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グランプリ・静岡2017春レポート

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3月18日~19日に2,719人のプレイヤーが参加して行なわれたグランプリ・静岡2017春は、スタンダード二強デッキの片割れであるマルドゥ機体が上位を席巻し、そのまま優勝を勝ち取りました。
この大会を振り返り、Team Cygamesメンバーそれぞれのデッキ選択や環境の面白さについて語ってもらいました。また、グランプリで注意すべき攻撃宣言についての話題も出ましたが、多くの方にとって参考になりそうな内容ですので、ぜひ読んでみていただければと思います。

 

 

 

●準備について

――最初に、グランプリ直前の禁止改定について、どのように予想していたかをお聞きしたいです。
山本「僕は特に出ないだろうなと思ってました。ウィザーズも商売ですし(笑)」
市川「僕も、GPの結果がすぐに反映されるなら禁止はあり得ると思ってたんですけど、禁止改定の説明文を読む限りそうじゃなさそうだったので。」
渡辺「僕は前の週、グランプリ・ニュージャージー2017に行ってたんですけど、右を見ても左を見ても機体と4Cサヒーリの海で、これはさすがに健全な環境ではないなと。禁止が出るとしたら《屑鉄場のたかり屋/Scrapheap Scrounger(KLD)》と《守護フェリダー/Felidar Guardian(AER)》かなと思ってたんですけど、ゲームの寿命とかを考えたら出してほしくはなかったので、出なくてよかったと思います。」
覚前「僕は出ない読みでしたけど、もしかしたら《密輸人の回転翼機/Smuggler’s Copter(KLD)》が解禁されるかもと思ってて、そしたらちょっと難しくなるなと。」

――では、皆さんは禁止改定をあまり気にせず、前もって準備を進めていた感じですか?
覚前「まあ出たら出たで動くし、出なければそのままのつもりだったので、特に気にせずMOにこもってました。」
市川「前週のGPの、機体と4Cサヒーリしかいない結果を見て、2日間くらいやる気なくなりましたけどね。これで禁止が出たらマジ練習し損だなと思って。だから、このタイミングでの禁止改定はモチベーションが下がってよくない。」
渡辺「やっぱり、禁止改定のタイミングが頻繁にあるのは怖いですね。不安に悶々とする期間が増えるので。」

――それでは、皆さんのデッキ選択理由について教えてください。ティムールタワー(《電招の塔/Dynavolt Tower(KLD)》)デッキを選んだ山本さんからお願いします。
山本「とりあえず4Cサヒーリと機体の2つが群を抜いて強いけど、その2デッキの同系戦はサイドボードを含めても差が出ないと思ったので、違うデッキで差をつけたくて。ティムールタワーは4Cサヒーリにすごく有利で、機体にはメイン不利だけどサイド込みでちょい有利という体感だったので、じゃあこれで行こうかなと。」

――練習はどれくらいされたんですか?
山本「初めは1週間くらい4Cサヒーリを回してました。前週、MOCS(マジック・オンラインの大会)に4Cサヒーリで出たら1勝3敗とかだったので、デッキ変えようと思って、1回リーグ出たくらいのティムールタワーを改良して、ニュージャージーの裏でBMIQ(BIG MAGIC Invitationalの予選大会)に出ました。そしたら7勝1敗で感触よかったので、そのあと市川とかと相談して若干変えたくらいでグランプリに持ち込みました。」

――もとになったデッキレシピは?
山本「八十岡(翔太)さんが開発して広めたものに、周りの意見を取り入れた感じです。《ならず者の精製屋/Rogue Refiner(AER)》がみんな弱いって言ってたので抜いて、《逆毛ハイドラ/Bristling Hydra(KLD)》が強いって聞いてたんで入れました。」

――最初からメインに《逆毛ハイドラ/Bristling Hydra(KLD)》が入っていたんですか?
山本「それは最初からです。BMIQのときから静岡までの間に変わったのはメインのスペル1、2枚とサイド少しくらいですね。」

――市川さんのデッキと違う点は?
山本「サイド含めて5枚くらいの微差です。たとえば僕はメインに《自然廃退/Natural Obsolescence(AER)》が入ってないんですけど、メインで機体を見るか4Cサヒーリを見るかの違いですね。僕はメインではけっこうきつい機体は切る寄りで、逆に4Cサヒーリをなるべく取りこぼさないようにというカード選択になっています。」

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山本賢太郎『ティムールタワー』



4《森》
2《島》
1《山》
1《燃えがらの林間地》
2《伐採地の滝》
4《霊気拠点》
4《植物の聖域》
4《尖塔断の運河》


土地(22)


3《逆毛ハイドラ》
3《奔流の機械巨人》


クリーチャー(6)


3《ショック》
4《霊気との調和》
2《否認》
4《予期》
4《蓄霊稲妻》
2《不許可》
3《光輝の炎》
2《虚空の粉砕》
4《電招の塔》
4《天才の片鱗》


呪文(32)


1《グレムリン解放》
3《自然廃退》
2《否認》
3《守られた霊気泥棒》
4《不屈の追跡者》
2《慮外な押収》


サイドボード(15)


 

――市川さんも4Cサヒーリからティムールタワーに切り替えたそうですね。
市川「僕も山本さんとまったく同じ思考過程ですね。BMIQに僕は4Cサヒーリで出たんですけど、同系に差がつけられない。下手クソに負けるのはシャクなんで、雑魚に負けないデッキにしようと(笑)。でも、安定性がない機体は使いたくない。機体を使った誰かは勝つかもしれないけど、機体を使って俺が勝つビジョンは見えないなと。そんな時に、山本さんからティムールタワーのリストを教わりました。4人くらいで調整して……別にリストを合わせるとかではなくて、情報共有したくらいですけど。完成形は使う人の好みでちょっとずつ枚数がずれたくらいですね。」

――このリストは、《ならず者の精製屋/Rogue Refiner(AER)》が入ってないところが気に入ったんですか?
市川「あいつはマジで弱いです。カウンターを構えたいから、リスクが高いわりにあまりバリューがない。これが抜けたことでデッキとして最適化された気がします。」

03

 


市川ユウキ『ティムールタワー』



4《森》
2《島》
1《山》
1《燃えがらの林間地》
2《伐採地の滝》
4《霊気拠点》
4《植物の聖域》
4《尖塔断の運河》


土地(22)


3《逆毛ハイドラ》
3《奔流の機械巨人》


クリーチャー(6)


2《ショック》
4《霊気との調和》
1《焼夷流》
1《自然廃退》
2《否認》
4《予期》
4《蓄霊稲妻》
1《不許可》
2《光輝の炎》
3《虚空の粉砕》
4《電招の塔》
4《天才の片鱗》


呪文(32)


2《竜使いののけ者》
2《自然廃退》
2《否認》
3《守られた霊気泥棒》
3《不屈の追跡者》
2《慮外な押収》
1《奔流の機械巨人》


サイドボード(15)


 

――渡辺さんはいかがですか?
渡辺「僕は黒緑、機体、サヒーリ、タワーと環境のデッキをだいたい回したんですが、黒緑はデッキパワーで消えて、機体は強いけど同系で差がつくと思わなかったんでやめて、タワーも悪くないけどネタバレしてるからサイド後にきついゲームが多いと感じて、自分ではうまい構成を見つけられなかったのでやめて。サヒーリが一番自分に合ってるなと思いました。確かにサヒーリ同系は全然差がつかないんですけど、それなら機体には全部勝とうと思って模索しました。グランプリに出たら5、6回は機体に当たるだろうから、最低でも5勝1敗くらいしようというコンセプトでした。
機体が先手4ターン目に出す《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》に対して後手4ターン目に返せる手段を重視して、《チャンドラの誓い/Oath of Chandra(OGW)》と《反逆の先導者、チャンドラ/Chandra, Torch of Defiance(KLD)》を4枚ずつ入れるという構築案をせばちゃん(市川さん)が出してくれて、そうしたらすごい感触よかった。MOのリーグやってて、機体には15勝2敗とかだったんです。」
市川「それはすごい。」
渡辺「先手だったらだいたい勝てるんですけど、後手の時に勝つためのプランが組めたので、4Cサヒーリを持ってグランプリ・ニュージャージーに行きました。そしたら、機体には全勝したんですけど黒緑をめちゃくちゃ踏んで全敗しました(笑)。機体にすごく強くした分ほかのデッキに弱くなってたので、Tier2以降のデッキに強い《先駆ける者、ナヒリ/Nahiri, the Harbinger(SOI)》や《不屈の追跡者/Tireless Tracker(SOI)》をサイドに追加したり、狭い範囲しか見てなかったカードを少し広く変えました。」

――なるほど。練習はどれくらいですか?
渡辺「この環境はデッキの種類が少ないから、デッキ選択だけじゃなくてどれだけデッキに精通しているかもすごく大事だと思っているんです。使い慣れたデッキで出たかったので、2週間前くらいにはサヒーリ1本に絞って練習してました。

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渡辺雄也『4Cサヒーリ』



5《森》
1《島》
1《山》
1《平地》
4《霊気拠点》
4《植物の聖域》
1《燃えがらの林間地》
1《獲物道》
1《伐採地の滝》
2《尖塔断の運河》


土地(21)


4《導路の召使い》
4《つむじ風の巨匠》
4《ならず者の精製屋》
4《守護フェリダー》


クリーチャー(16)


4《霊気との調和》
4《ニッサの誓い》
4《蓄霊稲妻》
3《チャンドラの誓い》
4《サヒーリ・ライ》
4《反逆の先導者、チャンドラ》


呪文(23)


2《否認》
1《チャンドラの誓い》
1《自然廃退》
3《不屈の追跡者》
3《逆毛ハイドラ》
1《先駆ける者、ナヒリ》
2《領事の旗艦、スカイソブリン》
2《グレムリン解放》


サイドボード(15)


 

――覚前さんは、使い慣れているという点から機体を選んだんですか?
覚前「はい。静岡の前週にオーウェン(アメリカの殿堂プレイヤーOwen Turtenwald)が機体のリスト(下画像)をアップしたじゃないですか。その時の僕が使ってたリストと見比べたら、メインのスペルは3枚しか違わなかったんです。」

owen

覚前「練習としては、MOのリーグで10回くらい全部4勝1敗とかしてて、負けはだいたい事故。同じころ神決定戦って大会に出て6勝3敗だったんですけど、それも負けはおおむねマナスクリュー(土地が足りない事故)なんですけど、オーウェンのリストは土地が1枚多くて、参考にしました。」

――機体には《歩行バリスタ/Walking Ballista(AER)》型と《経験豊富な操縦者/Veteran Motorist(KLD)》型がありますが、前者のオーウェンのリストのほうが事故らないという話ですよね。
覚前「《経験豊富な操縦者/Veteran Motorist(KLD)》は弱いと思ってるんで、使ったことないです。まあ2ターン目に出たら強いですけど、出ないことも多いし出ても勝ちに直結しないんで。《歩行バリスタ/Walking Ballista(AER)》じゃないと《産業の塔/Spire of Industry(AER)》も使いにくいし。」
渡辺「2ターン目に《経験豊富な操縦者/Veteran Motorist(KLD)》のために赤白出すマナベースだと、デッキが回らないっていうのもあると思います。」
市川「オーウェンのリストはほんとにマナベース的に優れていて、白ベースのカードしか入ってなくて白単タッチ黒赤みたいになってるから、事故りにくい。」

――覚前さんはそれまでの調整でそういうところまでほぼたどりついていたのに、オーウェンのリストが出たことでみんながそれを知ってしまった感じですよね。今回優勝した方もオーウェンのリストを使っていましたし。
覚前「そうなんですよ! 最終的にMOリーグで2回に1回は5-0できるくらいになってたんで、よしこれでいこうと思ってたんですけど、オーウェンのリストが出て、見たら『一緒じゃん!』って。実質、僕がオーウェンと言っても過言ではないかと(笑)。」
(一同笑い)
市川「ニュージャージーと静岡の開催日程が逆だったらねー。『これがスタンダードのベストデッキだ!』って、てるやがリストをアップしてたかもしれない。それを参考にしてオーウェンが『なるほどなるほど?』って言ってる世界線もあったかもしれない(笑)。」
覚前「それね。」
渡辺「今回勝ってる機体はほんとにオーウェンのリストが多くて、影響力を感じた。」
市川「国内グランプリって、今まで調整してきたから1週間前にどんな情報が出てもデッキは変えないって人が多いイメージだったんですよ。だから、オーウェンのリストが出て、『これで出よう』ってなるフットワークの軽さって、少し前まではあんまりなかったと思うんですよね。もちろんオーウェンだからってのもあるけど、SNSの影響力も、みんなの意識も変わってきてるんだなって思いました。」

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覚前輝也『マルドゥ機体』



3《平地》
2《山》
1《沼》
3《霊気拠点》
4《秘密の中庭》
4《感動的な眺望所》
2《乱脈な気孔》
1《鋭い突端》
4《産業の塔》
1《燻る湿地》


土地(25)


4《スレイベンの検査官》
4《模範的な造り手》
4《屑鉄場のたかり屋》
2《歩行バリスタ》
2《異端聖戦士、サリア》
3《大天使アヴァシン》


クリーチャー(19)


4《致命的な一押し》
4《キランの真意号》
4《無許可の分解》
4《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》


呪文(16)


2《反逆の先導者、チャンドラ》
2《チャンドラの誓い》
2《リリアナの誓い》
3《グレムリン解放》
1《苦渋の破棄》
2《先駆ける者、ナヒリ》
2《停滞の罠》
1《ショック》


サイドボード(15)


 

 

 

 

●本選について

 

山本さんの戦績 10勝4敗1分(最終順位:189位)

ラウンド 対戦相手のデッキ 勝敗
1-3 bye(不戦勝)
4 黒緑 勝ち(2-1)
5 4Cサヒーリ 勝ち(2-0)
6 マルドゥバリスタ 勝ち(2-1)
7 ティムールタワー(棚橋雅康) 負け(1-2)
8 マルドゥバリスタ 引き分け(1-1)
9 ティムールビート 勝ち(2-0)
10 4Cサヒーリ 負け(1-2)
11 黒緑 勝ち(2-1)
12 4Cサヒーリ 勝ち(2-1)
13 ティムールビート 勝ち(2-0)
14 4Cサヒーリ霊気池 負け(0-2)
15 4Cサヒーリ 負け(0-2)

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山本「4Cサヒーリと機体しか当たらないつもりで行ったんですけど、機体は2回だけで、意外といろんなデッキタイプと当たったなと。途中で引き分けラインに入ったから、そういうデッキが多かったのかもしれないですけど。上位卓のほうは機体ばかりみたいでしたけど、全体の分布は意外とばらけてて、いろいろ当たれて楽しかったなという印象でした。」

――2回当たっているティムールビートというのはどういうデッキですか?
山本「《逆毛ハイドラ/Bristling Hydra(KLD)》や《放浪する森林/Woodland Wanderer(BFZ)》、《通電の喧嘩屋/Voltaic Brawler(KLD)》とかを、カウンターや呪禁で守ったりする、クロックパーミみたいな……。」

――ああ、赤緑エネルギーの発展形みたいな感じですかね。今回使ったデッキに関して、反省点などはありますか?
山本「裏でやってたグランプリ・ポルトアレグレ2017で優勝したティムールタワーと、あと今回トップ4に入った棚橋(雅康)さんのリストに共通してるのが、メインのクリーチャーが《奔流の機械巨人/Torrential Gearhulk(KLD)》4枚だけで、サイドに《逆毛ハイドラ/Bristling Hydra(KLD)》や《不屈の追跡者/Tireless Tracker(SOI)》が入ってることなんですけど、そっちのほうがよかったかなとはあとから思いましたね。《逆毛ハイドラ/Bristling Hydra(KLD)》は効く相手と効かない相手がいてちょっと不安定な部分だったから、メインはガチコントロールに特化するのもありだったかなと。メインの《逆毛ハイドラ/Bristling Hydra(KLD)》がけっこう気に入ってたので、それを試さなかったのはちょっとよくなかったかなと思ってます。」
市川さんの戦績 12勝3敗(最終順位:20位)

ラウンド 対戦相手のデッキ 勝敗
1-3 bye(不戦勝)
4 4Cサヒーリ 勝ち(2-0)
5 マルドゥ機体(Shawn Mcneace) 勝ち(2-0)
6 マルドゥ機体 勝ち(2-0)
7 マルドゥ機体 勝ち(2-0)
8 赤黒エルドラージ(加茂里樹) 勝ち(2-1)
9 赤緑エネルギー(山田一輝) 負け(0-2)
10 赤黒エルドラージ(行弘賢) 勝ち(2-0)
11 ジェスカイサヒーリ 勝ち(2-1)
12 マルドゥ機体 負け(0-2)
13 黒単ゾンビ(松田幸雄) 勝ち(2-0)
14 マルドゥ機体 負け(1-2)
15 4Cサヒーリ(清水直樹) 勝ち(2-0)

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――市川さんは、「俺は4ターン目にギデオンを出されない」と割り切ってプレイすると決めていたそうですね。
市川「はい。先手4ターン目に《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》を出されたら負けるけど、かといってカウンターを構えていてもし出てこなかったら、そこから《電招の塔/Dynavolt Tower(KLD)》を置けずに長いゲームになってやっぱり負ける。だから3ターン目に塔ORカウンターの二択なら、塔を置くと練習で決めてました。そしたら、初日の機体はみんな4ターン目に《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》が出て来なかったんですけど、2日目の機体はさすがに豪の者で、必ず4ターン目に出てきました(笑)。」

――やっぱり2日目に残れる機体は勢いが違うんですね。何か反省点などはありますか?
市川「こんなに機体と赤黒エルドラージに当たるんだったら、メインの《光輝の炎/Radiant Flames(BFZ)》の枠は《コジレックの帰還/Kozilek’s Return(OGW)》のほうがよかったと思いましたね。サイド後は特に、機体にはカウンターを構えながらの展開が多いんで、《光輝の炎/Radiant Flames(BFZ)》をソーサリータイミングでプレイするのはリスクが高いんですよね。4Cサヒーリまで見るなら《つむじ風の巨匠/Whirler Virtuoso(KLD)》をトークンもろとも持っていける《光輝の炎/Radiant Flames(BFZ)》のほうがいいんですけど、サヒーリに当たらなかったので。」

――今回、最後のほうはサヒーリが負け組に回っていましたね。
市川「僕は今回、機体と同じくらいサヒーリがいて同じくらい勝つだろうと思ってたんですけど、機体一強状態で終わったのは予想外でしたね。やはりオーウェンのリストがすべてを変えたかなと。」
渡辺「あと、機体とサヒーリだったら、サヒーリのほうがメタりやすいのもあるし。」

――オーウェンのせいで機体が進化していて、思ったよりサヒーリ用のカードが役に立たなかったという感じですね。何か、印象的な場面などはありましたか?
市川「ジェスカイサヒーリと当たった時ですね。《電招の塔/Dynavolt Tower(KLD)》さえ置けばコンボを止められるんで、本来サヒーリにはすごい有利なんです。でも1ゲーム目で僕は土地3枚で止まって、塔はあるけどエネルギーがたまってない状態。相手は《サヒーリ・ライ/Saheeli Rai(KLD)》がすでに出てて、2マナ浮かせて《守護フェリダー/Felidar Guardian(AER)》を出してきたんですよ。『こんなん絶対《否認/Negate(AER)》構えとるやん!』と思いつつも、相手が『フェリダーをブリンクしてサヒーリを対象に取ります』って言ったんで、『じゃあショック本体』って言ったんですよ。そしたら相手が『サヒーリでいいですか?』って言うから、『おっ通った!』と思って『はい、サヒーリで』って答えたら、そこで《否認/Negate(AER)》撃たれて、即ジャッジ呼びました。」

――ルール的に、「サヒーリでいいですか?」って聞いた時点で、市川さんの《ショック/Shock(AER)》は解決されちゃってるんですよね。
市川「そうそう。この流れだと《否認/Negate(AER)》を撃てるタイミングがないから、奇跡的に《サヒーリ・ライ/Saheeli Rai(KLD)》は落ちたんです。でも、そこまでやってそのあと余裕で負けるっていう(笑)。」
(一同笑い)

――相手が勉強になったというだけでしたね。
市川「14ラウンド目もちょっと似たような話があって。対戦相手に《キランの真意号/Heart of Kiran(AER)》と《模範的な造り手/Toolcraft Exemplar(KLD)》があって、《経験豊富な操縦者/Veteran Motorist(KLD)》を出してから『コンバット』って言ってきたんで、『はい』って答えたら、そのあと『《経験豊富な操縦者/Veteran Motorist(KLD)》で《キランの真意号/Heart of Kiran(AER)》に搭乗してアタック』って言ってきたんで、また即ジャッジ呼びました。」

――それは、「コンバット」と言ったらルール的にはもう攻撃クリーチャー指定に入っているから、搭乗するならその前にやっておかないとダメという話ですよね。
市川「そう、だから最初は『搭乗はできない』って裁定が出たんです。でもヘッドジャッジに一応上告したら、巻き戻りました。」
渡辺「僕もそういうの見たことあるな。白マナを払うかアーティファクトを出すと2/2飛行になるアーティファクトの《きらめく鷹の偶像/Glint Hawk Idol(SOM)》を対戦相手が出してて、相手が『コンバット?』って聞いてきたから『OK』って答えたら、そのあとで相手が起動してきて『いや待て待て』って。ジャッジが来て、『じゃあ今回だけ巻き戻してちゃんとやってね』ってなったんだけど、それを2ターン連続でやって、2回目はさすがにダメだった(笑)。」
市川「そういう人たちって別に悪意はなくて、単に『コンバット』って宣言してることの意味をわかってないんだと思う。」
覚前「たぶんですけど、『コンバット』って言った本人の中ではその瞬間に戦闘開始ステップに入ってるんですよ。だからそこで搭乗もできると思ってる。でも、今のルールでは『戦闘開始ステップを飛ばして攻撃クリーチャー指定ステップに入る宣言』っていうことになってるから、解釈違いが起きて揉める。」
市川「ちなみにこの揉め事はめちゃくちゃ多い。」
渡辺「『コンバット』ってかなりあいまいな表現だから、『戦闘フェイズに入りますが、攻撃クリーチャー指定していいですか?』みたいな丁寧な言い方のほうがいいんじゃないかな。」

――グランプリのような場面だったら、特にきちんとやったほうがいいですよね。
市川「そもそも、ミシュラランドや《きらめく鷹の偶像/Glint Hawk Idol(SOM)》をメインで起動しない理由は別にないじゃないですか。戦闘中に起動したいってのは意味がなくて、気分で言ってるんだと思う。『コンバット』ってみんな言ってるし、なんかかっこいいからって適当に言うと、グランプリで俺みたいなやつに突っ込まれる(笑)。そうならないように、どういう意味があってその宣言をしているかをちゃんと理解するのも、マジックのうまさの一要素かなと思いますね。」

――自分の言ってることの意味を理解しましょうということですね。勉強になりました。
覚前さんの戦績 9勝6敗(最終順位:401位)

ラウンド 対戦相手のデッキ 勝敗
1-2 bye(不戦勝)
3 赤黒ビートダウン 勝ち(2-1)
4 ジェスカイサヒーリ 勝ち(2-0)
5 白黒コントロール 負け(0-2)
6 6か7のどちらかがマルドゥ機体 勝ち(2-1)
7 不明 勝ち(2-1)
8 マルドゥ機体 負け(1-2)
9 ジェスカイサヒーリ 勝ち(2-0)
10 不明 負け(1-2)
11 不明 勝ち(2-0)
12 不明 負け(0-2)
13 マルドゥ機体 負け(0-2)
14 緑黒 勝ち(2-1)
15 マルドゥ機体 負け(1-2)

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覚前「あまり対戦相手のデッキを覚えてなくて……。」
市川「てるや、けっこう覚えてないよね(笑)。」
覚前「もう歳だから!(笑)けっこうやばいから、次はメモろうと思った。」
市川「まあ、ライフメモの上に相手のデッキタイプ書いとくだけだから。」
覚前「機体に全部で4回か5回当たって、1勝3敗か1勝4敗してる。」
渡辺「だいぶやられたね。」
覚前「初日は全部後手だったんだよね。」

――それは厳しいですね。
覚前「とはいえ初日は7勝2敗で、そこまで負けなかったんでまあいいんですけど。」

――すると、2日目に負けたのは?
覚前「反省点として、練習の時に20回くらいMOのリーグに出て、3勝2敗以上でもらえるプライズをもらえなかったことが一度もなくて、だいぶ満足しちゃってた。でも冷静に負けた試合を見直したら、事故なんです。だから、マナベースを見直さないといけなかった。あと、サイドプランも。」

――なるほど。
覚前「僕は、サイド後にアーティファクトを全部抜いて相手の対策カードを無駄にさせて、こっちは《グレムリン解放/Release the Gremlins(AER)》を入れるというプランをほかの人よりちょっと早くできてたから、その分同系に対して有利に戦えてたと思うんですけど、グランプリの段階では全員がそれに気づいてたんで、サイドプランを対応させるべきだった。相手も理解度は同じなら、結局回ったほうの勝ちになることが多いので。」

――確かに。
覚前「そしてアーティファクトを全部抜くと、《産業の塔/Spire of Industry(AER)》が使いにくくなって色事故が増えたりして、マナベース面で負けることが多かったです。サイド後のゲームのほうが数としては多いわけだから、メインのブン回り要素を少し減らしてでも、《霊気拠点/Aether Hub(KLD)》を減らしてミシュラランドを増やしたりすべきでした。オーウェンにならって土地を1枚増やしたから、それで若干余裕が出ただろうと思っちゃったんですけど、実際回してみたら全然そんなことなかった。オーウェンと違って、サイドに《反逆の先導者、チャンドラ/Chandra, Torch of Defiance(KLD)》も入れてたし。」
市川「土地が25枚あっても、機体はタイトなデッキなんだよね。《霊気拠点/Aether Hub(KLD)》も1回限りだし。」
渡辺「サイド後《産業の塔/Spire of Industry(AER)》を使うために、《グレムリン解放/Release the Gremlins(AER)》を撃たれるのを覚悟して割られてもいいようなアーティファクトを使うほうがよかったかも? 難しいけどね。」
渡辺さんの戦績 12勝3敗(最終順位:44位)

ラウンド 対戦相手のデッキ 勝敗
1-3 bye(不戦勝)
4 黒単エルドラージ 勝ち(2-1)
5 マルドゥ機体 負け(1-2)
6 マルドゥ機体 勝ち(2-0)
7 白黒コントロール 勝ち(2-0)
8 バント霊気池 勝ち(2-1)
9 赤黒エルドラージ(加茂里樹) 勝ち(2-1)
10 ティムール霊気池(松原一郎) 負け(0-2)
11 バント霊気池(三宅恭平) 負け(0-2)
12 4Cサヒーリ 勝ち(2-0)
13 マルドゥ機体 勝ち(2-0)
14 マルドゥ機体 勝ち(2-1)
15 黒単エルドラージ 勝ち(2-1)

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――黒単エルドラージに2回当たっているのは珍しいですね。
渡辺「特に2回目のほうは、かなりちゃんと組まれたデッキでした。」

――狙い通り、機体には勝っていますね。
渡辺「3勝1敗ですね。機体は強いデッキなのでちょっと取りこぼすのはしょうがないです。前のグランプリも足せば8勝1敗なのでまあいいかなと。」

――それはさすがですね。
渡辺「ただ事前に、霊気池だけは切ってたんですよ。サイドに3枚目の《否認/Negate(AER)》のスペースがどうしても空けられなくて、ケアできないなって切ったら、3回も当たって、4ターン目に《絶え間ない飢餓、ウラモグ/Ulamog, the Ceaseless Hunger(BFZ)》を2回出されました(笑)。」

――霊気池さえ踏まなければもっと行けそうでしたね。こんなにサヒーリが少ないとは思っていましたか?
渡辺「オーウェンがリストを載せたときに、強そうだから、上のほうにサヒーリが少なくなりそうだなとちょっと思いました。それでオーウェンのタイプの機体にも対応できるプランを考えて、海外の対戦とか見てるとサヒーリはサイド後にコンボを残すんですが、僕は全部抜いちゃうようにしました。そうしたらオーウェンのリストの機体にも負けにくかったので。」

――とすると、反省点はあまりない感じですか?
渡辺「いや、同じデッキタイプの黒田(正城)さんはメインに《新緑の機械巨人/Verdurous Gearhulk(KLD)》を3枚取ってて、それはすごくいい構築だなと思いました。僕もだいたいサイド後はコンボを抜いて《不屈の追跡者/Tireless Tracker(SOI)》や《逆毛ハイドラ/Bristling Hydra(KLD)》で殴るんで、そのプランと噛み合うメインボードのほうがよかったなと。」

――なるほど。
渡辺「あと、そのサイドプランの時、どうしても相手の《大天使アヴァシン/Archangel Avacyn(SOI)》が障害になるので、《屑鉄場のたかり屋/Scrapheap Scrounger(KLD)》をケアした《自然廃退/Natural Obsolescence(AER)》よりも、その枠を《垂直落下/Plummet(BFZ)》にしておいたほうが機体相手により盤石だったなと思いました。」

――何か印象的だった場面はありますか?
渡辺「全然マジックと関係ないですけど、13ラウンド目に当たった人のデッキケースが『けいおん!』だったんで、『好きなんですか?』って話しかけて、そのあと10分くらい2人で思いのたけを語り合いました。『あそこがよかったですよね!』とか。その方はグランプリ2回目とからしくて、緊張してたみたいですけど、楽しくていい時間でした(笑)。」

――それは相手の方にとってもうれしかったでしょうね。周りの人は何事かと思ってそうですけど(笑)。

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髪型が左右対称の瀧村和幸さんと隣の席になった渡辺さん。

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並んで戦う市川さんと山本さん。

 

 

 

●環境について

――現スタンダード環境は、「選べるデッキが少なくてつまらない」という人と、「サイドの読み合いが面白い」という人に分かれる印象がありますが、皆さんはどちらですか?
山本「僕はめっちゃ面白いとも思わないけどつまらないとも思わないので……“so-so(そこそこ)”ですね(笑)。サイド後けっこうがらっと変わるデッキが多いので、それはこの環境の醍醐味、面白さという気はします。」

――山本さんご自身のサイドプランは?
山本「メインは《電招の塔/Dynavolt Tower(KLD)》と、《逆毛ハイドラ/Bristling Hydra(KLD)》で除去を腐らせて勝つプランで、サイド後はアーティファクト破壊を腐らせるために《電招の塔/Dynavolt Tower(KLD)》を全部抜いてビートするプランをだいたい採用してたんですけど、対戦相手の方がサイドボードに悩むことが多かったですね。『塔は抜いてそうな気配だけど、どうだろうかな……』みたいな感じが伝わってきました。」

――「塔が残ってたらどうしよう」という相手の葛藤を見つつ、塔を全部抜いているわけですね(笑)。
市川「僕も、サイド後の試合が面白いなと思ってますね。僕はメインで活躍したカードをサイド後に抜くことが多かったです。機体に《光輝の炎/Radiant Flames(BFZ)》がブッ刺さって勝ったら、サイド後は相手は警戒して並べてこなくなるだろうから、全部抜くとか。メインで《電招の塔/Dynavolt Tower(KLD)》が活躍したら抜くけど、全然活躍しなかったらサイド後に残すとか。サイドは印象によって変わるので、それに合わせてこっちもサイドする感じですね。」

――なるほど、心理を読むのは面白いですね。
市川「今までサイドボードは、メインから何枚か抜いて同じ枚数入れてたんですけど、今回は大会通してずっと、15枚全部入れて15枚抜くやり方にしてました。」

――サイドを何枚入れ替えたかがわかるとサイドプランを読まれてしまうから、入れ替えた枚数がわからないようにするんですね。
市川「そうです。機体が2枚くらいしか入れ替えてなかったら、ビートプランのままだってバレバレだから。」

――渡辺さんはこの環境、どうですか?
渡辺「いい環境だと思います。いわゆる“押し付け”は強いけど、それにまったく返せないわけではない。この環境がつまらないと思ってる人は、まだ人事を尽くしてないですね(笑)。相手のやることがだいたいわかってる環境なので、返し方はあるんですよ。押し付けを全部返すのは確かに難しいし、押し付けが強いデッキがそれだけで勝つことも多いけど、環境を理解して返し方を自分なりにちゃんと模索できれば戦える。だからデッキ構築やプレイの影響がちゃんと出る。たとえばサイドから《グレムリン解放/Release the Gremlins(AER)》を入れて、相手がアーティファクトを抜いて来たら、それを自分のアーティファクトに撃てるようにするとか、そういうちょっとした工夫で勝率をかなり変えられる環境だと思ってるんで、僕は嫌いではないです。あくまでサヒーリを使っていての印象ではありますけどね。」

――工夫のしがいがあるのはいいですね。覚前さんはどうですか?
覚前「マルドゥ機体が強いので、好きです!」
(一同笑い)
覚前「自分の好きなデッキが強かったら、そりゃ最高です。」
渡辺「素直でよろしい!」

――わかりやすかったです(笑)。覚前さんのサイドボードについてなんですが、機体って75枚のカードプールでサイド後にデッキを2パターン作れるような感じですよね。
覚前「けっこうそんな感じですね。ビートタイプと、プレインズウォーカーコントロールっぽいタイプと。」

――サイドボード後、どっちのプランで来るのかという読み合いが発生しますよね。
覚前「僕としては、そこは自分しだいなんです。基本的には自分はプレインズウォーカー型にするんですけど、それならサイド後に相手がどっちで来ても、自分が回れば勝てると思っているので。だから、サイド後のマナベースがよくなくて負けたって話にもつながって、そこも自分のせいなんですけど。」

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●今後の予定

――最後に、これからの予定をお聞きしたいと思います。
渡辺「4月8~9日の週に、俺と行弘(賢)と松本A(友樹)さんでメキシコに行って、チーム戦のグランプリに出ます。」

――どうしてメキシコまで行くことにしたんですか?
渡辺「行弘と、プロポイントちょっと欲しいし行くかって話してて、3人目はプロツアーの権利がないAさんはどうかなって声をかけたら、『ぜっ、ぜひ~~~!』って返事だったので(笑)。ほかにも日本人がけっこう来るみたいですし、同日開催の大会がないからアメリカの強豪もけっこう来るかもしれません。」

――それは観戦するのが面白そうです。ほかの皆さんはいかがですか?
市川「次はグランプリ・北京2017かな。プロツアーの1週間前、5月6~7日ですね。」

――4人とも北京に行かれるんですね。『アモンケット』の発売後、ドラフト合宿をして、北京に行き、プロツアーというスケジュールになりますね。
渡辺「けっこうハードです。あとゴールデンウィークにはBMO(BIG MAGIC OPEN)もあるし。」

――それにも参加されるんですか?
山本「僕は同日開催のBIG MAGIC Invitationalの権利があるので、そっちに出ると思います。」
渡辺「次のプロツアーはチーム「MUSASHI」でデッキ調整をする予定なので、BMOに参加するかどうかはその調整次第ですね。」
市川「大きい大会なので、使い方によってはいいフィードバックを得られると思うし、みんなで相談して決めます。」

――そうなんですね。「MUSASHI」での調整、期待しています。それでは、グランプリお疲れさまでした。

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