで、グループ分けの精度がかなり上がるからね。自分のピックだけなら1の情報だけど、みんなと情報共有すれば8倍になるから。」
覚前「そっかー、終わった後は『あー負けたー、次がんばろー』って片付けてたなー。」
渡辺「それで終わりにせず、ほかの人の試合を見て『このカードが活躍してるな』ってチェックしたり、試合後に対戦相手にデッキを見せてもらうとかも大事。」
覚前「ほかの人のデッキやピックを見るには、ニコニコ生放送でやってる大会の中継とかもいいよね。」
渡辺「そうだね。うまい人は何を考えてドラフトしてるのかわかるから。自分なら何を取るか考えながら見て、プロが違うピックをしたらそれはなぜかを考えるのがうまくなる秘訣だよ。」

極意その3:自分の基準でグループ分けし、それを修正していこう!

 

 

●カードはどうやって覚えるの?

覚前「先生はパックの内容を覚えろって言うけど、どれくらい覚えたらいいの?」
渡辺「Dグループは覚えなくていいけど、A~Cの10枚くらいは覚えられると勝ちが近づくね。ちなみに僕は一応全部覚えるけど。」
覚前「まじかー。すごいな。」
渡辺「初心者~中級者は、AとBグループの最低5枚は覚えること。それだけでも返しのドラフトがやりやすくなるよ。」
覚前「厳しいな~、いつも3枚くらいしか覚えてないもんな~。」
渡辺「1枚取ったらすぐ下に回すんじゃなくて、時間いっぱいまでちゃんとカードを覚えるようにしよう。あと、本当にデッキに入らないようなカードは覚えなくていいよ。」
覚前「先生、何か覚えるコツってないんですか?」
渡辺「うーん、記憶力を高めることと、繰り返しの練習かな。」
覚前「僕、発売前にフルスポイラーが出たときにカードをひと通り覚えようとはするんですけど、全然覚えられなくて。最初に白から見始めるじゃん。疲れて、次の青に進んだら『あーもうしんどい、あとは明日見よう』って思って、次の日にまた白から見始めるじゃん。だから全然先に進まないんだよね。(覚前さん、ここだけ素)」
渡辺「おいおい、やる気があるのかね君は!」
覚前「すんませんっした!」
渡辺「ともあれ、リミテッドではクリーチャーのぶつけ合いになるから、まずはどんなクリーチャーがコモンにいるかを集中してチェックして、クリーチャーの平均的なパワーとタフネスを把握する。あとはどんな除去があるかと、どんなインスタントのコンバットトリックがあるか。項目を絞って覚えるのがいいと思うよ。」

 

ナベ先生の応用編:

「このパックで言うと、《溶岩の地割れ/Magmatic Chasm(SOI)》というサイドボード用のコンバットトリックカードがDグループにあるよね。これと《ジェイスの精査/Jace’s Scrutiny(SOI)》の2枚は、点数は高くないけどデッキに入ることはけっこうあるので、これを流したってことをしっかり覚えておけるとよりいいね。」

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極意その4:項目を絞ってカードを把握し、最低5枚はパック内容を覚えよう!

 

 

●2手目から得られる情報

渡辺「じゃあ、次のパックに進もうか。《グリフの加護/Gryff’s Boon(SOI)》を初手にピックしたとして、2手目はどうするか考えてみよう。とりあえず、もう1パック開けたものがここにある。」

1パック目の2手目
《ガツタフの放火魔/Gatstaf Arsonists(SOI)》
《ネファリアの月ドレイク/Nephalia Moondrakes(SOI)》
《月銀の拘束/Bound by Moonsilver(SOI)》
《つぶやく悪鬼/Gibbering Fiend(SOI)》
《忘られじ/Not Forgotten(SOI)》
《物騒な群衆/Unruly Mob(SOI)》
《シルブールリンドのカミツキガメ/Silburlind Snapper(SOI)》
《刹那の器/Vessel of Ephemera(SOI)》
《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》
《アドレナリン作用/Rush of Adrenaline(SOI)》
《溶岩の地割れ/Magmatic Chasm(SOI)》
《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》
《翼切り/Clip Wings(SOI)》
《遠沼の亡霊/Farbog Revenant(SOI)》

C_2パック目

 

渡辺「復習編として、今までの極意を踏まえて先ほどの手順をもう1回やってみようか。この14枚から何をピックして、何が返ってくると予測する? さっきの1パック目のことはいったん忘れていいよ。」
覚前「えーと、じゃあ最初にグループ分けするんだよね。えーと……《アドレナリン作用/Rush of Adrenaline(SOI)》は個人的に好きだけど、ほかの人はそんなに点数高くなさそうかな……じゃあこれで。」

 

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↑覚前さんによるグループ分け(上から強い順)

 

渡辺「《ガツタフの放火魔/Gatstaf Arsonists(SOI)》と《つぶやく悪鬼/Gibbering Fiend(SOI)》の二択で、《つぶやく悪鬼/Gibbering Fiend(SOI)》のほう取る?」
覚前「いや、今は最序盤だから取らない。」
渡辺「個人差はあるけど、自分の中で明確に『これとこれだったらこっち』という基準があるなら、グループを分けたほうがいいね。」
覚前「じゃあ、ちょっと修正して、これで。」

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↑覚前さんによる修正後のグループ分け

 

渡辺「ということで、《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》と《月銀の拘束/Bound by Moonsilver(SOI)》が初手候補だね。」
覚前「どっちを取ろうかな? 難しいなー。」
渡辺「カードの強さは拮抗してるから、悩んだときはほかのカードの情報を見てみよう。」
覚前「うーん……上のほうに赤が4枚ある。」
渡辺「この赤が全部消えるとしたら、卓に赤が4人できる。そう考えると、このドラフトで赤を選んで、最後まで勝てるかな?」
覚前「めちゃくちゃ難しそう。」
渡辺「逆に、白は《月銀の拘束/Bound by Moonsilver(SOI)》と《物騒な群衆/Unruly Mob(SOI)》の2枚しか使用に値するカードがない。」
覚前「そしたら、薄くなりそうな白を取ったほうがよさそうに見えるね。」
渡辺「《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》は強いけど、《月銀の拘束/Bound by Moonsilver(SOI)》を取って白のポジションを確立したほうが、ドラフトの勝率は高そうだ。」
覚前「返しで赤が返ってこなさそうだもんね。《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》を取ったうえで《アドレナリン作用/Rush of Adrenaline(SOI)》が返ってきたらうれしいけど、ドラフト全体として見たらよくないんだ。3パック終わった時点で、『全然カードが足りない!』ってことになりそう。そう考えると、このパックからは全然赤に魅力を感じなくなってきたな。」
渡辺「ドラフトというシステム上、5色しかないところで8人で2色ずつ選ぶわけだから、同じ色が最低2人はできるけど、自分がどれだけ少ない色になれるかを考えると、白のほうが期待値は高いね。」
覚前「了解!」
渡辺「じゃあ、上家はそう考えて《月銀の拘束/Bound by Moonsilver(SOI)》をピックしたものとしよう。でも、これがなくなっているってことはてるや君にはわからない。そういう前提で、2手目にこの13枚が流れてきた。さあどうする?」

D_2パック目ピック

覚前「えーっと……やったー! 《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》強いやん! めちゃくちゃ赤あるから、これなら上家は絶対赤やってなさそう! はい《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》ピックで決まり!」
渡辺「急に知性が下がったね(笑)。2手目では、まずどのレアリティのカードがなくなっているかをチェックしよう。」

覚前「アンコモンがなくなってる。」
渡辺「そしてそこそこのレアが残ってる。つまり、けっこう強いアンコモン……《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》よりも強いか同じくらいだろうとわかるね。それが最初の情報だ。それを踏まえて、自分はどれを取るべきか?」
覚前「《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》じゃダメ?」
渡辺「いや、別に取ってもいい。」
覚前「いいんだ!」
渡辺「《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》は赤のアンコモン以下の中では1、2を争う強いカードだから、上の人の主張としては、『自分は赤をやりたくない、下の人に赤をやってほしい』という感じなのがわかる。つまり上から赤が流れてくることが期待できる。」
覚前「確かに。上は赤取ってなさそうだね。」
渡辺「でも、さっきも言ったように残りのカードを流すことにより卓に赤が最低2人は必ずできてしまう。赤が混雑して、自分が3人目になりそうだ。」
覚前「そうかー、じゃやっぱりやめようかな。」
渡辺「第2の候補は、《ネファリアの月ドレイク/Nephalia Moondrakes(SOI)》だ。」
覚前「なんで?」
渡辺「1パック目の情報を思い出してごらん。」
覚前「うーん……もう忘れちゃったな~。」
渡辺「(笑)1パック目のCグループに青いカードがあって、一周して取れる可能性があったよね。」
覚前「うん、そうだった。」

渡辺「初手に《グリフの加護/Gryff’s Boon(SOI)》を取ったとき、2色目は青か緑がいいんじゃないかって話をしたよね。そこで《ネファリアの月ドレイク/Nephalia Moondrakes(SOI)》。これはかなり強いと思う。」
覚前「確かに、1枚で勝てる大型飛行クリーチャーだね。」
渡辺「第3の候補に挙がるのは《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》だ。自分が開けた1パック目で緑が少なくて、下に緑ができづらいという前提があり、この2パック目にも緑はこれしかない。《翼切り/Clip Wings(SOI)》はあるけど、サイドボードカードだから。だからこの《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》を取ることで、下に緑をやらせないことができる。」
覚前「実際、さっき流したパックはCグループにしか緑がなかったもんね。」
渡辺「なので、僕なら《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》は取らない。強いカードだから、取ることを否定はしないけど。残りの二択は好みだね。自分の得意なアーキタイプで決めてもいいと思う。」
覚前「今までのパック内容によって、A~Cの分類は変わってくるんですね。1パック目の情報によって《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》がBからAに上がってきた。」
渡辺「そう。点数は変わるんだ。」

覚前「うーん、どれをピックしようかな……。」
渡辺「この3枚ならどれでもいい。明確な正解・不正解はない。ただし、理由を持ってピックすること。」
覚前「理由か~。」
渡辺「ただ『《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》強いやん』だけではなくて、卓に3人目の赤になるリスクがあっても強い火力を取りたいからなのか、もしくは初手で取った《グリフの加護/Gryff’s Boon(SOI)》と相性がよくて下の緑を絞れる《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》なのか、でなければ1周してくるカードを見越して《ネファリアの月ドレイク/Nephalia Moondrakes(SOI)》なのか?」
覚前「うーん……じゃあ《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》にします!」

極意その5:理由を持ってピックせよ!

08

 

 

●色を選ぶ理由とは?

覚前「ナベ先生、そもそも、人が少なくて自分が組めそうな色を選んだほうがいいんですか? それとも、下家の選択肢を減らすように色を選んだほうがいい?」
渡辺「どっちも大事。そもそも、ドラフトというのは自分の意志を伝えるゲームなんだ。」
覚前「なんか名言きた!」
渡辺「自分の意志が下流にちゃんと伝われば、ちゃんと答えが返ってくる。今の2手目で言うなら、《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》を取れば『緑はやらないでね。代わりに赤やっていいよ』ってメッセージを下に伝えることができる。まあ、1パック目を流した時点ですでに『赤やっていいよ』ってシグナルを送ってるけどね。」
覚前「やっぱり、ほかの人と色がかぶらないようにするのは大事だよね?」
渡辺「できれば上家とは絶対にかぶらないほうがいい。下家とももちろんかぶらないほうがいいけどね。自分も両隣も2色ずつ取るから絶対1色はかぶるけど、上家とは2色ともかぶらず、下家とは1色かぶるくらいなら、かなり成功したドラフトだといえる。」

覚前「色かぶっててヤバイぞってのは、いつくらいに気づくものなの?」
渡辺「いろいろなパターンがあるけど、たとえば今回の場合、2~4パック目で白と緑が全然来なくて、5手目で《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》が流れてきたってなると、上に白緑がいてダダかぶってるなとわかる。」
覚前「ちなみに、その《癇しゃく/Fiery Temper(SOI)》は取ったほうがいい?」
渡辺「うん、もう上は絶対に赤やらないから。下とはかぶるリスクがあるけど、3パック目の赤の流れは確実にいいことがわかるからね。」
覚前「なるほど。」
渡辺「つまり、5手目くらいに流れてきた強力なカードは大きな指針になる。僕はドラフトで一番大事なのが初手で、次が9手目、その次が5手目近辺だと思ってるんだ。2手目はどうしてもブレが発生するけど、すでに4枚ほど取られてる5手目くらいなら上の意志が見えやすいから。」
覚前「ふむふむ。」
渡辺「それじゃ、次は5手目くらいを再現してみようか。」

極意その6:ドラフトは意志を伝えるゲーム!

 

 

●1パック目の5手目は大事なタイミング

1パックの5手目
《健忘の器/Vessel of Paramnesia(SOI)》
《天使の粛清/Angelic Purge(SOI)》
《回答の強要/Press for Answers(SOI)》
《グール呼びの共犯者/Ghoulcaller’s Accomplice(SOI)》
《闇告げカラス/Crow of Dark Tidings(SOI)》
《巣網から見張るもの/Watcher in the Web(SOI)》
《傲慢な新生子/Insolent Neonate(SOI)》
《縫い翼のスカーブ/Stitchwing Skaab(SOI)》
《タミヨウの日誌/Tamiyo’s Journal(SOI)》
《森/Forest》(フォイル版)
※プロツアーのドラフトでもフォイルの土地は使用されます。

E_5手目

 

渡辺「それではてるや君、1パック目の5手目で、残ってるカードがこの10枚だったとしよう。ここから読み取れることは何かな?」
覚前「赤で強いカードがない。上の人はみんな赤やってるんじゃね? くそー、赤行きたかったな~。」

渡辺「みんなではないけど(笑)、上に赤がいるのは明白だね。ほかにも得られる情報があるよ。」
覚前「うーん、黒と青と白はBグループか、Aに入りそうなカードが残ってる。」
渡辺「《縫い翼のスカーブ/Stitchwing Skaab(SOI)》《天使の粛清/Angelic Purge(SOI)》《闇告げカラス/Crow of Dark Tidings(SOI)》の3枚は、5手目で取れるカードとしてはけっこう強いね。もっと早くなくなってもおかしくない。つまり読み取れることは、上に黒が少なくて、いたとしても1人。」
覚前「《縫い翼のスカーブ/Stitchwing Skaab(SOI)》もけっこう強いから、青もいて1人だよね。」
渡辺「そう。上の2、3人は黒か青をやらせたがってる。自分がそれに従うかどうかはともかくとして。あと緑はコモンに強いカードが多いけど、それを取って緑をやることを主張してきてる人が確定でいそう。白に関してはまだなんとも言えないかな。これを踏まえた上で、今まで取ってきた4枚のカードと組み合わせてピックを考える必要があるね。」
覚前「もし赤緑をやってて、このパックが流れてきたらきついね。」
渡辺「そしたら思い切って赤を切って色替えって選択肢もある。1-5(1パック目の5手目)から1-7くらいは、個人的には一番選択肢が広くなってて、色変えがしやすいタイミングだと思うんだ。」
覚前「色を変えようって決めるのはどういうとき?」
渡辺「この場合なら、自分が白→白→緑→緑と取ってたときに、このパックが回ってきたとしよう。上が緑をやってて、緑をやるのはかなり厳しそうだとわかる。そういうタイミングに、これなら白青を検討するかな。」

09

 

ナベ先生の応用編:

「白緑をやってるからと言って、ここで《巣網から見張るもの/Watcher in the Web(SOI)》を取っちゃうのは悪手。自分がやってるのが守る緑だったらいいけど、攻める緑にこれを入れても強くないからね。ここで緑に無理やり突き進んだせいでデッキが弱くなる可能性は大いにありそう。この環境の赤だったら攻め一辺倒だからいいけど、自分のデッキが攻めと守りどっち寄りなのかは考えたいところだ。」

極意その7:1-5~1-7は、色変えにベストなタイミング!

 

 

●9手目から何を読み取るか

渡辺「じゃあ、最初のパックに戻ろう。1周して、6枚が返ってくる。消えるだろうカード10枚を最初に覚えておいたよね? 実際に何が消えたか、突き合わせて確認しよう。それにより、『こういうふうに消えてるということは、卓の色分布はこうなっている』ということが読み取れる。」
覚前「なるほど。だから1周後を予測しておかなくちゃいけないのかー。」
渡辺「《溶岩の地割れ/Magmatic Chasm(SOI)》《ジェイスの精査/Jace’s Scrutiny(SOI)》《溺墓の寺院/Drownyard Temple(SOI)》《憑依の外套/Haunted Cloak(SOI)》の4枚はほぼ取られないけど、あとの2枚は可変だから、いくつかのパターンを見てみよう。」

10

↑下の4枚はほぼ取られなさそう。

 

 

残っているカードが……

技細工の魔女 聖戦士の相棒

《枝細工の魔女/Wicker Witch(SOI)》と《聖戦士の相棒/Cathar’s Companion(SOI)》の場合
→この段階で白が自分を含めて2人しかいないって情報がわかる。白いカードを素直に取って白に行こう。また、青が2人いることもわかる。今の環境は青が弱いから、3人目の青に参入するのはありえないね。

 

技細工の魔女 本質の変転

《枝細工の魔女/Wicker Witch(SOI)》と《本質の変転/Essence Flux(SOI)》の場合
→卓に青が1人しかいなさそうなことがわかる。それまでのピックにもよるけど、自分も青に参入する余地がある。ただし赤・白・緑から2色にしようみたいなピックをしてきた場合は、《枝細工の魔女/Wicker Witch(SOI)》を取って受けよう。

 

技細工の魔女 冷静な建築家

《枝細工の魔女/Wicker Witch(SOI)》と《冷静な建築家/Stoic Builder(SOI)》の場合
→弱いカードだから必ずとは言えないけど、このパックで緑を選択するプレイヤーがいなかったわけで、緑が卓にかなり少ないことがわかる。迷ってるなら緑に行ってもよさそうなシグナル。

 

本質の変転 冷静な建築家

《本質の変転/Essence Flux(SOI)》と《冷静な建築家/Stoic Builder(SOI)》の場合
→緑も青も卓に少ないことがわかる。この場合はそれまでのピック次第で好きなほうに決めればいい。どっちかを流したら、下家もしくは下家の下家のどちらかはその色だろう。だから自分は、ここで取らなかったほうの色にさわるべきではない。

 

ジェイスの精査

《ジェイスの精査/Jace’s Scrutiny(SOI)》が消えている場合
→この情報はかなり大事。返って来るだろうと思ったカードが返ってこなかったら、判断材料が増える。このケースでは、卓にこのカードをうまく使うピックをしている人がいることが推測できる。《本質の変転/Essence Flux(SOI)》よりも《ジェイスの精査/Jace’s Scrutiny(SOI)》のほうが点数が高いアーキタイプ……つまり青緑調査をやってる人が卓に1人いるとわかる。さらに《冷静な建築家/Stoic Builder(SOI)》も消えてた場合は、それに加えてもう1人、卓に2人緑がいることがわかる。おそらく墓地を回収することにメリットがある、たぶん緑黒昂揚系のアーキタイプだね。逆に雑多なビートダウンを狙ってるプレイヤーは少ないという情報が読み取れる。

極意その8:覚えておいたカードと返ってきたカードを突き合わせ、卓の色分布を読み取れ!

 

 

●インスタントは覚えよう

渡辺「基本の極意はだいたい教えたけど、もう1つ重要ポイントがあるんだ。」
覚前「何ですか?」
渡辺「自分が取らなかったサイドボードカード、特にインスタントは気にかけておくべき。」
覚前「まだ覚えないといけないのかー。」
渡辺「たとえば、9手目にもし《ジェイスの精査/Jace’s Scrutiny(SOI)》が消えてたら、それは確定で誰かが持ってて、青との対戦で撃たれる可能性がある。今回《溶岩の地割れ/Magmatic Chasm(SOI)》も2枚出てるけど、サイド後は撃たれることを意識してプレイしたほうがいい。」
覚前「Dグループのカードでも?」
渡辺「うん。不確定情報であるスペルは、タイミングによっては本来のピック手順が低いにもかかわらず絶大な効果を発揮するので、できるだけ覚えるべき。」
覚前「撃たれてやばいインスタントを覚えておくくらいなら、意識すればできそうな気がするな。」
渡辺「覚えるのに加えて、自分でも積極的にサイドボード用カードはピックしたほうがいいよ。残り6枚のときに、強いカードはないけどサイドカードが残ってることはよくある。この環境だと、《翼切り/Clip Wings(SOI)》や《溶岩の地割れ/Magmatic Chasm(SOI)》、《根から絶つ/Root Out(SOI)》なんかは、率先してピックしたほうがいい。」

翼切り 溶岩の地割れ 根から絶つ

 

渡辺「そういうサイドカードを取っておけば、2パック目で爆弾レアを引いてまるっと色を変えるようなときでも、枚数合わせに使うことができるしね。」
覚前「わかりました! 意識します!」
渡辺「よし、これで君も、次のプロツアーではドラフト6-0だ!」

極意その9:サイドカードは大事。特にインスタントを覚えよう!

11

 

 

 

 

●収録後の余談

覚前「ふーやれやれ。かなりボリュームある内容になったんじゃ?」
渡辺「僕はまだまだ話し足りないけどね。カットの話とか、どうしても3-0しなくちゃいけないときと2-1でもいいときの違いとか。」
覚前「えー、もう頭がパンクしそうだよ~。」
渡辺「それはいつかまた、どこかで機会があればね。」

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