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【MCVII】大会を終え、来期のMPLたちに聞く【Day2】

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MCの土曜日を終えたのち、主にMPLの3名(八十岡翔太さん、行弘賢さん、佐藤レイさん)に、大会のまとめや今年の振り返りなど、さまざまな話題について語ってもらいました。

 

 

 

●現スタンダードは良環境

《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns(ELD)》などの環境を席巻した3枚が禁止になったあと、いろいろなデッキがいる環境になったことを3人とも評価していました。
ただしアグロデッキはまだ厳しいので、アグロ戦略を得意とする佐藤レイさんにとってはつらい3か月だったとのことです。

八十岡「レイにとってはきつい環境だよね。」
佐藤「自分の得意パターンをつぶされたときの。引き出しの少なさが出たね。しかも毎月のように大会があって、毎回禁止カードによって環境が違うというタームの短さもつらかった。今回を含めて、実力不足を痛感する結果だったね。」
八十岡「当分ミッドレンジ環境だから、しばらくきついかもね。」
佐藤「アグロ環境はゲームレンジが見定めやすくて、勝負所を自分で決められるんだけど、ミッドレンジはそれがいつ来るかわからないから、すごく経験の差が出てしまう。特に食物のライフゲインでゲームレンジを崩す『エルドレインの王権』は憎んでるよ(笑)。」

――ただ、レイさんは“人読み”が得意というお話で、相手の使うデッキを予測してリーグ戦で勝ちに行っていますよね。実際、それでMPLの今年1年、リーグでの獲得ポイントはMPL内で1位です。その強みを生かせばいいのでは?
佐藤「相手の履歴とかを見て、使うデッキを分析するのは得意ですね。」
八十岡「まあ、普通にマジックやってるとそういう読みが必要なことってないから、みんなそういう能力を持ってない。来年のリーグも今年と同じようなシステムだったら、役に立つ能力だよね。」
佐藤「だから逆に、大勢がランダムで当たるテーブルトップの大会だとうまくいかなかったりするんだけどね。」

――八十岡さんにとって、今のスタンダード環境はどうですか?
八十岡「うーん、得意でも苦手でもない、フラットな環境。」

――ちなみに、苦手な環境ってどういうものなんですか?
八十岡「デルバー全盛期(《秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets(ISD)》が猛威を振るった『イニストラード』の時期)は過去最低に負けた。陰気くさいクロックパーミッションが強いうえに、《魂の洞窟/Cavern of Souls(AVR)》でカウンターを拒否してくるという(笑)。

秘密を掘り下げる者 魂の洞窟

コントロールとコンボが好きだから、アグロ環境は嫌いだね。あと“通ったら負け”なカードが多い環境も。3ターン目の《聖トラフトの霊/Geist of Saint Traft(ISD)》とか。
コントロールを俺だけ使って勝てるって環境が一番好き。アグロがほどほどに強くて、それに有利めのミッドレンジが幅を利かせてる環境がコントロールは一番強いから、ミッドレンジとアグロにちょっと寄ってる環境が得意。」

 

 

 

●シミックフラッシュについて

――今回の勝ち組デッキはどれでしょうか?
八十岡「シミフラ(Seth Manfieldが作り、Javier Dominguez、Brad Nelsonと組んで調整した「シミックフラッシュ」)。」
佐藤「ジェスカイファイアーズに強くて、ほかのデッキにも戦えるシミフラは間違いなく最高のデッキ。僕はジェスカイファイアーズ持って来たから、前日にこのデッキとけっこう対戦練習してみたんですけど、マジで勝てなかった。」
八十岡「あれはデッキタイプではなく、独立した1つのデッキ。今までのシミックフラッシュとは違うデッキだから。」
佐藤「狼ランプっていうか……青緑ミッドレンジかな?」
行弘「ニッサゴーとか、別の呼び名のほうがわかりやすいかも。」

――シミックフラッシュが今の環境にベストマッチということですか?
八十岡「ベストではないと思うけど……。」
佐藤「ジェスカイファイアーズとサクリファイスの2強環境ではベストじゃない?」
行弘「苦手とするデッキが、たぶんジャンドサクリファイスだけなんですよね。」
八十岡「え、ゴルガリアドベンチャーもきつくない?」
佐藤「そうそう、いつかは《エッジウォールの亭主/Edgewall Innkeeper(ELD)》が通っちゃうし、実際負けてたし。」
行弘「いやでも、元のシミフラと違って押し付けがあるデッキだから、普通よりマシだと思う。今のアドベンチャーは遅めにシフトしてるから毎回ブン回らないし。」
八十岡「それはそう。普通のシミフラだったらマジで勝てない。8:2だったのが6:4くらいになってるから、まあ不利は不利かな。あと、シミックランプがきついと思う。」
行弘「ああ、それは不利だね。」
佐藤「ともあれ、あのデッキは今大会最高だと思うよ。サイドボードの《薬術師の眼識/Chemister’s Insight(GRN)》と《ケンリスの変身/Kenrith’s Transformation(ELD)》見て、こいつらどんだけやりこんでんだよ! と思ったもん。」

薬術師の眼識 ケンリスの変身

八十岡「《薬術師の眼識》は、対コントロールに入れるのはわかるけどサクリファイス相手に入れるとは思わなかった。消耗戦する感じなんだろうね。」
行弘「使った3人が3人ともトップ8進出だからね。さすがにやばい。」

――今大会を受けて、The Finalsでも使用者が増えるんじゃないでしょうか。
八十岡「ただあのデッキ、使用者の腕によって強さが50から100まで変わるから、適当にカード出してたら勝てないよ。」
佐藤「うん、使い方はすごく難しいね。」

 

 

 

●MPL、3人とも残留決定!

金曜日の段階では佐藤レイさんのMPL残留が五分五分となっていましたが、土曜日の試合で当落線近辺のプレイヤーがジェスカイファイアーズを使用して軒並み負けたため、佐藤さんも残ることができました。
ライバルズ・リーグに入れるポイントの日本人選手はいないため、今年に引き続きこの3人が“日本のプロ”として活動していくことになります。

次期MPLとなった24人のリストを眺めながら、3人は「MPLは本当に実力を的確に反映しており、“鉄強”のトッププレイヤーしかいない」と改めて感心していました。1年かけてリーグ戦と7回のミシックチャンピオンシップを行なったことで、経験値が高く本当に強い人だけが絞り込まれた形です。

MPLリスト

佐藤「(リストを見ながら)こうやって見ると、オレしか弱いのがいない!(笑)」
行弘「ポーカー理論で言うと、テーブルにカモが見当たらないときは、自分がカモってこと。」
八十岡「この24人から、8月の入れ替え戦のときに8人落ちるってことでしょ?」(※24人のうち下位2人はライバルズ・リーグに降格。下6人は入れ替え戦の「ガントレット」で戦い、MPLかライバルズに振り分けられる)
佐藤「やばいね。16~14位あたりを必死で目指していくしかない。」
行弘「しかも、上6人くらいは絶対落ちてこないよね。ハビエルとかセスとか、専業プロたちは本当に強い。」
八十岡「メングッチ君とかカニスターとかも、格ゲーのプロみたいな感じで普段の生活が全部マジックの練習で、その中から決まった時間配信してる感じだからね。」
行弘「そういうとんでもないやつらが上位を占めるのは確定だから、残りの枠はますます狭いよ。」
(横から)覚前「レイ君は自分の立ち位置が厳しいって自覚してるんでしょ? 次のシーズンどうするつもりなん?」
佐藤「必要性が人を成長させると思ってるから。勝たなきゃ死ぬなら、進化するしかない。」
行弘「俺たちも、束になってかかるしかないよ。今回ハビエルとセスマンとブラネルが組んでるんだから。」
八十岡「魏・呉・蜀が手を組んだみたいなもん(笑)。」
行弘「こっちも徒党組まなきゃ対抗できないよ。昔、チャネルファイアーボールが結成されたときにチーム調整の大切さを日本は思い知ったでしょ!?」
佐藤「でもなー、ヤソは協力する気がないからなー。」
八十岡「向こうが組むからこっちもってのは小物の考えでしょ(笑)。ライバルズに落ちても、それはそれで楽しそうじゃん?」
行弘・佐藤「そんなこと言わずに、お願いしますよ~!!!!!。゚(゚´Д`゚)゚。」
(一同笑い)

 

 

 

●来年の目標

大会を終えた皆さんに、それぞれ来年はどんな年にしたいか、次なる目標を聞きました(八十岡さんについては別の記事で掲載します)。

佐藤レイさん

Naro Photography

今回はMPL残留のために初日を抜けることが第一目標だったという佐藤さんは、強い人やデッキに勝つことよりも、強くない人やデッキを相手に取りこぼさないことを優先して、“丸い”デッキのジェスカイファイアーズを持って来ました。
「でも、その“置きに行った”選択が失敗でしたね」と佐藤さん。そもそもこの大会は強い人ばかりだし、強くないデッキや人はすぐにドロップしていなくなるので、この大会へのアプローチとしては合っていなかったからです。
今後はさらにマジックに注力して、使えるデッキの幅を増やし“進化”することでMPLを継続したいというお話でした。

行弘賢さん

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今年の行弘さんは、MPLに残るという目標を達成できましたが、先日のMCVでのトップ8によりMPL残留がほぼ確定したあと、MCVIとVIIではパフォーマンスが落ちてしまったと自分で感じているそうです。なので、「自分が有利な状況や安全圏になったときでもモチベーションを下げず、攻める姿勢でマジックに取り組む」というのが今後目指す方向性となります。
また、リスクを冒さずに勝ちに行こうとすると必ず負けていて、リスクを冒したときは負けることもあるが大きく勝つことも多かったので、自分にはそのスタイルが合っている、ということにこの1年で気づけました。
リスクを冒さないようにと、単純にアリーナの勝率ベースでデッキを選ぶと、佐藤さんがジェスカイファイアーズを選んだような罠にはまることも多いため、「数字はあくまで判断材料の一部として、勝率が高い理由が、自分がやりこんだからなのか、サイドボードプランがちゃんとできているからなのかなどを理解したうえで、自分の主観で、何を軸にするかを決めてデッキを選ばなきゃいけない」ということを、この1年の経験によってより強く認識するようになったそうです。

覚前輝也さん

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この行弘さんの話を聞いて覚前さんが言うには、基本的にアリーナの勝率ベースでデッキ選択をしてきており、今回も勝率が71%ありましたが、冷静に考えるとそこまで勝ち切れていなかったし、ジェスカイファイアーズに対しての勝率が50%以下、ジャンドサクリファイスには50%でした。
「僕の選んだラクドスサクリファイスデッキは、この2つ以外……その他大勢には強いデッキだったけど、この大会に来る人が、そんな弱いデッキ持ってくるわけがないんですよね。」持ち込む人が多いだろう強いデッキに勝てないものを選んでしまったのは、勝率を重視したことに問題があると思われるため、もっと深く考えるようにしたいと覚前さん。
「僕のアリーナでの勝率は、世界中の幅広い人を相手にした数字でしかないから、僕がここに来れてる時点で、高くて当然なんですよ。アリーナの勝率でイキってても勝てないってことがよくわかりました」と反省していました。
そして今はやる気がかなりあるので、The Finalsのために上京する可能性が高いそうです。

吉野高平さん

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吉野さんは初めてアリーナMCに出場し、テーブルトップのMythic Championshipと比べて選手の待遇がよく、同じ名前でもまったく別の大会だとわかりました。
「なんとしても次のアリーナMCにも出たいので、今度のアリーナMCQ(1月11~12日に開催される予選)を抜けられなかったら坊主にします!」と宣言。
佐藤さんは「坊主になったくらいで予選抜けられるなら、世の中坊主だらけでしょ」と言っていましたが、吉野さんは生まれてから一度も坊主にしたことがなく、真冬でもあるためかなりの“制約と誓約”に該当しそうです。
また、現時点ではMPLのプレイヤーがミシックポイント獲得のためにMCQに出ていいかどうかがまだわからないのですが、「出てきた場合、坊主に直結する可能性があるので、なるべく出てほしくないです!」とも願っていました。

なお、覚前さんも「そういうのやったら?」と話を振られていましたが、覚前さんはそういうのでモチベーションが上がるタイプではなく「常にやる気はある」ので、髪の毛を賭けたりはしないそうです。

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いかにもリゾート地らしく、晩ご飯は海沿いのレストランで夜景をバックに。

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キラキラにライトアップされているのは、豪華客船クイーンメリー号。運航はしていませんが、中に宿泊できます。1990年代、まだ人数が少なかったころのプロツアーをこの船上で開催していたことがあり、マジックプレイヤーにとっては伝説的な場所なので、軽くテンションが上がりました。

このあと、年末にThe FinalsやThe Last Sunといった大会を経て、プレイヤーの皆さんはぼちぼち次シーズンのパイオニアに向けて動き始めることになります。
来期のMPLがどういった方法で運営されていくかはまだ詳細が決まっていませんが、今年同様マジック漬けの忙しい1年になることは間違いないでしょう。3名のMPLの幸運を祈りたいと思います。

Naro Photography

 

 

●おまけ:日曜日

3日目となる日曜日、八十岡さんと覚前さんは決勝ラウンドの模様を日本語配信で観戦。覚前さんはトップオブトップのプレイングを見て、「レベルが違ううまさだから、逆にやる気出てきた」と言っていましたし、3日間日本語配信で解説をつとめた市川ユウキさんも同様にやる気が爆発していたようです。2月のプレイヤーズツアーが楽しみですね!

写真提供:Wizards of the Coast LLC

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