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オーウェン・ターテンワルド&渡辺雄也 スペシャル対談 ~海を隔てた最強の好敵手~

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オーウェンさんが着ているTシャツは、ウィリアム・ジェンセンさん、リード・デュークさんとのチーム「Peach Garden Oath(桃園の誓い)」にちなんだ桃の柄だそうです。

プロツアー『破滅の刻』開催中の日曜日、渡辺雄也さんとオーウェン・ターテンワルドさんの対談が実現しました。
2人は同時に殿堂入りしたプラチナプレイヤーどうしで、年齢もほほ同じ(オーウェンさんのほうが4か月だけ年下)、ミスのない緻密なプレイに定評がある点も似ています。
この対談は2人がお互いの強さや思い出を語り合う、貴重な機会となりました。

 

 

Staff
お2人が相手と初めて会ったのはいつですか? どんな第一印象でしたか?

オーウェン「2011年のグランプリ・シンガポールで(渡辺)雄也と話したのを覚えているよ。カウブレード時代のスタンダードで、自分がPoY(プレイヤー・オブ・ザ・イヤー)を争っている年だった。中村修平を倒して俺がトップ8入りを決めて、普通に考えれば友人が海外選手に倒されてしまって悔しいだろうに、自分に『トップ8入りおめでとう』と声をかけてくれたんだ。それで『さわやかですごくいいヤツだな』と思ったのが、雄也の最初の印象だよ。」
渡辺「僕のほうは、2011年のプロツアー・パリだったかな。2日目の構築ラウンドでオーウェンと当たったんです。僕が青黒テゼレットを使ってて、彼がカウブレードを使ってました。」
オーウェン「ああ、あのときはプレイミスしたけど勝てたから覚えてるよ。雄也の土地が止まって、1枚目の《石鍛冶の神秘家/Stoneforge Mystic(WWK)》に対処されたあと、都合よく2枚目をトップデッキして、ろくなものは持ってこられなかったけど、それで2点ずつコツコツ殴って勝ったんだ。」
渡辺「1ゲーム目はそんな感じで負けちゃって、2ゲーム目は細かい内容までは覚えてないんですけど、《ギデオン・ジュラ/Gideon Jura(ROE)》をすごくテクニカルに使われて負けて、うまいプレイヤーだなと思いました。あの時はカウブレードにたくさん当たって、いろんな負け方をしたんですけど、中でもオーウェンのうまさはよく覚えてますね。」

 

 

Staff
相手との試合で、もっとも記憶に残っているものはどれですか?

オーウェン「たぶんプロツアー『タルキール覇王譚』の16ラウンド目で、ID(合意の上での引き分け)すればベスト8に入れたんだけど、下当たり(勝ち点が低いプレイヤーとマッチングしIDできないこと)してしまって、しかもその相手が渡辺雄也だったんだ。デッキ相性もよくなくて、『おいおいふざけんなよ!』と思ったね。」
渡辺「オーウェンのデッキは青黒コントロールで、自分はトリコロール(白青赤)でした。」
オーウェン「その前のラウンドで、『IDでトップ8だね! おめでとう!』と祝われていたのに、ゲームを始めたらボコボコにされたよ。火力で焼き尽くされてひどいものだった。」
渡辺「僕も、一番印象に残っているのはその試合です。1ゲームではドローも噛み合って1枚もクリーチャーを引かず、全部火力。オーウェンの手札の除去を腐らせたうえで、火力だけで20点焼き切りました。そんなこともあるんだなと印象的でしたね。」

 

 

Staff
あなたが思う、マジックプレイヤーとしての相手の強さは何ですか?

オーウェン「雄也はドラフトで失敗したり、ドローが悪かったりして、多くのプレイヤーが『運が悪い』と片付けてしまうような場面であっても、どのクリーチャーなら効果的に生かせるかとか、勝ち筋がどこに残っているかとかを見出せる。逆に、有利な場面でも、その優位性がどこから来るかがわかっているから、こういう場合には薄氷を踏むことがあるといったことも理解している。
そしてまた、ドラフトデッキが弱くなること、ドローに恵まれないこと、相手のブン回り……そういった状況を許容できることが彼の強さだと思う。現状を受け入れたうえでどうすれば勝てるか、ちゃんと状況を把握している。それは、構築がうまいとかドラフトがうまいとかいうだけの話ではないんだ。」
渡辺「オーウェンのほうは、プレイも正確なんですけど、強みは環境把握能力がずば抜けて高く、それによってデッキを選ぶのがすごくうまいところだと思います。
環境が把握しにくい環境初期は、所属チーム……全員がスタープレイヤーの『Puzzle Quest』ですね……そのすばらしいチームの力を活用しているし、中期から後期はMO(マジック・オンライン)を使ったりして、どのトーナメントでもベストデッキを持ち込んでいる印象があります。そこに本人のプレイスキルもあいまって、高い勝率をキープしているのだと思います。
いつもプロツアーに持ってくるデッキの完成度が素晴らしいし、グランプリでも結果を残すときは、他の人がたどり着かないところにたどりついていたり、逆に少し戻って前のデッキを使い、ちょうどメタに合ったデッキを選んだりしているので、デッキ選びがうまいですね。特にプロツアー『異界月』のときの現出デッキについては、リミテッド用のコモンカードだと思っていた《不憫なグリフ/Wretched Gryff(EMN)》で《コジレックの帰還/Kozilek’s Return(OGW)》を誘発して勝ってる場面を見て、本当に調整の質が高いなと感心しました。」

 

 

Staff
お2人は長くプラチナレベルを維持し続けていますが、どうしてあなたたちにはそれができるのでしょうか? ほかにもプラチナのプレイヤーや殿堂プレイヤーは大勢いますが、なぜこの2人だけが?

オーウェン「この2人だけってことは、つまりシンプルにこの2人が強いってことかな(笑)。ただ、それだけじゃなく、必要なのは継続すること。ハイレベルなトーナメントで真剣にプレイし続けるというのは本当に大変なことだけど、それを続けてきたというのがすべてだ。
トーナメントで勝っているプレイヤーには誰にでも、真剣に取り組んだら結果がついてきて華々しい舞台に立てる瞬間はあるだろう。ただ、それをシンプルに継続するだけだ。」
渡辺「僕もほぼ一緒の意見です。つけ足して言うことも何もないくらいです。」

 

 

Staff
相手が使った構築フォーマットのデッキの中で、お気に入りのものを教えてください。

オーウェン「だいぶ昔だけど、雄也が2008年の日本選手権で使ってた青白ヒバリデッキ。」
渡辺「おおおお!(半分立ち上がる勢いで握手を求める)やったー!」

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オーウェン「このデッキでは優勝してないから、優勝デッキを挙げられなくて悪いけど、とにかく好きなデッキだよ。コピーして地元の大会で優勝させてもらったりしたから、デッキの内容も言えるよ。ジェリー・トンプソンが、『いいデッキがあるよ』って教えてくれたんだ。当時、青のドローカードなら《祖先の幻視/Ancestral Vision(TSP)》を無条件に最優先すべきだとみんなが思っていた時代に、《思案/Ponder(LRW)》が使われているのがすごくよかった。今となっては、《思案/Ponder(LRW)》のほうがすぐれていたと歴史が証明しているけれども、当時それを合理的に説明できるような人はいなかった。あの時代に《思案/Ponder(LRW)》が4枚入っているレシピなのがすごい。そういったいろいろなことをあのデッキから学んだね。」
渡辺「あれは僕が使った中でも一二を争うくらい好きな、思い出深いデッキなので、それを選んでもらえたのは本当にうれしいです。」

祖先の幻視 思案

 


渡辺雄也『青白ヒバリ』
2008年 日本選手権



6《島》
4《平地》
4《アダーカー荒原》
4《秘教の門》
4《変わり谷》
1《反射池》


土地(23)


4《台所の嫌がらせ屋》
4《熟考漂い》
4《目覚ましヒバリ》
4《裂け目翼の雲間を泳ぐもの》
4《誘惑蒔き》
3《造物の学者、ヴェンセール》


クリーチャー(23)


4《思案》
2《否定の契約》
4《精神石》
3《一瞬の瞬き》
1《冷鉄の心臓》


呪文(14)


3《糾弾》
2《隆盛なる勇士クロウヴァクス》
2《エレンドラ谷の大魔導師》
1《否定の契約》
3《霊魂放逐》
1《ザルファーの魔道士、テフェリー》
3《神の怒り》


サイドボード(15)

 

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渡辺「僕はお気に入りというのとはちょっと違うんですけど、2013年にオーウェンがレガシーのグランプリ・ワシントンDCを勝ったときに使ってた、パトリオット(青白赤デルバー)です。リミテッドとレガシー、2週連続でオーウェンがグランプリを優勝したときですね。
僕は普段レガシーをやらないし、レガシーで勝てるプレイヤーって本当に限られていると思うので、オーウェンがレガシーで優勝したとき本当にすごいプレイヤーだなと思ったんです。それで、僕もそのパトリオットを回してみたら、自分のプレイスタイルにも合ってて、少しだけレガシーをやってた時期にはそれをずっと使ってました。」

 

 


オーウェン・ターテンワルド『パトリオット』
グランプリ・ワシントンDC2013



4《不毛の大地》
4《Tundra》
3《Volcanic Island》
4《汚染された三角州》
4《乾燥台地》
1《溢れかえる岸辺》


土地(20)


2《真の名の宿敵》
4《秘密を掘り下げる者》
4《石鍛冶の神秘家》


クリーチャー(10)


4《思案》
4《稲妻》
4《剣を鍬に》
4《意志の力》
4《目くらまし》
4《呪文貫き》
4《渦まく知識》
1《殴打頭蓋》
1《梅澤の十手》


呪文(30)


1《真の名の宿敵》
4《翻弄する魔道士》
2《紅蓮破》
1《赤霊破》
2《安らかなる眠り》
2《渋面の溶岩使い》
1《饗宴と飢餓の剣》
1《摩耗+損耗》
1《墓掘りの檻》


サイドボード(15)

 

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オーウェン「ちなみにこのデッキは、トーナメントに出る前に一度も回していないんだ。リストを見つけて、環境がこうなっているなら、トーナメントリーガルになってからまだ特に結果を出していないけれど、《真の名の宿敵/True-Name Nemesis(C13)》が相手を無効化できて強いはずといった理論はわかったから、その通りにやったら勝てた。」
渡辺「とんでもないですね。」

 

Staff
大会の最中に、お2人はどんな会話をしたり、コミュニケーションをとったりしているのでしょうか?

オーウェン「言語が違うから、実際には深いやり取りをしたりジョークで笑ったりはしないよ。そもそもチームが違うライバルで、真剣に勝ちに来ている大会でのことだから、デッキチョイスやメタゲームの話などもしないし、したいとも思わない。でも、お互いを常に意識している。
たとえば、雄也は今回どんなデッキを選んだのかなって常に気にしているし、マッチを見る機会があれば、プレイングを参考にすることが成長につながる。だから、直接言葉は交わしていないけれど、大会ではいつも雄也の存在やプレイからいろいろな刺激を受け、自分も成長している。それがコミュニケーションと言えるかもしれないね。」
渡辺「言いたいことをだいたい全部言われちゃいましたね(笑)。そのうえで、プロツアーの日曜日みたいなこういう暇な時間に、最近はあまりしてないですけど一緒にドラフトしたりしますし、前々回のプロツアーあたりだったかな、僕がドラフトをしているところに、全然関係ない『異界月』のパックをオーウェンが投げつけてきて、『これをピックしろよ!』って言われて、みんなでピックしたのは面白かったですね。」
オーウェン「そうだったね。愉快だった。」
渡辺「僕もオーウェンと同様で、後ろから観戦して参考にしたりしますけど、彼のそういうお茶目なところもすごく好きです。去年の世界選手権で僕とオーウェンが上下で並んだときに、こんなふうに(首をかき切る仕草)やられたことがあったりとか。」
オーウェン「そうそう! これね!(凶悪な顔で首をかき切る仕草をしてみせる)」
(一同笑い)

 

 

Staff
2人で一緒に殿堂入りしたとき、それをどんなふうに感じましたか?

オーウェン「渡辺雄也は最高のライバルだと思っているんだ。殿堂に入るには10年以上のキャリアが必要だけど、2人とも被選挙権を得た最初の年に選ばれたのは、同じタイミングでプロキャリアをスタートしたことを意味しているからね。
この10年を振り返ると、渡辺雄也の活躍によって俺も発奮したし、言葉を交わすわけではないけれど互いの大会結果に刺激を受け合ってきた。あえて話さなくてもそういう仲だってことはわかっているから、そんな2人が一緒に選ばれたのはうれしい。渡辺が活躍したら、俺も負けてられない、もっとがんばらなきゃといつも思うんだ。殿堂入りが決まった瞬間でさえそう思ったよ。雄也は得票率90%越えで、殿堂諮問委員会のほぼ全員が投票するほどだったけど、僕は70%ちょっとで、まだ雄也との間には差があるんだなって理解したよ。」
渡辺「僕も10年やってきて、オーウェンとはよくPoYを争ってきて、僕が取ったこともあればオーウェンが取ったこともあります。本当にいいライバルだと心から認めているので、一緒に殿堂に選ばれたのは心の底からうれしいと思っています。僕が行っていない、アメリカのグランプリで勝ってたりするのを見るのも楽しみです。一緒に出てるトーナメントで僕より上の順位じゃないかぎりは、いくらでも勝ってほしいです(笑)。ともかく、これからもお互いを高め合う存在になれたらと思ってます。」

 

 

Staff
あなたから見て、現役プレイヤーでベスト5を挙げるとしたら、誰になりますか?

オーウェン「そうだね……まず自分、雄也、ジョン・フィンケル。それからウィリアム・ジェンセン、リード・デュークだ。正直身内びいきはあるかもしれないけどね。」
渡辺「僕もPeach Garden Oath(オーウェンさん、ジェンセンさん、デュークさんのチーム。今までに出場したチームリミテッドのグランプリでは、1回を除きすべてトップ4に入賞している)がまず挙がりますね。
……フィンケルを選ぶのってずるくないですか?(笑)現役プレイヤーというよりレジェンドじゃないですか?」
オーウェン「確かに、本人も認めているように彼はマジックにオールインしているわけじゃないけど、限られた時間を割いてマジックの大会に参加したら必ず結果を残すし、どのシーズンもベスト8に1度は入り続けている。実際先週のグランプリ・京都2017でもトップ4に入ったし。」
渡辺「なるほど。僕としてはフィンケルは雲の上の存在なので、彼を入れずに5人選ぶとしたらPeach Garden Oathの3人と、僕と八十岡翔太です。八十岡についてはどう思いますか?」
オーウェン「僕としては、勝ち続けるためには躊躇なくベストデッキを選び続けることが大事だと思っているから、その観点から言うと彼は確かにいいプレイヤーだけど、ヘンなデッキを使いすぎるのが玉に瑕だね(笑)。テゼレッターとか、2012年プレイヤー選手権のときの《霊気の薬瓶/AEther Vial(DST)》と《永遠の証人/Eternal Witness(5DN)》と《
謎めいた命令/Cryptic Command (LRW)》の面白デッキとか、『なんなんだこれは!?』みたいなやつ。
彼のデッキをコピーしても誰も勝てないのは、つまり八十岡翔太が強いから勝ってるということで、すばらしいプレイヤーなのは認めるけれど、王道デッキを使って勝ち続ける手堅さがないからベスト5には入れなかった。」
渡辺「逆にそういう部分、誰にもできないことをやって勝つというのが、僕らにはないものなんですよね。その面においては僕らは八十岡翔太に負けていると思うので、ハイレベルなプレイヤーたちの中でも、そういう特に秀でた部分を持っているのは、僕は大事だと思って選びました。」
オーウェン「その点には同意するよ。」

 

――いろいろとお話しいただき、どうもありがとうございました。言葉を交わさなくとも太平洋を隔てて心が通じ合っているような、まさに「好敵手」という言葉がふさわしい2人の仲がよく伝わってきました。これからも2人のさらなる活躍を楽しみにしています!

 

 

●おまけ

「See you next pro tour!」と言って別れたあとで、渡辺さんが「あーっ、言い忘れてた!」と叫ぶので何事かと思ったら、「オーウェンがきのこたけのこ戦争の記事でたけのこを選んでたから、『やっぱりわかってるな! さすが!』って言おうと思ってたのに……」とのことでした。

 

Staff
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