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グランプリ・名古屋2018レポート 後編:山本賢太郎

チーム写真_山本1

ご存知の通り、山本さんが今回所属するのは武蔵の盟友・行弘賢さんに佐藤レイさん(BIG MAGIC所属プロ)という、優勝候補筆頭チーム。期待の高いチームほどあっさり負けることも多いのがマジックというゲームの厳しさですが、圧巻のシールドデッキ構築術とチーム戦ならではの“いじわる?”ドラフトテクニックを発揮して、見事優勝!
主に山本さんのインタビューで2日間の道のりを振り返ります。

 

 

 

1日目戦績(7勝1敗

ラウンド チーム(7-1) 行弘(4-4) 佐藤(7-0-1) 山本(3-3-2)
1
2 ×
3
4 ×
5 ×
6 ×
7 ×
8 × × ×

 

day1_行弘
A:行弘さんのデッキ(ゴルガリ+白)

day1_佐藤
B:佐藤さんのデッキ(イゼット)

day1_山本
C:山本さんのデッキ(ディミーア)

チーム結成と役割分担

――どうしてこのメンバーになったんですか?
山本「僕と行弘くんと宮田くん(北原寛章さん)とで4回くらい組んでたんですけど、このあいだのグランプリ静岡・2017秋のときに、宮田くんが『俺なんかがここいてええんかな?』って聞いてきたのがきっかけで、宮田くんがリミテッドの実績があるのはわかってるし、僕も行弘くんも宮田くんと組みたいと思っててチーム組んでいたんですけど、宮田自身がプレッシャーというか対等じゃないと思ってるみたいで、それに近いニュアンスのことを言われたんで、じゃあ1回袂を分けようかってなって宮田が脱退しました。(笑)じゃあと1人を探そうってなって、その時さとれい(佐藤さん)がゴールドレベルになってマジック頑張ってる勢になってて、僕たち2人とも昔から仲良かったんで。あと(佐藤)レイくんってもともと固定チームに特に属していないイメージだったんで、『あいつ空いてそうだから声かけてみる?』って声かけたらちょうど空いてて。声かけたのは静岡終わった直後なんで、4~5月には決まってましたね。」

――チーム内の役割は?
山本「宮田、行弘、俺の時代から変わらずです。基本的なデッキデザインは行弘くんが一任してて、残りの2人はバランス調整というか、22~23枚目の微調整部分を担当するイメージでした。」

――以前チームリミテッドに関して取材した際に、行弘さんは3つのデッキをバランスよく作っていると言っていましたが、今回も変わらず?
山本「そうですね、やっぱりチームシールドのセオリーは2強1弱じゃなくて中の上デッキを3つ作るみたいなのがいいとされているので、今回もセオリーの1つとして続いてますね。まぁ、プール的にどうしても2強1弱にせざるをえないこともあるんですけど。」

――行弘さんがデッキを作ってるときって何してるんですか?
山本「2人はボーっと見てたり(笑)、カード整理してたりとか(笑)。作りながらちょいちょい聞いてくるんで、それに答えてるとかですね。」

練習からのボロス忌避

――3人で準備はしましたか?
山本「Cygamesの合宿で朝9時から夜8時くらいまで、丸一日やりました。それとグランプリ前日の金曜日にサイドイベントでチームシールドがあったので、それに1回出ました。3回戦固定のイベントだったんですけど1-2しましたよ(笑)
その時、もともとボロスって弱いよねって話をしてて、それでそのサイドイベントのときにけっこう強そうなボロスができたんですよ。なんで、このボロスでどのくらいできるか実験的に試してみたんですけど、使ったレイが0-3して、『やっぱりボロスはぱっと見けっこう強くてもダメだね、やめよう』って話になって……なので、金曜出ておいてよかったなって。
まぁ2日目はボロスで組んでいるんですけど、そのボロスも《正義の模範、オレリア/Aurelia, Exemplar of Justice(GRN)》とか《軍勢の切先、タージク/Tajic, Legion’s Edge(GRN)》とか、強いマルチカラーが出たから渋々組んで、それでも3勝2敗とかでそんなに勝てなかったんで……。」

正義の模範、オレリア 軍勢の切先、タージク

――ボロスはどんなにいいカードが出てもたかが知れてるんですね。
山本「ボロスはサイド後が弱すぎるんですよね……軽量クリーチャーで攻めていくので、相手からしたらサイドボードしやすい。例えばセレズニアの、出たときに4点ライフゲインする《ケンタウルスの仲裁者/Centaur Peacemaker(GRN)》……このカードって、ボロス以外には弱いんです。でもボロスって2マナ2/2とかで殴るデッキなんで、それに対しては3マナ3/3ってサイズも優秀だし4点ライフを得るっていうのがすごい強いんです。あまりメインには入らないけど、サイド後ボロスに対して強いカードがこの環境にはけっこうあって……このカードが顕著な例なんですけど。」
――確かに、ボロスはライフゲインされると削りきれなくなるから、つらいですね。
山本「ボロスはサイド後に軸を変えられないというか……速攻ビートからミッドレンジに変更するとかがしづらくて、愚直に攻め続けるしかないという弱点を抱えてますね。」

デッキ作成の流れ・1日目

――1日目のデッキがどうやってできたかを教えてください。
山本「1日目はプールを見たらレアがすごい強くて、12枚あったうちの11枚使えたんです。この環境のレアってギルドランドとか、あんまり使用に耐えないレアが多いんですけど。」

やまけんチーム一日目のレア11枚
↑デッキに入ったレア11枚

 

山本「今の環境でベストな組み方はディミーアとイゼットと、残りの緑白黒で組めたら一番だねって話をしてたら、まさにその組み合わせができるプールでした。3人とも普通にデッキ強くて、今まで5、6回練習した中でダントツに強いプールでしたし、1人あたり平均3、4枚レアが入ってました。」

――誰がどの色の担当か聞いたときに、「イメージカラー通りですよ」的なことを佐藤さんが言ってましたが、どうなんですか?
山本「Cygemes合宿のときから、気づいたら自然と俺が青黒、さとれい赤系、けんちゃん(行弘さん)は緑でしたね……確かに不思議っすね。でも俺とけんちゃんが組んでたときって、どの環境でも俺が青系担当してたんで、その延長線上でなったんだと思います。青黒って色も好きだし、諜報っていうキーワードもすごい強いんで、単純に好きですね。」

――諜報ってプレイが難しそうだから、うまい人がやるイメージです。
山本「逆に言うと、ほかの色よりあまり戦闘しないんですね。ライブラリーを操作することが多いですが戦闘はしない。そこが向き不向きがあるかなって。行弘くんは戦闘がうまいんで緑とか戦闘が多いほうが向いてるし、俺は戦闘よりはこういうライブラリーを操作して呪文をプレイするとかのほうが得意なんで。」

チーム写真_山本2
↑3ラウンド目、覚前さんのチームとフィーチャーマッチで対決し、勝利

 

 

2日目戦績(4勝1敗1分け、最終順位 優勝

ラウンド チーム(4-1-1) 行弘(3-2-1) 佐藤(3-2-1) 山本(3-2-1)
9 ×
10 ×
11 × × ×
12 ×
13 ×
14 ID
準決勝
決勝

 

day2_行弘
A:行弘さんのデッキ(セレズニア+黒)

day2_佐藤
B:佐藤さんのデッキ(ボロス)

day2_山本
C:山本さんのデッキ(ディミーア)

デッキ作成の流れ・2日目

※この部分のみ、TOP4が決まったときに3人に取材を行なっています

 

――2日目の3つのデッキをどうやって組みましたか? 特に3rdデッキをどうやってプロは組むのかを聞きたいです。
佐藤「まず1個目は僕が使ったボロスがすぐ決まりました。ボロス強くないと思ってたんで、僕ら的にはあまり好ましいことではなかったんですけど。でもボロスのレア《軍勢の切先、タージク/Tajic, Legion’s Edge(GRN)》や《正義の模範、オレリア/Aurelia, Exemplar of Justice(GRN)》があって決まりました。」
山本「今日は強いレア2枚にアンコモンも《ボロスの挑戦者/Boros Challenger(GRN)》《軍勢のギルド魔道士/Legion Guildmage(GRN)》《空騎士の軍団兵/Skyknight Legionnaire(GRN)》《裁きの一撃/Justice Strike(GRN)》なんかが出て、これはいかにボロスが弱いと言えど組むしかないだろうという話で、わりとすぐ決まりました。で、基本的にレイくんが赤系、俺が青黒系をやるってのは戦前から決まってたんで、2個目はディミーアに。」
佐藤「得意なデッキタイプをお互い回そうと。」
山本「青黒並べてみたらまぁそんなによくもなかったんですけど。5マナ3/4の諜報する飛行(《霧から見張るもの/Watcher in the Mist(GRN)》)が2枚出てたんで、ディミーアは組もうと。残りのサードデッキが難産でした。」
行弘「最初、3つ目はイゼットにしようとしたんですよ。ボロスは見た目相当よさそうだから確定、ディミーアはまぁまぁギリギリ基準に達してる。だけどイゼットは明らかに見た目よくなかったんです。でも僕らとしてこの組み合わせがかなりやりたかったんで、すげーいろいろパターン試した結果、やっぱりイゼットは無理そうだなって。」

――赤がかぶりますもんね。
行弘「緑を使ってないんで、この3つ作るにはカード足りてなくて……じゃあイゼットかディミーアを解体しようってなったときに、イゼットのほうがどちらかといえば見た目が悪かったんで。すごい強い《つぶやく神秘家/Murmuring Mystic(GRN)》っていうカードがあるんですけど、イゼットとディミーアどっちでも使えて、これがイゼットに入ってたんでディミーアに移せばデッキになるかなって。」
佐藤「この環境は青が強いんで、普段だったらディミーアとイゼットって共存することが多いんですけど、でもプールのカードは青黒・青赤が基準よりも弱かったんで、1つにまとめて青は全部やまけんが使うディミーアに入れようってなりました。」
行弘「そしたらギリギリ戦えそうなディミーアができて。あとはいつも通り、僕が残ったカード緑白黒で残飯処理して、3rdデッキを組んでおしまいって感じです。
正直、僕はレイくんがほとんど全部勝ってくれて僕かやまけんのどっちかが勝てば勝ち続けられるかなって思ってたんですけど、3人同じくらいの戦績になって運よくTOP4まで行けたって感じです。残飯が意外と火を吹いたって感じですね(笑)。」
佐藤「工夫した点としては、ボロスでも使える強いカード《溶岩コイル/Lava Coil(GRN)》《敬慕されるロクソドン/Venerated Loxodon(GRN)》をあえて、ボロスのデッキパワーを落として、ほかの2人に回したことです。特に《溶岩コイル》をディミーアに入れたのはすごくよかった。ほかのチームにはほぼできないでしょうね。」

溶岩コイル 敬慕されるロクソドン

――ディミーアに入れるんですか!
行弘「ディミーアは除去がちょっと足りなかったんですよ。これ1枚足せばギリギリ足りるかなって感じで。青赤の土地(ギルド門や《蒸気孔/Steam Vents(GRN)》)が出てたんで、《山》を入れずにちょっとタップインは増えちゃうけどフリータッチみたいな。」
――発想の勝利ですね。誰のアイディアなんですか?
佐藤「行弘です! さすがプロだと思いましたよ俺は。」

チーム写真_山本3

決勝ラウンド

※ここからは再び山本さんのインタビューとなります

 

ドラフトの詳細については、山本さんのピックを取り上げたカバレージ放送のアーカイブをご覧ください。
――今回のドラフトの戦術を教えてください。たしか前は1人1色決めておくというものでしたよね?
山本「前は1人1色でしたが、今回は違いました。TOP4が決まったときに軽く作戦会議をしたんですけど……6人ドラフトってカットというか、いかに相手のチームのデッキを弱らせるかみたいなのがすごい重要なゲームなんです。
なので僕たちの方針としては……例えばの話なんですけど、初手に《夜帷の捕食者/Nightveil Predator(GRN)》と《霧から見張るもの/Watcher in the Mist(GRN)》があって、そのパックからピックするとしたらこの2枚しかないなという場合、あえてちょっと点数の低い《霧から見張るもの》のほうをピックして下家に《夜帷の捕食者》を流す。さらに自分は青黒をやって、下家に色かぶせをするっていう戦略です。」

夜帷の捕食者 霧から見張るもの

――流すけど、自分がその色をやるってことですか?
山本「下家は《夜帷の捕食者》をピックして青黒をやるけど、そうすると相手はその後青黒のいいカードがとれないので。」

――いじわる!
山本「そう(笑)、あえて強いカードを流して、その色をやるっていう。このゲーム、いじわるなほうが強いんで(笑)」

――この作戦は誰が考えたんですか?
山本「まぁこれは、行弘くんが考えました(笑)」

――今回から始めた作戦ですか?
山本「そうすね。今回マルチカラーも多いし、ギルドが5つしかなくてそういう色かぶせがしやすい環境なんで、狙っていきました。
あと僕たちの順位が4位だったんで、全部後手スタートってのが決まってたんですよ(チーム戦の決勝ラウンドでは順位が高いほうが先手か後手を選べる)。だからボロスみたいな先手ビートは組まないように、後手でも戦えるどっしり系のデッキを組もうとも話してましたね。」

――なるほど、プロっぽいですね。その作戦は功を奏しましたか?
山本「そうすね。相手のデッキ弱くてこっちのデッキ強くて無敵、みたいな状況が準決勝も決勝もあって、正直ドラフトのピック終わった時点で『まぁ、勝つよね』みたいな話はしてました。案の定1マッチも落とさずに勝てました。特に行弘くんのデッキが準決勝も決勝もめちゃめちゃ強くて、ここは勝つから、さとれいか俺がどっちか勝てば勝てるだろうみたいな感じでした。」

チーム山本_構築1

――最後に、優勝したときの気持ちを。
山本「なんか、去年の世界選手権のチームシリーズの状況とすごい似てるなって思ってて。行弘くん市川くんと僕でGENESISと決勝やってて、その時も行弘くんがすでに勝ってて市川1-1、俺1-1みたいな状況で、『ビデオ録るから』って俺のところだけ待たされてたんですよ(笑)。んで市川が勝ってそのまま優勝わーい! みたいな感じで……今回もまったく状況が一緒で、またやり損ねたなみたいな(笑)。まぁどっちも有利なマッチではあったんですけど、どっちもおあずけ喰らって優勝決まったんで、似てるなーって(笑)」

――確かに言われてみれば同じ光景でしたね(笑)。山本さんははそっと隣の卓にいる感じ。
山本「そう、デジャブ(笑)」

――じゃあ次こそは! やっぱり真ん中の席を映したいんですかね?
山本「映す順番は、単純に試合が早く始まったほうとかじゃないんですかね? どうなんだろ。俺が担当するデッキってちょっと遅めな展開のものなんですよ、コントロール寄りが多いんで。前回のチームシリーズも今回も遅いデッキだったんで、後に回されるのもしょうがないかなと思います。」

――山本さんが真ん中に座ってみたら映るかも?
山本「俺真ん中すごい嫌いなんで、座らないっすね(笑)。まわりが気になっちゃうし、たいしたこと言えないんで。だからいつもチーム戦は端でお願いしてます(笑)」

――今回のチーム戦、山本さん楽しそうだなって見てて思いましたよ!
山本「ほんとすか? チームメイトうるさいな、よく元気あるなって思ってました(笑)」

――佐藤さんは山本さんに意見を求めることが多かったような印象でした。
山本「確かにさとれいは聞いてくるかも。今回も決勝の最後の最後だけ意見協議に参加してました。99%入ってないけど、1枚だけ入りうる可能性のあるカード《轟音のクラリオン/Deafening Clarion(GRN)》を三原さんがピックしてて、3本目の先手のビートダウンデッキでサイドインしてるかどうか。追加のクリーチャーを出せば次のターンに絶対勝てるけど、万一《轟音のクラリオン》を持ってたらこっちの場がまっさらになっちゃう。それをケアるかケアらないかの議論くらいすね、僕が参加したのは(笑)」

――国内GPにおいて個人戦とチーム戦で両方優勝しましたが、どっちがよりうれしかったですか?
山本「うーん……個人かな!(笑)」

――らしい!
山本「まぁ俺、最後は戦ってないですからね(笑)。」

山本さん、語る

――ちょっと余談にはなりますが、大会に出て好きになったカードや嫌いになったカードはありますか?
山本「好きになったのは《霧から見張るもの/Watcher in the Mist(GRN)》ですね。環境のトップコモンって言われてるんですけど。僕、ドラフト合宿のときはなかなか青をやれなかったんでこのカードを使うことはあんまりなかったんですけど、環境の総括をしているときにこの《霧から見張るもの》がダントツのトップコモンだって話してて……でも使ってなかったから、そこまで実感はなかったんです。でもこの2日間使うことが多くて、本当に強いなって思いました。ディミーア組むならこのカードないとってくらい重要ですね。」

――嫌いになったカードは?
山本「ボロス全般ですね。隣でさとれいの試合見てたりしたんですけど、やっぱりキツそうで……僕も何回かボロスに当たったんですけど、なんか戦ってて楽だったし……ボロスってカラーの評価が下がりましたね。」

――最後に、この後はプロツアーに向けてスタンダードの練習に移っていくと思いますが、『ラヴニカのギルド』の構築での注目カードはありますか?
山本「赤のレアなんですけど……《遁走する蒸気族/Runaway Steam-Kin(GRN)》ですね。赤の呪文をプレイすると赤のカウンターが1個乗って……え、つよっ(※能力を解説しながら改めて強さを実感する山本さん)。MOとかでこのカードを使った赤単も結果出してて、僕赤単好きなんで使いたいなって思ってて、このカードを推してる感じです。」
(編注:先週末のグランプリ・リール2018ではこれが4枚入った赤単が優勝しています。)

遁走する蒸気族

決勝戦は相手チームが古い知り合いということもあってワイワイにぎやかに進み、決着が決まったあとも行弘さんと佐藤さんが「いやー、海外のGPでは優勝したことあるけど、国内GPは格別だな!」と大喜び(一方の山本さんは「俺は国内優勝あるから」と余裕の表情?)で、終始笑顔があふれてとても印象的なグランプリとなりました。

 

 

いよいよプロツアー『ラヴニカのギルド』も翌週末に迫っています。またレポートをお楽しみに!

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