【2019MC1】八十岡 翔太 2日目スタンダードラウンドまとめ+「赤単タッチ黒」デッキテク【Day2】
初日を6勝2敗という好成績で折り返した八十岡。ドラフトも2勝1敗でまとめあげ、残るスタンダード5回戦で4連勝すればトップ8というところ。
はたして八十岡は愛用のデッキとともに駆け抜けることができたのか。試合の結果と、今回選択した八十岡オリジナルの「赤単タッチ黒」について話を聞いた。
● 八十岡 翔太 赤単タッチ黒 スタンダード2勝3敗 総合10勝6敗
八十岡「どれかが一個ずつズレていればという試合が多くて、悔しい思いをしたね。勘が冴えていれば、スタンダードはあと2勝できたと思う。」
ラウンド | 対戦相手のデッキ(相手の名前) | 勝敗 (※マッチ単位) |
---|---|---|
12 | 青単 (ジェイコブ・ウィルソン) | 〇 |
13 | イゼットフェニックス | × |
14 | 白単 | × |
15 | エスパー | 〇 |
16 | エスパー | × |
13 《山》 4 《血の墓所》 4 《竜髑髏の山頂》 土地(21)
クリーチャー(22) |
4 《ショック》 3 《興行+叩打》 4 《稲妻の一撃》 4 《魔術師の稲妻》 2 《批判家刺殺》 呪文(17) |
4 《再燃するフェニックス》 4 《溶岩コイル》 4 《ドリルビット》 2 《実験の狂乱》 1 《沼》 サイドボード(15) |
――「このデッキはどういった経緯でできたものなのでしょうか?」
八十岡「まず色々なデッキを試したんだよね。スゥルタイ、青単、赤単、エスパー。それから前回使ったようなグリクシスコントロールも試してみた。グリクシスは黒緑に強かったんだけど、スゥルタイになったことで《ハイドロイド混成体/Hydroid Krasis(RNA)》が入って不利になってしまった。ほか、単色のデッキには変わらず強かったけど、ネクサスだけはどうしても『当たったら負け』にならざるをえなかった。」
八十岡「スゥルタイとネクサスはほぼ確実にトップ2だと思っていて、同時に『かなりデッキがバラけるプロツアーになるだろう』とも思っていたんだよね。ギルラン10種あるとはいえ、そもそも3色のデッキはライフ損失が痛すぎて成立しない。単色の強いデッキが多いからね。青単も3番手だと予想していて。そうなったとき理想的なのは、『不利なデッキが少なくて、同時に当たったら即勝ちのマッチもあるデッキ』。今回はコントロールがネクサスのせいでその立ち位置ではなかったから、グリクシスは諦めた。」
八十岡「で、グリクシスを使ってたときに前週のメンフィスでトップ8に入った赤黒ミッドレンジによく負けたんだけど、その原因が《リックス・マーディの歓楽者/Rix Maadi Reveler(RNA)》だったんだよね。消耗戦の後にこのカードをポンと出されるとリソース差で負けてしまう。素出しのルーターもまあまあ仕事するし。それと《興行+叩打/Carnival+Carnage(RNA)》というカードも、青単が見れつつも《荒廃稲妻/Blightning(ALA)》としてコントロールに強く使えて良いカードだなと思った。」
八十岡「ただ、赤黒ミッドレンジは積極的に手札を使わないし絢爛もしやすいわけでもないから《リックス・マーディの歓楽者》のポテンシャルを100%引き出せてるとは言いがたい。《興行+叩打》もライフを詰めるデッキに合うカード。そしてチームでネクサスを調整している人たちに聞くと、『赤単にはマジで勝てない』と言う話。青単と赤単は赤単の方が少し有利だし、スゥルタイは微妙だったけど、《興行+叩打》が探検持ちのクリーチャーを誘発スタックで除去れたりするから、まあ最悪五分くらいまではいけるかなーということで、赤単を調整することにした。」
八十岡「《リックス・マーディの歓楽者》というカードがとにかく強いね。赤単というデッキは土地3枚は絶対必要だけど5枚目以降は引きたくないというデッキだから、その点このカードがあればスクリューもフラッドも両方ケアできる。《興行+叩打》も1マナのアクションを埋めてくれるのがいいね。この1点も地味に効くし。1点を争うデッキだからね。このカードは実質《焼尽の猛火/Searing Blaze(WWK)》だね(笑)。」
――「《軍勢の戦親分/Legion Warboss(GRN)》はどういった理由で採用されているんでしょうか?」
八十岡「単純に強くない?(笑) まあ赤単ってバーンよりもスライの方が強いからね。1→2→3でクリーチャーを出してあと全部火力、みたいなのが理想だね。」
――「赤単ではよく採用されている《舞台照らし/Light Up the Stage(RNA)》が入っていないのが意外に思いました。」
八十岡「《舞台照らし》というカード、あんまり好きじゃないんだよね。というのも、サイド後はほとんど抜けるから。後手でクリーチャー除去られるとほぼ打てないし、そもそもサイド後はデッキが重くなるからね。あと《危険因子/Risk Factor(GRN)》型も試したけど、サイド後マジで勝てないから挫折した。」
――「サイドボードでは《ドリルビット/Drill Bit(RNA)》が目を引きますが、使い勝手はどうなんでしょう?」
八十岡「このデッキならほぼ《思考囲い/Thoughtseize(LRW)》だね。このカードがあるおかげで青単やエスパー、イゼットドレイクなんかにも従来より戦えるようになっているよ」
――「各マッチアップの相性はどうなんでしょうか?」
八十岡「まず不利なのがイゼットドレイクと門。この2つは明確に不利だね。あとエスパーは、エスパー側がどれだけ赤単を憎んでいるか次第だと思う。メタ上位で言うと、まずネクサスはフリーウィン。青単もかなり有利だね。相手の構成だと《軍勢の戦親分》がとにかく止まらないから。白単も有利だけど、青単よりは負けやすい。《ベナリア史/History of Benalia(DOM)》を何枚引かれるか次第だね。イゼットもフェニックス型ならたぶん有利だと思う。相手の《ゴブリンの電術師/Goblin Electromancer(GRN)》が火力の的になるし。スゥルタイは五分くらいだけど同型はさすがにちょっと不利かな。相手に《実験の狂乱/Experimental Frenzy(GRN)》を貼られると追いつけないから。」
八十岡「デッキの選択は良かったと思う。初日の門は微妙な選択もあったけど相性的に仕方なかったし。2日間合わせてスゥルタイとネクサスを1回も踏まなかったのはちょっとツイてなかったけどね。ただ2日目は、もう少し勝てたかなと思う。」
八十岡「R13のイゼットフェニックス戦は、◆シチュエーション1:まず1ゲーム目に相手のライフ14、こちら本体火力9点を抱えていて盤面でパワー2が二体いる状況。相手の場にはパワー4の《弾けるドレイク/Crackling Drake(GRN)》がいる。A『火力6点分使ってドレイクを焼いて4点殴るか』、B『何もしないでクリーチャーを犠牲に2点ライフを詰めて3点火力トップ待ちにするか』の2択、さてどうする?。」
八十岡「実戦譜では『ドレイク放置すると最悪2ターンで死にうるからBだと1ターンしかトップチャンスがないかも、Aなら最悪もう2点盤面で通りそうだから実質ライフ5で残りターンも3ターンくらいあるだろう』と思ってAにしたら、返しで《ゴブリンの電術師》と《弧光のフェニックス/Arclight Phoenix(RIX)》が立っちゃってライフ詰めれず負け。」
八十岡「2ゲーム目も◆シチュエーション2:紆余曲折あってこっち《ギトゥの溶岩走り/Ghitu Lavarunner(DOM)》、相手はライフ4の手札1枚で100%土地という状況。相手のドローが《航路の作成/Chart a Course(XLN)》で、2枚引いてさっきまで持っていたであろう土地を捨て、《ゴブリンの電術師》を出して手札1枚抱えて残りのマナは立ててゴー。ちなみにこの時点で相手の墓地に《ショック/Shock(M19)》が2枚あって、他の種類の火力が入っていないであろうことは知っている。こっちのターン、手札は《ショック》のみ。A『《ゴブリンの電術師》を焼いて殴るか』、B『《ショック》を抱えてターンを返すか』。さてどうする?」
八十岡「ここからのこちらの負け筋は《弾けるドレイク》トップくらいなので、このターン相手が何も引いていないなら《ゴブリンの電術師》は焼き得になる。そうすれば仮に《弾けるドレイク》を引かれても《ギトゥの溶岩走り》とのにらみ合いで相手は殴れない。そう思って焼いて殴ったら相手の手札が3枚目の《ショック》で《ギトゥの溶岩走り》を焼かれてライフ4のままターンが返り、2ターン後に《弾けるドレイク》を引かれてこちらのドローは3点火力で負け。どっちか勝ってれば3ゲーム目ができたから、難しい選択だったね。」
八十岡「R14の白単戦も、◆シチュエーション3:3ゲーム目に先手ワンマリ、《不屈の護衛/Dauntless Bodyguard(DOM)》をエンド前に《ショック》して先手2ターン目。土地は《山/Mountain》2枚、手札は《ショック》《稲妻の一撃》《リックス・マーディの歓楽者》《軍勢の戦親分》の4枚。A『《リックス・マーディの歓楽者》を出す』、B『出さないでエンド』の2択、さてどうする?」
八十岡「実戦では3ターン目《軍勢の戦親分》のバリューを重視してAを選択。出して《ショック》捨てたら、相手の返しが《トカートリの儀仗兵/Tocatli Honor Guard(XLN)》。その返しで土地を引いて《軍勢の戦親分》、相手は《ベナリア史/History of Benalia(DOM)》、土地引いて仕方なく騎士・トークンに《稲妻の一撃》打ってフルパン、相手は《敬慕されるロクソドン/Venerated Loxodon(GRN)》でこっちのドローが《リックス・マーディの歓楽者》……《トカートリの儀仗兵》いるから詰んで負け。赤単がマリガンしたときのリソース管理はそもそもシビアけど、《リックス・マーディの歓楽者》が絡むとさらに難しいね。」
八十岡「R16の対エスパーも、◆シチュエーション4:メインボードからの《黎明をもたらす者ライラ/Lyra Dawnbringer(DOM)》を除去って《興行+叩打》で相手の手札枯らしたら2枚目の《黎明をもたらす者ライラ》をトップから叩きつけられる。その状況が、こちらに《ギトゥの溶岩走り》と《ヴィーアシーノの紅蓮術師/Viashino Pyromancer(M19)》がいて、セットする前で土地6枚、手札に《稲妻の一撃》と《リックス・マーディの歓楽者》。相手のライフは5点で、手札はないけど土地は8枚あってその中には変身した《水没遺跡、アズカンタ/Azcanta, the Sunken Ruin(XLN)》も含まれている。まず本体に《稲妻の一撃》を打つのは確定として、A『《リックス・マーディの歓楽者》を4マナの絢爛で出す』、B『《リックス・マーディの歓楽者》を2マナで出す』の2択、さてどうする?」
八十岡「実戦ではAを選択したら、ドローが順番に《稲妻の一撃》《山/Mountain》《ゴブリンの鎖回し/Goblin Chainwhirler(DOM)》。相手の返しは《黎明をもたらす者ライラ》アタックから、メインから飛んできた《肉儀場の叫び/Cry of the Carnarium(RNA)》(!)で盤面すべて失う。それでも相手のライフは7点、3点トップすれば……で引いたのが《魔術師の稲妻/Wizard’s Lightning(DOM)》!!!……1マナ足りず負け。」
八十岡「どのシチュエーションも、一個の選択肢で勝ち負けが決まるゲームだった。マジックは良いゲームだなと改めて思ったね。今回は直感と、デッキとの絆が足りなかったなー。」
八十岡「総じてアリーナが良かったね。このデッキもアリーナのおかげでできたようなものだし。個人的に結局調整は試行回数が一番大事だと思っていて、アリーナはその試行回数という点においてMOと段違いなんだよね。試したいことがあったらすぐ回して確認できるし、カードも安いし。これからアリーナに人が増えたら、さらにもっと調整効率が上がっていきそうだね。」
八十岡「アプローチの仕方は間違ってなかったから、デッキには満足しているよ。もうこのスタンダードをやる機会もないけどね、次はBO1で全然違うフォーマットだから。」
あまりにも美しいデッキがそこにはあった。
渡辺や行弘も「ヤソのデッキに乗っておけば……」と言うほどの完成度。
しかも赤単という、世界中で多くのプレイヤーが調整していたであろうデッキで「《舞台照らし》と《実験の狂乱》を抜く」というイノベーションを起こして見せたのだ。
最後に八十岡は、「マジックは良いゲームだな」と述べた。
そしてそれは、確かにこのシチュエーションにおける選択それ自体も極めて難しいものではあるとはいえ、そもそもその領域に至ることができたのはこの「赤単タッチ黒」という芸術あってこそだという点において、非常に含蓄の深い言葉だと言えるだろう。
デッキの選択を誤ったという渡辺や山本。直前で乗り換えたデッキに魂を込められなかったという覚前。こだわりが強すぎたあまりに視野が狭くなったという市川。そして、わずかなプレイの選択で勝利を逃したという八十岡。
ミシックチャンピオンシップという舞台は、まさしく極限の選択の連続だ。
そしてそれだからこそ、選択を誤らずにたどり着いた頂点に価値が生まれる。
その価値を、勝利という名の高みを求めて。
トッププロチーム、Team Cygamesの挑戦も続いていくのだ。