【MCVII】八十岡翔太の2019年【Day3】
Team Cygames内でただ1人、MCIからMCVIIまですべての大会に出場した八十岡翔太さん。MPLとして定期的な配信を行ない、強豪たちとのリーグ戦を3回にわたって繰り広げた、マジック漬けの1年でした。
さらに、2019年はMPL制度のスタートだけでなく、マジックにとってたくさんの大きな変革があった年でもあります。激動の1年を、八十岡さんならではの視点で振り返る企画です。
●1年のイベント振り返り
32人のMPLがシアトルに集まって会議が開かれたところから、MPLとしての活動がスタート。
テーブルトップ/スタンダードと『ラヴニカの献身』ドラフト
公式カバレージ/Team Cygamesレポート「八十岡 翔太 2日目スタンダードラウンドまとめ+「赤単タッチ黒」デッキテク」
赤単タッチ黒アグロで10-6、62位。
――このときはまだ、今までのプロツアーと特に違いはなかったですよね?
八十岡「ないです。今まで通りでした。
使ったのは、《実験の狂乱/Experimental Frenzy(GRN)》じゃなくて《リックス・マーディの歓楽者/Rix Maadi Reveler(RNA)》が入ってる赤単ですね。まあ特に、すごく強いデッキってわけでもないし、普通でした。今となってはあんまり覚えてないですけど……。
放送始めたのは、これのあとからだったはず。」
――放送を始めて、生活はどう変わりましたか?
八十岡「放送のために時間を割く分、自分の時間が減っただけでそんなに変わってないですね。
もともと、2019年は何か新しい仕事に取り組みたいなという気持ちもあって、2018年に既存の仕事を少し整理して減らしてたんですよ。そしたら、2018年の10月に突然MPLの話が降ってきて、さすがに断るって選択肢はないから、今までの仕事が一部マジックの仕事に置き換わったような感じなんですよね。
配信自体は、時間を確保するのだけちょっと大変ですけど、Twitchでの収益はあんまり考えてないから、別に環境を整えたり、前もって準備したりもしないし。」
――それでも、それなりの視聴者数はいますから、それなりに収入はあるのでは?
八十岡「いや、せいぜいおいしいご飯が食べられる程度ですよ。配信やってるのはMPLの契約だから、仕事としてやってるのがメインで、収益は考えてないです。」
テーブルトップ/スタンダード
公式カバレージ/Team Cygamesレポート「マジックフェスト・京都2019レポート」
赤黒アリストクラッツで5-3、496位。
八十岡「何も記憶ないですね。出場してたかどうかもあやしい(笑)。」
アリーナ/2デッキ制BO1スタンダード
公式カバレージ/Team Cygamesレポート「ミシックインビテーショナル・あとわずかの2日目」
「ライラエスパー」/「ネザールエスパー」で1-2、35位。
八十岡「今となっては、もうちょっとやりようあったかなと思います。Savjz(Janne Mikkonen)に負けたのが悔しいですね。デッキ選択を逆にしてれば絶対勝ててたはずなんで。」
――これが初めてのMTGアリーナによる大会でしたね。
八十岡「なかなか盛り上がって、配信見てる人も多かったし、プレイヤーも増えたし、ここからアリーナというゲームの躍進が始まりましたね。
もちろんBO1はどうなのって話はあって、エスパーコントロールと白単か赤単ばっかりだったんで、見ててつまらないエスパー対決が頻発したのはよくなかったですね。クリーチャー除去に寄ったエスパーのミラーはどれだけ無駄牌を引かないかの勝負だけで、それを繰り返し見せられるのがきつかった。」
テーブルトップ/モダン
公式カバレージ/Team Cygamesレポート「マジックフェスト・横浜2019レポート」
イゼットフェニックスで11-4、92位。
八十岡「テーブルトップのほうはあんま好きじゃないモダンが続いて、個人的にはつらかったですね。テーブルトップのモダンMC2回はまったく勝ってないので、モダンの大会が多かった今年、よくMPL維持できたなと。」
――どうして好きじゃないんですか?
八十岡「ゲーム中の技術介入度が低すぎる。マッチアップ相性がかなり出るので、座った瞬間に7:3みたいなのがあるのがあんまり好きじゃないですね。」
テーブルトップ/モダンと『灯争対戦』ドラフト
公式カバレージ/Team Cygamesレポート「イレギュラーに立ち向かう ~前日インタビュー~」
親和で8-8、210位。
――このときはロンドンマリガンに変更、モダンでデッキ公開制に変更、発売前の『灯争対戦』によるドラフトと、ルールが激変しました。
八十岡「そうでしたね。ロンドンマリガンになったこともあって、親和にしました。」
メンバー:Christian Hauck、Alexander Hayne、Martin Jůza、Grzegorz Kowalski、Seth Manfield、Matthew Nass、Brad Nelson
戦績:3-4
使用デッキ
1週目:スゥルタイ
2週目:覚えてないので不明
3週目:ゴルガリ土地破壊
4週目:赤単アグロ
――MPL初のリーグ戦は、毎週デッキが違って毎週2人ずつ対戦するというシステムでした。序盤は全然情報がなかったですね。デッキリストも発表されず、いつそんなのやってたんだって感じで……。
八十岡「1週目は《伝承の収集者、タミヨウ/Tamiyo, Collector of Tales(WAR)》とかが入ったスゥルタイで、のちのち流行ったような感じのデッキなんですけど、このときは環境を先取りしすぎましたね。
2週目くらいからみんなで練習しだして、3週目は一緒のデッキです。」
――途中で、「日本のMPLどうし協力しよう」となったんですか?
八十岡「とにかく時間がなさすぎて。MCIIの後に『来週からやるよ』って発表があって、しかもそこまで『灯争対戦』環境のスタンダードの大会は何もなかったからゼロベースで、とりあえず3人とも所属のディビジョンが別だったし、みんなでデッキ出し合って考えようって話になって、毎週日曜に僕の家に集まってやってました。」
――3週目のデッキはその調整がうまくいったパターンで、みんなけっこう勝ったんですよね。
八十岡「そうですね。3~4週目くらいには次のMCIIIで使うエスパーがほとんどできてたんですけど、4週目で3-0しても1位になれないのがわかってたから、使わず温存しました。リーグが始まったときから、MCは別々で調整しようって話してたので。」
アリーナ/スタンダード
公式カバレージ
エスパーコントロールで7位。
――このとき八十岡さんが使った《ボーラスの城塞/Bolas’s Citadel(WAR)》は流行りましたね。
八十岡「3か月くらい、ほぼみんな《ボーラスの城塞》入りでしたね。エスパーヒーローにも入ってたし。
このデッキは自信作で、ブラネル(Brad Nelson)もけっこう褒めてたんですよね。大会が終わった後『これがベストデッキ』みたいにツイートしてて。
最後はTOP4賭けの試合でブッディ(Kai Budde)に負けちゃいましたけど、うまくやってたら勝ててたから悔しかった。}
It’s been a couple weeks, and I still can’t get over how great @yaya3_ deck was for #mythicchampionshipIII. I really thought he was going to win the whole thing when I saw decklists earlier in the week. Dude got robbed. https://t.co/Gvdd9dO8ZL
— Brad Nelson (@fffreakmtg) July 9, 2019
※(意訳)「数週間経ったが、MCIIIの八十岡のデッキがどれほど素晴らしいかいまだに忘れられない。最初にこのリストを見たとき、必ず彼が優勝するだろうと思った。(勝利は)奪われたが。」
――あのときはKai Buddeがトップデッキしまくったんですよね。
八十岡「あと、このときは2日目から出場して1-2だった行弘(賢)と(佐藤)レイが5位と6位で、このシステムどうにかしろよと(笑)。ブラケット(対戦組み合わせ)が関係なく勝ち数で順位が決まる謎システムだったんです。
初日は5勝で勝ち抜けだから5-0した人ってそれ以降試合がないんですけど、そういう人はそのあとの試合も全部勝ち扱いになる感じだった。だから1日目をスルーした人は7勝から始まって、5-2で抜けた人とすごい差がつく。このときは順位による獲得ミシックポイントの差も大きかったし、わかりづらすぎてみんな文句言ってたんで、このあとシステムが変わりました。
まあ、アリーナのMCはこれが初めての大会だったんで、最初はしょうがないですけど。」
――確かに、ミシックインビテーショナルはMythic Championshipではないので、これが初ですね。テーブルトップと比べてどうでしたか?
八十岡「やっぱり楽しかったですよ。最初はデッキリストを手渡しで交換したりするようなアナログさに慣れないところもありましたけど、ラスベガスで雰囲気も盛り上げてて、イベント自体はすごいよかったです。参加人数が少ないから1人1人に手厚い待遇で、招待されたという特別感がすごくあるし。」
テーブルトップ/モダン
公式カバレージ
イゼットフェニックスで2-5、371位。
八十岡「《甦る死滅都市、ホガーク/Hogaak, Arisen Necropolis(MH1)》全盛期でした。ホガークはミラーをどうにもできないからやりたくなくて、親和が全然勝てない環境だし、イゼフェニ使ったんですけど、モダンなんであまりよくなく終了。」
テーブルトップ/『基本セット2020』リミテッド
公式カバレージ
13-1-1で5位。
八十岡「M20リミテッドはいろいろできるかなりおもしろい環境で、自分に合ってましたね。このときは5色デッキ作って勝ったんですけど、特にシールドで多色できる環境だと勝ちやすいですね。久しぶりのトップ8でしたけど、残念ながら1没でした。」
――MPLだとミシックポイントが入らないグランプリに出る理由は特にないですが、ちょくちょく出ていますよね?
八十岡「リミテッドGPは基本的に全部出るようにしてますね。シールドが好きなんで、シールドできるイベントはそれしかないから。」
――シールドのどこが好きなんですか?
八十岡「ドラフトのほうが運ゲーで、シールドのほうが実力出るので(笑)。プロツアーもドラフトじゃなくてシールドにしてほしい。」
メンバー:Alexander Hayne、Eric Froehlich、Jessica Estephan、Luis Salvatto、Martin Jůza、Paulo Vitor Damo da Rosa、Seth Manfield
エスパーコントロールで4-3、4位。
――ここからはリーグごとにまとめて試合して、トップ4から試合を配信するシステムに変わりました。
八十岡「このときはトップ4の初戦でジュザ(Martin Jůza)に負けたのかな。ジュザはネクサスだったんですけど、コントロールに強めにしてて、《薬術師の眼識/Chemister’s Insight(GRN)》の部分が《抽象からの抽出/Drawn from Dreams(M20)》になってて《覆いを割く者、ナーセット/Narset, Parter of Veils(WAR)》が効かない。でもその形だと、普通のネクサスには弱いんでそのあと負けてましたけど。
ジュザとしては、1試合目が僕と決まってたからコントロールに強い構成にしたと思います。このときはリーグとトップ4以降とでデッキを変えられたので、特に人読み要素が強かった。」
――そうすると、みんな初戦を突破できるように相手をメタるわけですか?
八十岡「ただ、トップ4に入ってからは1位にならないと意味がない。僕は下位抜けだから3人全員に勝たないといけないシステムで、デッキをとがらせるとどこかで負けるんで丸くした感じです。」
――リーグ戦特有の人読み要素は、八十岡さんはけっこう楽しんでましたか?
八十岡「嫌いじゃないですけど、好きでもないですね。人読みで特化した構築で勝ったとしても、それって赤単相手にプロテクション赤デッキで勝ったみたいなもので、勝ちということ以外に意味がないんですよ。見てて別に面白くないし、スタンダードの環境に何の影響も与えない。
実際、このときはそういう側面が強くて、スケープシフトとヴァンパイアの二強環境だったのにそれを誰も使ってない、なんてのもあったし。
参加者のクセとか好きなデッキとかを知ってて、何を考えてそのデッキを選んだのかがちゃんとわかって見れば面白いと思うんですけど。なんで、このシステムを楽しめるのはマニアだけです(笑)。」
公式カバレージ/Team Cygamesレポート「日本選手権2019レポート」
配信の解説者を務める。
――この時期は《隠された手、ケシス/Kethis, the Hidden Hand(M20)》の一強環境でしたね。
八十岡「大ケシス時代(笑)。『ケシスにあらずんばデッキにあらず』みたいな。でもこの時期って完全な環境末期だから、だいたいこうなるんですよ。昔の日本選手権でもラリー一強とか、バントカンパニー一強とかあったし。」
――そういう状況での解説はどうでしたか?
八十岡「難しいデッキだからけっこうおもしろかったですよ。ケシスの使用者数も3割くらいでそんなに多くなかったんで、なんだかんだでケシス以外も勝ち残ってたし。」
――解説自体は以前から時々やっていましたが、難しいところはどこですか?
八十岡「実況の方も一緒だし、構築に関しては別に難しいことはないんですけど、リミテッドの解説はあんまりやりたくないですね。見てる人もカードわかんないし、どうやったら楽しめるものになるか難しいんで。
ただ、プロを解説するのと普通の人を解説するのはかなり別物ですね。グランプリとかだとプロツアーと違って、お互いに少しずつミスり合って状況が変わるみたいな、泥臭いゲームが多い。ゲーム展開は予定調和よりもおもしろいんですけど、それをどう説明するか、表現には気を遣います。」
アリーナ/スタンダード
公式カバレージ/Team Cygamesレポート「初日まとめ:八十岡 翔太」
シミックフードで2-4、50位。
八十岡「このときはデッキ自体あまり強くなかったというのはありますね。アリーナベースでやってたから、アリーナのゴロス原野にはけっこう勝てたけど、MPL相手ではやっぱり不利だった。
このときは時間もあまりなくて、《死者の原野/Field of the Dead(M20)》が嫌いだから使いたくなくて、ほかにいいデッキがなかった。1年のMCの中でこのときだけはしかたなく使ったデッキなので、結果もしかたないかなと。」
メンバー:Andrea Mengucci、Andrew Cuneo、Brian Braun-Duin、Janne Mikkonen、Matthew Nass、Paulo Vitor Damo da Rosa、Shahar Shenhar
シミックフードで5-2、1位。
八十岡「《死者の原野/Field of the Dead(M20)》が禁止になって、環境はすごくわかりやすくなりましたね。最初にシミックフードが出てきて、そのあとスゥルタイフードが出て、そのタイミングで僕のリーグがあったんで、タイミングはかなりよかったですね。」
――わかりやすい環境は得意ですもんね。
八十岡「それは間違いない。もうちょっと違うデッキもいるかなと思ったらクネオ(Andrew Cuneo)だけセレズニアで、あと6人スゥルタイフードだったのは驚きました。みんなガチだなと。もう残りの大会も少ない次期だから、ここでポイントを稼いでおかないとMPLに残れないみたいなのもあって、みんなハイリスクハイリターンを避けて、4勝で8ポイントくらいを固く取りに来たのかなというのもありますね。」
――1位になれた勝因は?
八十岡「このときは、こっちがスゥルタイフードのことをわかっているほどには向こうがシミックに対して練習できてなかったような感じもありましたね。スゥルタイ同系だと重いほうが勝つから、このときは重くし合ってる段階で、そこにうまくハマったかなと。」
――八十岡さんのデッキに《総動員地区/Mobilized District(WAR)》が入ってて、「そんなのがあったか」という印象でした。
八十岡「僕が配信でレビューさせてもらったカードなんで、まあまあ思い入れあるし、ミシュラランド(クリーチャー化する土地)好きだし。
《総動員地区/Mobilized District(WAR)》が《世界を揺るがす者、ニッサ/Nissa, Who Shakes the World(WAR)》と相性がいいってのは、以前アリーナでまったく違うデッキ使ってたときに気づいてて、今回マナベースに余裕があるから試しに入れてみた感じですね。」
公式カバレージ
配信の解説者を務める。
八十岡「スゥルタイフードとシミックフードの二強環境にみんながいろいろ工夫してそれを倒すデッキを持ち込んだが、結局勝ったのは《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns(ELD)》だった、みたいな大会でしたね。
ここは『大オーコ時代』。ただグランプリでは使用率3~4割くらいだったはずだから、まだマジでした。」
テーブルトップ/スタンダード
公式カバレージ/Team Cygamesレポート「2日目スタンダードラウンドまとめ」
シミックフードで10-6、70位。
八十岡「引き続き同じ環境で、まああまり時間もなかったんでリーグで使ったデッキをちょっといじって出ました。」
――マジックの長い歴史の中でも、70%が《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns(ELD)》を使っていたというのは、後にも先にもなかなかないでしょうね。
八十岡「プロツアー・オーコでしたね。結局このあと《王冠泥棒、オーコ》と《夏の帳/Veil of Summer(M20)》と《むかしむかし/Once Upon a Time(ELD)》が消えたわけで、禁止カードが3種類入ったデッキを使わなかった奴らは何を考えてるんだ、というレベル(笑)。」
アリーナ/スタンダード
公式カバレージ/Team Cygamesレポート「2日目・八十岡翔太編」
5Cファイアーズで4-3、11位。
八十岡「3種類の禁止カードが出たにもかかわらず、今回も上位にシミックが多くて、どれだけ強かったのかと。結局《楽園のドルイド/Paradise Druid(WAR)》からの《世界を揺るがす者、ニッサ/Nissa, Who Shakes the World(WAR)》と《ハイドロイド混成体/Hydroid Krasis(RNA)》が、ベースとしてすごく強い。」
――《楽園のドルイド/Paradise Druid(WAR)》は、地味ながら貢献度がすごく高いですね。
八十岡「今のマジックって3マナまでが弱くて4~5マナ圏がすごく強いんで、2マナから4マナにスキップできるのがすごく強いんですよ。たとえば2ターン目に《楽園のドルイド》、3ターン目に4/4狼(《夜群れの伏兵/Nightpack Ambusher(M20)》)という動き。先攻なら相手の3マナのカードはだいたい無視できるから、そのターンエンドに《夜群れの伏兵》を出せば、4~5ターン目には相手の強いカードに対して全部カウンターを構えられる。
逆に言えば、相手の4~5マナはほぼマストカウンターだから、《楽園のドルイド》もしくは《成長のらせん/Growth Spiral(RNA)》で1ターンずらさないと《夜群れの伏兵》は出せない。」
――ああ、そういえば《成長のらせん》もシミックを支えてますね。今回、Brad Nelsonさんの《成長のらせん》のタイミングがすごくうまいというのが話題になっていました。
八十岡「ああ、あれは相手の3ターン目に撃つとカウンターされてこっちの3ターン目何もできないけど、向こうが4マナ構えのエンドに撃てば、相手としてはこれをカウンターすると次の《夜群れの伏兵》が通っちゃうから打ち消しづらい。そうやってマナを追い抜くって話ですね。」
――なるほど。常に早くマナを伸ばしたくて、最速で撃ってました!
八十岡「《成長のらせん》って昔から軽視されがちですけど、だいたいマストカウンターなんですよね。あと下手な人って、必ずエンドに撃とうと思うから、相手が《成長のらせん》から《神秘の論争/Mystical Dispute(ELD)》で返してきた場合、自分が先攻なのに相手のマナのほうが多くなって、完全に攻守が入れ替わる。
だからドミンゲスも、相手がタップしてたらメインで《成長のらせん》撃って土地置いてゴー、って動いてましたよね。そういう細かいところがきちんとできるかどうかが大事です。」
――勉強になります。
八十岡「この環境、カウンターデッキだけどタップアウトしてもいい瞬間はけっこうある。ファイアーズデッキだったら4マナ、それ以外だったらだいたい5マナがカギだから、そこだけ絶対カウンター構えるけど、それ以外は致命的なものを出されない間に動いて早めに場を作っておくとか、当たり前ですけどそういうことができるのがうまいプレイヤーですね。
そういう点では、シミックフラッシュはただコピーしてもなかなか勝てないデッキだと思います。根本的に理解してないと、真似できないんですよね。」
――先日の記事で言ってた、「ゲームプランを理解する」って話ですよね。
八十岡「それがわかってればデッキの回し方や、それぞれの場面でどう動くべきかがわかる。サクリファイスにしろシミフラにしろ、最近のスタンダードは頭を使うデッキが多いからプレイングが出やすいかなと。だからこそ今大会みたいに、うまい人が勝つんですけど。」
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●八十岡翔太の現状と未来分析
ここからは、今年の総括と来年に向けて、さらに現代マジックが構造的に抱える問題点などについて語ってもらいました。
やはり忙しい2020年の展望
――この1年はやはり多忙でしたか? 今回も調整時間がなくて脳内構築という話でしたが。
八十岡「それは前からなんで、たいして問題ではないです。純粋に配信する時間がブラスされたのと、プロツアーの回数が増えて移動時間が多いんですよね。移動のたびに持ってかれる時間と、いない間にいろいろスタック詰まれてそれに追われるのがけっこうきつい。」
――来年はプレイヤーズツアーのうち2回は日本開催ですから、その分楽なのでは?
八十岡「いや、プレイヤーズツアーファイナルは海外だから、関係ないですよ。プレイヤーズツアーファイナル3回に、アリーナの大会3回のはずだから、それにアジアのプレイヤーズツアーを足した分、単純に出るイベント自体は増えますよ。
それにプラスして、ミシックポイントチャレンジ(ミシックポイントを獲得できるアリーナでの大会)にも毎月出るはずなので……。これ、いつも日本時間の夜23時からスタートなんですよね。」
――うわー、徹夜ですね。来年も今年に増して大変そうです。
八十岡「ただ、放送しないといけないっていう契約は来年はなくなるので、今後やるかどうかは個人の自由です。」
――今までのように放送による報酬上乗せがないなら、別にやる理由はないですね。でもなくなるのは残念です。そのミシックポイントチャレンジに出ないといけないなら、その様子を配信したらどうですか?
八十岡「それもありですね。ただみんなが見たいのはそういうのじゃない気もするんですよね。真剣にやればやるほどしゃべらなくなるし、ゲーム見ててもそんなに面白くないんで。」
――普段、どういう放送が人気があるんですか? 視聴者数やビデオの再生数などで判断できるのでは?
八十岡「そういうの見ないんでわかんないです(笑)。確実に一番人気があるのは新環境のスタンダードで、大会直後もまあまあ増えます。
放送については、今後どうすればいいかまだ考え中です。」
マジックをやらずに強くなる方法
八十岡「去年は『ダラダラプラチナ』が目標だったんで、今年は『ダラダラMPL継続』を目標にしてて、まあ達成できたかなと。」
――「ダラダラMPL」って、言うは易く行うは難しですね(笑)。
八十岡「ただ、『ダラダラ世界選手権出場』は無理なんですよ。『本気出して世界選手権』か、『ダラダラMPL継続』のどっちか。でも、仕事もあるし本気でマジックに専念するのは難しい。メングッチ君(Andrea Mengucci)やハビエル(Javier Dominguez)、カニスター(Piotr Glogowski)みたいに、毎日配信して専業でやり続ければマジックは勝てるゲームだと思うんですけど、だからといって実際にやれるかどうかは別。」
――八十岡さんは仕事でも必要とされているし、マジックにオールインすることは考えていないと。
八十岡「仕事は好きでやってるから続けたいですね。だから、『できるだけマジックやらないで勝つスキルを上げる』というのが、ここ数年の課題ですね。」
――えっ、それってどうするんですか? やはり実戦より理論重視ということですか?
八十岡「僕は大会で、自分の理論やアプローチが合ってたかどうかを重視してます。だから結果としては負けても、同じ理論を持ってる人が勝ってればいい。勝ち負けよりも、何を考えた結果どうなったかが大事という。」
――たとえるなら、みんなが頑張って走ってるときに、八十岡さんは立ち止まって一気に飛び越える機械を設計してるって感じですよね。
八十岡「まあ、仕事でも何でもそうですよ。エクセルのマス目をがんばって1つずつ埋めるより、プログラム作ってボタン1つ押したら全部できるようにすれば、最終的にそのほうがいい。僕が考えてるのはそういうことです。
去年一昨年、〈MUSASHI〉でけっこうチーム調整して、同じチームデッキを使うとどうなるかとか、細かく統計取って結果ベースにしたらどうなるかとか、実験的にいろいろやってみた。で、今年はアリーナベースでやったらどうなるかというテーマが1つあって、そうすると結果ベースになりやすい。今年を受けて、来年はどうしていこうか考えてるところです。」
――アリーナでの結果をどれだけ重視するかは、人によりますね。
八十岡「そもそもアリーナとテーブルトップはかなり違うゲームなので。
アリーナMCのほうが人数少ないこともあって、弱いデッキが少ない。そうすると、『弱いデッキに対して強いデッキ』の価値は相当下がる。でもグランプリやテーブルトップのミシックチャンピオンシップは、人数多いから弱いデッキも多い。つまり、『弱いデッキに対して強いデッキ』にも価値があり、逆に『弱いデッキ対策を切り捨てた強いデッキ』が勝つわけではない。
メングッチ君がグランプリで勝たない理由は、そこにあると思うんですよ。彼は『強いデッキに対して強いデッキ』を使うから、弱いデッキのことは見てない。そうするとグランプリに多い、遊びで出た人の弱いデッキにコロッと負けたりする。
でもアリーナMCはスタンダードで予選を抜けたやりこみ勢の集まりだから、デッキは絶対強い。そうすると、『強いデッキに対して強いデッキ』の価値がより高くなっていて、だからメングッチ君はアリーナのイベントですごい強いのかなと。」
アリーナによって起きた変化
――今年は禁止カードがたくさん出ましたが、MPLのリーグでデッキの洗練が進んだからでしょうか?
八十岡「それはアリーナのせいですね。マジックを競技的にやってる人口が増えて単純に声が大きくなったこともあるし、e-Sportsとしての打ち出しが強くなって、映像映えを気にしだしたのもある。今までは土地事故しようが試合がグダろうが、『マジックはそういうゲームだから』って押し通してたけど、最近は配信で『またこのつまらないデッキか』みたいに思われるのを避けたいと思うようになったかなと。
で、デジタルだったら強すぎるカードをナーフ(弱体化)すればすむけど、アナログのカードに書いてあることは基本変えられない。禁止にするしか選択肢がないのは、ほかのデジタルカードゲームと比べて厳しいところですよね。」
――2019年は、マジックの中でアリーナの占める割合が高くなった年でもありますね。それによって起きた変革も多いと。
八十岡「あと、今の開発チームがけっこう競技寄りで、あまりカジュアル向きではない状態になってたのもあるかな。
《死者の原野/Field of the Dead(M20)》にしても、競技的には原野デッキがあって、フードがあって、それを倒すグルールがあるって状況は別にいいんだけど、カジュアル的には原野デッキはただ土地置いてるだけで常に安定して回るし、相手にするとクソつまらんってなる。《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns(ELD)》に関しても、コガモ(津村健志)とか瀧村(和幸)君みたいに、『オーコ同士で戦うのが楽しい』って言う人もいるけど、それを楽しめる人はやっぱり限られる。」
――最近のリミテッドが面白いと言われるのも、開発が競技寄りだからでしょうか。
八十岡「ああ、リミテッドはバランスがよくないと面白くないゲームだから、うまく調整されてると思いますね。
ただ、マジックの面白さには、競技的な面白さと、カジュアル的な面白さがある。競技的には、一強デッキがあって、それを倒す側と守る側の戦いみたいなほうが面白かったりする。モダンみたいにデッキがたくさんあって相性次第ですよっていうのは、カジュアル的にはいいけど競技的にはジャンケンみたいで面白くない。」
――幅広いすべてのプレイヤーを満足させることは不可能なので、いかにバランスを取るかになりますよね。どちらかに寄りすぎると、反対側からクレームが出てしまう。
八十岡「どうせなら、カジュアルに寄せたほうがいいですね。プロからの文句は、最悪どうでもいいんで(笑)。」
――プロは環境に合わせてプレイするのが仕事ですからね……。
八十岡「禁止カードが出たら出たで、あるもので戦うんで。
あと、アリーナをちょっと意識しすぎじゃないかと思うことはあります。《むかしむかし/Once Upon a Time(ELD)》で事故を減らそうとしたら強すぎたとか。《夏の帳/Veil of Summer(M20)》が作られたのも、アリーナで一時いつも2ターン目に《思考消去/Thought Erasure(GRN)》撃たれることにみんなが文句言いまくってたんで、それを後手でもはじけるカードとして作った結果、強くしすぎてゲームがゆがんじゃったと思うんですよ。
ただやっぱり、アリーナのプレイ人口の多さを考えたら、そっちに寄せざるを得ないのもわかりますし。そう考えると、作る側は大変だと思いますよ。文句ばっか言われててかわいそうです。」
――八十岡さんはやっぱり、カードを作る側の目線なんですね。
八十岡「まあ、作る側の仕事してますからね(笑)。なんでこういうカードができたのか、経緯はだいたい想像つきます。
バランスを取るのに一番いい方法は、セット全体を弱くすることなんですけど、弱いセットは全然売れない(笑)。強いと売れるけど、禁止カードが出て文句言われる。
企業としては売れないと続けられないし。だから、禁止カードを出すことでしか状況に対処できないシステムが問題なんですよね。デジタルだったらたくさん売り上げたあとに『ごめん、強すぎたからちょっと弱くするよ』でいけるんですけど。」
――そうすると開発側は心中、「もう紙のマジックなくしたい!」って思ってそうですね。
八十岡「それは絶対思ってますよ(笑)。
個人的には、紙では禁止にしてアリーナだけナーフでもいいと思ってますけどね。
実際、アリーナだとラグが発生して手札が読める問題とかもあるんで、紙とデジタルが同じゲームである必要はないと思ってるんです。アリーナだけの層も増えてるし。
いつかはわからないですけど、どこかでアリーナが中心になっていくんじゃないかと思いますね。」
MPLになってよかったこと
――今までプラチナプロだった時代は、一応プロツアーに出ない自由もありましたが、MPLになったら出ることが契約になっているので、拘束されてるわけじゃないですか。趣味が仕事に変わって、精神的にしんどかったりしないですか?
八十岡「もともとプロツアーに出ない選択肢はなかったし、10年くらいプロツアーには必ず出る生活してたから、そこは変わらないですよ。逆に、システム的にグランプリに出なくてよくなったのは楽です。プラチナレベルのときは、プロポイントが足りないからグランプリ回って稼ぐみたいのもあったんですけど。」
――なるほど。ほかにMPLをやってよかった点はありますか?
八十岡「今までのプロ制度よりMPLのほうが個人的にすぐれていると思ってるので、MPLができたこと自体がまずよかったですね。
昔の、プラチナが30人くらいいてゴールドは誰だかわからず、しかもちょくちょく変動する仕組みより、『今年のプロはこの人たち』って選ばれてきっちり報酬もらえてる状態なのは、マジック業界の外から見てもわかりやすい、いい図式だなと。
その最初のメンバーとして選ばれたのはうれしいことだし、だからこそよりよくしていきたいとも思ってます。MPLとウィザーズとでいろいろ話し合ったりしますけど、実際プレイヤー側の意見が通ってることも多いので、そういう立場にいられてやりがいあるなと。殿堂プレイヤーでもあるこの立場を生かして、マジックをよりよくしていきたいですね。」
――実際、いろいろなシステムや大会の問題点は次々と改善されていってると感じます。
八十岡「システム変更があわただしくて見た目がよくないという問題はありますけどね(笑)。まあでも、やってみないとわからないことっていくらでもあるし、やってみてダメだったことを変えるのが迅速なのはいいですね。」
2020年に向けて
――インタビュー締めの言葉としては「来年も頑張るので応援してください」でしょうか?
八十岡「いやまあ、応援はしてくれなくても大丈夫ですけど(笑)。」
――ええー! じゃあ、「来年もダラダラやってMPLを継続したい」ですか?
八十岡「来年は面子が強いので、ダラダラではきつそう。個人的には、MPLに残ることに別に固執してないんですよね。MPLじゃなくなって時間ができればほかのことにも挑戦できるから、1年ライバルズやってみてもいいし。」
――ガントレット(MPLとライバルズの入れ替え戦)に出るの、楽しそうだな~とか思ってません?(笑)
八十岡「出たいですね(笑)。ガントレットに落ちてから勝ち上がって『ふう、あぶなかった(冷や汗をぬぐう仕草)』ってやりたい。」
――エンターテイナーですね(笑)。
八十岡「マジックをずっとマックスでやり続けるのはきついから、1年はライバルズでゆっくりやって、次の年はまた頑張るみたいな、メリハリをつけるのもいいかなと思ってるんです。
別にMPLから落ちても死ぬわけじゃないし、特に生活変わらないですからね。固執せず、いろんなことを臨機応変にやっていきたいというのが来年の目標ですかね。」
「開発チームがかわいそう」「ライバルズでゆっくりしたい」など、八十岡さんにしか言えそうにないセリフがたくさん飛び出し、マジックの今後についても考えさせられるインタビューとなりました。
応援しなくていいとは言われましたが、来年もCygamesは皆さんと一緒に八十岡さんのMPLでの活躍を願い、応援していきたいと思います!