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八十岡塾開講!「今、強くなるためにすべき3つのこと」

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今大会を席巻したフードデッキは、使い手の腕前が非常に問われる難しいデッキでした。強いプレイヤーが使えばどれだけ勝てるかは、各大会における実績で証明されています。

それでは、マジックが強くなるためにはどうしたらいいのか? それはマジック始まって以来、永遠の課題です。

強さにかけては誰もが認める八十岡翔太さんに教えを乞うたところ、根源的かつ重要なポイントを絞って答えてくれました。
ぜひ折に触れ読み返していただきたい金言集をお届けします。

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■■■1.見て覚える

●1人でも上手くなる方法

強くなるにはいくら1人回ししてもダメで、強い人に教えてもらうか、同レベルの仲間と切磋琢磨して一緒に強くなっていく必要がある。
ただ、昔はマジックプレイヤーのメイン層が学生だったから、大勢で一緒に時間をかけて強くなるということができたけど、今は社会人が中心になってるから、同じメソッドは難しい。

じゃあ時間もないし仲間もいないから強くなれないかというと、そうでもない。今の時代に即した勉強法は、配信を見ること
今の人は他人のプレイを見るより自分でデッキを回すことを優先しがちだけど、うまい人のプレイを見ないとうまくならない。自分はプロツアーに行ったとき、決勝ラウンドの試合を全部見る。日曜日に現地で観光してる人はうまくならない

 

●試合の見方

試合を見ると言っても、ぼーっと見ていてはダメ。お勧めのやり方は、強い選手の試合を「自分だったらどうプレイするか」逐一考えながら見ること
そして、自分の考えとうまい人のプレイが違ったら、なぜ違うのかを考える。生放送であれば、解説者が説明してくれるかもしれないし、コメントで質問したら答えてくれるかもしれない。

そうでなくとも、自分なりにまずは答えを出すことが大事。レベルが違いすぎてその時理解できなかったとしても、いったん自分なりに消化しておけば、あとで誰かに質問してその答えが正しいかジャッジしてもらうこともできるし、自分が成長したときにふと気づくこともある。わからないままにしておいては何も変わらない。

うまい人のプレイを見ながら考えることによって、うまい人が持っている“理論”を学ぶことができる。

 

●学ぶべきは理論

マジックがうまくなるには、「このシチュエーションではこうする」「このデッキでは何を何枚サイドボードする」といった場合ごとの答えを丸暗記するのではなく、数学の定理にあたる基礎の理論を覚えるべき。

今は昔と違って強いデッキをみんなが知っていて、デッキでは差をつけにくいからプレイングで勝つのが主流だが、人と違うデッキを作ってデッキ勝ちすることもできなくはない。今回ハビエル・ドミンゲスが使ったグルールアドベンチャーとかはそうだし、行弘もそういう方向性。
でも、デッキを作るにも環境の速度や勝つための理論がわかってないといけないので、結局は理論が優先。

 

 

 

■■■2.ゲームプランから理論を導く

●そのデッキをゲームプランを知る

理論を学ぶ前提として、デッキごとのゲームプランを知っておく必要がある。
アグロは殴ってライフを減らすだけだし、コントロールは守ってフィニッシャーにつなげる。そしてミッドレンジは、相手のデッキがアグロなら守るし、コントロールなら攻めるほうに回る。
最近のミッドレンジデッキのゲームプランは、ゴールが決まっていてそこまでの道のりは状況に応じて選ぶ感じ。
たとえばシミックやスゥルタイフードはどっちもミッドレンジで、ゴールは「《世界を揺るがす者、ニッサ/Nissa, Who Shakes the World(WAR)》を定着させ、《ハイドロイド混成体/Hydroid Krasis(RNA)》を出す」こと
そこまでの過程として、シミックは殴って押していくことで安全に《ニッサ》を着地させる。一方スゥルタイは、除去などで相手を遅らせておいて《ニッサ》を出す。つまり、やり方は違うけどゴールは同じ。

 

●理論の例:1対1のカード、それ以下のカード

理論とは、シチュエーションごとに基礎となるいろいろなセオリーのこと。
たとえば、コンバットにしろカードのやりとりにしろ、「損なトレードをしない」というのが1つ。サイドボードの入れ替えも同じことで、1対1が取れるカードと取れないカードを入れ替えてしまうと徐々に負けてしまう。

例として《害悪な掌握/Noxious Grasp(M20)》と《霊気の疾風/Aether Gust(M20)》の違いを挙げよう。
《害悪な掌握》は、基本的に少しだけ損をするカード。どれだけよくても1対1交換で、プレインズウォーカーを殺すときは相手が1回行動している分、損している。
《霊気の疾風》はプレインズウォーカーに対しても、ドローを1枚スキップさせるという効果によって1枚の質は低くても必ず1対1が取れるカード。
だからスゥルタイのゲームプランは、《害悪な掌握》を使うと少し損するけど、それによってプレインズウォーカーを生き残らせることで、最終的に3対1くらいを取ってトータルで得するというものになっている。

害悪な掌握 霊気の疾風

 

●理論の例:鳥は焼くか焼かないか

セオリーにはデッキごとのものもあって、たとえば「フードの《金のガチョウ/Gilded Goose(ELD)》を焼くか焼かないか」。これは、ゲームのキーポイントがどこかを考えればわかる。

基本、シミックとスゥルタイでは焼いてはいけない
《金のガチョウ》を殺すために入っている《クロールの銛撃ち/Kraul Harpooner(GRN)》で落とすのはいいけど、《害悪な掌握/Noxious Grasp(M20)》で2ターン目に《ガチョウ》を殺すべきではない。

なぜかというと、ゲームの焦点はほぼ《世界を揺るがす者、ニッサ/Nissa, Who Shakes the World(WAR)》であり、《害悪な掌握》を当てるべきは《ニッサ》で、その次が《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns(ELD)》。《金のガチョウ》は焦点にならない。
《ガチョウ》を焼いても《オーコ》の登場が1ターン遅れるだけであまり意味がなく、それよりは出てきた《オーコ》を倒せばいい。《ガチョウ》はどこかで《意地悪な狼/Wicked Wolf(ELD)》などで殺せるし、無理に動く必要はない。
《ガチョウ》を焼いたら《ニッサ》や《オーコ》が残ってしまって負けている場面をよく見るけど、理論を理解していればそうはならないし、途中のプレイングやサイド後どう立ち回るかといったことにもつながってくる。

まとめると、まずは自分のデッキのゲームプランを知り、相手のデッキのゲームプランも知っておく。それにより、この2つが当たればこういう試合展開になるはずだというのが見えてくる。そこでポイントとなる部分はどこかを考え、そこにリソースを注力すべき
シミックとスゥルタイなら、「いかに《ニッサ》を定着させるか」がそのポイントにあたるので、それがわかっていれば、《ガチョウ》は焼かないはず。

 

 

 

■■■3.環境の選択肢を学ぶ

●引き出しを増やそう

もう1つ大事なこととして、マジックは「どれだけ引き出しがあるか」が強さにつながるゲーム。
引き出しの多さというのは、場を見たときに思い浮かぶプレイの選択肢の数。局面を見ていくついい手を思いつけるかが大事な将棋と同じ。

ではどうすれば選択肢を増やせるかというと、他人のプレイを見るのが一番早い。自分だけの視点では、思考回路が一緒なので増えない。1人で強くなれない理由はそこにある。
人のプレイを見ることで、それが正解かどうかはともかく、「そういうプレイもあるんだ」とわかる。それを覚えておくだけでもけっこう違う。選択肢の1つとして記憶に留めておけば、その時はわからなくても、いつか生きてくる。
今の環境は《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns(ELD)》の使い方がめちゃくちゃ難しいから、特に人のプレイから気づくことは多い。僕でもやっぱり見ていて気づかされることはある。

余談になるけど、今の環境は最近なかったレベルで難しい。特に《オーコ》は使い手がうまければ倍は強くなる。ここまで強さが変わるプレインズウォーカーは少ない。
シミックは小技が多くてスゥルタイより難しい。除去でなくバウンスなのでアドバンテージを一気に取れないから、細かく稼いでいくしかない。ただ、シミックで《オーコ》を使った場合、マイナス能力で交換してからあげたものを《厚かましい借り手/Brazen Borrower(ELD)》で自分の手札に戻すというプレイができるので、《意地悪な狼/Wicked Wolf(ELD)》をあげてからそれをバウンスして再使用とか、《厚かましい借り手》をあげてからバウンスするとまたバウンスができて一瞬でパーマネントが2つ減らせるとか、そういうテクニックはすごく多い。それをどれだけ覚えておけるかが、強さに直結する。

 

●選択肢を選ぶには

初級者と中級者の違いは、引き出しの数によるところが大きい。初級者はプレイが一直線になりがちで、視野が広がってさまざまなプレイができるようになったら中級者。
ただ、選択肢が増えたことによって負け始める人も多い。それは単純に、たくさんの道が見えてるけどどれが正しいかわからず、プレイがぶれるから。初級者のうちは道の選択肢がない分、迷うこともなく、その道が合ってる限りは勝てる。
さらに上級者になると、選択肢が増えたうえで、間違った選択肢をすぐ排除できるようになり、ゲームプランに合わせた道を選べるので、プレイがぶれなくなる。

必ず90点プレイ、80点プレイ、70点プレイといったふうに選択肢があるから、そこから70点プレイを排除できるようになるのが第一歩。残りから90点プレイを選べるようになれば上級者といえるし、もっと強い人なら他人には見えない95点のプレイが見えたりもする。

どの道が正しいかがわかるようになるには、とにかく経験を積むしかない。同じシチュエーションでもいろんなプレイをしてみたり、深く考えず適当にプレイしたりするのも実は大事。そこから発見があることも。

たとえば機体のような、選択肢が少ないブン回りデッキのほうが初心者は勝ちやすい。初心者が使っても80のパワーがあって、強い人が使っても90くらいというように、差が出にくいデッキだから。シミックフードなんかは差が激しくて、60と100くらいはある。
うまくなりたければ選択肢の多いデッキを使ったほうが手っ取り早いので、今の環境はやればやるほど学びがあり、かなり実力が磨かれるといっていい。

増やした引き出しは、デッキが変わったりローテーションで環境が変わったら元に戻ってしまうものだけど、半分くらいは似たような引き出しに入れておいて別の環境でも応用できるから、引き出しは増やし得。
ほかにもいろいろあるけど、パッと説明できるのはこのあたりかな。

 

 

 

■■■ 八十岡翔太を目指すには

配信を見て、ゲームプランを知り、引き出しを増やす。それは地道ながら、確実に強くなれる方法です。

八十岡さんの個人配信では、コメントで「なぜそのプレイをしたのか」などを質問すると、拾って答えてくれることがかなり多いため、勉強として見るのにうってつけです。特にMPLの対戦を振り返って自身で解説する放送などは、双方トップレベルの戦いなのでうまくなりたい人にとって必見といえます。

「I’m not Shota Yasooka(俺は八十岡翔太ではない)」という言葉があり、八十岡さんのデッキは凡人には使いこなせない、八十岡さんの思考レベルには達することができない、などと言われることがあります。
しかし、しっかりと考え、解説を受ければ、どのプレイもどの構築も理論に基づいたものであるため、理解することは誰にでもできるのです。
「ヤソだから」と思考放棄せず、理解に努めることが、八十岡翔太に近づく唯一の道となるでしょう。

 

 

鳥の乙女
おまけ:前の記事の問題の答えは、初出が『アラビアンナイト』、最後の登場が第5版である《鳥の乙女/Bird Maiden(ARN)》でした。

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