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Cygames Magazine:市川&八十岡 未公開トーク集

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先日「サイゲームスマガジン」にて、Team Cygaemsを紹介する記事が掲載されました。結成からの5年間を振り返りつつ、プロプレイヤーの生活に迫るという内容で、八十岡さんと市川さんにインタビューしています。
「サイゲームスマガジン」ではマジックの専門性の高い話は掲載されませんでしたが、収録時にはマジックのe-Sports化についてや、プロプレイヤーはどうやって生活を維持しているのかといった興味深い話も出ました。
そこで、「サイゲームスマガジン」では読めないこぼれ話部分を、この場を借りて特別に少しご紹介したいと思います。
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●Team Cygames のチーム練習

――大勢でチームを組んでデッキ調整を行なうメリットとは何ですか?

市川「1人でやるより選択肢が広がることですね。たとえば僕はミッドレンジが好きだけど、アグロデッキ使ってる人の勝率が高かったら、検証してからそっちに乗り換えて、実際に大会で好成績が出たといったことも多いですし。」
八十岡「僕に関しては、やっぱりドラフトを効率よく練習できるようになったのがでかいですね。
ただ、日本マジック界全体を見ると、ドラフト合宿に強い人を集めすぎたんで、上と下の差ができてる部分も感じるんですよね。昔は強い人とそうでもない人が混ざって練習せざるを得なかったから、技術が伝播していったけど、今は強い人ばかりを集めて実戦的に練習してるから、練習としてはいいけど育成にはつながってない。」
市川「昔は、8人集めないとドラフトができないから、育ててプレイヤーを増やそうとしてたけど、今はドラフト合宿に全国から16人以上呼び集められてるから、育成する理由が特にないんですよね。」
八十岡「日本の一般的なプレイヤーって、スタンダードは僕らよりやってるくらいなんであまり差はないんですけど、ドラフトがあまり得意じゃないんですよね。だから以前の(ドラフトと構築が半々の)プロツアーでは格差が生まれてた。
ただ、今はリアルの大会がないせいでドラフトが必要な場面もないので、育成というのは当分関係ない話ではあるんですけど……。ちょっと気になってはいます。」

――コロナで大勢集まりにくい最近は、どういうふうにチームでデッキ調整をしていますか?

八十岡「オンラインで、誰かがプレイしてる画面をみんなで共有して、プレイについてDiscordで話したり、それをラジオみたいに聞きながら自分は自分でデッキ回してたり。」
市川「みんなで示し合わせてやるってほどでもなくて、『今プレイしてます』ってLINEグループに投下されて、『じゃあ手が空いてるから見るか』くらいですけどね。同じ画面に同時に8人くらいいるけど、実際にデッキ調整について話してるのは3、4人とかだったりするんで。」
八十岡「オンラインだと、1つの画面で1つの話しかできないけど、オフラインで集まる時は、いろんな話をたくさん同時並行できたりするんで、もっと具体的な調整ができますね。大会で何が勝ってるかとかの情報をもとに議論したり、『このデッキとこのデッキを戦わせて相性を見よう』とか。大会直前はもっと方向性が狭まって、『このカードをサイドに入れるか入れないか』とかも相談します。」

――コロナ前と今とで、一番変わったことは何ですか?

八十岡「リアル大会があったときは2か月に1回くらいは必ず海外に行ってたのが、今年は一度もないから1年が長いですね。」
市川「年間で合計2週間ぶんくらいは、飛行機とかの移動で消滅してることを考えたら、確かに。」
八十岡「大会自体は3日間でも、前入りで取材があったりして、まる1週間かかったりするし。だから、今年は1年が1か月くらい増えてる感覚です。」

 

 

 

●プロプレイヤーとして生きる

――マジックのプロたちって、何をして稼いで暮らしているんですか?

八十岡「プロの定義にもよりますけど、公式にプロと言えるMPL(マジック・プロリーグ)に限って言えば、たとえば行弘(賢)はほぼマジック専業で、所属してる会社の仕事として配信をやってる感じかな。MPLは副業兼練習としてゲーム配信をやってる人が多いですね。kanister(ピョートル・グロゴウスキ)みたいに、配信者からプロになった人もいるし。海外も含めて専業プレイヤーが多くて、社会人はほとんどいないんじゃないかな。昔は弁護士とか先生とかいたんだけど、今はマジックにオールインの人が多いね。」
市川「スポンサーされてる人もプロに含めるんだったら、普通に仕事してるプレイヤーもそこそこいるけど。」
八十岡「あと、アメリカ人に関してはポーカーと兼業している人がかなり多いね。稼ぎはポーカーのほうで、マジックは趣味みたいな感じ。」

――ぶっちゃけ、ゲームで食べていくことに将来への不安はないですか?

市川「まあ、日本は保護制度が充実してますからね(笑)。屋根のある家に住んでメシが食えさえすれば問題ない。」
八十岡「マジックプレイヤーはそもそも将来のこと考えないから(笑)。瀬畑は最悪、配信やってればなんとかなるでしょ?」
市川「今年はこのままいくと前職時代を上回るくらいの収入でして、配信ってこんなに稼げるのかと正直びっくりしております(笑)。」
八十岡「仕事、辞め得じゃん!」

――つまり市川さんは今後も配信だけでずっと食べていける?

八十岡「マジックの競技シーンがなくなったら、配信見る人はいなくなりそう。」
市川「けっこう競技志向で見てる人も多いというのが、日本人の視聴者層の傾向なんで。マジック以外のゲームやってる時もけっこう見てくれる人は多いんですけど、かといって僕がマジック辞めたら、そういう個人的ファンが残るかどうかはわからないですからね。僕が僕であるだけでいいのなら、配信以外でマジックやる必要はないことになりますけど、みんなは“強いマジックプレイヤー”というバックボーンがあってこそ、僕の配信を見てくれてると思うので。」
八十岡「さすがにスーパーファミコンのゲーム配信だけじゃきついよね(笑)。」
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●eスポーツとしてのマジック業界

――eスポーツの視点から見てマジック業界は、チーム発足時の5年前からどれくらい発展したと思いますか?

市川「MTGアリーナができてから、すごいライトユーザーが増えたし、配信を見る人も増えたし、発展したんじゃないですか?
ただ、やっぱりDCG(デジタルカードゲーム)の配信って、格ゲーやFPSみたいな、ルールがわからなくても見て楽しめるeスポーツに比べるとやっぱり発展しづらいと思うので、ここまでは来たけど、問題はここからさらに発展できるか。DCGが好きな人だけじゃなくて、ゲームが好きな人が見に来るくらいまで行けるのか? そこはこれからの取り組み次第だと思いますね。」
八十岡「そもそも、マジックをeスポーツ化しようとするのは、本当はやめてほしいと僕は思ってるんですよね。スポーツのほうに寄せたことによって、ゲームとしてのおもしろさよりも競技性や対戦が公平であることに注力してしまって、つまらなくなってると思うんですよ。格ゲーでも同じで、『キャラごとのバランスが悪い』とか文句を言われて、調整していった結果、ゲームとしていまいちになったりするし。」

――ああ、なるほど。

八十岡「それと、ヒーロー制(選んだ“ヒーロー”によってデッキに入れられるカードが変わるルール)のあるほかのDCGと違って、マジックはカード選択の自由度が高いから、強すぎるカードはどんどん禁止になる。マジック特有の面として、紙も並立しているから禁止するしか手立てがないのがきつい。」
市川「デジタルと違って、ちょっとナーフ(弱体化)するとかができないもんね。」
八十岡「結果として、同じ強いデッキばかりが上位を占めることになって、大会が見ていて退屈になりがち。もちろんフィーチャーマッチにはなるべくユニークなデッキを呼ぶけど、結局勝つのは同じデッキだし。
根本に返って“おもしろければなんでもアリ”を追求したらいいと思うんですけどね。」

――うーん、難しい問題ですね。

市川「今、将棋と麻雀はeスポーツとしてけっこう成立していると思うんですけど、それは戦術はわからなくても、ルールの認知度が高いからですよね。マジックはルールだけ頑張って覚えても、カードも知らないといけないのがハードルになってる。」
八十岡「将棋や麻雀は広める努力を今すごくやっていて、対戦の昼ご飯とか、飼っているペットの紹介とか、人にフィーチャーしてタレントを推す方向性になってるね。」
市川「最近Mリーグ(麻雀のプロリーグ)をよく見るんですけど、すごくおもしろいんですよ。ルールが全然わからなくても、解説とかカメラワークがうまくて、番組構成が見やすい。」
八十岡「俺もかなり見てて、けっこうみんなに勧めてるんだけど、あれはマジックでも参考になりそう。プレイヤー1人1人のキャラを立てるのもがんばってるし、楽屋裏とかを見せる番組もあるんだよね。」
市川「プレイヤーの人となりがわかるから、見てて応援したくなるね。」
八十岡「もちろん試合に賞金はかかってるんだけど、それよりもみんな麻雀を広めたいって意識でやってるから、うまくいってるんだと思います。」

――“人”にフィーチャーするほうがいいと。

市川「MPLはその方向性(年間報酬を払ってマジック普及につとめてもらい、プレイヤーにつくファンを増やす)だよね。」
八十岡「でも、今年はMPLの入れ替えがすごく発生するシステムになってしまって、サッカーで1部リーグの3/4が入れ替わって、3部からも入ってくるみたいな感じ。」
市川「MPL発足時は、あまり人が入れ替わらない“スターシステム”だと思ったんだけど、なんで方向転換したんだろう?」

――流動性が上がったのは、プロを目指すプレイヤーに夢を持ってほしいからでは?

市川「そのプレイヤー層ってすごく少ないですけどね。」
八十岡「本当は、5%のその層よりも、残り95%のほうが大事なんだけど、コロナの影響で大会もなくなったし、新規加入を見込むのが難しいから、今いるプレイヤーをつなぎとめる方向に動かざるを得なかったのかも。」

――ああ、それはありえますね。

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八十岡「Mリーグのどういう動画見てる?」
市川「Youtubeの、人気の高い動画をお勧め通りに順番に見てる。」
八十岡「ああ、試合のダイジェストが短くまとめてアップしてあるから、いいよね。マジックだと『これは名試合だ』って言われても、1試合30分もあったら長すぎて見る気になれない。」
市川「ちゃんと編集すれば、ルール知らなくてもマジックおもしろく見れると思うんだよね。」

――市川さんの配信の、クリップ(一場面だけ抜粋した動画)だけ見てもおもしろいですからね。

八十岡「トップデッキとか、派手なシーンを2~3分でうまく見せられたら……そういえば『今週のアリーナおもしろシーン』をまとめてる動画があったよね?」
市川「今も時々ChannelFireballがやってるかな。英語圏のがほとんどだけど、いろんな配信者の動画を切り抜いてるね。(「Top 5 MTG Arena Moments Of the Week」シリーズ)」
八十岡「ああいうのを、今度から始まるMPLとライバルズのリーグ戦でもうまくやってくれたら、マジックに興味持つ人が増えるかも。」
市川「それは絶対やったほうがいいね! ただまあ、僕たちは1プレイヤーでしかないから、やってくれって言うことしかできないけど(笑)。」
八十岡「こうなったらいいなって思うことは、そりゃいくらでもあるけど、向こうも商売だし、リソースの問題もあるだろうから。そもそも今はコロナが大変で先のことを考えるどころじゃないかもしれない。」

――今の状況下だと、そうですよね。

八十岡「プレイヤーは自分が勝つことがどうしてもメインだし、ポジショントークになりがちだけど、マジック業界のためにはどうあるべきか考えて、こうしたらどうかと意見を言うのも大事だと思うよ。」
市川「僕はウィザーズからお金もらってるわけじゃないんで、ああしろこうしろとかなり言いたい放題言ってるけどね。(笑)」
八十岡「そこは自分の配信だけで言っても伝わらないから、直接ウィザーズにメールとかしないと。瀬畑は配信者だからこそ、こういう面は配信映えしないからこうしたほうがいいとか、こういう配信をやればみんな見るんじゃないかとか、そういう意見は大事なんじゃない?」

――やっぱり、メーカーに直接届く声が重視されますからね。あとは、配信を通じて視聴者を啓蒙していくとかでしょうか。

市川「啓蒙? 洗脳かもしれない(笑)。」

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「サイゲームスマガジン」の記事にもある通り、プロとしてマジック業界が今後どうあるべきかを議論するお2人の姿に感銘を受けたインタビューでした。
まだ当分はオンラインのみの競技シーンが続きそうですが、Team Cygamesメンバーの出場する大会で少しずつレポート記事なども掲載していきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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