Articles

グランプリ・千葉2018レポート(後編)

16

引き続き、市川さん・覚前さん・山本さんの初日レポートをお届けしていきます。(ちなみにここからはTeam Cygames発起人の木村さんも話に参加しています。)

 

 

 

 

●市川ユウキの場合

17

1日目戦績:5勝3敗(490位)

デッキ構築

18

――このデッキを作るにあたって、色の選択理由を教えてください。
市川「この環境本当に簡単で、プレイアブルなカードざっと入れたら23枚になるのって、だいたい2色くらいしかなくて……ほかはだいたいカード足りなくて、『青白かな? 青黒かな?』みたいなのは贅沢(笑)。(向かいにいた木村さんに)ほぼないっすよね?」
木村「ないない、だいたい20枚くらい。」
市川「そうそう、3枚くらい足りないんですよ。なんで、単純にカード並べてった結果、青白になりました。」

――これはどういった感じで回していくデッキですか?
市川「青白は自分のクリーチャーを全部+2/+1する《鼓舞する突撃/Inspired Charge(M19)》ってカードがけっこう優秀なので、クリーチャー並べて全体強化してドンみたいな、まぁ早いビートダウンっすね。
練習した感じ、青白はレアリティ低くてもけっこう勝つイメージがあるんで組みたい寄りで、この1/3飛行(《ペガサスの駿馬/Pegasus Courser(M19)》)と鹿(《星冠の雄鹿/Star-Crowned Stag(M19)》)は本当にゲームのイニシアチブを握れるコモンなんですけど、これが1枚ずつ出てくれたのがよかったなという感じで。ナベとかけんちゃん(行弘賢さん)に見せても『中の上から上の下くらいはあるかも』って感じだったので、一貫性があっていいデッキになったかなと。」

――生放送解説陣いわく、『《アジャニ最後の抵抗/Ajani’s Last Stand(M19)》を入れているのがけっこう珍しい』とのことでしたが、採用した理由は何ですか?
市川「単純にカード強いっすよ。」
木村「強い強い。4マナでけっこう軽いし。」
市川「自分のクリーチャーが死んだら4/4飛行が出るってカードなんですけど、基本的にクリーチャーが多いデッキなんで、お互いにクリーチャーを交換し合う展開もあるし。単純にスプレーしてフルパンして、1体死んで4/4飛行出るのも悪くないし、1体大きいのブロックしたら4/4飛行出せて返しで殴るという展開もあるんで。単純にカードのスタッツがいいっすね。僕は適当に入れてます。」
木村「適当に(笑)。」
市川「何も感情なく入れますね、これは。」
渡辺「攻めるデッキだからね。」

アジャニ最後の抵抗

――あと、ビデオフィーチャーされてたラウンド4の2ゲーム目で、市川さんの盤面にクリーチャーが4体くらい並んでたとき、相手が《信仰の伝令/Herald of Faith(M19)》(5マナ4/3飛行)を出したけど市川さんが《分散/Disperse(M19)》で手札に戻したら相手がすぐ投了したじゃないですか。あのとき、『相手が全体除去のカード持ってないことがバレちゃうんで、もう少し何か持ってそうなそぶりを見せたほうがいい』って解説の津村さんが言ってたんですよ。
市川「ちなみにそれはバレてた、わかってた。でもあのときは、すごい怖かった。まず1ゲーム目、相手ダイス勝ったのに後手番取ってきて、この環境後手番取るデッキってすごい珍しいんで。」
木村「相手は白?」
市川「そう、しかも赤白っていう一番攻めるカラーリングで後手取ってきたから、全体除去ありそうな気はしてて。だから前のターン、全部展開するか悩んだんですね。だけどさすがに見てないカードをケアしてもしょうがないし、それで負けちゃっても嫌だから展開したんですけど。そしたら返しに《信仰の伝令》出されて、バウンスしたら投了。『ああ、デッキにラス(全体除去)入ってないんだ』って。あれは絶対に投了しちゃダメです、僕的には。」

――そこで全体除去がないってわかれば、3ゲーム目にも活かせますよね。
市川「まぁ、プレイが簡単になりますよね。2ゲーム目では悩んだけど、3ゲーム目以降悩まなくてよくなって、全展開できるから。僕だったらあの盤面では生き残るようにブロックして、カード引いてから投了。そしたら相手が最後にカード1枚多く展開してくれるかもしれないし、そしたらカード1枚分情報で得するからね。3ゲーム目とかならともかく、2ゲーム目では絶対投了しない。」

29

練習について

――市川さんだけ来週のGPミネアポリスに行かないじゃないですか? だからほかの人よりあんまりシールドの練習はしなかった?
市川「うーん、いや、けっこうやったかな。出るからには勝ちたいから。でも勝てなかったけどねー。まあ、直近のグランプリで優勝してるんで、反動がブワッと来ましたね。
最後、ラウンド8の3ゲーム目でけっこういいハンド来て、相手マリガンで、さすがにもらったかなって思ったんだけど、なんかすごく嫌な予感がしたんですよね。いいハンドキープしてるのに。そしたらドローが6連続土地っていう。1枚くらい土地以外だったらいけてたと思うんですけど、残念。」

――ラウンド6から8と、3連続で負けちゃって……。
市川「ラウンド6は高尾(翔太)くんで、デッキ強くて、アンコ→アンコ→神話レアって出されて負けて。
最終戦2つは緑系のデッキだったんですけど、緑系とは相性悪くて。僕は青白なんですけど相手の重たいカードを除去する2マナ3マナのカードがなくて、出た重たいカードと常に向き合わなきゃならなかったんですね。そこがけっこう弱点で……早い段階でマナクリーチャー経由で重めのクリーチャーが出てきちゃって、クロック早くて無理みたいな展開が多かったですね。」

――市川さんのデッキに除去はどのくらい入っているんですか?
市川「ほぼ入ってなくて、タップクリーチャーを破壊するの(《返報/Take Vengeance(M19)》)と、クリーチャー呪文をカウンターする(《本質の散乱/Essence Scatter(M19)》)っていう……これは実質除去みたいなやつなんですけど。
僕のデッキは攻めるデッキなんで、タップクリーチャー破壊は攻めてるときに引いちゃうと一手損というか、これがクリーチャーだったら勝ってるのにみたいな展開も多くて。メインボードに入れてたんですけど、サイドアウトすることが多かったですね。緑系のデッキだと、5マナ5/5のアンコモン警戒(《用心深いベイロス/Vigilant Baloth(M19)》)とかタップしないんで除去れないとか……最後の2ゲームはけっこうそんなパターン多くて。
《光明の縛め/Luminous Bonds(M19)》(攻撃とブロックを止める3マナオーラ)とか持ってれば、6マナのクリーチャーとかを3マナで抑えられてテンポいいんで、コモンなんで出てほしかったですね。あと-6/-0してブロックすると死ぬエンチャント(《萎凋/Dwindle(M19)》)とかも、飛行で殴るデッキなんで地上にブロッカーがいても別に問題ないんで。この2枚はコモン除去なんで、すごい欲しかったですね。……こんな感じでござんす。」

返報 光明の縛め 萎凋

 

 

 

●覚前輝也の場合

19

1日目戦績:4勝4敗(917位)

デッキ構築

20

――デッキの色選択の理由については。
覚前「まず黒が5色の中で一番強いなって思った。レアは全部弱かったんですけど、カードパワーが高いカードが揃ってたんで。(《呼び覚ます者イザレス/Isareth the Awakener(M19)》《流血の空渡り/Skymarch Bloodletter(M19)》《骸骨射手/Skeleton Archer(M19)》《吸血鬼の君主/Vampire Sovereign(M19)》など)」

呼び覚ます者イザレス 流血の空渡り 骸骨射手 吸血鬼の君主

覚前「で、2色目なんですけど、白はめちゃくちゃ強いコモンが3種類、《星冠の雄鹿/Star-Crowned Stag(M19)》《暁の天使/Angel of the Dawn(M19)》《ペガサスの駿馬/Pegasus Courser(M19)》とあって、この3種類が計4枚あれば確実に白やったほうがいいだろうと言われているんですけど(実際覚前さんは《星冠の牡鹿》2枚、《暁の天使》と《ペガサスの駿馬》を1枚ずつ持っていた)、白のカードがあまりにも少なくて……白を選択するとデッキにならなかったんですよ。
で、2色目けっこう迷った結果緑にしたんですけど、理由はマルチカラー(到達接死持ちの2/3《毒矢尻の射手/Poison-Tip Archer(M19)》)が強いのと、除去(《狂気の一咬み/Rabid Bite(M19)》2枚)、クリーチャーのスペックが最低限あったこと……(見直しながら)それでもあんまり強くないな……。
緑黒が一番、弱いカードが少なく組める構成かなと思ったんですけど、カードプール自体強くなかったんで強いデッキではないです。丸く組んだらこういうデッキになりました。けどデッキ組んだ段階で、相手のデッキ強いと負けるなってのは感じてました。」

毒矢尻の射手 狂気の一咬み

――ほかの人に組んだデッキを見せて何か言われたりしましたか?
覚前「ナベには黒白がいいって言われて、松本(郁弥)さんには緑黒メインで組むって言われましたけど、いずれにせよ、サイドから色変えするって感覚でしたね。弱いデッキを使い分けるみたいな感じです。」

――メインは緑黒で、サイド後に白が入ってくる?
覚前「白入ります。けど僕はいろんな話を聞いた感じ、白黒にするのが一番いいんじゃないかなって。理由としては、白黒は相手が強いデッキでも勝つ可能性がある。この緑黒は相手が強いと勝つ可能性が低いんですよ。丸いデッキなため。
白黒はとがったデッキなので、弱い相手にテンポ差で負けるときもありますけど、上振れで8-1できる可能性もある。グランプリはトップ8を目指すゲームだから、白黒のほうがよかったかなと。」
渡辺「補足すると、緑黒だとちょっと土地を引きすぎる展開になると負けるんです。攻めるための継続力がなくなってしまうので。対して白黒は1枚で2枚分働いてくれる《ペガサスの駿馬》や《暁の天使》のようなカードがあるんで、僕はメインは白黒がいいかなって言いました。どうやってもマジックって土地引きすぎるゲームがあるんで、そういうときにどういう勝ち方をするか考えるのが大事ですね。」

21
――このデッキでの戦い方はどうなりますか?
覚前「ミッドレンジで、相手と1体1交換をしていく感じですね。緑の典型的な感じで、大きいクリーチャーを出して除去っていくのが勝ちパターンです。」

――来週にもグランプリがありますが、どれくらいの比率で練習しますか?
覚前「プロツアー用のモダンが8割で、息抜きにリミテッドです。もうだいぶやってきたし、これ以上やりこんでもあまり変わらないから。プロツアーのほうがやっぱり大事なんで。」

25周年記念に寄せて

――マジックの歴史の中で、一番の思い出は?
覚前「んーーー、難しいなぁ。中学生くらいのみんなで遊んでたときが一番楽しかったかなぁ(笑)。けどまぁ、最近の話のほうがいいですよね。そうすると最近あんまり楽しくないからなぁ……あぁでも、海外で優勝したグランプリ・オークランド2015は一番やりこんだ環境だったんで、『この環境に関しては理解してる』って思っててそのまま優勝できたのは、いい思い出だし自信につながりましたね。まぁそのあと勝ってないし自信もないんですけどね(苦笑)。」

 

 

 

●山本賢太郎の場合

22

1日目戦績:5勝3敗(496位)

デッキ構築

23

――まず色の選択理由についてお願いします。
山本「はいはい。最初にレアから見たんですけど、使えるレアがこの4種類(《弱者の師/Mentor of the Meek(M19)》《墓地の司令官/Graveyard Marshal(M19)》《惨劇の悪魔/Demon of Catastrophes(M19)》《ドラゴンの女王、ラスリス/Lathliss, Dragon Queen(M19)》)だったんですね。」

弱者の師 墓地の司令官 惨劇の悪魔 ドラゴンの女王、ラスリス

山本「シールドの基本はレアと除去を中心に構築することなんで、単純にこの3色中心に見て行って、黒はこの2枚のレアと《殺害/Murder(M19)》っていう強い除去があって、白は《光明の縛め/Luminous Bonds(M19)》や《返報/Take Vengeance(M19)》とかがあって。シンプルにいつものシールドのセオリーに沿ってレアと除去を使おうと思って、その組み合わせが一番多い白黒をメインにしました。
でもこの環境のシールドって、いつもと違ってレアや除去への依存度が低くて環境が前のめりになってて、レアや除去がなくてもコモンとかで押し込めるデッキが強いんですよ。そういうことに気づかずに、レアと除去に依存して白黒のぼんやりとしたデッキを組んでしまった。でもほかのカードプールを見たら、青白だとレアとか除去はないけど押し込めるような構成に組めてたんです。」
木村「青白?」
山本「《技量ある活性師/Skilled Animator(M19)》(アーティファクトを5/5にする3マナ1/3)や《霊気盾の工匠/Aethershield Artificer(M19)》(アーティファクトに+2/+2と破壊不能を付与する4マナ3/3)のシナジーとか。アーティファクトがいたら青白強化ビートダウンみたいなデッキが組めてて、回してみたらこっちをメインにしたほうが強かったなって。この環境の練習不足だったなって思いました。」

24
青白のパターン

山本「メインでこういうアーティファクトシナジーを多用するデッキにしてたら、相手はサイド後にディッチャ(エンチャント・アーティファクト破壊の総称)をサイドインするじゃないですか? そうなったときに、サイドでそれをかわせる白黒にチェンジしたほうがよかったなぁって。だからメイン青白、サイド白黒みたいにすればよかったです。」
――勝てたラウンド5・6は何で勝てたんだと思いますか?
山本「このへんはメイン白黒、サイド後青白みたいな感じでやってたんですけど、相手のデッキも強くないし、ちょっと事故ってたみたいな感じだったからかな。」

30

GPミネアポリスに向けて

――来週のGPに向けて、今回の経験を活かせるところは何ですか?
山本「初日全勝した瀧村(和幸)さんのデッキを見たら、レアとか除去がほとんど入ってないんですよ。それでもライフを押し込む一点にかけては一貫性があったんで、『このデッキはこうやって勝つ』みたいな方針が色濃く出る環境だと思ったので、そういう点は意識してデッキ構築しようと思いました。今回勝ってるデッキや負けてるデッキを見て、そういう一貫性を感じたので。」

――旅立つまであと1週間ほどありますが、練習はどのくらいしますか?
山本「GPミネアポリスが一応ありますけど、メインはプロツアーなのでシールドの練習はしないです。あと上乗せ1点あればゴールドなんで。」

――市川さんが勝利者インタビューでプロツアーの話題を振られたとき、『うちの山本さんがブイブイレガシー回してくれてるんで』って言ってましたし、期待ですね!
市川「バチバチやってくれてるんでね、ええ。」
山本「あ、そうなんですか。僕、彼の放送見たことないんで。」
市川「冷たい! 冷たいよ、俺はこんなにやまけんのことを……」
山本「ちなみに俺、ほかの人のも見たことない。ライザ(石村信太朗さん)のとかも。」
市川「え、ライザのも?」
山本「うん。あ、でもはまさん(金川俊哉さん)のはたまに見る。」
市川「なんで!?ふざけやがって。はまさんの見るなら俺のも見ろよ!俺のほうがおもしろいしためになるだろ!!!!!(笑)」

GP25周年記念に寄せて

――マジック25周年の歴史の中で、山本さんの一番は?
山本「10年以上やってますけどね……。でもまぁ、Team Cygamesに入ったことですかね。

――こ、これは…締めに使いたいやつじゃないですか…!
市川「いやー、さすがにこの男!」
八十岡「おいおい、晴れる屋はどうしたー?」
市川「いや、あなたたち2人とも晴れる屋から来たでしょ(笑)。」
山本「僕は晴れる屋さんから来て条件とかも全然違って、マジック界隈以外の人からも見る目が違ってきて。晴れる屋は内部の人が内部の人をスポンサードするって形だけどCygamesさんはマジック以外の業種、外部からのスポンサーなので、僕の十何年の歴史の中では一番の思い出かなって。」

――聞いてます木村さん? 涙流れるところですよ…!
山本「ほんと、これは盛ってるとかじゃ全然なくて……。」
木村「やってよかった。このTeam Cygamesをやってよかった!」

25

ちなみに木村さんは7勝2敗で2日目に進出。初日終了後はチームメンバーにドラフトのコツを学んでいました。写真は1日目には諸藤拓馬さんと対戦した時のもの。

KMR_deck

木村さんの7-2デッキはこちらです。

 

 

 

●グランプリ・ミネアポリス2018

次の週、市川さん以外のTeam Cygamesメンバーにの行弘さんと原根さんも加わり、一緒にアメリカのミネアポリスへと向かいました。
8月3日からプロツアーが行なわれるミネアポリスでは、その1週間前にグランプリが開催されるので、それに出つつ現地でプロツアー前合宿をして直前まで練習するという流れです。
グランプリ・千葉と同じフォーマットでのグランプリ・ミネアポリスでは、山本さんと行弘さんが見事トップ8入り。それぞれ準々決勝で敗れてしまったものの、調子を上げてきている感じがうかがえます!

チームメンバーの戦績

名前 戦績 最終順位
山本賢太郎 13勝2敗 8位
八十岡翔太 10勝5敗 103位
覚前輝也 10勝5敗 123位
渡辺雄也 4勝3敗 539位(初日落ち)

というわけで、あっという間に25周年記念プロツアーがやってきます。
チームシリーズでは現在、熾烈な2位争いが行なわれているので、現在4位の〈MUSASHI〉は昨年に続いてのチームシリーズ決勝進出をねらいます!
ぜひ応援よろしくお願いします!

  • Top