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【PTAER】2日目構築・全体総括【Day2】

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プロツアー『霊気紛争』2日目は、ラスト2回戦となる15ラウンドと16ラウンドの2試合に全員が勝利して締めくくることができました。
山本さん、覚前さん、市川さんはそれぞれ5敗ラインを守り、特に覚前さんはこれによって今シーズンの残り2つのプロツアーにも無事出られることが決まったので、うれしい限りです。

また、チーム「MUSASHI」としては、行弘さんが12勝4敗で12位と日本人最上位を獲得。プロツアー前の所信表明で「チームを引っ張る」と誓った通りの有言実行でした。
八十岡さんは8勝8敗で、6人の合計でプロポイント49ポイントを獲得しました。最終的なチーム順位が日曜日に発表され「MUSASHI」はTEAM MINT CARDと1位タイという見事な成績となりました。プロツアー前に冗談で「50点くらいいけるでしょ」という軽口は出ていましたが、まさか本当になるとは予想外。
この調子で次のプロツアーでもポイントを稼ぎまくり、チームシリーズの締めくくりとなる京都でのプロツアー『破滅の刻』で華々しくチーム1位を獲得しようというのが、現在の一同の夢です。

02
最終戦に勝った直後の行弘さんをねぎらう渡辺さん

 

 

 

●各人の戦績まとめ

山本賢太郎の場合

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高橋優太さんとの対戦
2日目ドラフトラウンドの戦績
1-2

2日目スタンダードラウンドの戦績(通算戦績 11-5、最終順位23位)/4C機体

ラウンド 対戦相手のデッキ(相手の名前) 勝敗
12 マルドゥ機体(Lucas Esper Berthoud※今大会優勝者) 負け(0-2)
13 マルドゥ機体(高橋優太) 勝ち(2-1)
14 ジャンドエネルギー 負け(0-2)
15 マルドゥ機体 勝ち(2-1)
16 ジェスカイ塔コントロール 勝ち(2-0)

 

覚前輝也の場合

P2050230

Jon Finkelさんとの対戦
2日目ドラフトラウンドの戦績
2-1

2日目スタンダードラウンドの戦績(通算戦績 11-5、最終順位35位)/4C機体

ラウンド 対戦相手のデッキ(相手の名前) 勝敗
12 ジェスカイサヒーリ 勝ち(2-0)
13 4C機体(Jon Finkel) 負け(0-2)
14 4C機体(Samuel Pardee) 勝ち(2-1)
15 黒緑カウンター 勝ち(2-1)
16 赤黒機体 勝ち(2-0)

※X-5で終われるかどうかを決める最終戦は、墓地の《屑鉄場のたかり屋/Scrapheap Scrounger(KLD)》が戻って来られないほどの熱戦でした。途中で互いにマナフラッドする中、相手は《ゲトの裏切り者、カリタス/Kalitas, Traitor of Ghet(OGW)》を2枚持っていましたが、攻撃をしかけてきてくれたので助かりました。覚前さんは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》3枚と《キランの真意号/Heart of Kiran(AER)》2枚をフルに駆使して粘り、最終的に《ピア・ナラー/Pia Nalaar(KLD)》を引き当てて勝利しました。

市川ユウキの場合

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2日目ドラフトラウンドの戦績
3-0

2日目スタンダードラウンドの戦績(通算戦績 11-5、最終順位31位)/4C機体

ラウンド 対戦相手のデッキ(相手の名前) 勝敗
12 4C機体(Owen Turtenwald) 負け(1-2)
13 ジェスカイサヒーリ 勝ち(2-1)
14 4C機体(Matthew Costa) 負け(1-2)
15 緑黒昂揚 勝ち(2-1)
16 緑黒アグロ 勝ち(2-0)

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15ラウンド目の詳細:
市川さんは《熱病の幻視/Fevered Visions(SOI)》を3枚貼りカードを引きまくっていたが3ライフの相手にとどめを刺せない。相手の場に4/4トランプルと2/3クリーチャー+ミシュラランド2枚があり、市川さんの場にはブロッカーが1体と4マナだけ立っているという状況。相手のターン、除去があるはずの手札をたくさん抱えて長考。除去を撃ち、ミシュラランドを使ってフルアタックすれば、市川さんの手札に除去がない限り相手の勝ちが確定だった。
しかし、市川さんが除去を持っていたら4/4に撃たれて負けてしまうことをケアして、結局クリーチャー2体だけで殴ってきた。そこで、市川さんは2/3をチャンプブロックし、ライフは残り4に。その後、相手はX=4で《歩行バリスタ/Walking Ballista(AER)》をプレイしてきた。これが通れば負けてしまう。手札に《金属の責/Metallic Rebuke(AER)》があったので、手掛かりトークンをタップして2マナで撃ち、さっきブロックして死んだクリーチャーを利用して《屑鉄場のたかり屋/Scrapheap Scrounger(KLD)》を墓地から戻し、3点殴って勝利。

渡辺雄也の場合

05

2日目ドラフトラウンドの戦績
1-2

2日目スタンダードラウンドの戦績(通算戦績 9-7、最終順位142位)/黒緑エネルギーアグロ

ラウンド 対戦相手のデッキ(相手の名前) 勝敗
12 黒緑 負け(1-2)
13 4C機体(原根健太) 負け(1-2)
14 黒緑 勝ち(2-0)
15 黒緑 勝ち(2-0)
16 黒緑 勝ち(2-0)

 

 

 

●デッキについて

 


山本賢太郎/覚前輝也/市川ユウキ『4C機体』



3《平地》
1《沼》
4《秘密の中庭》
4《感動的な眺望所》
4《尖塔断の運河》
4《霊気拠点》
4《産業の塔》


土地(24)


4《模範的な造り手》
4《スレイベンの検査官》
4《屑鉄場のたかり屋》
2《歩行バリスタ》
3《ピア・ナラー》
3《異端聖戦士、サリア》


クリーチャー(20)


4《致命的な一押し》
4《無許可の分解》
4《キランの真意号》
4《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》


呪文(16)


4《金属の叱責》
4《熱病の幻視》
2《反逆の先導者、チャンドラ》
2《空鯨捕りの一撃》
1《断片化》
1《ショック》
1《蓄霊稲妻》


サイドボード(15)


 

今回のプロツアーはトップ8にマルドゥ機体が6人ということで、機体は今回の勝ち組だったと言えそうです。

使った側としても、デッキ発案者の覚前さんが「回しててすごく強かった、次もあるならこれで出たい」と言うほど満足度は高かったのですが、グリクシスコントロール用に入っていたサイドボードの《熱病の幻視/Fevered Visions(SOI)》だけは微妙かも?という話でした。サイドボードはみんなで意見を出し合って決めたのですが、実際にはまったく当たらなかったグリクシス対策の《熱病の幻視/Fevered Visions(SOI)》を入れてマナベース面のリスクを高めるよりも、機体ミラー用にスロットを割いたほうがよかったのではと。しかし「機体ミラーはメタって《ショック/Shock(AER)》を1、2枚足したところであまり変わらない。グリクシスはあまりいないだろうけど、もし当たった時に明確に勝てるカードのほうを入れよう」という理由でこうなっていたそうです。《熱病の幻視/Fevered Visions(SOI)》を前提にマナベースができているため、これを抜くなら3色になりメインボードの構成もかなり変わっていたかもしれません。

構築合宿が終わってからプロツアーに出発するまでにそんなに間がなかったこともあって、今回はリスクを受け入れてリターンを得ようという結論になりましたが、こういった点も含め、大会2日目の夜はホテルの部屋に集まって反省会を行なったということでした。

熱病の幻視

今回、覚前さんは「今までで一番練習して、この結果に結びついたのでよかった」という感想を述べていましたが、それは「今までよりもマジックにオールインしたいと思い、フルスポイラーが出てから毎日、やれる限り真剣にやったらどんなふうになるか見てみたいと思った」のが理由でした。今までが限界の2割の力だとすると今回は8割くらい出せたそうです。
その覚前さんがよくできた機体デッキを持ってきたため採用になり、実際にプロツアーでの勝ち組でもありましたが、この流れは「覚前さんがメンバー内で一番やりこんでいて、そのデッキがたまたま機体だった」という幸運にすぎません。今度は、覚前さんが持ってきたくらい完成度の高いデッキを、構築合宿に入る時点で用意しておくというのが課題になりそうです。ただ次回はマジック・オンラインに新カードが入る時期が早まるため、構築合宿までにたたき台を用意しやすくなり、時間不足に関しては若干の改善が見込めそうです。

 

 


渡辺雄也『黒緑エネルギーアグロ』



6《森》
4《沼》
4《霊気拠点》
4《花盛りの湿地》
3《風切る泥沼》


土地(21)


4《歩行バリスタ》
4《緑地帯の暴れ者》
4《光袖会の収集者》
4《牙長獣の仔》
4《巻きつき蛇》
4《ピーマの改革派、リシュカー》
4《新緑の機械巨人》


クリーチャー(28)


4《霊気との調和》
3《致命的な一押し》
2《闇の掌握》
2《霊気圏の収集艇》


呪文(11)


1《害悪の機械巨人》
1《致命的な一押し》
3《精神背信》
1《人工物への興味》
3《造命師の動物記》
2《殺害》
1《生命の力、ニッサ》
2《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》
1《領事の旗艦、スカイソブリン》


サイドボード(15)


 

作成者の行弘さん自身が構築ラウンド9-1という好成績をおさめたこのデッキは「黒緑《巻きつき蛇》」という名前で呼ばれ、エネルギーを最大限に利用して押し切ります。
サイドボード後コントロール寄りに変化する点が特徴的ですが、もともとの行弘さんのレシピではもっとビート寄りになっていました。
サイド後、《燻蒸/Fumigate(KLD)》にどう対応するかが構築のポイントで、当初は全体除去を超えて殴り続けるために《屑鉄場のたかり屋/Scrapheap Scrounger(KLD)》や《耕作者の荷馬車/Cultivator’s Caravan(KLD)》を入れていましたが、そうするとサヒーリコンボには勝てるもののサイドの枚数を使いすぎて緑黒同系に勝てなくなってしまいます。サヒーリにも緑黒にも対応できるサイドボードを探して、《造命師の動物記/Lifecrafter’s Bestiary(AER)》にたどり着きました。これにより、同系には軽いクリーチャーを抜いて11枚程度入れ替え、除去と重いカードを中心にしてコントロール的にふるまうようになります。

造命師の動物記

結果的に、3大メタと予想していたサヒーリコンボ・緑黒・機体それぞれに対するサイドボードを作ることができ、渡辺さんとしても75枚すべて不満のない出来でした。

渡辺さんは「いつも緑黒は使われる側だったので、今回初めて自分で使ってみたら、(ベテランの行弘さんに使い方をしっかり教わっていても)プレイングが身につききっていない部分があった」とのこと。もともと、こういうガッツリぶつかり合うタイプのデッキは苦手だったので、《新緑の機械巨人/Verdurous Gearhulk(KLD)》のカウンターの置き方などでまだ熟練度が足りず、こういったデッキタイプでどう戦っていくか、自分の課題が見つかったプロツアーだったそうです。

 

 

 

●環境について ~盾と矛~

このプロツアーでは、機体と緑黒に比べ、厳しく対策されていたサヒーリコンボデッキは負け組となり、2日目で大きく数を減らしました。
渡辺さんは、サヒーリコンボ同系にだけ弱い4Cサヒーリデッキを作っており、「こんなにサヒーリがいなくなるメタゲームだとわかっていたなら、そっちを持ってきていればもっといい成績だっただろう」と悔やんでいました。
その4Cサヒーリはマナベースを《ニッサの誓い/Oath of Nissa(OGW)》で支え、《つむじ風の巨匠/Whirler Virtuoso(KLD)》と《実地研究者、タミヨウ/Tamiyo, Field Researcher(EMN)》が入っており、《守護フェリダー/Felidar Guardian(AER)》でタミヨウを消して4体タップしたり4枚ドローしたりできるデッキです。また、今環境の中心だった《キランの真意号/Heart of Kiran(AER)》には《ならず者の精製屋/Rogue Refiner(AER)》でも《つむじ風の巨匠/Whirler Virtuoso(KLD)》でトークンを出しても、《サヒーリ・ライ/Saheeli Rai(KLD)》でも乗ることができ、《実地研究者、タミヨウ/Tamiyo, Field Researcher(EMN)》と組み合わせて使用することで倍の利益を得られます。

実地研究者、タミヨウ キランの真意号

このデッキはおおむね日の目を見ることはなさそうですが、今後サヒーリデッキに禁止カードが出るならありえます。サヒーリは今回勝たなかったから許されるのではないかという見方もありますが、メンバー間からは「相手にしていてプレッシャーが強すぎるし、今回はメタられていたから勝たなかったが、レシピが洗練され環境が最適化されたら最強デッキになりそう。前回のプロツアーで霊気池デッキは勝たなかったが、それはプロプレイヤーたちが努力してメタったからで、やはりその後霊気池デッキが最強になった。サヒーリも同じ道をたどりそうなので、スタンダードにあるのはやはりよくないと思う」という意見が出ました。ともあれ、今回の機体デッキの大躍進を受けて、次は《墓後家蜘蛛、イシュカナ/Ishkanah, Grafwidow(EMN)》の時代が来るだろうという予想です。

チーム「MUSASHI」の八十岡さんは「最強の矛と最強の盾」の二択で盾(ジェスカイサヒーリ)を選びましたがふるわず、矛(黒緑)を選んだ行弘さんが結果を残しました。市川さんいわく「この環境は矛が板」とのことで、プレインズウォーカーがなく、カウンターなども強かった昔は盾のほうが強かったけれど、今は矛の切っ先をいかに尖らせるかが勝負を決めるというのが共通認識のようです。
昔から長年マジックをやっているプレイヤーは、相手の攻撃を見てから動けばいい盾デッキに慣れているので、最近の先に攻撃をしかけなければいけない矛デッキを使うと考えるべきことが多くて疲れるとのことですが、山本さんは「矛デッキは試合時間が短くてすむから、盾デッキのほうが疲れる」という話でした。

渡辺
今回は慣れない緑黒使っててすごいつらかった。あんなにリソースが増えないで、よくみんなゲームできるなーって思うよ。
市川
わかる。初手3枚土地でキープして、2ターン土地引いたらもうテンションすごい下がるもん!
渡辺
土地を引くことに我慢ならない俺らみたいな人間には、やっぱりコプター(《密輸人の回転翼機/Smuggler’s Copter(KLD)》)が必要なんだよ。
市川
コプター最高! 尊いぃぃ!

 

 

 

●チームシリーズについて

今回から始まったチームシリーズについて、プロツアー前は「ちょっとしたおまけ程度」という感覚もあったようですが、皆さんが実際にプロツアーで戦ってみると、ワールドカップのような感覚で、非常にモチベーションが上がったとのことでした。また、このおかげでトス(目無しのプレイヤーが勝ちを譲ること)なども減り、みんなが精いっぱい戦い抜く健全な環境になったという側面もありました。
ただ、今までになかった新たな問題も生むことになりました。それは情報共有の問題です。
今までも、複数のスポンサードチームの間で、デッキ情報などをどれくらい共有するかという問題はありましたが、チームシリーズになるとよりシビアにメンバー内での勝利と利益が直結するため、情報の扱いをデリケートにしなければなりません。
もちろん情報は多いほうがよく、デッキ作成に関わる人が多ければたくさんの知恵やデータが集まります。ですので、情報をオープンにして、幅広く知見を集めようという考え方の人もむろんいます。
しかし一方で、調整チームで努力して学んだ貴重な情報を、自分からは何も差し出すことなくもらうだけの人が出てきてしまう、といった問題も起こりえますし、チーム外に漏らしたくない情報が漏れてしまい、大会で不利になる危険性も高まります。
情報共有に関してはいろいろな考え方があり、考え方が大きく異なる人が同じチームにいると、練習の進め方に支障をきたす恐れもあって非常に難しい問題です。
なんにせよ、今回はチームシリーズが始まって初のプロツアー。何事も最初からうまくはいかないので、今回出てきた課題をフィードバックして、次からはもっと上手くやっていけるだろうという結論になりました。

余談ですが、Paulo Vitor Damo da Rosa(今回ベスト8入りしたブラジルの殿堂プレイヤー)が、チームシリーズのチーム構成が発表された際、各チームを評価するコメントを書いていました。それによると「チーム「MUSASHI」はワタナベとヤソオカというツートップがいて、ヤマモトとイチカワもハイパープレイヤーだし、ユクヒロも今勢いに乗っているいいプレイヤーだね」といったコメントに続き、「僕はカクマエというプレイヤーを知らないけど、彼が初心者だとしてもこのチームはいいチームだ」と書いてありました。
「このチームならネギをしょったおばちゃんでも勝てる」みたいな書き方でひどい! と覚前さんは憤慨。「PVを見返さないと!!!」と俄然やる気が出たそうです。

 

 

 

●日曜日の予定

06

前夜のディナーにもいらっしゃった、アイルランド在住の市川さんのお友達に案内してもらったお店でディナー。アイルランドは牡蠣や淡水魚などのシーフードが名物だそうです。
日曜は珍しく、なんとチーム4人そろって観光に行くことになりました。「山本さんの休日」記事の特別版として、ギネスビールの博物館を訪れました。(詳しくは後日アップの記事で)
「こんなふうに現地在住の友達がいたらいろいろすごくはかどるから、プロツアーごとに現地のプレイヤー友達がいたらいいよね(笑)」という話の流れで、アイルランドのマジックプレイヤー事情を教えてもらったのですが、ダブリンにはマジックのお店も少なくあまり盛んではないようでした。がんばれ、アイルランドのプレイヤー!

 

 

 

●最後に

ニコニコ生放送やツイッターでの最上位選手予想などで、Team Cygamesメンバーを応援してくださった皆さん、どうもありがとうございました!たくさんの声が日本から届き、選手たちも喜んでいました!
皆さん3月のグランプリ・静岡2017まで大きな予定はないとのことなので、「9割勝てるマジック講座」の収録も近々行ないたいと考えています。どうぞお楽しみに!

07

ツイッターでのプレゼント企画用に、プレイマットにサインする覚前さん。

08

最終戦をそろって勝って終えたあとの謎のテンションで、「むさしー! うれしー!」ということで「C」のポーズを(むりやり)やらされるチーム「MUSASHI」のメンバー。(ありがとうございました…! byスタッフ)

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