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覚前輝也が目指す3人の超人

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覚前さんは日ごろから自己啓発系の本を多く読み、自分を律する意識を高く持っているのが印象的です。今、特に強く影響を受けているという著名人3人について、どんな点を尊敬しており、彼らから何を学んだのかについて聞きました。
このインタビューで“ゴールを決めて進むこと”の大切さを語ったため、覚前さん自身もこれからについての思いを新たにしたようです。

 


 

僕の人生における考えとして、「人間いつ死ぬかわからないので、自分の好きなことをして生きよう」というのがあるんですけど、これから紹介する3人は好きなことをしながらそれぞれ業界で成功している人たちです。僕も自分の好きなこと、マジックをやって成功したいので、彼らのようになりたいと思ってます。

 

 

●“裏付けられた自信家”ローランド
http://roland-official.com/

 

まず、ローランドは有名なホストで、名言は「世の中には2種類の男しかいない。俺か、俺以外か」。

今もホストやってますけど、お店のオーナーで、ホスト業以外にも日本の男性を美しくすることを目的に、いろいろな化粧品とかを作ったり、脱毛サロンやったりしてます。

ローランドは、誰よりも自分に自信を持っていて、その自信がうわべじゃないところが、尊敬できる部分です。
ホスト業界に入ったときはまったくお金がなくて歯磨き粉とか食べてたらしいんですけど、「俺は絶対にホストとして成功する」って固く決意していて、たぶん多額の借金をして整形したんです……このへんは僕の予想なんですけど。でも「俺は必ず売れる」って強い気持ちがあったから自分に投資できて、もちろんすごい努力や勉強もして、今があるという。

自分のお店で採用面接のときに「僕はローランドを超えたい」みたいな、生意気な人が来たりするらしいんです。「お前じゃ超えられないから帰っていいよ」って追い返すんですけど、帰れと言われても一歩も動かない人がいて、何時間もずっとそのままだから、ローランドが皿洗いから始めさせたら、その後すごい成功したとか。本人が芯を持ってホストとして成功してるから、骨のある新人を見抜く目があるんですよね。まあ、ローランド自身まだ26歳とかなんですけど。

僕はこの人の仕事に対する考え方や、自分に自信を持っているところがすごく好きなんです。
マジックでも、自信を持ってぶれずにプレイするって大事じゃないですか。その姿勢を忘れないために、ローランドの考え方を参考に練習してる感じです。

さっき、グランプリ・リッチモンド2019に出てるリード・デュークの試合をずっと観戦してたんですけど、自分のターンになるとまず、すごい考えるんですね。そしていったん動き出したら止まらない。最初からこのターンにすることを全部考えておいて、決まったらあとはパパッと一気に動くんです。
9割のマジックプレイヤーは、1つ動いてから次の行動をするはずです。つまり1つめの行動は決まってるけど、「相手から何か飛んで来るかもしれないから、そのあとのことはそのとき考えよう」って思ってる。でもそれだとプレイがぶれやすいんですね。
デュークの場合は、相手からカウンターされたらこうする、除去だったらこうするって、全部脳内で予想して解決したうえでプレイしてるはずです。
考えずに一歩踏み出して、交差点に来たからどっちに行こうか考えて、みたいなブレブレのプレイは、僕も自信がないときとか、環境に慣れてないときはそうなりがちんですけど、自信を持って、道筋を決めてプレイするようにしたいと思ってます。

だから“自信を持つ”と言っても、根拠もなく突進するんじゃなくて、すべてを頭の中で理論的に整理したあとで、その考えに自信を持つって感じですね。練習段階ですべて確実になるまで試したあと、その通りにプレイする。練習に裏付けられた自信があって、何をするにもその理由を明確に説明できるようでないとダメですよね。

 

 

●“メイドカフェを文化にした”hitomi
https://www.cafe-athome.com/maids/6

 

次のhitomiは、秋葉原で一番古い有名なメイドカフェで15年くらい働いてて、メイド喫茶が日本の文化になるに際してのパイオニアみたいな人です。今も、子供もいるけどメイドやってます。
この人は半年前くらいにTVで「プロフェッショナル・仕事の流儀」を見て知ったんですけど、大阪にできた支店に1か月に1回くらいメイドとして来るときがあって、以前会いに行きました。実際に見たら、“人を楽しませる技術”がすごかったですね。

この人はもともと生粋のギャルだったらしいです。15年前とかのメイドカフェって、客も店員もオタクばかりだったから、面接に来た女子高生のギャルを見て上司はどうしようと思ったけど、面白いから採用してみた。で、hitomiはもともとそんなにメイドやりたかったわけじゃないけど、いざやってみたら即興でお客さんを楽しませることがすごくうまくて、お客さんに喜んでもらうのも楽しかったから、当時は秋葉原にしかなかったメイドカフェを日本の文化に育てようという目標を立ててがんばったと。「萌え」って言葉が流行語になったのも、彼女が発端だったそうです。

あとメイドカフェって、オタクの客に偏見を持ってるヤンキーとかが、バカにするために来店したりもするらしいんです。でも彼女は、「どうしてオタクだからってバカにするんだろう? 何も悪いことしてないただの人なのに、笑われるなんておかしい」と思って、偏見を持たれないような接客を徹底してたりするのも、人柄が素晴らしいなと感じます。

そうやって好きなことで成功しつつ、「メイドを文化にする」ために努力し続けてるのがすごいなと思います。
僕も、マジックを文化にしたいって思うんです。カードゲームだからって偏見を持たれず、いずれオリンピックとかの種目になってほしい。そういうこと言ったら今は笑われるかもしれないけど、hitomiもメイド始めたばかりの頃は「メイドを文化にする」って言ったらみんなに笑われた。

僕がテレビを見てこの人を知ったように、たとえば僕がマジックのプロとして「情熱大陸」とかに出て、「こんなのあるんだ、カッコいいな、こんなふうになりたいな」って一般層が思ってくれたりするようになれたらいいなと。

 

 

●“やると決めたら必ずやりきる”与沢翼
@tsubasa_yozawa

 

最後の与沢翼は、投資家ですね。3人の中で一番僕に近くて、僕のめっちゃ上位互換なんです。
いろいろネットで叩かれたりもしてますけど、1つのことをやると決めたら、一切ぶれずにそれをやり通すところがすごいんです。

彼は1つのことをやりきるために、ほかのすべてを切り捨てるんです。たとえば、株を始めるって決めたら、それ以前の友達の連絡先を全部携帯から消して、24時間のうち寝る時間を6時間と決めて、毎日18時間ずつ、2年間株の勉強をするってスケジュールを立てて、その通りに毎日18時間、2年間必ず勉強するんです。普通そんなこと絶対できないですよね。
最近だとダイエットに取り組んでて、やっぱり目標立てて全力投球して、2か月で20何キロ痩せてました。まあ、急激にやりすぎてリバウンドしたらしいですけど(笑)。
ともあれ、やると決めたら絶対やりきる意志の強さがあるんです。

もしマジックでたとえるなら……プロレベル制度はなくなりましたけど、「1年間練習して、その翌年の1年間本気でプロポイント稼いでプラチナレベルになるぞ」みたいな感じですかね。そのために毎日18時間ずつ、友達と飲みに行くこともせず、徹底して1年間欠かさず練習し続ける。
僕もそうありたくて、練習のためにかなり長時間MTGアリーナやったりしますけど、2日に1回は友達と飲みに行くし、9時間くらい寝てますし、全然甘いですね(笑)。

なんで彼がそこまでできるかっていうと、小学生のときにすごくいじめられてたんです。「あいつらを絶対に見返したい」っていう強い思いがあったからそこまで頑張れたと、本人は言ってました。
実は僕もマジックに復帰する前の2014年ごろ、すごいブラックな職場で一時期働いてたんです。働いてるのは6人くらいなんですけど、3か月以上続いてる人が1人もいないやばいところで。僕ももちろん辞めたんですけど、「こんなつらい思いして働くくらいなら、自分のやりたいことをやって成功してやろう」と。
それでマジックに復帰した最初の1年は、「あんなところには絶対戻りたくない」っていう強い気持ちでめっちゃやりました。だから初めて半年くらいでグランプリ優勝して、その後1年でゴールドレベルまで行ったんです。

なんですけど、ゴールドレベルになったころから、なんか気持ちがひと段落してしまって、僕としてはあまり練習しなくなって……。そうすると、基礎力がないからあまり勝たなくなるんですよね。
それでシルバーレベルに落ちて低迷したときは、なにくそと思う気持ちもあってまた頑張ったら勝ち出しましたけど、現状は勝っても得られるものがほとんどないし、そもそもミシックポイント(=MPLなどの査定に使われるプロポイント)がもらえる大会の数も少ないし、「くやしくてプロポイントを1点でも増やしたいからめちゃくちゃ練習する」っていうことがないんですよね。だから今回もあまり練習せずに来てしまって……。ただ、スポンサードプロとしてそれじゃダメなんですよね。

 

 

●“ゴールがあるなら走れる”自分

今までを振り返ってみても、たくさんやればやっただけ勝ってるんで、また本気でやるって決めて真剣に取り組んだら勝てると思うんです……じゃあやれよって話なんですけど(笑)。
昨日と今日、こういう話をして、ライバルズリーグを目指そうかなって気持ちになったし、この話が記事になったら後に引けないから、来年1年スケジュール立てて本気出そうかなと思い始めました。“マジック界の与沢翼”になりたい(笑)。
ちなみに、今までの経験上、本気出したらライバルズは入れると思ってます(小声)。

1つの環境をやり続けたらその環境はうまくなるんですけど、次の環境になったらまた元に戻る。僕はその繰り返しなんですけど、強くなるには“その環境をどれだけやりこむか”だと僕は思ってます。
たとえばマジックの基礎力が、僕が50点でヤソ(八十岡さん)とかが70点あるとしたら、新環境になったら50と70でスタートするんですけど、僕のほうがめちゃくちゃ練習すれば、90まで積み上げられて、ヤソは普通にやって80で、その時は勝てるってこともあると思うんです。
だから基礎力が10しかない人でも、本当に1日18時間とかやれば、ヤソと同レベルの70とかまで行けると思ってます。そのうち10時間くらいはMPLの配信を見て、8時間は実戦練習。
昔麻雀を本気でやってたことがあるんですけど、今麻雀界のトップにいる人は、強くなるために1日10時間牌譜(将棋の棋譜のようなもの)を見て、3時間自分で打つという練習法だったんです。マジックも同じで、動画を見るための時間を取るのが大事なんですけど、問題は見るよりやるほうが楽しいこと。なのであえて「何時間見る」って設定しておくことは大事だと思います。
それに、新環境で毎回きっかり実力が50点に戻るわけじゃなくて、頑張った分52くらいにはなってると思うんですよ。真剣に練習したら次は54になって、積み重ねていける。そう信じてます。

まとめると、自分はビジョンがしっかりあって、信念をもって生きてる人にひかれるんですね。
それと、ゴールがあったらそこに向かって走り込むのは得意なんだけど、ゴールを見つけるのは苦手かも。一気に走り込んだミシックインビテーショナルのときも、ゴールがはっきりしてたし。ゴールが見えたら走る集中力はあるんだけど、ゴールがないと走れないみたいなとこがありますね。

でも今あげた3人は、自分でゴールを決めて、しかもそれがとんでもない高みにあるゴールで、やると決めたらそこに絶対にたどりつく人なんで、尊敬してます。
彼らを見習って、こんなふうに本気でゴール目指したいと思います。

 


 

覚前さんは一生懸命に言葉を探しながら、尊敬する彼らについて教えてくれました。
自分でゴールを設定するというのは、難しいものです。簡単すぎてもダメだし、難しすぎても挫折してしまいます。
また、自分でゴールを決めて成功を収めている彼らは本当に日本トップレベルの存在で、簡単に思考や行動をまねられるというものでもありません。
ですが、ライバルズリーグという明確な目標を見つけた覚前さんはまた走り出し、彼らの言葉を糧にしながら、ゴールに駆け込む感動の瞬間を見せてくれることでしょう。来年に期待です。

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なお、Team Cygamesの次の取材レポートは、12月のMythic Championship VIIとなる予定です。それではまた来月お会いしましょう!

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