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グランプリ・台北2016レポート

01

6月25~26日、台湾の台北市で開催されたグランプリに、Team Cygamesのメンバー4名はそろって参加し、市川ユウキさんがみごと優勝をかざりました! 市川さんはグランプリ・上海2015での優勝以来、2度目の優勝トロフィー獲得となりますが、当時はまだTeam Cygames入りしていなかったため、今回がTeam Cygamesにとって初めてのグランプリ優勝となります。この大変うれしいイベント結果について、それぞれの戦いを振り返ります。

02

――改めて、本当に優勝おめでとうございます! 優勝の瞬間、現場はどんな感じだったんですか?
渡辺「現場には僕ら誰もいなかったです(笑)。僕は現地の友達と宴会で乱痴気騒ぎしてたし、ほかの2人もメシと観光でしょ?」

――ええっ!
市川「よくあること(笑)。グランプリの最後って、本当に物好きしか残ってないんですよ。ヤソ(八十岡翔太さん)とマッキー(三原槙仁さん)くらいしかいなかったです。」
渡辺「物好き2人だね(笑)。でも、携帯では見てましたよ。」
山本「僕も動画配信を見てました。」
覚前「ホテルで、屋台で買ってきた焼き鳥とかをみんなで食べながら、携帯を真ん中に置いてみんなでワイワイ見てた。」
市川「決勝の対戦相手が台湾の方だったんで、ギャラリーは9割現地の人で、決勝戦が始まるとみんなステージの前に椅子を持ってきて座り出しましたね。」

――それはプレッシャーじゃないですか?
市川「いや別に(笑)。おもしろいなと思って見てました。」

――市川さんは前回のグランプリ優勝も上海ということで、アジアに強いですね。
市川「トップ8のボーダーが下がるのが単純に大きいですね。日本のグランプリは人が多いから2敗でもオポ落ちすることがあるけど、アジアだと2敗1分けでもトップ8に残れるから。毎年台北でやってほしい。近いし、日本語もけっこう通じるし。」
渡辺「吉野家とか大戸屋とか、日本のお店もなんでもあるし。」
覚前「ただ、めちゃくちゃ暑いのがなー。」
市川「日本の夏も暑いけど、湿気がもっとすごくて。」
渡辺「まあ、暑くてもまた台北でグランプリやってほしいですね。」

03

●デッキ選択の理由

 

――まずは皆さんの選択したデッキについてお聞かせください。
山本「緑白トークンを使ったんですが、理由は一番安定してて地力があるデッキだからです。《集合した中隊/Collected Company(DTK)》を使うデッキはけっこう上ブレ下ブレしやすいイメージがあって、今回は目標が4敗だったんで、安定してるデッキがいいかなと。」

――デッキレシピはどなたのものを使ったんですか?
山本「基本的に健志さん(Hareruya Pros所属の津村健志さん)のリストをシェアしてもらって、俺と健志さんと覚前と加藤一貴さんの4人で2日くらい、顔を合わせて練習しました。」

――覚前さんも同じ緑白トークンにしたんですね。
覚前「やっぱり2→3→4コストの動きが強くて対処しにくいし、直近の大会で一番勝ってるし。最初はバント人間カンパニーを使ってたんですけど、緑白トークンに勝てないなと思っていて。明確に強いその2つのデッキを戦わせたら緑白トークンのほうが強いかな、ってことで選びました。」
山本「4人で調整してリストを煮詰めて、メインはほぼ調整1日目くらいで完成して、あとはサイドボードを何相手に何を抜くかみたいなことをやってました。」

 


山本賢太郎/覚前輝也『緑白トークン』



8《森》
7《平地》
4《梢の眺望》
4《要塞化した村》
2《ウェストヴェイルの修道院》
1《平穏なる広野》


土地(26)

4《搭載歩行機械》
2《ラムホルトの平和主義者》
4《森の代言者》
4《大天使アヴァシン》


クリーチャー(14)


4《ニッサの誓い》
2《進化の飛躍》
4《ドロモカの命令》
2《悲劇的な傲慢》
4《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》
4《ゼンディカーの同盟者、ギデオン


呪文(20)


2《ラムホルトの平和主義者》
1《進化の飛躍》
2《棲み家の防御者》
2《石の宣告》
2《停滞の罠》
2《次元の激高》
2《保護者、リンヴァーラ》
1《隔離の場》
1《荒野の確保》


サイドボード(15)


※覚前さんのデッキはサイドボードの《隔離の場》が2枚目の《荒野の確保》であること以外は同じ

 

 

――渡辺さんのデッキは、磨き上げてきたバント人間カンパニーですよね。
渡辺「はい、環境の一番最後ということもあって、使い慣れてるデッキで。前のデッキ解説記事からちょっとだけ変更したのは、《大天使アヴァシン/Archangel Avacyn(SOI)》がメインに入ったところです。」

――それはなぜですか?
渡辺「同系とかが増えると思って、同系に出したら勝てるカードが欲しかったんで、同系に弱い《オジュタイの命令/Ojutai’s Command(DTK)》がサイドに落ちて、そこに入った感じですね。あとデッキリストが完全に広まってるので、既知のカード以外でゲームメイクしたいと思ったのもあります。」

 


渡辺雄也『バント人間カンパニー』



6《平地》
3《森》
1《島》
2《ヤヴィマヤの沿岸》
2《梢の眺望》
4《進化する未開地》
4《要塞化した村》
3《大草原の川》


土地(25)

4《スレイベンの検査官》
4《ラムホルトの平和主義者》
4《サリアの副官》
3《薄暮見の徴募兵》
2《白蘭の騎士》
4《反射魔道士》
2《大天使アヴァシン》
4《不屈の追跡者》


クリーチャー(27)


4《ドロモカの命令》
4《集合した中隊》


呪文(8)


1《白蘭の騎士》
2《棲み家の防御者》
2《オジュタイの命令》
2《悲劇的な傲慢》
2《巨森の予見者、ニッサ》
3《否認》
3《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》


サイドボード(15)


 

 

――市川さんのバントカンパニーは、デッキの強さで選んだんですか?

市川「スタンダード全然やってなくて、WMCQ(6月18日に開催されたワールド・マジック・カップ予選)の1週間前くらいに『何か強いデッキない?』ってまわりに聞いたら、BBD(アメリカのチームChannel Fireballに所属するBrian Braun-Duin)のバントカンパニーが強いよって言われて。MOで回してみたらすごい勝てたし、WMCQにそのまま出たら感触がよくて、これでいいかなと。サイドボードを数枚いじってみたんですけど、メインは一度も変えないままだったし、サイドボードも最終的にオリジナルの形に戻りました。やっぱりこの枚数が一番いいなって。」

――サイドボードプランなどに関する本人の記事がありましたが、参考にしましたか?
市川「僕は正直あんまり参考にしなかったですね。《巨森の予見者、ニッサ/Nissa, Vastwood Seer(ORI)》の3枚目をサイドインするときに、《荒地/Wastes(OGW)》か《伐採地の滝/Lumbering Falls(BFZ)》をサイドアウトしてもいいという記述は参考になりましたけど、ほかのところは自分が思ったようにやりました。」

――本人の意図どおりでないほうが、自分としては合う?
市川「そうですね。プランニングの考え方の違いなのかもしれないですけど。」

――素朴な疑問なんですが、バント人間カンパニーではなくバントカンパニーにしたのはなぜなのでしょうか?
市川「みんなが渡辺雄也を信じて強い強いって言ってると、あまのじゃくだから違うデッキを使いたくなるんですよね(笑)。」
渡辺「同じ色だけど、実際やってることは全然違うデッキなので。バント人間は攻めるデッキだけど、バントカンパニーはどっちかというと受けるデッキだよね?」
市川「そう。殴りきるのは3割くらい。だいたい《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist(ORI)》か《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound(ORI)》で勝つんで。」
渡辺「ビートダウンとコントロール的な違いがあります。」
市川「よく比較されるけど、デッキとしては別物なので。」

――なるほど、そうなんですね。市川さんはバントカンパニーをどれくらい使っているんでしたっけ?
市川「前回のプロツアー『イニストラードを覆う影』でも同じような、《変位エルドラージ/Eldrazi Displacer(OGW)》入りのバントカンパニーを使って、すごい長引くんで疲れて、もう二度と回したくないって思ってて、それ以降はまったく使ってなかったんですけど、これだけ勝てるんだったらさすがに背に腹は代えられないと思って、とにかくプレイ時間だけ早くしようと思ってグランプリに臨みました。」

――バントカンパニーは長引きやすいデッキですが、プレイ時間を短くする工夫にはどんなことがありますか?
市川「僕けっこうシャッフルしたい人なんですけど、前の試合が終わったらある程度シャッフルしといて、次のラウンドではあっさりしたシャッフルだけでしっかり混ざってる状態にするとか、手掛かりトークンも1枚ずつカードを取り出してたら時間がなくなっちゃうので、Tシャツの胸ポケットに手掛かりとニッサ用のトークン2枚だけ入れといて、枚数はポケットのサイコロを出してさっと示すみたいなことをやってました。次のターンにだいたいこういう行動を取るだろうなと思ったら、ある程度色マナを整えておいて、ターンが返ってきたら土地を起こしてすぐにプレイしてすぐエンド、みたいな感じにするとか。まあ、見られたら次の行動がバレるかもしれないんですけど、そういうことを気にするよりも引き分けないようにしようと思ってやってました。」

――必ずやることの秒数を少しずつ削っていくんですね。
市川「やっぱり思考時間を減らすっていうのはなかなか難しいので、それ以外のアナログな減らしやすい部分を必ず減らそうと思ってやってました。」

 


市川ユウキ『バントカンパニー』



4《森》
3《平地》
1《島》
1《荒地》
3《梢の眺望》
4《大草原の川》
4《ヤヴィマヤの沿岸》
2《伐採地の滝》
4《進化する未開地》


土地(26)

4《薄暮見の徴募兵》
4《ヴリンの神童、ジェイス》
4《森の代言者》
3《変位エルドラージ》
4《反射魔道士》
4《不屈の追跡者》
2《巨森の予見者、ニッサ》


クリーチャー(25)


4《ドロモカの命令》
4《集合した中隊》
1《オジュタイの命令》


呪文(9)


4《ラムホルトの平和主義者》
1《巨森の予見者、ニッサ》
3《否認》
2《石の宣告》
2《オジュタイの命令》
3《悲劇的な傲慢》


サイドボード(15)


 

 

●対戦成績と印象的な場面

山本さんの戦績(最終順位:319位)
やまもと

ラウンド 対戦相手 勝敗
R1~3 bye(不戦勝)
R4 グリクシスコントロール 勝ち(○○)
R5 バント人間カンパニー 負け(×○×)
R6 青白飛行 負け(××)
R7 バント人間カンパニー 勝ち(○○)
R8 白単人間 負け(××)
R9 緑白トークン 負け(××)

 

――山本さんは安定性で緑白トークンデッキを選んだということでしたが、早いデッキにブン回られてしまった感じでしたか?
山本「いや単純に、俺の脳みそがバグってて、デッキは関係なかったです。算数ができてなくて。」
市川「そういうの、山本さんにしては珍しいね。」
山本「相手に《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》の紋章が出てるのに、その+1/+1を失念して《龍王シルムガル/Dragonlord Silumgar(DTK)》に《大天使アヴァシン/Archangel Avacyn(SOI)》で《ドロモカの命令/Dromoka’s Command(DTK)》の格闘をしかけて、「……死なんなあ」みたいな(笑)。」
渡辺「体調悪かったんじゃないの? 朝タクシーの待ち合わせに遅れて、1人で歩いて来たじゃん。そのせいで暑くてばててたんでしょ。」
山本「いや、会場内は暑くなかったし、別に体調は悪くなかったんですけど。」

――フォローが台無しに(笑)。
山本「頭の調子は悪かったので、初心に帰って公文式でもやろうかなと(笑)。」

――2日目、山本さんは観光に行かれてましたよね?
山本「初日の夜ふらふらしてたら、宮本さんっていう関東のプレイヤーの一行がいて、かき氷をおごってもらって。宮本さんたちも観光に行くって言うから、一緒に行きませんかって話になったんです。最初は九フン(山の斜面に古い町並みが残る有名な観光地)に行ったんですけど、なんかごちゃごちゃしてて、あまり見るところがないなって話になって。2時間くらい滞在して、そのあとどうしようかって話し合ったときに、去年井川(Hareruya Pros所属の井川良彦さん)が台北でRPTQ(プロツアー地域予選)に来てて、そのときに滝に観光に行ったって聞いてたんで、じゃあ見に行くかって感じで、現地のタクシーのおっちゃんに連れてってもらいました。めっちゃ暑かったけど、楽しかったですよ。」

――何かおいしいものは食べましたか?
山本「かき氷は3回くらい食べたかなあ。マンゴーがたくさんのってる大きいやつ。日本と違っておいしかったです。」
渡辺「向こうで食べるかき氷のおいしさたるや。」

――台湾の人気かき氷屋さんが表参道に出店してますが、3時間待ちとからしいですね。
渡辺「3時間あれば台湾まで行けますけどね(笑)。」

04

05

観光を楽しむ山本さん(撮影:和田寛也さん)

 

 

覚前さんの戦績(最終順位:106位)
かくまえ

ラウンド 対戦相手 勝敗
R1~3 bye(不戦勝)
R4 バント人間カンパニー 負け(0-2)
R5 勝ち(2-1)
R6 勝ち(2-0)
R7 負け(1-2)
R8 勝ち(2-0)
R9 負け(1-2)
R10 勝ち(○○)
R11 緑白トークン 勝ち(○○)
R12 勝ち(×○○)
R13 エスパー(八十岡翔太) 負け(××)
R14 緑白トークン 勝ち(×○○)
R15 白単人間 負け(××)

 

覚前「ほとんど対戦相手のデッキを覚えてないんですけど、バント人間カンパニーに負けたなーっていうのが印象的で。4回戦でまず当たって負けたんですけど、けっこう負けるんだなと。」

――有利だと思っていたのにってことですね。
覚前「そうです。向こうが2戦ともめちゃくちゃ回ったというのはありましたけど、それでも勝てるくらいの力はあるかなと思ってたので、ちょっと予想外でした。」

――それに関して、反省点などはありますか?
覚前「緑白トークンデッキって、メインの55枚はほぼ固定で5枚フリー枠があるんですが、うち1枚は26枚目の土地、除去の枠に《悲劇的な傲慢/Tragic Arrogance(ORI)》2枚と、2マナ域のクリーチャー枠に《ラムホルトの平和主義者/Lambholt Pacifist(SOI)》2枚にしたんです。僕は津村さんが持ってきた元のデッキリストを回して感触が良かったからこのままでいいかなと思ったんですけど、もう少し考えられたかなと。今回トップ8に入ってた緑白トークンはけっこうリストが違ってて、白単とカンパニー系に強いって理由で入れてた《ラムホルトの平和主義者/Lambholt Pacifist(SOI)》の部分も、その人は《棲み家の防御者/Den Protector(DTK)》だったんですよ。白単とかにも耐えられるんならそっちのほうがいいんで、それに伴って《石の宣告/Declaration in Stone(SOI)》がメインに入ってるのも理にかなってるし、そういうプランも試してたらもう少し変える余地があったかもしれない。ただ、練習時間が1週間しかなかったこともあってそこまではできなかった。」
渡辺「使い始めるのがちょっと遅かったってことかな。」
覚前「そうですね。」
山本「僕はデッキ構成自体に不満はなかったです。環境にクリーチャーデッキが多いだろうから《悲劇的な傲慢/Tragic Arrogance(ORI)》2枚はもとから絶対取りたくて、そうすると自動的に土地も26枚必要で、《ラムホルトの平和主義者/Lambholt Pacifist(SOI)》の部分は自分の《ドロモカの命令/Dromoka’s Command(DTK)》を生かすには3/3のほうが都合がいいので、結局メインの60枚は僕はこれでよかったかなと。サイドのプランニングの話をもうちょっと詰めておけばよかったかな、くらいです。」

――なるほど。
覚前「ただ、緑白トークンとの同系はけっこう勝てましたね。やってると、相手の人があまり練習してなさそうだなってわかるんですよ。チーム内で緑白トークンをずっと練習してたんで、戦い方がわかってたというのが大きかったです。逆にバント人間カンパニーは持ち込んでる人があまりいなくて練習できなかったので……。」
渡辺「僕を呼んでくれればよかったのに。そのときずっと『シャドウバース』やってたよ(笑)。」
市川「まあ、さすがにナベにとってはその時点で練習することってほぼないでしょ。」
渡辺「でも、俺は俺で緑白トークンをどうやって攻略しようか迷ってた時期があるから。緑白側のとるプランによってバント人間カンパニー側がとるべきプラン……特にサイドが全然違ってくるんだよね。」

――バント人間カンパニーとの練習を積んでいれば、あと1勝くらいできていたかも?
覚前「サイドとか、変わった可能性はありますね。」

 

 

渡辺さんの戦績(最終順位:11位)
わたなべ

ラウンド 対戦相手 勝敗
R1~3 bye(不戦勝)
R4 青赤果敢ビート 勝ち(○×○)
R5 勝ち(○○)
R6 バント人間カンパニー 負け(○××)
R7 白単人間 勝ち(○×○)
R8 白単人間 勝ち(×○○)
R9 バントカンパニー(市川ユウキ) 負け(××)
R10 バントカンパニー 勝ち(○×○)
R11 赤青ドラゴンエルドラージ 勝ち(○○)
R12 スゥルタイコントロール 勝ち(×○○)
R13 バント人間カンパニー 負け(○××)
R14 ナヤコントロール 勝ち(○○)
R15 勝ち(後述)(××)

 

渡辺「実は最終戦、対戦相手の松本郁弥さんって方に譲ってもらったんです。『プロポイントがかかってるならどうぞ』って。もし負けてたら今回プロポイントの加点が1点もなかったので、すごくありがたかったです。この場を借りてお礼申し上げます。」

――印象的だった対戦はありますか?
渡辺「やっぱり1日目の最終戦ですかね。やたら《集合した中隊/Collected Company(DTK)》のめくれが強くて顔も怖い人に当たって、ぼこぼこにされました(笑)。」
市川「まるで優勝しそうなめくり方でしたね(笑)。」
渡辺「こっちが押してる盤面で、《集合した中隊/Collected Company(DTK)》から《反射魔道士/Reflector Mage(OGW)》が2体出てきてこっちの盤面がぱっといなくなって、2回目の《集合した中隊/Collected Company(DTK)》で僕の盤面がないところに《不屈の追跡者/Tireless Tracker(SOI)》2体出てきて……。」
市川「そのめくれ方が逆だったら、全然変わってた。たぶん最初に《不屈の追跡者/Tireless Tracker(SOI)》が相討ちして、その後の《反射魔道士/Reflector Mage(OGW)》もあまりインパクトなかったと思うから。」
渡辺「めくれ方が完璧で、ええっ!?ってなりました。ちょっともう名前とか覚えてない現地民の人なんですけど……」
市川「名もなき現地民、強い(笑)。」

――反省点などはありますか?
渡辺「僕の1つ順位が上だった行弘(賢)君が、サイドに《徴税の大天使/Archangel of Tithes(ORI)》を入れてるのを見かけて、すごくいいなと思いました。」

徴税の大天使

渡辺「バント人間カンパニーのきついところを全部ケアできてるカードだなと。グランプリ前に『シャドウバース』をやりすぎてて、僕には気づけなかったですね(笑)。かーっ、こんなおもしろいゲームが世にリリースされてしまったからなー、しょうがないなー(笑)。」

――(笑)。
渡辺「このデッキを作ったときから、カードリストは舐めるようにずっと見てましたけど、《集合した中隊/Collected Company(DTK)》が鍵のデッキなので3マナ以下のカードを重点的に探してたんです。けど、そもそも行弘君はサイド後に《集合した中隊/Collected Company(DTK)》を抜いてたらしくて、全然プランニングが違ったみたいなんですよね。」
市川「《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》とか《徴税の大天使/Archangel of Tithes(ORI)》を入れて、《集合した中隊/Collected Company(DTK)》を抜くんだよね。」
渡辺「だから、プランニングを含めてもっとフラットな視点で見ないとダメだなと。強いカードである《集合した中隊/Collected Company(DTK)》を抜くって発想が僕にはできなかったので、すごいなと思いました。」

 

 

市川さんの戦績(最終順位:優勝)
いちかわ

ラウンド 対戦相手 勝敗
R1~3 bye(不戦勝)
R4 緑白トークン 勝ち(○○)
R5 バント人間カンパニー 負け(××)
R6 緑白トークン 勝ち(○○)
R7 青赤エルドラージランプ 勝ち(◯◯)
R8 白黒コントロール 勝ち(○○)
R9 バント人間カンパニー(渡辺雄也) 勝ち(○○)
R10 緑白トークン 勝ち(○○)
R11 バント人間カンパニー 勝ち(○○)
R12 バント人間カンパニー(高橋優太) 引き分け(○×-)
R13 緑白トークン 負け(××)
R14 スゥルタイコントロール 勝ち(○○)
R15 グリクシスコントロール 勝ち(×○○)
準々決勝 バント人間カンパニー 勝ち(○○)
準決勝 バントカンパニー 勝ち(○○)
決勝 緑白トークン 勝ち(×○○)

 

市川「事故った試合以外は全部勝った印象です。土地が詰まったところに《不屈の追跡者/Tireless Tracker(SOI)》が集まってきて負けたり、マリガン続きだったのが5ラウンド目と13ラウンド目で、しょうがないかなという感じでしたね。」

――それ以外はMOとWMCQに引き続き破竹の勢いだったと。
市川「そうですね、グランプリ2日前くらいにはもうやることがなくなって、羽生さん(棋士の羽生善治さん)の講演会をネットで拝聴して、精神を鍛えました(笑)。フットボールのハカ(ニュージーランドのマオリ族が行なう伝統儀式をもとにした、戦意高揚のための踊り)を見て、ファイティングスピリッツを整えたりもしました。」

――そこまで準備が整っていたとは(笑)。
市川「メンタル面の準備がうまくいったおかげで、15ラウンド目の3本目は、9割負けの状況から奇跡的に勝ったんです。相手の場に《竜使いののけ者/Dragonmaster Outcast(BFZ)》と《ゲトの裏切り者、カリタス/Kalitas, Traitor of Ghet(OGW)》と《ゴブリンの闇住まい/Goblin Dark-Dwellers(OGW)》がいたんですけど、相手が《竜使いののけ者/Dragonmaster Outcast(BFZ)》でドラゴントークンを出す誘発を忘れたんですよ。とはいえまだ7割くらい相手が優勢だったんですけど、それで相手が動揺したのか、そのあとのコンバットがなんかおかしくなって、こっちは2枚くらいトップデッキしないとまくれなかったんですけど、それを引けるターンの余裕ができて勝ったという。9割負けててもメンタルだけはやられてなかった。」

――やはりメンタルが勝敗を分けましたね。
市川「Lee, Shi Tien(香港の強豪プレイヤー)との準決勝でも、6枚目の土地を置き忘れて2/3のまま《森の代言者/Sylvan Advocate(OGW)》が2体突っ込んできたりもしましたし、そこもメンタルですね。彼はそこまでに《集合した中隊/Collected Company(DTK)》を3回撃ってたんですけど、かなりふるわなくて焦りがあったのかも。」

――焦りから、普段やらないようなミスをしてしまったのかもしれないですね。ミスしないための方法としては、プランニングが大事だと優勝インタビューでおっしゃってましたね。
市川「細かいライフレースや計算も大事だけど、それより外枠、このデッキとはどういうゲーム展開になるのかというのをざっくり理解しているかどうか、プランニングはすごい大事だと思ってて。それについては羽生さんの『大局観』という本で解説されていますので、読んでください(笑)。今回、肉体はBBDだけど精神は羽生さんだったんで(笑)、この場を借りて2人に感謝しないと。」

――最強じゃないですか(笑)。
市川「羽生さんが東大でやった講演会の、最後の質疑応答がかなりおもしろかったです。『将棋は他力、相手がいるゲームだから自分の力で左右できるのは50%くらいしかない。だから万全を期して相手にうまくプレイされて負けるのはしょうがない』といった話をしていて、マジックに通じるなと。」

――皆さんもメンタルを鍛えるために、見てみるといいかもしれないですね。

 

 

●今後の予定と目標

――次の週末にWMCQ東京がありますが、モダンの練習はしていますか?
渡辺「いや、やってないです(笑)。」
市川「まあちょっとはやりますけど、正直やりこんだらどうにかなるってフォーマットじゃないから。」
渡辺「しかも、金曜日に『異界月』のフルスポイラーが出たあとだから、モダンのほうにあまり時間を使いたくないんです。スタンダードのデッキを考えたい。」
市川「WMCQは優勝以外に価値がないトーナメントだから、時間をかけるとコスパが悪い。」

――では、その次の大会となると……。
市川「僕はプロツアー『異界月』だけで、残り3人はその前の週のグランプリ・シドニー2016ですね。」

――目標はどんな感じですか? 山本さんは、プラチナレベルまであと少しなんでしたっけ?
山本「プロツアーで必ず入るポイントは除いて、プラチナまであと5点です。ヒットかツーベースくらいは必要ですね。」

――市川さんは今回のグランプリでは上乗せ4点が目標ということでしたが、8点に増えましたね。
市川「ただあんまり意味はなくて。プラチナに必要なのがプロツアーで4敗までだったのが、4敗1分けまでよくなったんですが、最後にIDできるかどうかってかなり難しくて、相当レアケースなので。」
渡辺「途中の引き分けが許容できるってくらいだね。グランプリ・シドニーに行って上乗せは目指さないの?」
市川「もうキャップが2点で埋まってるから(グランプリで獲得できるポイントには制限がある)。それに、やっぱりプロツアーで勝つ人がプラチナになるっていうのが妥当だから。次のプロツアーで勝ってプラチナになるのを目標にがんばりたいと思います。」

――渡辺さんはいかがですか?
渡辺「僕はプラチナは確定してますけど、今けっこう世界選手権の当落線上……アジア枠の3位なので、ほかの人に抜かれないよう1点でもポイントは増やしておきたいですね。」
覚前「僕は問題児ですねー(笑)。今18点で、ゴールドまでがまず遠い。プロツアーで4敗ならゴールド。プラチナになるには優勝するしかないです。ゴールドには乗りたいですね。」

――ぜひプロツアーで勝ってほしいですね。覚前さんは東京に引っ越してこられて、練習環境も整ったかと思いますが、どうですか?
覚前「大阪だと基本的に自分1人で練習することが多かったですけど、やっぱり人とやることで1人では気づかないことを発見できるし、そもそもみんなのレベルが高いから、コンバットの仕方やカード選択とか、レベルの高い意見を聞けていいですね。」
渡辺「あと前回同様、グランプリからプロツアーまでの間に現地で合宿をやる予定なので。前回の合宿では、バントカンパニーっていう枠組みの中ではたぶん一番いいデッキができたから、今回も実りある調整ができたらいいなと。」
覚前「いいデッキができたら、みんな爆発的に勝てそうだもんね。」

――前回のプロツアー前合宿では、日本にいる市川さんから芋がたくさん投げつけられて、みんなで芋掘りをしたという話がありましたが……。
市川「今回も芋を投げることになりました。」
渡辺「僕らが芋掘って食います。今回は芋を食うのが好きそうな人がたくさんいるので。」

――芋投げ勢と芋食い勢に分かれて調整するわけですね。
市川「松本Aさん(BIG MAGIC所属プロの松本友樹さん)とかにも芋を投げてもらう予定なんですけど、彼は発想の宝庫なので、芋じゃなくてすごい弾丸とか撃ってきそうで、楽しみだな。」

――どんなデッキになるか、期待しています!

06

 

 

●おまけ ~異界月雑感~

――取材時の段階では、『異界月』のカードはまだ数枚しか発表されていませんが、現時点で注目のカードがあればお願いします。
渡辺「僕は《実地研究者、タミヨウ/ Tamiyo, Field Researcher(EMN)》は、特にバント人間カンパニー向けのカードだと思ってます。」

――デッキがさらに強化されそうですね。
渡辺「あと《非実体化/Unsubstantiate(EMN)》は、盤面にさわれるようになった《差し戻し/Remand(RAV)》って考えたらかなり強いので、モダンでも使われる可能性があるんじゃないかと思ってます。」
市川「僕は《無害な申し出/Harmless Offering(EMN)》ですね。《悪魔の契約/Demonic Pact(ORI)》と合わせれば勝ちですから、絶対に試したくて、芋の第一候補決定です。今までは《悪魔の契約/Demonic Pact(ORI)》を手札に戻したり破壊するしかなかったですけど、これならそのまま勝つので。コンボが決まらなくてもミッドレンジとしても立ち回れるし、いろんなカラーバリエーションができそうでかなり期待。」

――なかなかに芽を出しそうな芋で、夢が広がりますね。

タミヨウ 非実体化

無害な申し出

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