【MCⅤ】限られた者たちによる、DCG最高峰の舞台【Day0】
カリフォルニア州、ロングビーチ。
ロサンゼルス南郊の観光都市としても知られるこの地に、マジックプレイヤーたちが集う。
それは、10月18~20日にかけて開催されるトーナメント……「Mythic Championship Ⅴ」に出場するためだ。
「Mythic Championship Ⅴ」は賞金総額75万ドル、優勝賞金10万ドルをかけて争われるという、マジックにおける最高峰の大会である「Mythic Championship」の名を冠するに恥じないストラクチャーとなっている。
ただし、資格を持つ限られた者だけしか出場できないこの大会の出場人数は、たったの68名。
しかも実際のカードを用いるのではなく、esportsとして展開する最先端のDCG『MTG Arena』を用いてパソコンを介して対戦する大会なのだ。
出場するだけでも最低7500ドルの賞金が保証されていることからも、この68名に選ばれるということがいかに大変でかつ名誉あることであるかは今さら説明するまでもない。
そしてその最高峰の大会に、なんとTeam Cygamesからは2名の選手が出場するのだ。
八十岡 翔太。全世界で32名、日本で3名しかいないMPL (Magic Pro League) プレイヤー。そのあまりにも迅速なプレイスピードと正確無比なプレイングは世界的にも高い評価を受けている。
市川 ユウキ。二度とのプロツアートップ8入賞経験をはじめとして数々の実績を持つプレイヤーだが、今回はオンライン予選通過者や前回のMCの上位入賞者といった枠ではなく、MTGアリーナの有名配信者として特別招待を受けての出場だ。
大会フォーマットは『エルドレインの王権』が入ったことでローテーションしたばかりのスタンダード環境。そこにおいて、八十岡と市川はどのような戦略で優勝を狙いにいくのか。
いよいよ大会を翌日に控えた前日、会場での写真撮影やインタビューを終えて合流した2人に、今回の調整やデッキ選択の理由などについて語ってもらった。
● Mythic Championship Ⅴに向けた調整
――今回は日本からの出場プレイヤーが限られるということで、いつものMCと異なり『武蔵』の調整メンバーに協力を仰ぐのは難しい状況だったと思うんですが、お2人はこの大会に向けてどういった形で調整を行ってきたんでしょうか?
市川「まずはしばらく個人でやってて。というのも、ヤソ (八十岡) に『アリーナMCの調整ってどうやってみんなやってるの?』ってさりげなく話を振ったら、『いや、アリーナMCは個人の戦いだから。』って言われて、『あっ、みんなそんな感じなんだ』と納得したところから始まったので。」
市川「ただ出場者同士のグループラインは作ってて、そこでふんわりと会話だけしてたんだけど、まずある時レイ君 (佐藤 レイ) に『一緒にやらない?』って誘われて。それで『じゃあドラフト合宿終わったら3日くらい一緒にやろう』って話になったところ、今度は合宿中にけんちゃん (行弘 賢) から『良いデッキあるんだけど一緒に調整しない?』って誘われて。そこで『実はレイ君からも誘われてるんだよね』って話して、『じゃあせっかくだからヤソにも聞いてみよう』ってなったから、ヤソに聞いたら『いいよ。』って言うから、『おい!!!!この個人練習の時間はなんだったんだよ!!!!!』ってなった (笑) 」
これ、深夜にあと12時間しかないのにデッキ決まってない〜!!って歌って踊っているシーンです。見えないけど後ろのイスに座ってヤソは黙々とArenaしてます。 pic.twitter.com/Vact59p1RW
— Yuuki Ichikawa (@serra2020) October 13, 2019
市川「まあ結局オレからしたら一緒にやり得だから、『じゃあ是非!』って言ってみんなでやることになって。それがでもデッキリスト提出期限の3日前くらい。火曜の昼くらいから始めて木曜の朝くらいまでかな」
市川「とりあえずオレとしては『《不屈の巡礼者、ゴロス/Golos, Tireless Pilgrim》を倒せるデッキを作る』ことを目標にしつつ、できなかったら自分でゴロス使おうかなーっていう感じで調整がスタートして。で色々なデッキ試していったところ、ヤソが組んだシミックが感触が良くて、ゴロスに対してもオレも勝てたしヤソも勝ってたから、有利なんだろうなーっていう実感もあったし使おうかなーと。あとミッドレンジということで好きなアーキタイプだったからっていうのも大きいね」
● 「シミックフード」というデッキ選択
――1週間前の段階で次回の禁止改定日時を早めるという告知があったことで、スタンダードのメタゲームは《不屈の巡礼者、ゴロス/Golos, Tireless Pilgrim》デッキのあまりの強さについて危険視されているのではないかと噂されるほど偏ったものとなっているように見受けられますが、そんな中で今回お2人が『シミックフード』というアーキタイプを選択されたのは、どういった経緯からだったんでしょうか?
八十岡「もともとシミックが第一候補で、次点が《創案の火/Fires of Invention》系っていう基本その2つだけで、あとは他に何かないかなって探してたね。《予言された壊滅/Doom Foretold》のスタックスとか、あとは青白ライブラリーアウトとか」
――ライブラリーアウトは八十岡さんが自分の生放送でも回されていましたが、かなり強そうだったのでもしかしたらそのまま持ち込んでくるのかなーと思ってました。
八十岡「ゴロスに対しては強いんだけど、《願いのフェイ/Fae of Wishes》から持ってこられる《神秘を操る者、ジェイス/Jace, Wielder of Mysteries》がきついのと、ゴロスメタのデッキ、特にシミックが圧倒的に厳しくて。で、シミックがどれだけいるかわからなかったから。ゴロス30人のシミック15人とかでもおかしくなかったし。」
市川「《探索する獣/Questing Beast》とかどうやっても止まらないからね。」
八十岡「いや、《極小/So Tiny》があるからまだマシ。青いソープロ (《剣を鍬に/Swords to Plowshares》) だから。」
市川「(笑)」
9 《森》 5 《島》 4 《繁殖池》 4 《神秘の神殿》 2 《ギャレンブリグ城》 2 《ヴァントレス城》 土地(26)
クリーチャー(19) |
4 《成長のらせん》 2 《軽蔑的な一撃》 1 《霊気の疾風》 4 《王冠泥棒、オーコ》 4 《世界を揺るがす者、ニッサ》 呪文(15) |
3 《探索する獣》 3 《夏の帳》 2 《大食のハイドラ》 2 《軽蔑的な一撃》 2 《神秘の論争》 2 《霊気の疾風》 1 《伝承の収集者、タミヨウ》 サイドボード(15) |
11 《森》 4 《島》 4 《繁殖池》 4 《神秘の神殿》 1 《ギャレンブリグ城》 2 《ヴァントレス城》 土地(26)
クリーチャー(19) |
4 《成長のらせん》 2 《軽蔑的な一撃》 4 《王冠泥棒、オーコ》 4 《世界を揺るがす者、ニッサ》 呪文(15) |
3 《探索する獣》 3 《夏の帳》 3 《霊気の疾風》 2 《大食のハイドラ》 2 《軽蔑的な一撃》 1 《神秘の論争》 1 《伝承の収集者、タミヨウ》 サイドボード(15) |
八十岡「そんなこんなで相手によらず強いラインが決まってるシミックがいいなーと思って調整した。まず『2マナ以下のマナクリを12枚にしたい』と思ったんだけど、《枝葉族のドルイド/Leafkin Druid》は中盤以降ホントにヤバくて、かといって《培養ドルイド/Incubation Druid》も後手の時に弱すぎるし、赤いデッキ相手に死にやすい。同型も《意地悪な狼/Wicked Wolf》でも死ぬし。《むかしむかし/Once Upon a Time》は《金のガチョウ/Gilded Goose》と《楽園のドルイド/Paradise Druid》だけで使うには不安定すぎるから、結局《成長のらせん/Growth Spiral》を入れることにした。」
八十岡「あとは選択の余地があるのが細かい2~3枚くらい。メインからのカウンターももともと入れようと思ってて、基本的には《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke》が裏目なくて、同型が多いなら先手2ターン目の《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns》を返せるから《神秘の論争/Mystical Dispute》の方が強いかもっていうくらいで、ただ基本的にはゴロスを倒したいから《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke》にした。」
――2マナ以下ブーストを12枚も積んでいるのに土地26枚というのはかなり多いですよね。
八十岡「環境が土地止まったら負けるから26枚にしたくて。キーターンは4マナ、4マナのカードがとにかく強い環境だから、土地4枚はストレートに置かなきゃいけない。ただ他方で、そうなると土地25以上を許容できる構造も必要。グルールとかだとフラッドスクリュー両方で負けるから、土地を伸ばすメリットがあるデッキしか使いたくない。だから《ハイドロイド混成体/Hydroid Krasis》と《ヴァントレス城/Castle Vantress》があるシミックって感じだね。《ハイドロイド混成体/Hydroid Krasis》引けばいつでもまくれるっていうのが強みだよね。」
――八十岡さんは1枚差しの《厚かましい借り手/Brazen Borrower》を入れているのに対し、市川さんは同じスロットで《霊気の疾風/Aether Gust》を採用していますが、この差はどういった理由からでしょうか?
八十岡「最初は《霊気の疾風/Aether Gust》を入れてたけど、あれのせいで結構負けたりするんだよね。いわゆる王者デッキを使ってるときにああいうカードは入れない方がいいから。何よりゴロスに対して弱い。」
市川「オレの場合は75枚中に《霊気の疾風/Aether Gust》を3枚とりたかったから、サイドの16枚目がメインにハミ出てきているイメージだけどね」
――土地の部分はどうなんでしょう?市川さんの方が《ギャレンブリグ城/Castle Garenbrig》の枚数が多いですよね。
市川「サイド後に《大食のハイドラ/Voracious Hydra》を増やした時にXの値を1つ大きく出せるから強いかなーっていう理由ですね」
八十岡「こっちが減らしてるのは単純に《ギャレンブリグ城/Castle Garenbrig》と《金のガチョウ/Gilded Goose》でキープしたくないからだね。最終的に《森/Forest》と《島/Island》のバランス変えてまで緑マナも増やしたし」
● 公開されたリストを見て
――全員のデッキリストが公開されましたが、ゴロスが全体の43%とのことで、このメタゲームはやはり予想通りといった感じでしょうか?
八十岡「それでもゴロスは思ったより多いなとは思ったけどね」
市川「想像よりみんな困ってたんだなーと。もう誰もが《森/Forest》をプレイしてきて、こんな環境滅多にないけどね」
八十岡「ないね」
――海外のプレイヤーで、予想外のデッキを持ち込んできたプレイヤーとかはいましたか?
八十岡「Cifkaのところくらいかな。まあでも基本的にはなかったね」
市川「あのバントフードは、デッキの構築思想はかなり似てると思ったね」
――公開されたリストだと、ゴロスランプとの相性はやはり良さそうでしょうか?
八十岡「やってる感じちょっと有利だけどね」
市川「メインは先手後手とか引き次第で負けちゃうこともあるけど、サイド後はカウンターも入るし、相手はそんなに有効なサイドボードを積めないからね。《夏の帳/Veil of Summer》くらい。」
八十岡「あとはお互いデッキわかってるから、こっち側はマリガンしやすいね。相手はマリガンで探すカードも《成長のらせん/Growth Spiral》しかないから。シミックはリストバレててもデメリットがないのが大きいね。」
――Kai Buddeらは同じ『シミックフード』でも、《探索する獣/Questing Beast》《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke》が4枚のリストを持ち込んできましたが、あの形はどういった意図なんでしょうか?
市川「まあ明確にゴロスに勝ちにきてる感じだね。あの形と当たったら、ちょっとやった感じは不利だね。《探索する獣/Questing Beast》はそんなに強くないんだけど、そのスロットにこっちが入れてるのが《大食のハイドラ/Voracious Hydra》で、あれも同型はそんなに強くないし。《探索する獣/Questing Beast》から入られると《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke》がプレイしやすい展開になって厳しい。ただ、他はまあほとんど変わらないからね」
――《むかしむかし/Once Upon a Time》が差を付けたりはしないんでしょうか?
市川「初手で《金のガチョウ/Gilded Goose》にたどり着く確率は変わるけど、それ以外は足を引っ張るカードじゃないかなと思う。ヤソとかオレの構成は《むかしむかし/Once Upon a Time》がシミックフードっていうデッキに合ってない前提で組まれてるから、結果は楽しみだけどね。これで《むかしむかし/Once Upon a Time》が入ってる方が勝ったら、やっぱりそっちがいいのかってなるし。」
八十岡「《むかしむかし/Once Upon a Time》を使うと《探索する獣/Questing Beast》を入れないといけないんだよね。中盤打った時に《ハイドロイド混成体/Hydroid Krasis》しか当たりがないときついから。ただ、やっぱり《むかしむかし/Once Upon a Time》でキープしたくはないけどね。」
市川「手札にマナクリない時に、8枚を引っ張ってこれる確率が57%くらいだからね。まあそういう構築にしてる以上は信じて打つしかないんだろうけど。」
――最後に、明日に向けて一言いただければ。
八十岡「リスト見る限りみんなゴロスに勝ちにきてるフィールドだから、これでもゴロスが勝つのかは楽しみだよね。メタゲームが進んだだけでゴロスが倒せるってわかったなら別に禁止改定する必要ないし。ティムールエネルギーとラムナプレッドの時はメタゲーム進んでも倒せなかったからね。ただ今度は、シミックフードをメタゲームで倒せるのかっていう話があるけどね。このデッキは一番色んなデッキ止めてて、かなりティムールエネルギー感あるから。」
市川「市川ユウキは、『ただの日本一有名なストリーマー』ではない。4つのグランプリトロフィーと2014年の連続したプロツアーサンデーは、彼を格別の競技プレイヤーと位置づけるには十分だ。そして彼は3つ目を履歴書に加えようと熱意を燃やしている。」
――ありがとうございました!
● おまけ:会場の様子
大会会場はいつものコンベンションセンター系ではなく、esportsなどを専門に?撮影収録しているスタジオでした。
選手たちが対戦している会場と、対戦が終わった選手や、選手のゲストがくつろげるプレイヤーラウンジ、そしてフリーのスナックやドリンクが置いてあるケータリングルームと、3つのスタジオに分かれています。
お昼には運営から選手たちにランチも用意があり市川さんや八十岡さんもハンバーガーやポテトを食べていました!
esportsに力を入れているスタジオだからなのか、様々なタイトルの格闘ゲームが入ってるアーケードも置いてあって、プレイしている選手たちも。
Arenaの大会ならではの会場で、演出や会場の作り方、そして運営の所々のホスピタリティが勉強になりました!
明日から3日間にかけて行われるMythic ChampionshipⅤ。
初日はスイスドロー7回戦を行い、上位24名が2日目に進出する。
八十岡と市川は、強豪ばかりのこのトーナメントを勝ち抜くことができるのか。彼らの活躍に期待したい。
写真提供:Wizards of the Coast LLC