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Team Cygames『イクサラン』合宿レポート

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世界選手権で〈MUSASHI〉がチーム優勝した興奮も冷めやらぬまま、シーズン最初のプロツアー『イクサラン』に向けて恒例のTeam Cygamesドラフト合宿が実施されました。
10月14日(土)~15日(日)の2日間、Cygames会議室に計18人が集まり、いつものようにピック時にはタイムカウントあり(本番と同様に秒数を計ってピックを行なう)、3-0したデッキと0-3したデッキは撮影して共有といったことも行なわれていました。
今回は八十岡さんがTeam Cygamesに加入して初の合宿であり、またプロツアーの日程変更に合わせいつもより遅い時期の開催となっています。ある程度戦略が固まってきたこの環境について、難しさや初手ピックなどを5人に率直に語っていただきました。

参加メンバー一覧(敬称略)順不同
山本賢太郎、市川ユウキ、渡辺雄也、覚前輝也、八十岡翔太、中村肇、中村さら、瀧村和幸、松本友樹、川崎慧太、加藤健介、玉田遼一、三原槙仁、高尾翔太、原根健太、熊谷陸、松本郁弥、佐々部悠介

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●合宿初の出来事

――今回はいつもより遅いタイミングでの合宿なので、練度が上がってのスタートでしたか?
渡辺「そうですね。みんなある程度環境理解はできてて、MO(マジック・オンライン)とリアルの差を埋めていく感じですね。」

――戦略が固まりきっていない時期にやるのと違って、みんなの考えにズレがあったりしますか?
市川「時期がいつだったとしてもそういうものだし、合宿で考えをすり合わせていくのはいつもと同じです。」

――今回、初参加の八十岡さんに感想をお聞きしたいんですが。
八十岡「僕、昨日(土曜日)来てなくて、今日ドラフト2回やっただけなんで、特にまだ何も(笑)。」
渡辺「今回はお試し、ノーカンでもいいくらいですよ。」
覚前「でも記事としては、一言欲しいわけですよね。」

――そうです、わかってくれてありがとうございます(笑)。
八十岡「うーん、別に、いつもドラフトやってるようなメンバーとやってるだけだし……。」
渡辺「タイムカウントはどうだった?」
八十岡「まあ、練習としては悪くないね。ありがたいよ。ただ環境初期のほうが、タイムカウントの効果は高そうだね。ある程度セオリーができてるとあんまり迷わないから、時間に困らない。前みたいに発売すぐの時期だったら、タイムカウントがあるともっと厳しいゲームになってただろうね。」

――確かに。あと、今回は渡辺さんがサイゲ合宿で初の0-3という歴史的な出来事が起こったそうですね。
渡辺「この環境は0-3しやすいです。ヤソ以外、全員1回は0-3してる。相性ゲーの要素が強いから、デッキは0-3するほどではなかったけど、3試合とも相性の悪いデッキに当たって負けた感じです。」

――誰でも0-3しうる環境だと。
渡辺「チームシールドよりはまだマシですけど、相手に依存する環境ですね。」

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時間の都合で、ピックと構築だけしたデッキを並べ、どれが一番3-0しそうか、品評会をしているところ。

 

 

 

●ドラフトで強い部族アーキタイプは?

――この環境は、「この色が強い」というよりも「この部族は強い」という感じなんですか?
市川「4つの部族での強弱の差は、見た目あんまりないかな。」
覚前「僕はあると思うけど。だって、吸血鬼はコモンからレアまで全部強くない?」
市川「でも白黒吸血鬼は、かなりやりたくない寄りになってきた。吸血鬼大好きキャラが絶対プロツアーの卓にもいて、取り合いになるもん。」
八十岡「それはドラフトの卓の問題であって、部族の強弱の問題とは別じゃない?」
市川「それも含めて強弱じゃない?」
八十岡「そこまで含める場合、最初は『白黒吸血鬼が強い』から環境が始まって、『吸血鬼はみんなやるから取り合って弱い』ってなったあとに『みんなやりたがらない』になって、そうするとまた『吸血鬼が卓で1人』とかになって、強くなる。ドラフトのメタゲームってそうやって動いてくから。」
渡辺「アーキタイプとしての最大値は、吸血鬼が一番高い。あとは卓の許容人数の問題です。」

――吸血鬼はデッキとしては強いけど、やりたいかやりたくないかはまた別って感じなんですね。
市川「間違いない。俺はMOリーグしかやってなかったんで、8ドラをやってみた感じだと、白黒吸血鬼は卓に混みやすいし、白も黒も普遍的に強いカードが取られやすい。たとえば2マナ2/2絆魂(《司教の兵士/Bishop’s Soldier(XLN)》)とかは赤白が取っちゃうし。吸血鬼の専用カードって2マナ1/3飛行(《軍団の飛び刃/Skyblade of the Legion(XLN)》)と黒の5マナ3/3(《選定された助祭/Anointed Deacon(XLN)》)くらいで、それ以外のカードはどんなデッキにも入るから、あまり完成度が高い吸血鬼はできないなって思った。」
八十岡「ただ吸血鬼は、完成しなくてもまあまあ強いって利点があって、下ブレしにくい。青緑マーフォークと青黒海賊は失敗したとき半端なく弱いデッキになるけど、吸血鬼は最低値が保証されてる感じ。」
渡辺「『失敗した青黒海賊』は存在してはいけないデッキだね。」
市川「青黒海賊はぶっちぎりで0-3してるね。」
八十岡「流れてくるからついやっちゃいそうになるけど、『海賊やってれば《海賊のカットラス/Pirate’s Cutlass(XLN)》くらい流れてくるだろう』という甘い考えを持った結果、大変なことになる。」
市川「もちろん来ない。」
八十岡「ドラフトやればやるほど、《海賊のカットラス/Pirate’s Cutlass(XLN)》の点数は上がってくからね。最初は海賊以外には入ってなかったけど、今は吸血鬼とか赤いビートとか、ほかの色でも入るから。」
渡辺「3手目以降で取れることはほぼないね。」
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ドラフト中、超強力なパックを開封した市川さん。一周したのち「このガム、8人噛んだけどまだ味ある!」と叫び、原根さんに「たとえが気持ち悪い(笑)」と突っ込まれていました。

 

 

 

●部族以外のデッキ

――部族アーキタイプによらないドラフトも試されていますか?
渡辺「むしろそっちがメインです。」
市川「そもそも、やろうとしても部族デッキにはならないんで。」
八十岡「コモンで部族を参照するカードは少ないし、寄せるメリットが少ないから、部族はおまけです。」
渡辺「色の組み合わせを決める基準にはなりますけど、部族に寄せる意識はあまりないですね。」

――そうすると、部族は関係ない、緑と黒のごっちゃデッキみたいなのも許されますか。
市川「まぁ黒緑はあんま強くないけど、マーフォークと恐竜ごっちゃの青緑とかはよくある。」
渡辺「マルチカラーのアンコモンに合わせた色の組み合わせになりやすいんで、そうすると自然に何かの部族っぽくなってることが多いです。」
市川「MOドラフトリーグだとみんな当然のように部族オンリーみたいなデッキを作ってたんですけど、8人だといろんな部族にまたがったデッキにならざるをえないんで、このタイミングの合宿でも俺はすごく練習になりました。」
渡辺「もし完全に部族デッキが組めたら、その人が絶対3-0しますよ。普通は組めないから。」

――部族デッキができないことを前提に、いかにいいデッキにしていくかというのが今環境のドラフトの技術なんですね。

 

 

 

●ポジションの感じ方

渡辺「部族によらずに勝てる技術が高ければ2-1しやすいけど、でも3-0するのはいいポジションに座って部族カードを集めきれた人ですね。」
市川「そこに関しては座り順とか、カードの出方がすごい大事だから介入できる要素が少ない。」

――ポジジョンが大事ということは、同じ卓に「白黒吸血鬼決め打ちニキ」みたいな人がいるとやりやすいんですか?
市川「それがわかればね!『こいつは吸血鬼決め打ちニキだ』ってことが俺にもわかるならいいですけど。八重歯がすごい出てたり、手がフックになってたりしたら、さすがに俺でも警戒するけど(笑)、現実的にはわかんないから怖いんですよね。この流れならどう考えても流れてくるはずなのに、無理やりやってる決め打ちニキがいて何も来ない、とかはありそう。そういうとき、いかに柔軟に対応していくかですね。」

――そういうときは途中からガラッと変えなきゃいけない?
渡辺「ガラッと変えると、まずカードが足りないです。そもそもカードが弱い環境だから、普通にやっても1パック8枚ずつ24枚のプレイアブルなカードを取ってデッキにすることは難しいので。自分のデッキに手いっぱいでカットする余裕もないから、いいポジションに座った人はカードを取り続けられるんです。」
覚前「さっき赤緑恐竜やってたとき、3パック目で《人質取り/Hostage Taker(XLN)》むいて流したよ。」
市川「赤緑じゃなー。ほかの白黒とか青赤とかなら余裕でタッチできるんだけど。」
渡辺「恐竜系やってるとき、《人質取り/Hostage Taker(XLN)》だけはむきたくないんだよなー。」

――そのときはどうなったんですか?
覚前「下の原根君が青黒やってて、スッと流していい感じに協調しましたよ、ええ。」

――じゃあそのドラフトは原根さんが勝ったんですか?
覚前「いや、1-2だったかな。下ブレたって言ってました。僕は0-3(笑)。」
市川「協調した結果が1-2と0-3かー!」
覚前「そのとき、初手は白の3マナ2/2の吸血鬼レア(《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン/Mavren Fein, Dusk Apostle(XLN)》)だったんだけど、上が吸血鬼だったからやめて赤緑に変えてるんだよ。」
市川「上が白黒で赤緑に行くのはかなりいい逃げ方だけどね。」
覚前「唯一問題だったのは、緑は確実にやらしてくれる流れで、2色目に流れてきてたのは青だったんだよね。でも青緑はやりたくなかったから。」
八十岡「青緑にしてれば、《人質取り/Hostage Taker(XLN)》も入れられたのに。」
覚前「それね。」

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市川「俺もまさにさっき、2色目を間違えて0-3したよ。黒だけ流れてきてて、2色目を白にしたら卓に吸血鬼があと2人いて死んだ。2色目の流れを感じ取れなかった。初手緑のレア、2手目は緑のカードはあったけど明らかに緑がなくなってて、上のAさんが青緑だった。3手目に2マナ4/3(《指名手配の獄道者/Wanted Scoundrels(XLN)》)が流れてきたから取って、次に5マナダーバニ(《依頼殺人/Contract Killing(XLN)》)が来たから黒は空いてるのがわかったけど、もう1色が感じ取れなかった。」
覚前「わからないときは、最初に取った色じゃない?」
市川「黒緑ってこと? でも結局、下のくまP(熊谷さん)も緑で、上下とも緑だったんだよ。残りは青か赤しかないんだけど、どっちの流れもいまいちだったからなぁ。青の1/4(《財力ある船乗り/Sailor of Means(XLN)》)とか守りのカードはけっこう流れてきてたんだけど、ちょっと感じ取れないよね。」

――感じ取るというのは、第六感みたいなものですか?
市川「いや、流れてくるカードで上からのメッセージを感じるみたいなもの。」
八十岡「《指名手配の獄道者/Wanted Scoundrels(XLN)》くらいならわかりやすいよね。」
市川「うん、3手目にそれが来た時、コモンとアンコモンが抜けてたから、少なくとも上2人は黒くないだろうなって伝わって、それで黒にしたから。」
渡辺「アンコモンが流れてくるような、わかりやすいシグナルならいいけど。感じ取れてもどうしようもないことも多いんですよ。」
八十岡「そこからじゃもう遅いよ!とかね。」
渡辺「3、4手目くらいでシビアな選択を迫られて、踏み込まなかったせいで負けることもあるし、踏み込んだせいで負けることもある(笑)。」

――難しいですね……。

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ドラフトで0-3した人は次の回に抜け番になる慣習ですが、抜け番を代わってもらうため中村さらさんに土下座ならぬ“土下寝”をする市川さん。

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今までの合宿の成績が記録されたメモを見て振り返りながら、「合宿に参加すればするほど勝率が下がっていってる」と下り坂を表現する玉田さん。いったいなぜ……?

 

 

 

●初手に取りたいカード

――世界選手権のときに、初手に取りたいカードを渡辺さんと八十岡さんには聞いていて、2人とも《人質取り/Hostage Taker(XLN)》という答えだったんですが、ほかの皆さんはどうですか? みんな《人質取り/Hostage Taker(XLN)》になりそうなので、それ以外でお願いします。
市川「俺は《秘宝探究者、ヴラスカ/Vraska, Relic Seeker(XLN)》かな。赤白以外のアーキタイプならどれでも入る可能性がある。」
山本「俺は《海賊のカットラス/Pirate’s Cutlass(XLN)》でいいよ。」
渡辺「えっ、レアじゃなくていいの?」
山本「何でもいいんでしょ?」
市川「じゃあ、《秘宝探究者、ヴラスカ/Vraska, Relic Seeker(XLN)》と《海賊のカットラス/Pirate’s Cutlass(XLN)》だったら?」
山本「それは《ヴラスカ》。」
市川「《ヴラスカ》のほうがええやんけ!!!!」
山本「それでもワンチャン、《海賊のカットラス/Pirate’s Cutlass(XLN)》あるかな。」

秘宝探究者、ヴラスカ 海賊のカットラス

覚前「僕は白黒のマルチのレア(《マガーンの鏖殺者、ヴォーナ/Vona, Butcher of Magan(XLN)》)でお願いします。白黒好きだし。」
山本「じゃあ僕、ボガハン(《反復連射/Repeating Barrage(XLN)》)で。1色のカードがいいんで。」
八十岡「あれはとんでもないね。最悪チャンプアタックでいいから、絶対回収できるし。」
市川「回収できるターンに回収しないという選択肢をほぼとらないからね。」
渡辺「もし相手が回収できるのにしてこなかったら、すなわちもう負けてる(笑)。」

マガーンの鏖殺者、ヴォーナ 反復連射

――渡辺さんと八十岡さんは、《人質取り/Hostage Taker(XLN)》以外だとどうですか?
八十岡「僕もボガハンですね。赤好きなんで。」
渡辺「白のキスメット恐竜(《キンジャーリの陽光翼/Kinjalli’s Sunwing(XLN)》)もいいかな。ボガハン級だと思う。白かったら絶対入るし、先手3ターン目に出されたらもうゲームさせてくれないんで。」
市川「あれと頭突き君(《縄張り持ちの槌頭/Territorial Hammerskull(XLN)》)で、一生殴れるからね。」
渡辺「実際のところ、タッチしやすい環境でレアは何でも使うんで、取れればもう何でもいいんですけど。」

キンジャーリの陽光翼 縄張り持ちの槌頭

 

 

 

●プロツアーまでの2週間

――プロツアーに向けて、スタンダードの調整はどのような感じでやってますか?
市川「まだ全然やってない。世界選手権からずっと体調悪かったし……。」
覚前「同じく全然です。」
渡辺「今裏でやってる、アメリカの国別選手権の結果を見てからかなって話はしてます。」

――皆さんはプロツアー前週にリミテッドで開催されるグランプリ・香港2017には行くんですか?
渡辺「行く人と行かない人がいます。」
市川「俺は行く。やまけんも行くよね?」
山本「まだ取ってないけど、行く寄りではある。」
八十岡「この環境のシールドに時間を割きたくないんだよね。」
市川「ノー練習で行くよ。」
覚前「僕、けっこうシールドやったからわかるよ。」
市川「お!」
覚前「ビートが板(「ビートダウンデッキが鉄板」の意)。2マナ+2エンチャント(《向こう見ず/Swashbuckling(XLN)》)をつけて殴る1マナからのビートか、レアがあればレア。」
八十岡「それはいつものことだよ!(笑)」
渡辺「要はレアがないときの弱者の兵法ってことだね。」
覚前「基本が大事です。」

 

 

 

●プロツアーの目標

――それでは最後に、プロツアー『イクサラン』での目標をお願いします。
覚前「シーズン最初のプロツアーなんで、とりあえず5敗で次につなげたいですね。」
渡辺「僕は個人の目標じゃなくて、チーム〈MUSASHI〉が1位を取ることです。」
八十岡「そう来たか。僕はトップ4ですね。」
市川「何、その微妙なライン!?」
八十岡「現実的なライン。優勝は運が必要だから、目標にしてもしょうがない。トップ8から1回くらいは勝ちたい。ということで、トップ4はがんばれば行けるライン。」
山本「じゃあ俺は……6敗で。」
全員「6敗!?」
山本「1発目からコケたくないし。インマネ(賞金圏内)で。それが最低目標ということで。」
渡辺「まあ、悪くはない。」
覚前「6敗と5敗がいてトップ4がいて……そしてせばちゃんは?」
渡辺「聞かなくていいでしょ。」
市川「優勝です!!!!
渡辺「この締め、いつもコピペじゃん(笑)。」
八十岡「いやー目標と夢を混同されても困るんだよなぁ~」
市川「目標だよ! 頂きを獲るよ!」

――市川さんが突然現実的な目標を言い出したら、みんな心配しそうですね。
市川「『あいつ、目が覚めてしまったのか……』ってね。俺はいつまでも子供でいたいんだよ!」
それでは、プロツアー『イクサラン』のレポートもどうぞお楽しみに!

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