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【MCⅤ】インタビュー:八十岡 翔太 ~強いデッキとは?~【Day2】

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マジックのプロシーンのトップを10年以上ひた走るMPLプレイヤー、八十岡 翔太

彼の頭脳には、イベントとしてのマジック、ゲームとしてのマジックなど、様々な側面から見たマジックについての歴史と知識が詰まっている。

だがMTGアリーナの盛り上がりは、そんな長い歴史の中でも間違いなく、一つの明確なターニングポイントと言えるだろう。その意味で2019年という年は、マジックにとって大きな節目となった。

そんな中で八十岡は、マジックというゲームの現在について何を思うのか。

MTGアリーナによる変化「強いデッキとは?」といったいくつかのテーマについて、インタビューさせてもらった。

 

 

 

■ MTGアリーナによる変化

――3月にミシックインビテーショナルが開催され、5月にMPLのリーグも開始し、MTGアリーナというものが競技レベルのイベントに組み込まれて半年ほど経ちましたが、今までのマジックとの違いって何かあるんでしょうか?

八十岡「アリーナでの発売がリアルでの発売日より一週間早いことで、リアルマジックの方は色々変わったなっていう気がするけど。リアルマジック中心の人はつまらなくないのかな?と思っちゃうよね、ここまで来ると。面白そうだなっていうカードを見つけても、『もうそれ試されてるよ』ってなりかねないからね。」

八十岡「あと強いて言うなら、リミテッドはみんなもう一生うまくならないだろうな、と思うね。」

市川「(話を聞いていて) アリーナのドラフトは天気予報みたいなもんだからね。今週はこれが不人気だからやろうとか、ランク高いプレイヤーはこのアーキタイプやってるからそれに強いアーキタイプをやろうとか。」

――逆にアリーナ勢がこれからリミテッドを上手くなろうとしたら、どうすればいいんでしょうか?

八十岡「ムリ!ドラフトは弱い人が集まっても上手くならないんだよね。強い人が何人かいるコミュニティでやるしかないから。だからリミテッド上手くなりたいならMOが一番いいと思う。ただ人が集まらないからなー。」

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――イベントの比重も下がっていますよね。アリーナのイベントだとリミテッドがないですし。

八十岡「プレイヤーズツアーは混合だから、基本的にそっちでやることになるだろうね。アリーナから入って一番詰まるのがリミテッドだからね。スタンダードは後から始めても勝てるけど、ドラフトは無理。」

――それでもどうにかして上手くなりたい!という人もいると思うんですよ。

八十岡「まあリアルでやるしかないよ。まずはどういうゲームかを知らないとね。アリーナのドラフトは自分の好きなカードを取るゲームだけど、実際のドラフトはそうじゃない。スタート自体が違うんだよね。違うゲームだから。ドラフトというゲームをやらないと始まらない。どんなに頑張っても2年くらいかかるんじゃない。」

八十岡「リミテッドが強い人はマジック10年やってる人間しかいないから、一朝一夕で追いつくのは不可能だよ。しかも需要もメリットもないから、技術やテクニックはなおさら世の中に出てこないしね。」

 

 

 

■ MPLプレイヤー最強は?

――MPLプレイヤー32名の中で、誰が一番強いと思いますか?

八十岡「一番強い……うーん、難しいな。それって、どういう意味で?全部のフィールドなのか、リーグで強いのか、MCでなのか……パラメータによるよね。」

――自分と対戦していて、でお願いします。

八十岡「あー、それはでもそんなに差はないかな。上手い人しかいないから、その中でさらに一段上手いとかは感じない。どちらかといえば、当たりたい人がいるだけだね。」

 

 

 

■ マジックのデザイン領域ってまだあるの?

――マジックっていうゲームはもう26年続いているわけですが、八十岡さんから見て、デザイン領域はまだ残されているんでしょうか?

八十岡「無限にあると思うよ。リアルでの煩わしさを無視すれば。あとなんだかんだ似たような効果を焼き直ししてくるし、マルチカラーとかもあるしね。」

八十岡「そもそもリミテッドがあるゲームだと、最新セットが出てもリミテッドカードがたくさんあるから、消費スピードが遅いよね。新セットでも構築向けに作られてるカードは30枚くらいしかないと思う。」

八十岡「そこが他のDCGとの違いだよね。DCGは下位互換が作られづらい。対して、マジックは再録が頻繁にされるからね。ローテーションもあるし、長く続けることに対して余裕がある。あとDCGはカードを弱くするのが難しいね。ローテーションがあるのに意味がなくなってしまう。マジックはたまにめっちゃ弱いセットとかあるからね。」

The Magic Mirror The Great Henge

八十岡「ただまあマジックは10年以上そういうスタイルで続けてきたからできる、ってだけだからね。あと背景ストーリーをオリジナルで持ってるのも強いね。ストーリー上の役割とかで差別化できるし。今回で言うと《魔法の鏡/The Magic Mirror》とか《グレートヘンジ/The Great Henge》とか。」

八十岡「あとEDHとかPauperとかそっち向けのカードもあるから、一つのカードについていくつかの見せ方ができる。たとえばみんなが『このカード使わないでしょ』って言っても、Aさん (松本 友樹) が『いや、これEDHで強いんですよ!!!!』って力説してきたりする。そういう人が買ってくれるって結構重要だからね。」

 

 

 

■ 強いデッキとは?

――八十岡流、強いデッキを見分けるポイントがあれば教えてください。

八十岡「ブン回りが強くて返せない、明確な弱点が少ない、安定してるか。あと強いカードがいっぱい入ってる。シナジーじゃなくて単体のカードパワーで強いカードが多いことだね。」

――では八十岡流、強いデッキの見つけ方がありましたら教えてください。

八十岡「『見つける』ってどういう意味?『作る』じゃなくて?見つけるだけなら勝ってるデッキでしょ。大会で一番勝率高いデッキ使えばいい。SCGの結果見て半分ゴロスでした。じゃあこれは強い、みたいな。」

八十岡「強いデッキ見つけるのはそんなに難しくないよ、転がってるから。強いデッキで勝つのが難しい。」

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――強いデッキで差を付けるためには、どうすればいいんでしょうか?

八十岡「同型メタと、あと何を切るか (仮想敵から外すか) だね。トーナメントで勝つとなると何を見るかが一番重要。強いデッキと大会で勝つデッキは別なんだよね。アリーナでラダー回してトータル成績が良かったからといって、MCで勝てるわけじゃない。『その大会で勝つ』ということに焦点を合わせ、その大会において強いデッキを持っていくのがベスト。」

――当たりえないデッキは、ケアしてもしょうがないと。

八十岡「そう。そこにどうやってたどり着くか。プロツアーくらいの参加人数だとある程度バラつくけど、今回くらいフィールドが狭いと偏るから。今回で言うとゴロスに勝つか、ゴロスに勝ちにきた6割に勝つか。バントフードとかはゴロスに勝ちにきたデッキに強いデッキだね。そういう明確なポジションを意識することが大事だね。自分のデッキがなぜ強いのか。強いから使った、ってだけだと勝たんし。」

八十岡「そもそも何をもって『強い』とするか。強いデッキの定義は『雑多なデッキに勝って、不利なデッキが少ない』こと。でも人数が少ないと雑多なデッキがそもそも存在しないフィールドになってくる。そうなると、『強いデッキ』かどうかにあんまり意味がない。『勝てるデッキ』かどうかだから。」

八十岡「あとは今回の行弘とかもそうだけど、みんながよく知らないデッキ、対策されてないデッキとかも、一つのトーナメントだけで見ると『強い』デッキになりえるよね。トップメタのデッキより全くノーガードのTier2くらいのデッキの方が勝ったりするから。モダンとかでもよくそういうことが起こるよね。ウルザがどんだけ強くても、勝つのはドレッジだったりトロンだったり、しかも毎週違うデッキが勝つから。」

八十岡「要するに、いつでも100点のデッキを作ることを目標にするのではなく、そのトーナメントにおいて100点のデッキを使って勝つことを目標にするべき、ってことだね。」

――ありがとうございました。

 

 


変化に対応するためには根源的な部分についての知識が不可欠だが、その精度を上げるために何よりも重要なのは、言語化することだ。

八十岡が勝ち続けることができる理由は、高い視点でマジックというゲームを理解しているというにとどまらず、自分の感覚をこうして筋道立てて説明できる点にこそあるのかもしれない。

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