Team Cygames『破滅の刻』合宿レポート
7月14日(金)~16日(日)の3日間にわたり、プロツアー『破滅の刻』に向けた恒例のドラフト合宿が行なわれました。いつもと同様、Cygames会議室に計18人による2卓を立て、実戦を意識したドラフト練習を繰り返しました。また、今回は伊藤さん・荒井さん・加茂さんの3人が合宿初参加となっています。
今回も最終日の昼にお邪魔し、Team Cygamesの4人に環境の雑感などを取材しました。
参加メンバー一覧(敬称略)順不同
山本賢太郎、市川ユウキ、渡辺雄也、覚前輝也、行弘賢、中村肇、中村さら、瀧村和幸、松本友樹、井上徹、川崎慧太、玉田遼一、三原槙仁、石村信太朗、高尾翔太、伊藤大明、荒井健一郎、加茂里樹
今回も、日曜からは本番と同じルールでタイムカウント入りドラフトを実施。ジャッジ資格を持つ荒井さんが読み上げをしてくれており、大会さながらでした。
ドラフトのタイムカウントが誰でもできるようにカード(1枚ずつめくりながら書いてあることを読み上げる)を準備してくれたり、わからないルールを聞けたりするため、今回は荒井さんがいて大いに助かったとのことでした。
●好調な成績
――今回、初参加の方が3人いますが、どんな感想を言っていましたか?
山本「実はみんな負けてるよね(笑)。」
市川「みんなメンタルけっこうやられ気味で、『そろそろ勝ちたい……』って言ってた。」
渡辺「荒井さんだけ3-0を2回してるけど、0-3も3回してるし。」
――最初はちょっと雰囲気にのまれてしまうんですかね。
市川「やっぱり参加者全体のプレイスキルというか、アベレージが高いからね。」
――そうですね。ここまでの成績を見ますと、今回4人は特に安定して勝っていますね。ドラフトを今まで10回やっていますが、4人の成績を全部足しても0-3は1回しかなく、皆さん本当に強いなと……。
覚前「すいません! その1回僕です!」
(一同笑い)
覚前「脇の2人(山本さんと渡辺さん)は、ほんとにいつも勝ってるよね。」
市川「勝ってるのが当たり前すぎて、特筆すべきことでもない。」
渡辺「スモ(中村さらさん)がいつも俺に言ってくるんだよ、『早く0-3させたい』って。」
――確かに、渡辺さんの0-3の欄には一度も印がついたことがなさそうです。
毎合宿の成績が記録されている中村さらさんのノート。何回目のドラフトで何勝だったかがわかります。
――今回も、事前にマジック・オンライン(MO)での練習はされていましたか?
渡辺「僕は10回くらい。」
市川「けっこうやりました。15回くらいかな。」
覚前「僕も15回くらいですね。」
山本「俺は3回くらい……。」
覚前「少なっ!(笑)」
渡辺「10、15、15と来て、最後は20かな? と思ったら減った(笑)。」
覚前「やっぱりMOで1週間早くできるようになったのはありがたいですね。」
市川「右も左もわからない状態で始めるより、自分の中である程度考えを持ってほかの人と意見をすり合わせたほうが、ずっと身になることが多い。」
――あと、MOのドラフトリーグ育ちの市川さんが、渡辺さんにレアをたくさん流した話がありましたね。
覚前「MOのドラフトリーグだと、隣の人と当たらないからね。」
市川「MO生まれリーグ育ち、レア流す奴はだいたい友達なんで(笑)。」
――合宿でも最初はリーグ感覚でドラフトをやるけれども、だんだん矯正されてくる、みたいな感じなんですか?
市川「うーん、最初はこのカードはプレイアブルなのかとか、このアーキタイプに必要なカードなのかとか、どれくらいでデッキになるのかがいまいち把握できてないというのはあるかも。」
――最初はそのへんをちょっとゆるめにいろいろ試して、だんだん考えをまとめていく感じなんですかね。
渡辺「そうですね。今日くらいになるともうみんな組み方もわかって、デッキも強くなってきます。」
《王神の贈り物/God-Pharaoh’s Gift(HOU)》《賞罰の天使/Angel of Sanctions(AKH)》《冠毛の陽馬/Crested Sunmare(HOU)》などがそろった高尾さんの最強デッキと、3-0をかけて勝負する覚前さん。
●「破滅の刻」環境
――新環境についてお聞きしたいのですが、『アモンケット』だけのときと比べるとどうですか?
渡辺「督励が強いビートダウン環境だったのは、だいぶ緩和されたと感じますね。督励のカード自体が単純に少なくなったし、タフネスの高いクリーチャーが増えたので。『アモンケット』のときは順調にいくと5ターン目にゲームが終わってましたけど、そこまで早くないです。」
――新能力で“永遠”と“加虐”が入りましたが、ドラフト的にはどうですか?
渡辺「永遠は不朽とたいして変わんないですね。」
覚前「種類が少ないからあまり出ないし。」
市川「コモンに2枚しかなくて、どっちもデッキにギリギリ入るか入らないくらい。」
渡辺「1マナ1/1(《実績ある戦闘員/Proven Combatant(HOU)》)のほうは入れてもいいけど、4マナ2/3(《不動の歩哨/Steadfast Sentinel(HOU)》)は入れたくないね。」
市川「不朽のカードは全部プレイアブルだったけど、永遠は微妙だからあまり見かけなくて、あくまでアンコモン以上のカードってイメージですね。」
――加虐のほうは?
市川「青の2マナ2/1(《呪文織りの永遠衆/Spellweaver Eternal(HOU)》)は強い。」
覚前「あれは強いね。」
渡辺「俺は青やるときはあの2/1は取りたくない派。加虐で一番ましなコモンは赤の4マナ3/3(《前線の壊滅者/Frontline Devastator(HOU)》)じゃない? そもそも加虐自体があんまり強くないから。」
――おまけ程度、という感じですかね。
市川「低マナのクリーチャーを、あとからライフ詰めるタイミングで引いたときに、ちょっと役割を持てるみたいな感じですね。」
――強い色、弱い色などはいかがでしょうか。
渡辺「この色が弱い、とかいうのはあんまりないです。ただ色の組み合わせで言うと、僕は黒緑だけはやりたくないです。前の環境ではマイナスカウンターのシナジーがあってけっこうやってもいい組み合わせだったんですけど、この環境では絶対やっちゃダメ、ってくらい相互作用がないので。」
市川「僕も緑黒と、あと青黒もちょっとやりたくなくて、それ以外はわりとどれでも。この環境は、単色のコモンであっても特定の組み合わせ専用カードみたいなのが多いんです。3マナ2/2果敢(《棘モロク/Thorned Moloch(HOU)》)は青赤のスペルデッキじゃないと運用できないし、白の+3/+3ソーサリー(《型破りな戦術/Unconventional Tactics(HOU)》)は白黒ゾンビデッキ用のカードだし、そういうシナジーに沿って専用デッキを組むアーキタイプ環境かなと思ってます。」
渡辺「単色だけど、実質2色のカードがけっこうある感じですね。だから卓に白が4人いても、自分だけがゾンビで残り全員が督励だったら、そのゾンビはかなり強くなるので、住み分けられる感じです。」
覚前「僕は、除去がかなり強くなったというイメージですね。僕のピックの基準って、まず除去を中心に取って、その次に軽いクリーチャー。その次にアーキタイプを決めるカードっていう考えなんです。」
渡辺「アーキタイプの核になるシステムクリーチャーに、しっかり対処できるような除去が欲しいと。」
覚前「そう。あと、ナベに今回教わったことがあるんですけど、スペルを唱えると3/3スフィンクスになる青のエンチャント(《謎変化/Riddleform(HOU)》)と、緑の3マナ3/3バニラ(《侵略ナーガ/Harrier Naga(HOU)》)があったときに、バニラのほうを取ったんです。ほかに何も取るものがなくて。」
渡辺「1パック目の初手で、僕がてるやの下だったときに、てるやが『このパック弱い』って言いながら緑の3/3を取って回してきた。」
覚前「そのあとナベに言われたのは、エンチャントのほうがカードとして強いし、アーキタイプにも発展するカードだから、そっちのほうがよかったと。」
渡辺「別にアーキタイプカードを取らなくてもいいけど、何のアーキタイプにも関与しなくて単体のスペックも微妙なカードは取っちゃだめだよね、っていう話をしました。」
覚前「選択肢がないなら、やっぱりアーキタイプがあるカードをピックしたほうがいいなと納得しました。」
渡辺「3マナ3/3ではゲームに勝たないけど、エンチャントのほうはアーキタイプが組めたらゲームに勝つ可能性があるから。」
市川「完成度の高いデッキができたら抜ける可能性が高いカードは、あまり早めに取りたくないよね。3/3は、いいアーキタイプのデッキができたら抜けそうだけど、エンチャントのほうは、青赤とかができたときにデッキの軸になる。」
覚前「そういう可能性を捨ててしまったファーストピックで、それが唯一の0-3したドラフトです。反省ですね。」
――山本さんは、やりたい色の組み合わせなどについてはどうですか?
山本「僕は緑はあんまりやりたくないくらいで、あんまり気にしてないですね。緑以外は2-1以上できる感じはつかめてるんですけど、緑はよくわからない。多色化を推奨するパーツが多くて、3色、4色みたいな緑しかイメージがなくて、殴る緑は組みづらいと思うので。青が一番強いと思いますけど、ほかの色は団子ですね。」
――緑に関しては、今後のドラフト練習とかで変わる可能性があるかもしれないですね。
山本「確かに、殴れる緑の形が見つかったら違ってくるかもしれないです。」
覚前「緑以外のレア、たとえば《穢れた血、ラザケシュ/Razaketh, the Foulblooded(HOU)》とかから入れば緑に行きやすいんですけど、いきなり緑は厳しいかもですね。コモンに強いカード、アーキタイプの核になりうるカードがないので。」
渡辺「緑の殴るデッキは、もうちょっとみんなで研究したほうがいい気はしてるけどね。」
●初手で取りたいカード
――恒例の質問ですが、初手でぜひとも引きたいカードは何ですか?
市川「《王神の贈り物/God-Pharaoh’s Gift(HOU)》。出た瞬間、即投了ですよ(笑)。」
渡辺「あーかぶったー!」
――出されたら、まくれるビジョンがない?
市川「飛行とかで詰めてない限りはまず無理ですね。毎ターン4/4が出てきて、クロックが早すぎる。これを作った人は、リミテッドでどうなるか考えなかったのかと問いたい。」
――神話レアじゃないんですよね。
市川「普通のレアで、しかもとんでもないことに『アモンケット』にはあれを探せるアンコモン(《来世への門/Gate to the Afterlife(AKH)》)があって、出たら絶対回ってくるから、デッキに2枚あるようなもん。」
渡辺「僕は、青赤の《蝗の神/The Locust God(HOU)》で。今のところ、合宿で引いた人が3人いて、全員3-0してます。」
――3-0請負人ですね。
市川「イナゴッドは、本体が飛んでるのが強い。」
渡辺「《スカラベの神/The Scarab God(HOU)》と《蝗の神/The Locust God(HOU)》は、ターンが返ってきたらほぼ勝ちです。あと青赤という色が個人的にやりたいというのもあるので。」
市川「青黒より青赤のほうがアーキタイプとして強いからね。」
山本「俺も《王神の贈り物/God-Pharaoh’s Gift(HOU)》ですね。」
覚前「(カードを探しながら)やばいやばい、全員かぶってしまう。」
市川「てるや、ここは記事的に気を使っていこうぜ。」
覚前「神以外で強いカードってある?」
市川「《王神、ニコル・ボーラス/Nicol Bolas, God-Pharaoh(HOU)》は強いけど、まだ誰も使って勝ってないかな。」
渡辺「3回出たけど、イナゴッドと比べるとみんな勝ってるわけではない。」
覚前「じゃあ《スカラベの神/The Scarab God(HOU)》にしよう。ターンが返ってきたら勝つんで。」
市川「コメントがナベと一緒(笑)。」
●グランプリ・京都について
――グランプリ・京都2017が目前ですが、シールド戦の練習ってされてますか?
市川「いや、全然。」
渡辺「プレリ(7月8~9日のプレリリーストーナメント)は出ました。」
覚前「僕はMOでリーグ4回と、プレリ2回。」
市川「『覚前さんとプレリで当たった』ってツイート見かけたよ。『やまけんさんと当たった』って人もいたな。」
山本「どうやってそんな情報探してんの?(笑)」
市川「いやあ、それはちょっと言えない(笑)。」
渡辺「情報通すぎて恐ろしい。」
――山本さんもプレリに出たんですか。
山本「1回出て、シールドは3回くらいやりました。環境が遅めなんで、『レアでしか決まんねーなー、このゲーム』と思いながら(笑)。」
渡辺「ドラフトでも頑張らないとビートダウン組めないくらいなんで、雑多なカードが用意されてるシールドだと絶対ビートダウンはできなくて、レアの叩きつけ合いになりますね。」
市川「2マナ域が弱いから、シールドではビート組めないよね。」
――とするとプロにとって、あまりこの環境のシールドは練習しがいがない感じですか?
市川「たぶんない。出たとこ勝負。」
山本「練習してもリターンがなさそう。」
渡辺「神社にお参りしたほうがリターンでかそう。翌週にプロツアーもあるので、シールドに割く時間はないですね。」
――海外の強豪もたくさん来るらしいですが、グランプリ・京都での目標は? 何勝とかでなく、プロツアーに向けてこういう練習をしたい、とかでもいいのですが。
山本「やっぱり、大会出るからには単純に勝ちたいですけどね。プロツアー直前だし。」
覚前「僕は4敗が目標です。4敗以上で終わればプロポイントが2点入って、プロツアーの目標がX-6(6敗ライン)にボーダーが下がるので。」
市川「その考えで行くと、俺はトップ8に入ればプロツアーのボーダーが下がって、X-5でプラチナレベルになる。」
渡辺「俺、マジで何も目指すことがないんだよな……。」
覚前「『ヤソ(八十岡翔太さん)に勝つ』っていうのは? 今プロポイント何点差?」
渡辺「1点差だけど、俺はキャップの一番下が2点で埋まってて、ヤソは下が0なんだよ。」
(注:グランプリでの獲得プロポイントは、高いほうから6つまでしかカウントされないので、渡辺さんがグランプリでポイントを増やすには3敗以上の成績でないと意味がない)
覚前「うわっ、それはつらい。」
渡辺「なんで、俺の目標は、オーウェン・ターテンワルドと当たってキャッキャすることで(笑)。」
右がオーウェン・ターテンワルドさん。渡辺さんとは殿堂入りの同期で仲良し。
市川「あっ、俺の目標変えます。『ここで勝ったらシルバーレベル』って人を刈り取ること(笑)。『いやー、ここ勝ったらシルバーなんですよ』って言われたら、『そうなんですか! 僕もそういう時ありましたよ!(言いながらシャッフルする仕草)じゃあよろしくお願いします』って(笑)。」
(一同笑い)
●小型セットの意義
――最後に、ちょっと話はそれますが、小型セットが今後なくなるという発表がありましたよね。皆さんにとって、小型セット入りのドラフトというのはどういうものですか?
市川「個人的には、得意だし好きです。前のセットのカード評価が変わるのはすごく面白いと思ってるので、なくなるのはちょっと残念ですね。」
渡辺「僕も残念寄りですね。大型×3パックのドラフトは、『こういう戦略でやろう』と用意してきたやり方でやる、言ってしまえば決め打ちになるんですよ。小型セットがあるとほぼ決め打ちできない環境になって、どれだけドラフトの引き出しがあるかとかが問われるし、カードの種類も多いほうがゲームしてて面白いので。」
――対応力が問われるドラフトになるんですね。覚前さんはどうですか?
覚前「僕の言いたいことを、前の2人がすべて言ってくれました(笑)。いやーわかりやすい。いろいろできて戦略が広いほうが楽しいです。僕はあんまり対応できてないんですけど。」
山本「僕は大型×3のほうが、環境が変わらないんでラクというか……。決め打ちが正当化されやすい環境なのは確かにそうなんですけど、そのほうがそんなに練習しなくてもいいんで、ラクです(笑)。」
――リアルな意見ですね。
渡辺「あとは、小型セットがなくなることを構築の視点から見ると、セットのメカニズムが強化されなくなって、最初に出たカードの発展性がなくなるのが、ちょっと心配なんですよね。」
市川「僕は1つ前の、大・小・小なり大・小・大のブロックがいいと思ってて。たとえばエネルギーを使うセットは『カラデシュ』と『霊気紛争』の2つしかなかったけど、もう1セット見たかったなと。もし3セット目があったら、相手のエネルギーを奪うとか、エネルギーを持っていることがデメリットになる能力なんかも出てきたと思うんですね。でも2つしかなかったから、エネルギーは獲得し得になって、霊気池デッキみたいなのが蔓延しちゃった。だから、キーワード能力の進展性がもっとあったらよかったなと。」
――確かに、もったいないですよね。まだ少し先の話ではありますが、どうなるのか気になるところです。
それでは、皆さんまずはグランプリ・京都でがんばってください!