グランプリ・東京2016 レポート
5月7~8日に開催されたグランプリ・東京2016では、3,300人以上の参加者が集まり大盛況となりました。Team Cygamesメンバーのうち市川さんが9位、渡辺さんが10位と惜しくもトップ8入りを逃してしまいましたが、それぞれ13勝2敗でプロポイント4点を獲得する好成績を収めました。プロツアー「イニストラードを覆う影」からわずか2週間、その短い期間で皆さんはどんな調整を行ない、この大会に臨んだのでしょうか?
●デッキ調整(渡辺さん編)
――まずはデッキ選択についてうかがいます。渡辺さんのバント人間カンパニーデッキはオリジナルとのことですが、どうやって生まれたのでしょうか?
渡辺「プロツアー後いろいろなデッキを回したんですけど、どうにもしっくりこないままMOCS(グランプリの前週に開催されたマジック・オンラインの大会)に黒緑ハスクで出たら負けまくって、既存のデッキじゃダメだなと。それでジャンドカンパニー……《戦争に向かう者、オリヴィア/Olivia, Mobilized for War(SOI)》を《集合した中隊/Collected Company(DTK)》で出すデッキを組んだけどダメで、でも《アーリン・コード/Arlinn Kord(SOI)》は使っていて強かったので赤緑のトークンデッキを試してやっぱりダメで、その中で《ピア・ナラーとキラン・ナラー/Pia and Kiran Nalaar(ORI)》より《つむじ風のならず者/Whirler Rogue(ORI)》のほうが環境的に強いから、これをバントカンパニーに入れたらどうかと考えて、あーだこーだいろいろやってるうちにバント人間ができてました。」
――違うデッキをいろいろ試している間に、「バントカンパニーって人間だらけだな」という気づきが急に降ってきた?
渡辺「そうですね。《集合した中隊/Collected Company(DTK)》で《サリアの副官/Thalia’s Lieutenant(SOI)》を出すアプローチが強いだろうと思って組みました。」
――デッキはいつ完成したんですか?
渡辺「月曜(5月2日)くらいにはひな型ができていて、そこからMO(マジック・オンライン)とリアルの大会に出て1週間みっちり調整しました。大会で対戦相手の人にも意見をもらったりして、サイドボードの構成はかなり変わりましたね。」
3《森》 5《平地》 1《島》 3《梢の眺望》 4《要塞化した村》 3《大草原の川》 1《港町》 1《ヤヴィマヤの沿岸》 4《進化する未開地》 土地(25) クリーチャー(25) |
4《ドロモカの命令》 4《集合した中隊》 2《オジュタイの命令》 呪文(10) |
2《棲み家の防御者》 1《ランタンの斥候》 1《不屈の追跡者》 2《死者を冒涜するもの》 1《優雅な鷺、シガルダ》 3《グリフの加護》 3《否認》 2《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 サイドボード(15) |
●デッキ調整(市川さん編)
――市川さんのデッキは松本Aさん(BIG MAGIC所属プロの松本友樹さん)と同じものだそうですね。
市川「プロツアーが終わった段階で、ジョン・フィンケルの季節コントロールデッキに《ヴリンの神童、ジェイス/Jace, Vryn’s Prodigy(ORI)》と《龍王シルムガル/Dragonlord Silumgar(DTK)》を入れたデッキを使いたくてひな型を作りました。そのときは《ウルヴェンワルド横断/Traverse the Ulvenwald(SOI)》が入ってたり、《森の代言者/Sylvan Advocate(OGW)》が入ってなかったりしてざっくりしたものでしたけど。」
――青を足すことが発端だったんですね。
市川「もともとAさんとは『次のグランプリは一緒のデッキで出ましょう』みたいな話があったので、そのリストをとりあえず投げたんですけど、その後体調が悪くて、レポート記事も書かなきゃいけなくて、ほとんどマジックをやる時間がなく、グランプリの4日前くらいからエスパードラゴンとかを回し始めたんですね。木曜(5月5日)くらいに『Aさん何で出るの?』って聞いたら、『あの黒青緑デッキじゃダメですか?』みたいな返事が来て、『そういえばそんなのあったなー』と(笑)。Aさんが『今あのデッキを調整してて、《森の代言者/Sylvan Advocate(OGW)》とか入ってます』という話で、それをもとにもう一度僕がリストを作って、2人でディスカッションして最終的にあの75枚になりました。時間がなくて、グランプリ直前の午前2時ごろにデッキができましたね。だからサイドボーディングは本番で試合が終わるごとにAさんと相談して精度を上げてく感じでした。」
――デッキ構築におけるAさんの力は何割くらいなんですか?
市川「かなりあると思いますね。Aさんが『こうしましょう』って言ったことは基本的に全部通したんで。」
渡辺「じゃあ99%Aさんの功績じゃん!」
市川「マナベースは僕が作りました。」
渡辺「それで90%くらいになった(笑)」
――そこは得意分野での役割分担ですね。
市川「僕かなり頑固で、デッキをブラッシュアップしていくときに他人の意見をまったく気にしないスタンスなんですけど、Aさんの言ってることは単純に全部合ってたんですごいなと思いましたね。言われたことを、リーグで5戦試してみたら確かにその通りだから、じゃあそうしようと。」
――それは頼もしいですね。
4 《森》 4 《沼》 1 《島》 2 《ラノワールの荒原》 4 《風切る泥沼》 2 《ヤヴィマヤの沿岸》 4 《窪み渓谷》 1 《詰まった河口》 4 《進化する未開地》 土地(26) クリーチャー(15) |
3 《闇の掌握》 2 《精神背信》 2 《究極の価格》 2 《苦い真理》 2 《破滅の道》 1 《ムラーサの胎動》 2 《衰滅》 3 《闇の誓願》 1 《シルムガルの命令》 1 《過ぎ去った季節》 呪文(19) |
1 《ゲトの裏切り者、カリタス》 3 《強迫》 2 《死の重み》 2 《否認》 1 《帰化》 1 《鞭打つ触手》 1 《無限の抹消》 1 《餌食》 1 《悪性の疫病》 1 《過ぎ去った季節》 1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 サイドボード(15) |
●デッキ調整(山本さん編)
――山本さんは白単人間デッキでしたが、それはなぜですか?
山本「緑白トークン、グリクシスコントロール、エスパードラゴンとか、いろいろデッキを回して一番感触がよかったのがエスパードラゴンで、実際にカードを用意してグランプリ会場まで行ったんです。でも金曜日(5月6日)に、暇そうな中村夫妻(合宿に参加している中村肇・さらさん)に頼んで緑白トークンとスパーリングしてもらったら、全然勝てなくて。なんでこんなに不利なんだろうと思ったら、サイドに入ってる《翼切り/Clip Wings(SOI)》が必ず的確に飛んでくるんです。前の週にエスパードラゴンがグランプリ・トロント2016で優勝したし、風当たりが強そうだからデッキを変えようかなと。そして緑白トークンには白単人間がけっこう強いと頭の中で想像してて、じゃあそっちを使おうかと。有名なMOプレイヤーでメガホン(_megafone_)ってブラジルの方がいるんですけど、その人のリストで出ました。」
――直前で変更したわけですね。前もっていろんなデッキを回していた中に、白単人間はあったんですか?
山本「なかったです。ただ、メガホンのリストはメインに《戦場の鍛冶場/Battlefield Forge(ORI)》(赤白ダメージランド)が4枚入ってて、サイドに追加の土地で《鋭い突端/Needle Spires(OGW)》(赤白ミシュラランド)が入ってるんです。サイド後に《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》とかを入れてちょっと重くするときに追加の土地が必要なんですけど、そこにミシュラランドを入れてるというリストを見て、強そうだなと思って乗っかってみました。」
14《平地》 4《戦場の鍛冶場》 土地(18) クリーチャー(31) |
4《石の宣告》 4《グリフの加護》 3《永遠の見守り》 呪文(11) |
4《ハンウィアーの民兵隊長》 4《ゼンディガーの同盟者、ギデオン》 3《鋭い突端》 2《停滞の罠》 1《往時の主教》 1《徴税の大天使》 サイドボード(15) |
●デッキ調整(覚前さん編)
――最後に、覚前さんはいかがでしたか?
覚前「僕は赤緑ランプを使ったんですけど、本格的にグランプリの準備をやり始めたのが1週間前くらいで。赤緑ランプはいろんな種類・構成があるから可能性がありそうだと思って、緑白トークンと赤緑ランプ同系にはちょっと不利だけど、ほかのデッキには勝てる構成の赤緑ランプを作ったんです。緑白トークンには明確に不利だったから、3日前に井上君(BIGsの井上徹さん)に連絡して、MOで緑白トークンを回してもらって、Skypeつなぎながら一緒に練習してたんですけど、3日間サイドを変えながらどんだけ調整しても勝てなかった。そこでデッキ変えろよって話なんですけど、けっこう意地になってやり続けて、もういいやって感じになっちゃいました。」
――もう緑白トークンに当たったらあきらめるという覚悟だったんですか?
覚前「サイドボードをほぼ全部緑白トークン用に取ったんですけどそれでも不利で、不利なことがわかったうえで大会に臨みました。」
――そこまでずっとやってきた練習を全部投げ捨てることはできなかったと。
覚前「できなかったですね。ほかにすごくいいデッキに出会えなかったというのもありますし。ちょっと大会へのアプローチのしかたが悪かったですね。マジック復帰してから今まで、MOで1人で調整するやり方だったんですけど、井上君と3日間一緒にやったら調整の速さが全然違ったんで、もっと早くからそうすればよかった。今回はTier1(使用者の多い最強クラスのデッキ群)に勝てないデッキを持って行ってしまったけど、いつも市川君が言ってるように『Tier1の1、2、3、4の動きに対応できるデッキから考える』のが大事だなと改めて思いましたね。」
――トップメタデッキの1~4ターン目の動きに対応できるデッキが必要ってことですね。
市川「言った記憶がない……(笑)。」
覚前「かなり前の、アブザンアグロがはやってて初日全勝したグランプリの時だよ。」
市川「言われても思い出せない(笑)。そういうこと多いんだよなー。」
渡辺「絶対その場のノリで言ったでしょ?」
――本人が覚えていない名言が生まれてますね。
覚前「でもそれは印象に残ってるよ。今回だったら、1、2、3、4の動きは全部わかってるからね。」
市川「確かに。《ラムホルトの平和主義者/Lambholt Pacifist(SOI)》、《ゼンディカーの代弁者、ニッサ/Nissa, Voice of Zendikar(OGW)》、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》。その3ムーブに負けるようだとさすがにやばいね。」
覚前「自分が後手で、相手にそれを普通に展開されても勝てるようなデッキ構成にしとかないといけない。今回はそこがダメでした。」
8《森》 6《山》 4《燃えがらの林間地》 4《溺墓の寺院》 4《獲物道》 土地(26) クリーチャー(7) |
4《焦熱の衝動》 3《マグマの洞察力》 4《苦しめる声》 4《コジレックの帰還》 4《ニッサの巡礼》 4《奇妙な森》 4《炎呼び、チャンドラ》 呪文(27) |
4《不屈の追跡者》 2《ゴブリンの闇住まい》 2《龍王アタルカ》 2《ガイアの復讐者》 4《龍詞の咆哮》 1《引き裂く流弾》 サイドボード(15) |
●グランプリ本番の結果&印象的な場面
覚前さんの戦績(最終順位:1,109位)
ラウンド | 対戦相手 | 勝敗 |
---|---|---|
R1~3 | – | bye(不戦勝) |
R4 | 緑白トークン | 負け(0-2) |
R5 | 緑白トークン | 負け(1-2) |
R6 | スゥルタイ | 負け(1-2) |
R7 | 白黒コントロール | 勝ち(2-1) |
R8 | エスパードラゴン | 勝ち(2-0) |
R9 | 緑白トークン | 負け(0-2) |
――そして覚前さんは、苦手な緑白トークンに実際に当たったわけですか?
覚前:3回当たって、1ゲームだけ取りましたけどあとは全部負けました。会場に3割くらいいるのはわかってたんですけど。
――9ラウンド目、ここで勝てば2日目に進める、というところで緑白トークンを踏んでしまって進めなかったんですね。
覚前「そうです。bye明け4、5ラウンドと緑白トークンに当たって、なんでこのデッキ持って来ちゃったんだろうと思いました。しかも6ラウンド目のスゥルタイはかなり相性のいいデッキだったんですけど、3本目で勝ち確の状況だったのに見逃して負けてしまって。《世界を壊すもの/World Breaker(OGW)》で《解き放たれし者、オブ・ニクシリス/Ob Nixilis, Unshackled(M15)》を殴れば落とせたのに、本体を殴りに行って、次に起動されたみたいな感じです。そのとき本体を殴る意味はまったくなかったのに……。」
――なるほど、あとでそういうミスに気づくとショックですよね。
山本さんの戦績(最終順位:268位)
ラウンド | 対戦相手 | 勝敗 |
---|---|---|
R1~3 | – | bye(不戦勝) |
R4 | 緑白トークン | 負け(1-2) |
R5 | 黒緑ハスク | 勝ち(2-0) |
R6 | 青緑ビートダウン | 勝ち(2-?) |
R7 | グリクシスドラゴン | 勝ち(2-1) |
R8 | 白黒ミッドレンジ | 勝ち(2-0) |
R9 | アブザンミッドレンジ | 勝ち(2-?) |
R10 | 黒緑ハスク | 負け(0-2) |
R11 | 緑白トークン | 負け(1-2) |
R12 | 緑白トークン | 負け(0-2) |
R13 | 不戦勝 | 勝ち(2-0) |
R14 | 4C儀式 | 負け(1-2) |
R15 | ナヤランプ | 勝ち(2-0) |
――一方、その緑白トークンに有利そうだということで、白単人間にデッキを変更した山本さんですが……。
山本「緑白トークンに3回当たって3敗して、実はあんま有利じゃないなと。」
市川「気づいてしまったかー!」
山本「想像でしか相性を考えてなかったんで、やってみたら全然違って、相性は4:6かせいぜい5:5くらいだと思いましたね。相手に《スレイベンの検査官/Thraben Inspector(SOI)》じゃなくて《ラムホルトの平和主義者/Lambholt Pacifist(SOI)》が入ってて、サイズが単純に1つ上がってるのが白単にはきつかった。最近はやりのリストに対応できてなかったです。」
――2日目の13ラウンド目に不戦勝と書いてありますが?
山本「対戦相手が来なくて……。」
市川「4敗のラインで相手が来ないってけっこうすごいね。まだ全然賞金の目あるのに。」
渡辺「この場を借りて、来なかったその人にお礼言わないと(笑)。おかげでプロポイント1点とれてちょうどプラチナになれました、あなたのおかげですって。」
山本「ありがとうございました。」
――1日目は遅めのデッキとの対戦が多かったんですね。
山本「なので、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》と《鋭い突端/Needle Spires(OGW)》で勝てたんですけど、2日目はコントロール系に当たれなくて鳴かず飛ばずでした。ただ《鋭い突端/Needle Spires(OGW)》はひたすら強くて、これを考えたメガホンは天才だなとずっと思ってました。起動は1回か2回しかしないんですけど、最後に詰めるタイミングでまったく違いますね。だいたいその枠に入ってるのって《ウェストヴェイルの修道院/Westvale Abbey(SOI)》なんですけど、そっちだったら負けてたゲームもあったと思います。」
市川「《ウェストヴェイルの修道院/Westvale Abbey(SOI)》だと、まず起動が1マナ重いし。」
渡辺「それに《鋭い突端/Needle Spires(OGW)》は《永遠の見守り/Always Watching(SOI)》と相性がいい。二段攻撃で6点入ったりするから。」
市川「レシピだけ見ると、さすがにやりたいだけだろって感じなんだけど、実際は発想力の勝利だね。」
渡辺「プロツアーで白単人間を使ったからこそ、このレシピがすごいってわかる。プロツアーのときに知っていればなぁ……。」
渡辺さんの戦績(最終順位:10位)
ラウンド | 対戦相手 | 勝敗 |
---|---|---|
R1~3 | – | bye(不戦勝) |
R4 | 緑単エルドラージ | 勝ち(2-0) |
R5 | グリクシスコントロール | 勝ち(2-1) |
R6 | 4Cカンパニー無限 | 勝ち(2-0) |
R7 | 白黒コントロール | 勝ち(2-1) |
R8 | 黒緑季節 | 勝ち(2-0) |
R9 | バントカンパニー | 勝ち(2-0) |
R10 | バントカンパニー | 負け(1-2) |
R11 | 白黒コントロール | 勝ち(2-0) |
R12 | 緑白トークン | 勝ち(2-0) |
R13 | グリクシスコントロール | 負け(0-2) |
R14 | 白黒コントロール | 勝ち(2-0) |
R15 | バントカンパニー | 勝ち(1-0-1) |
――渡辺さんは、大会中に印象的な場面などはありましたか?
渡辺「最終戦の、リーシータン(香港の強豪プレイヤー)が使うバントカンパニーは、格が違うなと思いました。自分のデッキはバントカンパニーには有利だと思っていて、リーシータンのデッキにも特に変わったところはないんですけど、やっぱりプレイングがうまくて、かなり接戦でした。場がぐちゃぐちゃになって時間もギリギリで、2ゲーム目の途中で終わっちゃいました。本来ならこっちの場が大きくなって圧倒するようなゲームになることが多いんですけど、リーシータンの攻め方がうまくて。」
――とするとバントカンパニーを極めたい人は、リーシータンさんのプレイングを見て学ぶといいかもしれないですね。
市川「バントカンパニーは戦闘がうまい人じゃないと勝てないっすよ。並べ合って標準的なサイズのクリーチャーでいかにダメージ通していくかっていう、リミテッドみたいなゲームなんで、地力が高い人が結局勝つ。」
渡辺「僕のデッキもリミテッドみたいな戦闘をするデッキなんで、すごい複雑なゲームでした。勝ってもトップ8には入れないとわかっていたんで、まじめだけどピリピリはしてなくて、疲れでお互いにミスってたんですけど、『ここはミスだったね』って指摘し合いながら、フレンドリーにいいゲームができました。」
――渡辺さんのデッキはかなり難しいという話でしたが、そういう戦闘の部分がですか?
渡辺「それもあるし、土地の置き方や、《集合した中隊/Collected Company(DTK)》を撃つタイミングもたくさんあるので難しいです。クリーチャーの展開も相手のデッキを理解してないといけないし。戦闘しないデッキタイプ相手だったら、《衰滅/Languish(ORI)》をケアするだけでいいので比較的楽なんですけど。グランプリ前に何人かにこのデッキを教えたんですけど、『難しいからやめたほうがいいよ』って言いました。1週間くらいみっちり練習すればいけると思いますけど、教えたときはもう日がなかったので。」
――デッキパワーが高くて、使いこなすのに修練がいるデッキということですね。
市川さんの戦績(最終順位:9位)
ラウンド | 対戦相手 | 勝敗 |
---|---|---|
R1~3 | – | bye(不戦勝) |
R4 | 白単人間 | 勝ち(2-1) |
R5 | 4Cハスク | 勝ち(2-0) |
R6 | 白青人間 | 勝ち(2-0) |
R7 | 白単人間 | 勝ち(2-0) |
R8 | バントカンパニー | 負け(1-2) |
R9 | エスパードラゴン | 勝ち(2-0) |
R10 | ゴーグルランプ | 負け(1-2) |
R11 | バントカンパニー | 勝ち(2-1) |
R12 | 緑白トークン | 勝ち(2-0) |
R13 | 緑白トークン | 勝ち(2-0) |
R14 | エスパードラゴン | 勝ち(2-0) |
R15 | 緑白トークン | 勝ち(2-0) |
――市川さんは印象的な試合はありますか?
市川「1日目の負けたバントカンパニー戦ですね。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》と《跳ねる混成体/Bounding Krasis(ORI)》を出されてて、1ターンでも空けば《過ぎ去った季節/Seasons Past(SOI)》を撃って勝てる場で《シルムガルの命令/Silumgar’s Command(DTK)》が手札にあったから、これはもう勝ったなと。《シルムガルの命令/Silumgar’s Command(DTK)》で《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》を破壊することまでは確定で、相手に3マナ立ってないから《跳ねる混成体/Bounding Krasis(ORI)》はこのターン出し直せないと思ってバウンスしたんですけど、よく考えたら-3/-3のモードで除去すればよかったなと(笑)。」
――戻す必要は全然なかった(笑)。
市川「頭がバグっててバウンスしてしまって、4ターン後くらいにその《跳ねる混成体/Bounding Krasis(ORI)》がゲームを決めましたね(笑)。手札にいるのは覚えてて、『でもこうやってこうすればライフ1残るから、《ムラーサの胎動/Pulse of Murasa(OGW)》で盤面支えられるぞ』って思ってたら、《跳ねる混成体/Bounding Krasis(ORI)》が2体出てきて負け(笑)。それで初日全勝を逃し、そしてオポ落ちへ……という一連の流れですね。」
――そこがのちの伏線でしたか。
市川「あとは、実際やってみて赤緑ランプ戦が思ったよりきつかった。僕はランプには1回しか当たらなかったんで1回負けただけですみましたけど、松本Aさんは3回当たって3回負けてて、デッキとしては0-4の相性なんでさすがにやばい。」
――サイドボードを変えれば対策できますか?
市川「はい、有利になるとまでは言わないですけど、微不利くらいにはできると思います。《無限の抹消/Infinite Obliteration(ORI)》を入れてたんですけど、あんなのいらなかった。今の世の中、ランプに対して『《世界を壊すもの/World Breaker(OGW)》抜きます』って言ったら、『しまったー! デッキに唯一の勝ち筋がなくなってしまったー!』ってなるわけがない(笑)。相手もさすがにわかってて、みんな別のクリーチャー入れてくるんで。だからあんなもん入れとく必要はなくて、《精神背信/Transgress the Mind(BFZ)》をしっかりメインサイド合わせて4枚とって、相手はソーサリータイミングの除去しかないんでサイドに《冷酷な軍族/Pitiless Horde(DTK)》を2、3枚入れとけば相性を改善できたかなと。試行回数が足りてなかったので、サイドも含めてゲームプランの練り込みが足りなかったですね。」
――ちなみにこのデッキは難しいですか?
市川「いや、難しくないです。“いのちをだいじに”プレイして、6ターン目に《過ぎ去った季節/Seasons Past(SOI)》を撃ったらだいたい勝つんで。相手が投了してくれなかったらケアしながら動いて、長引きますけど結局は勝つんで。」
覚前「簡単 is 強い!」
市川「簡単なのはマジで大事!」
●今大会の手ごたえと反省点
――それでは今大会の総括として、よかった点と反省点を教えていただけないでしょうか。
覚前「よかったところは……(考え込む)」
――井上さんと調整して、効率のいいやり方がわかったというのはあるのでは?
覚前「確かに、それはあります。反省点は……いっぱいありすぎて……一番はやっぱり、赤緑ランプを頑固にやり続けたことですね。ある程度回して無理だと思ったら、根本的に変えないといけなかった。MOで1人で調整してたときは、なかなか白緑トークンに当たらなかったりして効率が悪かったし。ほかにランプを使ってる人に相談したりすればよかった。」
――1人で調整するには限界がありますよね。でも、いよいよ東京に引っ越して来られる予定とのことですが。
覚前「今、新居の審査中です。やまけんの近所なんですけど、おそらくこの男は一緒に練習してくれないと思う(笑)。」
山本「しますよ。」
渡辺「絶対めんどくさいって言いそう(笑)。」
山本「いやいや、練習しますよ。」
覚前「まず会ってくれなさそうだもん。」
市川「デッキなさそうだから、2つ用意して誘えば大丈夫じゃない?」
山本「いや、デッキもありますよ。」
覚前「MOでやろうよって言って、結局MOで対戦しそう(笑)。」
山本「パソコン持って行って、対面でMOやってるかもしれない。」
渡辺「それ、俺たちと練習するんでも一緒やん(笑)。」
――まあでも、東京の人たちと練習しやすくなりますし、練習効率がアップするはずということで、期待しております。山本さんのほうはいかがですか?
山本「よかった点はないです。」
市川「一瞬で終わった!(笑)」
山本「反省点としては、メタ上のデッキは一応全部回しておかないとダメだなと。白単人間とか昔の赤単とか、絶対使わないだろうと思って回さないアーキタイプがいくつかあったんですけど、今回みたいに何が起こるかわからないから、一応どのデッキも経験値ゼロはやめようと。リーグ1回くらいは最低限やろうかなと。」
――白単人間とかは合わないデッキなんですか?
山本「単に好き嫌いの問題ですね。もっとダラダラするデッキが好きで、昔から早いデッキはあまり使ってこなかったです。」
渡辺「カードパワーが低くて何かに特化したデッキが嫌いってことでしょ?」
――いろんなことができるデッキのほうが好きだと。
山本「そうですね。」
――渡辺さんはどうでしたか?
渡辺「久しぶりにオリジナルデッキを使って、しかも自信を持って臨めたのはすごくよかったなと。前々からコピーデッキより自分でイチから組んだデッキのほうが勝率がいいので、これからもそういうスタンスでいきたいというのを再確認しました。」
――以前のオリジナルデッキと言いますと何ですか?
渡辺「サムライデルバー(土地を最低限にした構成から侍の呼び名がついた青白のデッキで、2012年のグランプリ連覇に貢献した)ですかね。今回はあれ以来の自信作です。使って思ったのは、自分でデッキ……特にサイドボードを組むことの大事さ。他人のリストだと、組んだ本人しかわからない部分があって、デッキの100%の力を引き出せないなと。グランプリのあとで津村君(hareruya prosの津村健志さん)が僕のデッキを生放送で回してたんですけど、ミスだらけだったんでお叱りのメールを送ろうかと思いました(笑)。」
――渡辺さんの専用機っぽいですもんね。やはりデッキに自信があると違いますか?
渡辺「サイドボードのやり方とかに自信がないと、よく知らないデッキ相手に迷って時間をたくさん使ってしまって引き分けやすかったりとかありますし。サイドボードやプレイが迷わずできるのは大事ですね。」
――そうですね。反省点はありますか?
渡辺「デッキが難しくて後半すごく疲れてミスったりしてしまったので、体力をつけないといけないなと。毎日走ったりしようかな(笑)。」
――会場が暑かったタイミングとかもあったので、体力を消耗しましたよね。
市川「初日、場所によって暑かったり空調の風が吹いてたり、バラバラでしたね。」
――市川さんのよかった点は?
市川「『このデッキはたぶん60点くらいだけど、回してて楽しいからいいか』って思って出たんですけど、デッキが思ったより強くてすごく勝てたのはよかったです。今季のグランプリで成績がよかったのは北京・メルボルン・今回と3回あって、全部に共通してるのは、人に頼って勝ってること(笑)。北京は渡辺君と三原さんにおんぶにだっこのチームでベスト4、メルボルンはやまけんに聞いたリビングエンドを使ってベスト4、今回はAさんにデッキ7割作らせて9位だったんで。基本的には自分で全部やるというのが僕のスタンスなんですけど、やっぱり仲間はいいなと。」
――1人で全部やるというのはポリシーなんですか?
市川「全部自分で試さないと気がすまなくて。そうすると限られた時間の中で人の意見を聞くターンってのは作りづらかったんですけど、最近仕事が忙しくて自分で試す時間がなく、人にお願いしたりすることも多くなってて、それがいい方向につながったかなと。」
――人に頼るのがうまくなったということですね。反省点はどうでしょうか?
市川「サイドボードをざっくり作りすぎたことと、空調が効いてない席に座ったら頭がバグってバントカンパニーに負けたことですかね(笑)。3ゲーム目だったんで、暑すぎるってジャッジに頼んで席を移動させてもらえばよかった。2ゲーム目でも6ターンくらい青マナを引かなくて、《龍王シルムガル/Dragonlord Silumgar(DTK)》が出ればほぼ勝ちなのに出せなくて負けてかなりあったまってたんで、それも含めて1回席を立ったほうがよかった。けっこうそういう切り替えって大事なんで、そういう盤外の部分も今後はうまくなっていきたいですね。」
●今後の予定と目標
――最後に、今後の予定を簡単にお聞きしたいと思います。直後のグランプリ・ロサンゼルス2016には行かれますか?
市川「僕だけ行きます。」
渡辺「僕はその翌週のミネアポリスと、さらにその翌週のコスタリカに行く予定です。プラチナまであとプロポイント1点になったので確定させつつつ、世界選手権に出たいから一応行こうかなくらいです。」
――市川さんもあと1点でゴールドですよね。
市川「そうですね。でも、プロツアーでトップ8に入ってもプラチナになれないと、さすがにプロツアーに対してモチベーションが上がらないので、ポイントは1点じゃなくもう少し乗せておきたいですね。」
――ロサンゼルスのフォーマットはモダンですが、どうですか?
市川「《先駆ける者、ナヒリ/Nahiri, the Harbinger(SOI)》を使ったデッキを使いたいと現状では思ってますけど……実際は『そこには元気に《集合した中隊/Collected Company(DTK)》を撃っている市川の姿が!』みたいな可能性もあります(笑)。」
――そこはお楽しみにということで。あとすこしでプラチナ確定の山本さんは、今後のご予定は?
山本「今月は特にないですね。来月のワールド・マジック・カップ予選と、グランプリ・台北2016です。」
覚前「僕も同じです。ポイント取れてなさすぎて調べるのもやめてたんですけど(笑)、久しぶりにチェックしたら17点で、あと1点取っておけばプロツアー4敗でゴールドになれるんで、台北で1点取りたいです。最後のプロツアーはホームラン狙います!」
――引き続きがんばってください!
●おまけの余談
覚前「実は今日4時間しか寝れてないんですよ~。その前は30時間起きてて。」
――えっ、それは大変ですね! 市川さんたちもここ最近毎日のように飲んでるっぽいですが、大丈夫ですか?
市川「金曜に原根君(hareruya prosの原根健太さん)を囲む会をやって、気づいたら朝の5時でした(笑)」
――ああ、原根さんも先日上京されたんですよね。
渡辺「僕も途中から行ったけど、原根君のためにならない話しかしてなかったよ。」
覚前「何を話してたの?」
渡辺「『ハンデス(手札破壊)は5枚』とか。」
市川「『5と9はマジックナンバー』って話してて、どんな環境でもメインサイド合わせてハンデスは5枚っていうのが俺の理論。理論って言うか感覚なんだけど、ヤソ(hareruya prosの八十岡翔太さん)も『わかる』って言ってて。」
渡辺「原根君が頭抱えてた。あと、市川式デッキ構築論で『サイドはふわっと』とか。」
覚前「ほんまにその話、意味ないやん(笑)。ってか今回ハンデス6枚じゃなかった?」
市川「いや、メイン2とサイド3。6枚はちょっと多いんだよね、感覚的に。」
――5と9はマジックナンバーという話、気になります。
市川「今回基本地形も9枚入ってて、2マナの除去も5枚だし、5と9と13って数字はかなり大事です。」
覚前「じゃあ次の記事は『瀬畑のデッキ構築の極意』にしよう。略して『せばごく』。しかも『5と9が大事』だから、『せば59』でいける!」
――もうタイトルが決まりましたね。
市川「それ、『なべごく』と正反対の、電波垂れ流しみたいな記事になるけど! 内容ペラッペラでみんな『何言ってんだこいつ』ってなること間違いなしだよ!」