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【WORLD】世界選手権の特別さとは何か【Day2】

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土曜日は山本さんが加わって晩ご飯。

2日目が終了し、最終結果は八十岡さんが10位、渡辺さんが18位、行弘さんが17位となりました。世界最高峰の舞台でのシビアな戦い、お疲れさまでした。
2日目スタンダードラウンドの結果と、個人戦に出場した3人による大会の振り返りをお届けします。

 

 

●渡辺雄也の場合

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2日目ドラフトラウンドの戦績
0-3

2日目スタンダードラウンドの戦績(通算戦績 6-8、最終順位18位)

ラウンド 対戦相手のデッキ(相手の名前) 勝敗
11 赤単(Lucas Esper Berthoud) 勝ち
12 ティムールエネルギー(行弘賢) 勝ち
13 赤単(Paulo Vitor Damo da Rosa) 負け
14 赤単(Eric Froehlich) 負け

 

●八十岡翔太の場合

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2日目ドラフトラウンドの戦績
3-0

2日目スタンダードラウンドの戦績(通算戦績7-7、最終順位10位)

ラウンド 対戦相手のデッキ(相手の名前) 勝敗
11 ティムールエネルギー(William Jensen) 負け
12 4色エネルギー(Seth Manfield) 勝ち
13 ティムールエネルギー(Reid Duke) 負け
14 赤単(Christian Calcano) 負け

なお、渡辺さんと同じデッキの行弘さんは本日のドラフト2-1、スタンダード1-3で最終戦績6-8(17位)でした。

 

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渡辺さんの試合を横で見る八十岡さん。
 

 

●デッキ選択について

※デッキリストは1日目の記事に掲載しています。

――皆さんはこの大会にもう一度出るとしたら、同じデッキで出ますか?
行弘「俺はティムールじゃ出ないですね、赤単が先手ゲーだったのと、ティムール同系であんまり差がつかなかったので。単純に俺らしくない選択をしてしまったかなと思ってます。調整中に赤単とティムールを超えられなかったので丸い選択にしたんですけど、もっととがったデッキにできていればと。だから、もう一度出るなら別のデッキにしたいけど、何になるかはわからない。あと1、2週間調整期間があれば変わってたと思います。」

――先手ゲーという話ですと、今回後手が多かったということですか?
行弘「8試合中7回後手でした。赤単と5回当たって全部後手で、メインは0-5、サイド後も入れて2-3だったのかな。先手だったらメインも全部勝ってた。サイドプランが強かったからなんとか2勝できたけど、かなりつらかったですね。」
渡辺「《マグマのしぶき/Magma Spray(AKH)》を切っちゃったからメインは後手で勝てなくなっちゃったんで、入れ直せばもう少しは行けたかと。」
行弘「まあ、その部分が《霊気圏の収集艇/Aethersphere Harvester(AER)》になってて、それも強いカードなんで、そこはまあしょうがないかなと思ってます。赤単相手に先手ならほぼ勝てるから、僕はもうそこは割り切ってダイスに負けたときに覚悟はしてました。今回ティムールを持ってきたことについては後悔はないんです。先手後手が逆だったらトップ4に残れてた気がするデッキです。ただ、結果的にダイスに頼るデッキに託してしまったのは、俺の中で心が弱かったかなと思いました。もっと頑張ってデッキ作らなきゃいけなかったのかなと……。まあ、作れなかったんですけど。」

――渡辺さんはどうですか?
渡辺「僕はデッキに後悔はないです。細部をもう少し詰めることはできるかなと思いますけど、また出るとしてもティムールを使います。丸いのと、使い慣れていてミスなく使えるので。」

――たとえばどこを変えますか?
渡辺「《マグマのしぶき/Magma Spray(AKH)》ですかね、抜いたせいで後手で勝てない構成になってたので。もっと青黒に弱くなりますけど、青黒にはもともと勝てないので。あと、このフィールドでティムールを使うなら、独創的な形にしたほうがいいと思いました。普通のデッキを持ってきてしまったので、そこはもっと頑張ってもよかったかなと。」
マグマのしぶき霊気圏の収集艇

――八十岡さんは、デッキに関してはいかがですか?
八十岡「2時間足りなかったですね。来るときの飛行機が寒くて、木曜日の夜は体調がちょっと悪くて、最後まで調整しきれず23時くらいにデッキを提出して寝ちゃったんですよね。それで翌朝起きて回してみたら、もうちょっと変えたかったなと。昔は当日の朝デッキを提出するルールだったんで、そのルールだったらあと2時間で3枚くらい変わってた可能性があります。基本、朝のほうが頭冴えてるんで。
実際、土地があと1枚入ってたら全然違った。何度も土地のない手札が来て、25枚目の土地の代わりに入れたカードが入ってて、まあ3枚入ってるんで確率的には1/3ですけど、『これが土地だったらなー』って思ってました、4回くらい。」

――なるほど。
八十岡「あと、デッキの話じゃないけどピーチガーデンオースの3人(ウィリアム・ジェンセン、オーウェン・ターテンワルド、リード・デューク)が強かった。3人とも当たってるんですけど全部微差で、6割くらい勝ってるところを引かれて負けた。彼らがもう1ランク下のプレイヤーだったら全部勝ててましたね。ただの一流だったら勝ててたけど、彼らは超一流なんで。」
行弘「彼らはリミテッドもすごいうまいよね。ジェンセンもすごいうまいし、リード・デュークがマナクリにコンマジ撃ってたのは本当にすごいと思った。俺にはできない。」
八十岡「あの3人は一緒に世界選手権出れるのがずるい。3人で練習したら、1人でも強いのに3倍強くなる。3人寄れば文殊の知恵っていうけど、1人ずつが文殊みたいなもんだから。」

――世界選手権を受けて、プロツアーのメタゲームはどうなりそうでしょうか?
渡辺「ティムールは安定してるし、サイドボードや足す色の可能性が無限にあるから、どんどん進化できるのが強み。一方でティムールを倒せる青黒コントロールが今回出てきたのは良かったですね。」

――少なくとも《アズカンタの探索/Search for Azcanta(XLN)》はかなり値上がりしそうですね。
八十岡「デッキに何枚も入るし、いろいろなデッキに入る可能性があるから。絶対上がるから来る前にMOで(マジック・オンライン)で100枚買っておこうと思ったけど、チケットがなかった(笑)。」

 

 

 

●イクサランドラフト

――ところで大会中、現環境のドラフトはやっててしんどいという話が出ていましたね。
八十岡「我々は勘違いしていたのかもしれない。ウィザーズはイクサランがアーキタイプ環境だなんて一言も言ってない。」
行弘「ローウィンみたいな環境なのかなと最初思ったんだよね。ローウィンはめちゃ楽しかったけど、今回はコモンでの種族シナジーってかなり少ないから違ってた。チームシールドだったらだいぶ部族デッキが組めるから、その感覚を引きずってドラフトやると、カードが足りなくて痛い目を見る。」
八十岡「アンプレイアブルなカードが多くて、一周したら取るものがないみたいなのがきつい。」
行弘「アモンケットの時は、一周して帰ってくるカードを予測して色を決めるみたいなのけっこうやってたんですよ。これが帰ってきたら安く使えておいしいから初手はこっちにしようとか。この環境、それやっても6手目くらいからあとは何もなくて、下家の色を予想するくらいしかやることなかったりする。」
八十岡「別にこの環境嫌いなわけじゃないけど、つまらないっていうのはある。弱いカードをうまく使わないといけない、細かいやりくりのゲームになるんです。基本セットっぽくて、シナジー環境っぽく見せてそうじゃないので、面白そうに見えて面白くないみたいな。」

――でも嫌いではないんですね。
八十岡「色の強弱があまりなくていろんな組み合わせで戦えるので。何を引いても、どのポジションでも、うまく住み分けできれば2-1くらいはできるかなと。いつも以上にポジション取りが大事な環境です。」

――難易度はちょっと高そうですね。
八十岡「難しそうに見えて難しい環境はよくありますけど、今回は部族でまとめればいいから簡単そうに見えて難しい。弱いカードがデッキに絶対入るんです。」
行弘「パックごとのプレイアブルなカードが7枚くらいしか取れないから、全部で21枚。2枚くらい穴埋めしなきゃいけなくて、その穴埋めの精度でだいぶデッキが変わります。」
八十岡「23枚取れれば2-1はできる。0-3とか1-2するデッキは、気に入らないカードが5枚以上入ってる。」
行弘「ポジション取りに失敗するとそういうデッキになるね。」

――そのポジション取りってどうすればうまくできるんですか?
八十岡「感じ取るしかないですね(笑)。」
行弘「2パターンあって、流れてきたカードの色をシックス・センスで読み取るか、自分がその色を枯らしてほかにやらせず自分の道を作るかですね。それをどっちも使い分けられる人が強いと思います。」

 

 
●世界選手権はなぜ特別なのか

――国内グランプリとかなら勝っていて当たり前の皆さんがこんなに苦労しているというのが、見ていて印象的でした。やはり大変ですか?
渡辺「相手が強いから、疲れます。」
八十岡「プロツアーよりはるかに消耗が激しいですね。」
行弘「ボスラッシュだから。」

――初出場の行弘さんは、今回楽しめましたか?
行弘「ほんと、こんな世界があったんだなと。すごいモチベになります。まわりがみんな強くてマジックを始めたころを思い出しました。プロツアーチャンピオン目指してましたけど、それよりワールドチャンプになりたいなって思いましたね。」
八十岡「やっぱ違うよね。」
行弘「ヤソが殿堂入りしてPTも優勝して、マジックをクリアしたようなものにマジックを続けてる理由がわかったよ。世界選手権は過去のボスがずらっと集まってる裏ダンジョンみたいなもんだった(笑)。俺にはまだデスタークは早かったかな。」
八十岡「リード・デュークもワールドで2-12とボロ負けして今があるからね。」
行弘「でも、ちょっと自信つきましたよ。俺がいわゆる『2-12』枠になる可能性は相当高いと思ってたけど、全然戦えるなって感じたんで。」

――何度も出ている渡辺さんや八十岡さんにとっても、世界選手権は特別ですか?
八十岡「個人的には、プロツアーが普通の大会、グランプリはカジュアルイベント、世界選手権が本番です。」
渡辺「プロツアーも真剣に取り組みますけど、世界選手権はより上のイベントです。1年間これのために頑張るというか。」
八十岡「プロツアーは初参加の人とかもけっこういるけど、世界選手権はレベルが違うってのが特にドラフトでは顕著ですね。カード評価があんまり違わないから、強いカードは回ってこない。この週末、ドラフト合宿やってたりするから3-0デッキのリスト見るけど、強すぎ。あんなデッキここじゃ絶対組めないよ。」

――なるほど。
八十岡「覚前君ずっと観戦してたけど、チームシリーズのおかげで世界選手権を見に来れたのはかなりツイてると思うよ。放送じゃなくじかで見るのは全然違うと思う。どのテーブルもレベルが高いから、どの試合を見ても楽しいしね。」
行弘「ほんとそれ。」

来年の世界選手権は、マジック25周年記念ということでラスベガスで豪華にやるそうなので、来年も絶対行きたい!と皆さん気合を入れていました。

こぼれ話その1:2日目ドラフトの珍事

ドラフト記事で紹介しましたが、2日目のドラフトではカードが1枚落ちた状態のまま進行してしまったという事件がありました。「こういうことは時々あるんですか?」と聞いたところ、プロの皆さんが口をそろえて「初めてです」と言うので、非常にレアケースのようです。そして、落ちたカードの正体は《太陽の化身、ギシャス/Gishath, Sun’s Avatar(XLN)》だったことがわかりました。なぜわかったかというと、行弘さんのところにパックが一周してきたとき、最初は見ていなかった《太陽の化身、ギシャス》が入っていたので、おいしくピックしたのだそうです。

こぼれ話その2:時間制限

通常、1試合の制限時間は50分ですが、世界選手権は60分です。以前は時間無制限だったそうなのですが、数年前に1ラウンドが2時間くらいになったことがあり、デッキ的にそういう事態もあり得るため、60分の制限になったようです。世界選手権の出場者レベルであればみんなプレイが早いため基本的に時間切れになるようなことはないのですが、まれに本当に試合がもつれ込んだ場合は、通常よりじっくりプレイすることができます。

こぼれ話その3:デッキリスト公開制について

世界選手権では、ドラフトの1ラウンド目にカードプール、2ラウンド目にはデッキが公開となります(スタンダードも2ラウンド目からリスト公開)。
これにともなってどういうところがもっとも違うかを聞いたところ、ドラフトでは通常と異なり、コンバットトリックが1枚もないとか、確定除去がないデッキを組んではいけない。やりたい放題やられてしまうので。相手のデッキが全部わかっているとお互いにプレイしやすい面があり、よりうまい人が勝つ傾向にある、という話を聞けました。

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顔見知りなので試合が始まるまでは会話や笑顔が多くアットホームな雰囲気がありますが、試合中はプロツアーよりもさらに張りつめた空気です。余談ですが、フロアにいるジャッジは全員ヘッドジャッジ用の赤いシャツを着ていました。


八十岡さんファンの少年が会場を訪れ、一緒に記念写真を撮っていました。八十岡さんが対戦エリアに入って行くのを見送りながら小さい声で「ガンバッテ」と言っていて、めちゃくちゃ和みました。

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