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【PTHOU】2日目構築ラウンドまとめ【Day2】

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渡辺さんは〈MUSASHI〉がチームシリーズで1点でも多くプロポイントを稼ぐため、覚前さんはそれに加えて自身のゴールド・レベル獲得を目指し、2日目の構築ラウンドに臨みました。

シーズン最後のプロツアーで、今回の結果で来年のプロレベルが決まるため、最終ラウンドが終わりに近づくにつれ、あちこちから喜びの叫び声やハイタッチの音などが響き、雰囲気がざわざわしてきます。
そんな中、赤単だらけのフィールドで多数のギャラリーに見守られ、厳しい戦いを強いられた覚前さんは、惜しくもゴールド・レベル到達ならず。見ているほうの心臓が痛くなるようなギリギリの勝負を最後まで続けていましたが、最終ラウンドが終わると悔しさを押し殺して「こんな時もあります。応援してくれてありがとうございました」といつもの笑顔を見せてくれました。

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ちょうどジャッジの背中で隠れて見えませんが、覚前さんが画面奥で対戦を行なっており、多くの観戦者が集まっています。覚前さんは周りは気にせず、「常に盤面だけを見るように心がけている」そうです。

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渡辺さんは、トップ8入りをかけた石村信太朗さんの戦いを、井川良彦さんと並んで応援していました。
 
●渡辺雄也の場合

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2日目ドラフトラウンドの戦績
1-2

2日目スタンダードラウンドの戦績(通算戦績6-8、最終順位262位)/黒単ゾンビ

ラウンド 対戦相手のデッキ(相手の名前) 勝敗
12 黒単ゾンビ 勝ち(○○)
13 赤単アグロ(ジェイソン・チャン) 負け(○××)
14 赤単アグロ 負け(××)

 


渡辺雄也『黒単ゾンビ』
プロツアー『破滅の刻』



20《沼》
2《イフニルの死界》
2《ウェストヴェイルの修道院》


土地(24)


4《墓所破り》
4《戦慄の放浪者》
3《金属ミミック》
4《無情な死者》
4《アムムトの永遠衆》
4《戦墓の巨人》


クリーチャー(23)


2《致命的な一押し》
4《闇の救済》
3《闇の掌握》
4《リリアナの支配》


呪文(13)


1《致命的な一押し》
1《闇の掌握》
3《精神背信》
1《霊気圏の収集艇》
2《失われた遺産》
3《最後の望み、リリアナ》
3《ゲトの裏切り者、カリタス》
1《領事の旗艦、スカイソブリン》


サイドボード(15)


デッキについて

――デッキの特別な調整ポイントなどはありますか?
渡辺「いや、特にないです。一番勝率が高いというデータに基づいてゾンビというデッキそのものを選んだので、かなりオーソドックスですね。サイドボードの《最後の望み、リリアナ/Liliana, the Last Hope(EMN)》と《ゲトの裏切り者、カリタス/Kalitas, Traitor of Ghet(OGW)》の枚数が少し多めですけど、誰でも思いつくようなものなので特別ではないです。」

――2日間戦ってみて、こうすればよかったという反省点はありますか?
渡辺「かなり多いですね。リリアナとカリタスはメインに入れておけばよかった。赤単が多かっただけでなく、ゾンビがかなり多かったのがちょっと予想外で……。ゾンビ同系にはリリアナがめちゃくちゃ強いので。」

対戦について

――今日の対戦はいかがでしたか?
渡辺「ドラフトが終わった時点で5-6だったので、だいぶ精神がやられていて(笑)。ヨレヨレだけど、チームシリーズがあるからやろう……という感じで。
13ラウンド目にジェイソン・チャン……Amazではなくニュージーランドのジェイソン・チャンのほうと当たったんですが、2本目でかなり勝ってる状態、てるや的に言うなら『9割勝ち』の場から、ポカミスで負けました。」
覚前「ナベがポカミスなんて、珍しいね。」
渡辺「精神をやられてたね。《ゲトの裏切り者、カリタス/Kalitas, Traitor of Ghet(OGW)》を出して、対処されずにターンが返ってきたんです。赤単戦では、カリタスは1回ゾンビを食べてサイズを5/6にしておけば、絶対除去されないんです。なのに、そうせずフルタップで相手の飛行クリーチャーに除去を撃ってしまって、きっちり返しで除去を引かれて、カリタスを失ってそこからズルズル負け。」

――うっかり除去を撃ってしまったんですか。
渡辺「撃ったあとで、『あっ、これダメなプレイだな。引かれたらやばいじゃん』と思ったら当然引かれました。」

――ミスをすると、それを咎めるカードが浮いてくるってよく言いますもんね。
渡辺「全然集中できてなかったです。今にして思うと、今回は練習の段階からちょっと気が抜けてたんじゃないかと。今回のプロツアーにはかかってるものが少なくて、チームシリーズもダントツで勝ってたし、プラチナも確定してるし。」

――それで、勝ちへの貪欲さが足りなかったんでしょうか。
渡辺「ただ、次のシーズンからはサイクル制になるので(注:3か月のサイクルごとにポイントを集計してプロレベルが決まり、新しいほうから成績をカウントしていくようになる)、気が抜けなくなるのはいいかもしれないですね。今回みたいに、最後のほうで目標があまりない、ということはなくなるので。」

――そうですね。
渡辺「今回はメンタルコントロールが甘かったのが反省点です。もっと逆境に立たせてほしい(笑)。背水の陣のほうが身が引き締まるので。」

――それは覚前さんが1日目のまとめでも言っていた、「明日死ぬかもしれないと思って生きる」ということじゃないでしょうか。
渡辺「あんた、たいしたもんだよ。」
覚前「最近は、そういう心の持ちようでやってます。」
 
●覚前輝也の場合

15

2日目ドラフトラウンドの戦績
3-0

2日目スタンダードラウンドの戦績(通算戦績 10-6、最終順位51位)/赤黒アグロ

ラウンド 対戦相手のデッキ(相手の名前) 勝敗
12 赤単アグロ 負け
13 赤単アグロ 負け
14 赤単アグロ(熊谷陸) 勝ち
15 ティムールエネルギー 負け
16 赤単アグロ 負け

 


覚前輝也『赤黒アグロ』
プロツアー『破滅の刻』



7《沼》
6《山》
4《凶兆の廃墟》
4《ラムナプの遺跡》
3《燻る湿地》


土地(24)


4《ボーマットの急使》
4《地揺すりのケンラ》
2《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4《屑鉄場のたかり屋》
2《アムムトの永遠衆》
4《ピア・ナラー》
4《熱烈の神ハゾレト》


クリーチャー(24)


4《ショック》
3《削剥》
4《無許可の分解》
1《反逆の先導者、チャンドラ》


呪文(12)


2《アムムトの永遠衆》
3《栄光をもたらすもの》
3《マグマのしぶき》
1《削剥》
2《精神背信》
1《霊気圏の収集艇》
2《反逆の先導者、チャンドラ》
1《領事の旗艦、スカイソブリン》


サイドボード(15)


デッキについて

――このデッキの調整ポイントは?
覚前「高尾(翔太)君が考えついて、加茂(里樹)君と3人でシェアした赤黒なんですけど、赤単に比べるとミッドレンジに強い構成で、その分赤単よりスピードが遅い。昨日は『赤単とは五分』って言いましたけど、2日間やってみて、やっぱりどう見ても不利でしたね。僕は《熱烈の神ハゾレト/Hazoret the Fervent(AKH)》が強いと思ったのでメインに4枚にしたんですけど、今にして思えば、4枚にするならそもそも赤単にしてしまったほうがよかったなと。ハゾレトが殴れるタイミングが、黒が入ってることによって1手遅くなってしまうので。」

――もともと、赤単を食うようなデッキに勝つという意図だったわけですよね。
覚前「そうです。」
渡辺「そういうつもりで僕らも最初は赤黒を使うつもりだったんですけど、やっぱり赤単にちゃんと有利なデッキを使いたくて、僕らは変更したんです。」

――結局、赤単を食うデッキではなく、赤単自身が上がってきたのが敗因といえるでしょうか。
覚前「僕は赤黒が強いと思って満足しちゃってたけど、もっと赤単も調整してたらよかったかなと思いました。高尾君も僕も今日の構築ラウンドは1-4でしたけど、赤単だったらもう少し勝ててたと思います。1人でやってたら、負けても『まぁ次に生かそう』と思うくらいなんですけど、今回は一緒のデッキを使って、高尾君は今日の目標が2-6でシルバーだったのに1-7してしまって、いつもより悔しい気持ちがあります。」

限られた時間での調整

――もっと赤単をやっていればよかったという話ですが、プロツアーまでの限られた時間で仕上げないといけないので、効率的に時間を使うのは難しいですよね。
覚前「チームなので、ビートダウンやコントロールで担当の分担はできるんですけど、ビートダウン担当の3人で赤黒をずっとやってたんですよね。今回は赤黒をこすりすぎたって感じです。」

――プロツアーの本命だと思っていた仮想敵デッキが作りこめず、本命へのアンチデッキを持ち込んだけど、もし本命を作りこめていたならそれを素直に使っていたほうがよかった、っていうのは昔からよくあることですよね。
渡辺「そこの見極めは、毎回本当に難しいです。今回は赤単がそれにあたりますけど、2週前から目立っていたから、絶対メタられると思ってたんです。プロツアーの参加者って、そういうデッキはつぶせるようにデッキを組むか、もしくはそれを使うんで、赤単はつぶせるんじゃないかなというのが調整時の見解でしたね。」

――かつて機体デッキが沈んだように、ですね。
覚前「赤単は機体ほど多角的なデッキでもないしね。」

――それでも今回勝つべくして勝った赤単というのは、どんな内容なんでしょうか?
渡辺「まだちゃんとデッキリストを見てないんですけど……」
覚前「PVのデッキに入ってる《損魂魔道士/Soul-Scar Mage(AKH)》が強かった。」
渡辺「《熱烈の神ハゾレト/Hazoret the Fervent(AKH)》と《ゲトの裏切り者、カリタス/Kalitas, Traitor of Ghet(OGW)》への対策ですね。あとPVのレシピにはメインから《反逆の先導者、チャンドラ/Chandra, Torch of Defiance(KLD)》とか《霊気圏の収集艇/Aethersphere Harvester(AER)》が入ってるはず。」

――それを聞くと、世界のプロの赤単はより先を行っていたのかなと思われます。
渡辺「《損魂魔道士/Soul-Scar Mage(AKH)》を取ってる人はけっこういて、実際当たるときつかったです。なので、同系対策を追加の黒ではなく《損魂魔道士/Soul-Scar Mage(AKH)》で取った赤単が、今回の勝ち組と言えそうですね。」
覚前「僕も《損魂魔道士/Soul-Scar Mage(AKH)》入り赤単を使いたかったですね。」
渡辺「そこまで進化してれば、僕らみんな赤単を使ってたかもしれない。ゾンビに変えたのが直前だったので、ゾンビを練る時間が足りなかったのもよくなかったですね。メタ的にゾンビはまあまあよかったと思うんですけど、勝ちきれなかったのは細部の調整不足かなと思います。ただ、そういうのって気付けるかどうか次第なんですよ。時間もないし、限られたメンバーでの調整なので、アイディアをひらめくかどうかは運だと思うんです。ひらめいたチームは今回勝ったし、僕らはそこまで行けなかったのかなと。」

――前回のプロツアー『アモンケット』では、〈MUSASHI〉で調整したコントロール寄りの霊気池デッキが成功しましたが、それは運がよかったから?
渡辺「あれはもとになったかずあき(藤村和晃さん)のデッキがあって、海外勢にとってはネットで見つけても『誰やねん』って感じでしょうけど、僕らはかずあきのデッキ選定眼には一目置いているから早めに気づけて、プロツアーでも対策されてなかったのが成功の理由です。なので逆に、海外勢は知ってるプレイヤーを僕らは知らないってこともあると思いますし、やっぱり運はありますね。」

――今の調整は時間との戦いですが、次のプロツアー『イクサラン』からは、商品発売からプロツアーまでの期間が伸びますよね。それによって調整はどう変わりそうでしょうか?
渡辺「僕個人としては、MOをたくさんやった人が勝つんじゃないかと思います。リアルのチーム調整よりMOのほうが早いので。僕としては、デッキを1から作るより練り上げるほうが得意なので、変更はうれしいですね。」

対戦について

――少し話がそれましたが、覚前さんの対戦について少し。最終ラウンドのゲームが始まる前に、ジャッジが呼ばれていましたが?
覚前「相手が何か英語でいろいろ話しかけてきたので、ジャッジを呼んで通訳してもらったら、『トス(勝ちを譲ること)してくれ』って。5敗ラインで、チームシリーズのポイントもかかってるのに、そんなのするわけないんですけど。何か英語で言ってきたから、ワンチャントスしてくれるのかと思った(笑)。」

――対戦中にも、相手の手札が2枚なのに《熱烈の神ハゾレト/Hazoret the Fervent(AKH)》が攻撃してきて、ジャッジが止めた場面がありましたね。
覚前「よく見てますね。」

――そりゃ見てますよ、心配と緊張で泣きそうになりながらずっと見てました。
覚前「あの時はこっちも手札の枚数に気がつかなくて、ハゾレトに除去を撃ってしまったんですけど、結局あの場面はどっちにしろ負けてました。ラウンドの最後のほうになると、やっぱり疲れが出ちゃいますね。フィジカルを鍛えるのが大事だなって思います。」

――ウィリアム・ジェンセンさんは毎日鴨川べりを走って体調を整えているという記事がありましたね。
覚前「そう。ラファエル・レヴィとかもジョギングしたりしてて、PVだけは特に何もしてないって言ってたじゃないですか。あれはPVだけまだ若いからですね(笑)。30歳超えたら、フィジカル鍛えないと勝てないと思います。」

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最終戦での覚前さん

来シーズンに向けて

――覚前さんは今シーズンを振り返ってどうでしたか?
覚前「ゴールドになれなかったのは残念ですけど、レベルが目標じゃないので、マジックプレイヤーとしていいプレイができるようになるというのを目標に、来シーズンも頑張りたいと思います。」

――そうすれば自然と結果はついてくるでしょうし。
覚前「そうですね。実力がついて、時がくればゴールドになっていると思います。」

――このシーズンはどうでしたか?
覚前「〈MUSASHI〉に入って、みんなで調整ができるようになったのはすごく自分の成長にもつながったし、ありがたかったですね。今まで基本的に1人で、何かあったら質問するような感じでやってましたけど、みんなで一緒にやって、チームで一緒に勝ちたいなって思うようになりました。」
渡辺「チームシリーズが始まって、自分の試合で勝った負けたのと同じくらい、チームメンバーのことも嬉しかったり悔しかったりするようになりましたからね。」

――渡辺さんにとっては、このシーズンはいかがでしたか?
渡辺「うーん、またWMC(ワールド・マジック・カップ)のリーダーになれたことは感慨深いですかね……ただ、ちょっと都合で、まだ出られるかどうか確定してないんですが。僕の予想では、日本選手権の決勝はヤソとやまけんが争うはずなので(笑)、楽しみです。」

――日本マジック界を代表する存在ともいえる渡辺さんから見て、来シーズンのプロマジックシーンはどうなってほしいですか?
渡辺「えっ? 難しい質問ですね……賞金上げてほしい!(笑)」

――プロがもっと胸を張ってプロらしくあるためにはってことですね。
渡辺「まあ、マジックだけで暮らせるくらいにはなってほしいですね。今はフェラーリにも乗れてないし(注:市川さんがインタビューで言った「渡辺さんがマジックの稼ぎでフェラーリを乗り回すようになればプロへの夢が高まる」を受けて)。まず免許取らなきゃいけないけど。」

――運転手つきにするとか……いや、フェラーリは助手席に彼女を乗せて、自分で運転したほうがカッコいいか。
渡辺「問題は、俺の助手席に乗る人は二次元の世界から出てこられないことなんですよね(笑)。」
(一同笑い)

なおこの取材時にはCygamesの森慶太が同行しており、昔のマジック事情や将来のマジックシーンの展望などについて深く語り合いました。「オッサンホイホイ」としては非常に面白い内容なのですがあまりにもマニアックなため、いずれマニア向けのコンテンツとして機会があればご紹介できるかもしれません……。

シーズン終了とチームシリーズ決勝

これにて1年間のシーズンが終了。Team Cygamesが発足してからは2シーズン目が終わったことになります。
このシーズンは〈MUSASHI〉の発足もあり、いろいろともりだくさんでしたが、チームシリーズでめでたく集大成を迎えることができました。
現在、〈MUSASHI〉は圧倒的なリードをなんとか守りきり、明日の結果次第では2位になる可能性もあるものの、決勝進出が確実な状況となっています。
また、世界選手権で戦う相手チームはGenesisということも確定しています。今回トップ8入りしたセス・マンフィールドさんを初め、ブラッド・ネルソンさんやマーティン・ミュラーさんなど、超強豪ぞろいのチームですが、相手にとって不足なし!
(注:日曜日の準々決勝でパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサさんがセス・マンフィールドさんを破ったことにより、〈MUSASHI〉の1位通過がめでたく確定しました。)
世界選手権には、個人戦で渡辺雄也さん・八十岡翔太さん・行弘賢さんの出場も決まっています。Team Cygamesと〈MUSASHI〉メンバーの活躍にどうぞご期待ください!

また、日曜日にはスペシャル対談企画を予定しておりますので、そちらの記事もどうぞお楽しみに!

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Team Cygames合宿に参加しており、このたびBIG MAGIC PRO入りした川崎慧太さんも一緒に打ち上げ。

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