【特別企画】なべごく! ~渡辺雄也のドラフトの極意~第2回
この記事は、渡辺雄也さんが「なべ先生」となり、生徒役の「てるや君」こと覚前輝也さんにドラフト指南をしていくというものです。
収録の都合上、『異界月』が入る前の環境での話となっていますが、普遍的なアドバイス内容はきっと参考になることでしょう。
●3-0と2-1ドラフトの違い
覚前「前回は、『3-0しなくちゃいけないときと2-1でいいときの違い』って話で終わったけど、そもそもそれってどういうとき?」
渡辺「たとえば、グランプリでトップ8入りできるラインって今はだいたい2敗までだけど、10勝2敗でセカンドドラフト(最後の3回戦にあたる)を迎えたときは、必ず3-0しないといけない。あとはプロツアー初日をギリギリ4勝4敗で抜けたときなんかも、2日目のドラフトで3-0したいよね。」
覚前「逆に2-1でいいときっていうのは?」
渡辺「グランプリのセカンドドラフトで、そこまでに1敗だったとき。プロツアーなら、初日7勝1敗くらいの好成績で、余裕があるときとか。そういうときは、1-2せず確実に2-1することを目指す。」
覚前「でも、基本的には3-0を目指すよね?」
渡辺「ドラフトを始める前は、もちろん3-0をねらう。でもどうにも流れが悪くてぐちゃったときとかは、途中で2-1に目標を下方修正することもある。」
覚前「流れが悪いとき、『それでも3-0!』って場合と、『2-1で手堅く』、っていう分かれ道があるってことか。」
渡辺「そういう意識は明確に持っておいたほうがいいね。1パック目が終わった段階で、このドラフトは3-0をねらえるか2-1か、自分なりに線引きできるといいんじゃないかな。」
●強いアーキタイプと弱いアーキタイプ
覚前「3-0できるデッキを作るにはどうすればいい?」
渡辺「3-0デッキと1-2デッキって、実は紙一重なんだよね。3-0できる可能性がある強いアーキタイプでも、必要なパーツが出なくてまとまらないと1-2しやすい。逆に、特定のカードに依存しないアーキタイプは2-1しやすい。」
覚前「その強いアーキタイプとそうじゃないアーキタイプって、どうやって見極めるの?」
渡辺「やっぱり練習かな。勝ちやすい色やアーキタイプって、何度も練習すればわかってくると思う。それとは別に、自分の得意なアーキタイプを作っておくのも大事。先生はコントロールが好きだけど、てるや君はビートダウンが好きでしょ?」
覚前「うん。」
渡辺「赤緑狼男とか好き?」
覚前「と思うじゃん? 実は違うんだよね。あのデッキ実はけっこう難しくて(笑)。好きなのは、赤黒吸血鬼だね。」
渡辺「お、ちょうど説明しようと思ってたんだ。赤黒吸血鬼って、3-0するか1-2するデッキじゃない?」
覚前「確かに。かなり1-2しやすい。」
渡辺「赤黒吸血鬼は上ブレ&下ブレが激しいアーキタイプなんだよね。上ブレたときは3-0するけど、まとまらなかったとき1-2しやすくない?」
覚前「それね。ゴミの束になる(笑)」
渡辺「逆に緑白人間とか黒緑昂揚とか安定したアーキタイプもあって、そういうのは2-1しやすい。下ブレしづらいって言ったほうが正しいかもね。」
覚前「下ブレしづらいのはどうして?」
渡辺「コモンパーツの質の高さかな。今ちょっと赤黒吸血鬼に入りそうなカードを適当に出してみたんだけど……まとまってシナジーを形成したらすごく強い一方、単体では弱いコモンが多い。特に吸血鬼にカウンターを載せる《流城の導師/Stromkirk Mentor(SOI)》とか、《オリヴィアの血誓い/Olivia’s Bloodsworn(SOI)》とか、ほかに吸血鬼がいないと弱いよね。」
覚前「《流城の導師/Stromkirk Mentor(SOI)》は、4マナ使って相手の2マナと相討ちのスペックだもんね。」
渡辺「だからこういうアーキタイプは、上ブレたら3-0するけど、デッキがまとまらなかったら1枚ごとのカードパワーが低いから、1-2になっちゃう不安定さがある。」
覚前「卓内にほかにも同じことをやってる人がいたりするとまとまらない。」
渡辺「そう。それにこういうデッキは噛み合うレアを引けるとぐっと3-0に近づくけど、最後まで引けなかったりすると厳しいね。」
覚前「確かに。」
渡辺「逆に緑白人間とか黒緑昂揚は、コモンのカードパワー・スペックが高くて、まとまらなくてもある程度戦えるので、2-1しやすい。緑白人間に使えるカードは……こんなもんかな。」
覚前「全部コモンだとは思えないくらい強いね。」
渡辺「コモン単体のスペックが高いアーキタイプは、ドラフトが微妙でも2-1はしやすいし、噛み合うレアがあれば3-0も見える。」
覚前「じゃあ、安定したアーキタイプやったほうがいいじゃん!」
渡辺「と思うけど、そこはドラフトの妙。8人のプレイヤーがいろんなことを考えてドラフトしてるから、自分と同じことを考えてる人もいる。逆にもしほかの全員が『安定した緑白人間をやろう』って考えてたら、その中で自分1人が赤黒吸血鬼を作れば、最強のおいしいピックができるよね。」
覚前「うーん、なるほど。」
●上ブレのコツ
渡辺「というわけで、安定して勝ちたいなら、2-1できるデッキを組みつつ、それを上ブレさせて3-0に持って行く方法を知るのが大事かな。」
覚前「先生、上ブレさせるための方法とは?」
渡辺「練習の段階で、アーキタイプごとに、自分なりのそのアーキタイプでしか使えない強いカードを探しておくこと。」
覚前「それを見つけて積極的にピックするってこと?」
渡辺「というか、そのアーキタイプをやってるときに、ほかの人が取りにくいカードを遅くせしめる感じかな。たとえば……右から赤白用、昂揚系、青の呪文系、赤黒マッドネス用のカードをざっと出してみよう。」
渡辺「これらはほかのアーキタイプでも使えなくはないけど、ほぼ特定アーキタイプ専用のカードで、同じアーキタイプをやってる人以外には取られないから、終盤でも安く取れる。そして手順のわりには大きな効果を得られることが多い。」
覚前「なるほどね。でもどうやって探すの?」
渡辺「僕はトライアンドエラー型だから、練習のときに一見よくわからないカードを使ってみるようにしてる。コモンカードは使うチャンスも多いけど、アンコモン以上のカードは使う機会が限られてくるから、積極的にピックして、うまく使うにはどうすればいいか考えるんだ。3-0するためには、弱いカードを強く使う技術が必要なので、こういうアーキタイプ専用カードの使い方を覚えよう。」
覚前「やっぱナベ先生は記憶力がすごいなー。勉強も得意そう。」
渡辺「そんなことないよ。学校の授業は全部寝てたよ(笑)」
覚前「じゃあ勉強してなかった分、脳に余裕があるんかな?(笑) まじめな話、毎回考えながらやってるから覚えておけるんだろうな。」
●わたりをつける
覚前「そういや、1パック目が終わったところで3-0か2-1かの分かれ道があるって言ってたよね。」
渡辺「えーとそうだな、3手目くらいまでは赤黒吸血鬼のカードを取ってたとしよう。4手目から黒の流れがすごく悪くなって青いカードにも手を出し始めて、1パック目にあった吸血鬼用のカードが1周して戻って来なかったとしたら?」
覚前「誰かが同じことをやってるかもね。」
渡辺「前回の復習にもなるけど、これで卓に吸血鬼がいることがわかるので、3-0ねらいをあきらめて2-1の別路線……この場合は赤青に行くという選択肢ができる。でも、2パック目の初手で吸血鬼用の強烈なレアを引いたときなんかに、戻るかどうかは悩ましい。」
覚前「上ブレをねらうなら取るかな?」
渡辺「まあ、1パック目の後半でどれくらい流れがよかったかにもよる。その後の流れ次第で、3-0も1-2もありえる賭けだね。2パック目の初手のレアをあきらめて、1パック目に流れのよかった色にすると、2-1はしやすい。」
覚前「安定路線ってことだ。」
渡辺「じゃあたとえば、さっきの続きで赤青の流れがいいという状況で、2パック目に吸血鬼でしか使えない《甘やかす貴種/Indulgent Aristocrat(SOI)》と、青いスペルデッキだったら強い《熟読/Pore Over the Pages(SOI)》が来たとしよう。吸血鬼のかぶりを意識しつつも上ブレ3-0をねらうか、吸血鬼のことはいったん忘れて赤青安定路線で行くか?」
渡辺「こういうやり方を、俗に『わたりをつけておく』って言ったりするね。別のアーキタイプに行く道筋をつけておく、みたいな意味で。」
覚前「わたりをつけるタイミングはいつなの?」
渡辺「1パック目で、自分のアーキタイプの強いカードが何もないとき。前回の記事で『1パック目の5手目は大事なタイミング』って言ったけど、そのあたりで上の4人がやってない強いカードが流れてきやすいから、そこで今までの自分のピックとも相談して、押さえておけるなら押さえよう。」
覚前「そういうときに空いてる色に手を出しておくと、あとで別のアーキタイプにも行けると。」
渡辺「そういうこと。」
渡辺「4手目までこんな感じで赤黒吸血鬼用のカードを取ってたとして、5手目に《流城の導師/Stromkirk Mentor(SOI)》と《逸脱した研究者/Aberrant Researcher(SOI)》が来たら、どっちを取る? 吸血鬼用のカードを取って決め打つか、色は違うけど、今までスペルも2枚取ってるから使いやすい《逸脱した研究者/Aberrant Researcher(SOI)》を取って手広く行くか。ケースバイケースでどっちが正解とはいえないけど、後者を選ぶと、青にわたりをつけられるよね。」
覚前「でも《流城の導師/Stromkirk Mentor(SOI)》を流したことによって、下に吸血鬼をやられる可能性も出てくるわけじゃん。」
渡辺「そうだね。だからどっちかが必ず正解というわけじゃない。ただ個人的には、《流城の導師/Stromkirk Mentor(SOI)》は3-0か1-2ピックで、《逸脱した研究者/Aberrant Researcher(SOI)》は2-1ピックだと思うな。」
覚前「とはいえこのカードが5手目で流れてくるってことは、《薄暮のニブリス/Niblis of Dusk(SOI)》とかもそのあと流れてきそうだよね。上4人は青ほとんどやってなさそう。」
渡辺「5手目としては破格のカードだから、青赤用のカードがそのあと流れてきやすいかもっていうわかりやすいシグナルではある。逆にこれを流して、下に『青をやってくれ、自分は吸血鬼やるよ』というシグナルを送るのもアリだし。」
覚前「《逸脱した研究者/Aberrant Researcher(SOI)》をピックした場合は、このあと流れがいいはずの青を取っていって、赤か黒のどっちかと組み合わせるってこと?」
渡辺「そうだね。青黒はちょっと噛み合わせが悪いけど一応できるし、青赤はまあまあ。とにかく、そういう選択肢自体が増えるよね。もし青が流れてこなければやっぱり吸血鬼を継続すればいいし。《流城の導師/Stromkirk Mentor(SOI)》を取ったら赤黒吸血鬼しかやれないから、選択肢がない。」
覚前「そうか、じゃあ青に行っといたほうがいいのかな。」
渡辺「選択肢が広いドラフトと、選択肢がない代わりピック手順が無駄にならないドラフトのどっちを選ぶかってことなんだよね。デッキがうまく完成したときに一番リターンが高いから、どうしても3-0しなきゃいけないときは、俺も《流城の導師/Stromkirk Mentor(SOI)》をピックするかな。」
●1-2しないコツは?
覚前「ドラフトで1-2しないためのコツってある?」
渡辺「3-0ないし1-2のデッキ、という選択肢をそもそも取らないこと。うまくいって3-0するのと、まとまらなくて1-2するのはほんとに表裏一体だから。どうしても3-0しなきゃいけないならもちろん突き進むべきだけど、そうじゃないときは選択肢の広いピックをすることが、1-2しないためのコツだね。」
覚前「1-2じゃなくて2-1するってことか。大事だなー。ドラフト中って、『これとこれ組み合わせたら最強じゃん! 3-0間違いなし!』みたいな気持ちになることがあるけど、そういうのばっか追ってるとアレ?ってなるよね。」
渡辺「夢は捨てろ! 現実を見なさい!(笑) そういう、夢見る気持ちがふくらむことによって1-2するんで、現実を見れば2-1できる。ただ、現実だけを見てるとあまり3-0できないんだよね~。」
覚前「そこは難しいね。」
渡辺「あと、単純に軸の太いデッキをピックするのも1-2しないコツかな。」
覚前「どういうこと?」
渡辺「レアに恵まれなかったとしても、スペックの高いコモンのクリーチャーを使えば2-1はしやすい。たとえば赤緑狼男をやってるときに、《村の伝書士/Village Messenger(SOI)》と《茨隠れの狼/Thornhide Wolves(SOI)》のどっちを選ぶ?」
渡辺「《村の伝書士/Village Messenger(SOI)》は単体でゲームに勝つことはできないけど、シナジーがしっかりしてればテンポに貢献する。《茨隠れの狼/Thornhide Wolves(SOI)》はシナジーがないけど、相手クリーチャーとの戦闘は絶対にできる。もちろん5マナだからこっちのほうが強いのは当然としても、迷ったときにシナジーなしでも単体のカードパワーが高い=軸の太いカードを取っておくと、1-2はしづらくなるかな。」
覚前「僕、この《村の伝書士/Village Messenger(SOI)》大好きなんだよね。《内陸の木こり/Hinterland Logger(SOI)》とだったら、どっちが強い? みんな《内陸の木こり/Hinterland Logger(SOI)》から取ってるイメージなんだけど。」
渡辺「両方とも両面カードで同じパックからは出ないから何とも言えないけど、安定のドラフトを目指すなら《内陸の木こり/Hinterland Logger(SOI)》を取るね。」
覚前「僕、一瞬で《村の伝書士/Village Messenger(SOI)》取りそう。」
渡辺「えっ、そこまで? じゃあ、同じパックから出ることも多そうな《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》とだったら?」
覚前「《村の伝書士/Village Messenger(SOI)》。」
渡辺「僕は絶対《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》だな。」
覚前「そうなんだ。いっつも《村の伝書士/Village Messenger(SOI)》が取れるから、『みんな回してくれてんのかな、ラッキー』って思ってた(笑)。やっぱダメかな?」
渡辺「いや、それは3-0ないし1-2のドラフトだよね。《村の伝書士/Village Messenger(SOI)》のほうが上ブレのマックスはでかいから、別にダメなわけじゃない。《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》のほうは、常に一定の働きをする2-1寄りのカードって感じかな。」
覚前「1-2しないためなら《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》のほうがいいけど、『必ず先手を取って1ターン目に出して3-0するぜ!』みたいなときは《村の伝書士/Village Messenger(SOI)》ピックか。《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》と《内陸の木こり/Hinterland Logger(SOI)》だったらどう?」
渡辺「両面クリーチャーを公開しないルールだったら、単純にスペックが高いと思うから《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》。」
覚前「《内陸の木こり/Hinterland Logger(SOI)》のほうがリターンはでかいけど。」
渡辺「2ターン目に出したときはもちろん《内陸の木こり/Hinterland Logger(SOI)》のほうが強いけど、《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》は後半に引いても強いから。《内陸の木こり/Hinterland Logger(SOI)》は上ブレがあるピック、《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》は安定ピックだね。」
覚前「確かになー、こっち1ターン目に《村の伝書士/Village Messenger(SOI)》、2ターン目に《内陸の木こり/Hinterland Logger(SOI)》って展開して、相手に《両手撃ち/Dual Shot(SOI)》で1点ずつ撃たれたらもう負けだからね(笑)。あんなのサイドカードなのに。あー、だからこういうピックをするときは、《両手撃ち/Dual Shot(SOI)》も優先してピックすればいいのか。」
渡辺「まあそのへんは臨機応変に。しかし《針毛の狼/Quilled Wolf(SOI)》と《村の伝書士/Village Messenger(SOI)》で後者ってのは、はっきりとピック方針の違いが出てるね。てるや君は上ブレねらいでドラフトしてると思う。」
覚前「してるかな?」
渡辺「そう思う。プロツアー本番とかでも、先生にはとてもできないような思い切りのいいドラフトしてるもん。」
覚前「気づいたら自分の盤面に何もないことがあるからね(笑)」
渡辺「それこそ上ブレと下ブレが激しいことの証明だよ(笑)」
覚前「すぐ勝つか負けるかだから、盤面がごちゃごちゃにならないんだよね。じゃあ次の練習のときは、2-1ねらいの安定ピックをやってみようかな。」
渡辺「ドラフトはやっぱり3-0するのが正義だから、別に上ブレねらいが悪いとは言わないよ。でも、2-1ねらいのピックを本番でも1つの選択肢にできるようになれば、それは技術になるからね。」
覚前「チームのほかの2人ってどうなんだろう?」
渡辺「せばちゃん(市川さん)はかなり独創的な、他人が真似できないドラフトをするタイプかなぁ。やまけん(山本さん)は僕と似た安定志向だと思う。」
覚前「確かにそんな気がする。」
(ここで、2人にも質問してみました)
●カットについて
覚前「ところで話変わるけど、カットってどういうときにする?」
渡辺「前回のプロツアーでの僕のピック(http://team-cygames.com/2016/04/24/1520/)を参照してほしいんだけど、青赤タッチ白をやってて、3パック目の4手目で《銀毛の援護者/Silverfur Partisan(SOI)》をカットしてるんだよ。出されたら負けるカードだから。」
覚前「デッキ的に負けなんだ?」
渡辺「うん。スペル偏重のコントロールデッキだったから、相手のカードに干渉する手段はだいたいスペルだけなんだ。呪文の対象になるたびに2/2トークンを出す《銀毛の援護者/Silverfur Partisan(SOI)》は天敵。同じパックに自分のデッキに入るカードもあったけどカットした。結果として3-0できたけど、理由としては《銀毛の援護者/Silverfur Partisan(SOI)》を相手に出されなかったというのも大きいと思う。」
覚前「カットするときはどのくらいのカードを犠牲にしてもいいもの? 基準が知りたい。」
渡辺「僕のやり方では、2パック目の後半くらいには自分のアーキタイプがだいたい絞れてるはずだから、それくらいのタイミングで、『自分のデッキに入るか、もしくはサイドボードクラスのカード』と、『ほかのアーキタイプで使われたらすごく強いカード、もしくは自分のアーキタイプにクリティカルに刺さるカード』が一緒に流れてきたら、カットするかな。」
覚前「ふむふむ。」
渡辺「ただ3-0と2-1のどっちを目指すかによっても変わってくる。3-0しなきゃいけないときは、自分が3-0するためにほかのデッキを少しでも相対的に弱くする必要があるから、自分で使うかわからない1枚は捨てて、相手が確実に使う1枚をカットする。」
覚前「2-1でいいときは、自分のデッキを安定させたほうがいいからカットしない?」
渡辺「『これを出されたゲーム以外は勝とう』って思ってスルーするのも、それはそれでOK。まあ、自分がどれくらい確実に使う1枚かどうかにもよるかな。たとえば、自分が赤黒吸血鬼をやってて自分のカードはこのペースなら足りそうってときに、2パック目の7手目か8手目くらいで、複数はいらないけど1枚取っておけば役に立ちそうな《死の円舞曲/Macabre Waltz(SOI)》と、ほかのデッキの核になりうる《潮からの蘇生/Rise from the Tides(SOI)》が流れてきたとしよう。この二択でどっちを取る?」
覚前「どうしようかな。」
渡辺「《死の円舞曲/Macabre Waltz(SOI)》を取ったら、自分の勝率が……アバウトだけど3%上がるとしよう。でも、《潮からの蘇生/Rise from the Tides(SOI)》を使われたらそのゲームに負けるなら、それは3%を超えてるよね。1回のドラフトにつき最大9回ゲームする可能性があるから、1ゲーム負けたら勝率は10%以上減ってるわけじゃん。雑な計算だけど、そういうのを天秤にかけて選ぶんだ。」
覚前「数値で考えると難しい感じがするけど、感覚的にはなんかわかる。」
渡辺「自分がこのカードで何ゲーム勝てるかと、このカードで何ゲーム落とすかを想像して、割に合うと思ったらカットするべきかな。自分の中でリスクリターンをなるべく正確にして、自分の勝率を上げるために行なうのがカットだよ。」
●相手を弱くするカットと、自分で利用できるカット
渡辺「カットには別の側面もあって、カットしたカードがシングルシンボルだったら、タッチして使えるんだよ。たとえば緑白をやってて、《内陸の木こり/Hinterland Logger(SOI)》と《ギトラグの怪物/The Gitrog Monster(SOI)》が一緒に出たら?」
渡辺「《ギトラグの怪物/The Gitrog Monster(SOI)》の場合はカットしつつ、黒をデッキに足して自分で使うって選択肢も出てくる。その場合は今後流れてくる黒緑の土地や《分かれ道/Fork in the Road(SOI)》みたいな、色マナをサポートするカードを取っていくことになる。ほかの人を弱くしつつ、自分を強くする可能性があるカットだね。」
覚前「ダブルシンボルの超強いカードのときは? たとえば白をやってないときに《大天使アヴァシン/Archangel Avacyn(SOI)》が来たら?」
渡辺「シンボルが重いからほぼ使えないけど、3-0するためにはカットすべき。自分のデッキが弱くて3-0は厳しくて、『《大天使アヴァシン/Archangel Avacyn(SOI)》出されたらあきらめよう、それ以外は勝とう』って考えるならスルーして2-1をねらう。」
覚前「なるほど。」
渡辺「カットには、他人を邪魔するためだけのカットと、自分も得する可能性があるカットの2種類ある。後者は厳密にはカットと言わないかもしれないけど、本来《ギトラグの怪物/The Gitrog Monster(SOI)》は黒緑昂揚で使うのが一番強いから、昂揚をやってるほかの人の邪魔はしてるからね。」
●カットしなくていい場合
覚前「出されたら絶対負けるカードが来たけど、自分のデッキに入るカードも足りてなかったら?」
渡辺「余裕がないときは、カットしてる場合ではない。カードが足りてるかどうかの基準としては、デッキに入るカードを1パックごとに8枚取ること。そしたら3パックで24枚になるから。2パック目ですでに18枚とか取れていれば、カットする余裕がある。3パック目に入った段階で14枚くらいしかなかったら、カットする余裕はない。足りてるかどうかは、パックごとの合間のチェック時間に確認しておけばいいよ。」
覚前「カード足りてないのについカットって、やりがちだよね。」
渡辺「それに、カットする価値のないカードとか、使われても大丈夫なカードとかもあるから。」
覚前「どういうカード?」
渡辺「特定のアーキタイプでしか使えない爆弾カードとか、見た目強そうだけど使ったら強くない系のカード……《ウェストヴェイルの修道院/Westvale Abbey(SOI)》とかがそうかな。」
覚前「《苦渋の破棄/Anguished Unmaking(SOI)》は強くない?」
渡辺「撃てたら強いけど、白黒って色がネックで3色になりがちだし、使うためにコストをかけないと使えないカードだからね。わざわざ自分がカットしてまで、相手がかけるそのコストを握りつぶす必要はない。もし今までの自分のピックと1色合ってたとしても、使うためのコストにそこまで見合うカードではない。極言すればただの除去だし。」
覚前「《疑惑の裏付け/Confirm Suspicions(SOI)》も、別に撃たれてもいいか。これ1枚で負けるってわけじゃないもんね。」
渡辺「うん。こういうインスタント系は1回撃たれれば次からは警戒もできるし、流したことを覚えておけば、青い相手と当たったときに警戒できるから十分。スペル系は1枚で勝つほどじゃないことが多いから、率先してカットしなくていいかな。」
渡辺「そんなところで、今回はおしまい。今後も要望があれば、次は練習方法についての話でもしようか。」
覚前「えっ、もしやまだ続く!?」