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【PTDOM特別編】デッキテク:行弘賢の「緑黒暴君」~“デッキ勝ち”したい君へ~

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今回のプロツアーで行弘さんただ1人が持ち込んだこの「緑黒暴君」デッキは、赤黒機体と青系コントロールに勝つために作られたユニークなもの。いわゆる「ランプ(マナ加速)」系デッキで、マナを伸ばして「昇殿」しつつ相手を捌き、相手の手札を腐らせながらプレインズウォーカーや《殺戮の暴君/Carnage Tyrant(XLN)》につないで勝利する、という動きをします。
行弘さんの構築ラウンドの戦績は6-4でしたが、今後のスタンダード環境に一石を投じそうなこのデッキについて、プロツアー最終日に行弘さん本人に解説をしていただきました。
(※公式では「緑黒ランプ」となっていますが、ここでは行弘さんの名付けたデッキ名で呼ぶことにします)

 

 

 


行弘賢『緑黒暴君』
プロツアー『ドミナリア』



4《沼》
3《森》
4《花盛りの湿地》
4《森林の墓地》
3《ハシェプのオアシス》
3《イフニルの死界》
1《オラーズカの拱門》
1《進化する未開地》
1《廃墟の地》
1《屍肉あさりの地》


土地(25)


2《むら気な長剣歯》
2《殺戮の暴君》


クリーチャー(4)


4《約束の刻》
3《強迫》
1《不帰+回帰》
4《致命的な一押し》
4《ヴラスカの侮辱》
2《喪心》
1《造反者の解放》
4《楽園の贈り物》
1《アルゲールの断血》
3《ウルザの後継、カーン》
3《秘宝探究者、ヴラスカ》
1《生命の力、ニッサ》


呪文(31)


1《殺戮の暴君》
1《強迫》
1《歩行バリスタ》
4《光袖会の収集者》
1《打ち壊すブロントドン》
1《豪華の王、ゴンティ》
1《大災厄》
3《ヤヘンニの巧技》
1《魔術遠眼鏡》
1《菌類感染》


サイドボード(15)


殺戮の暴君楽園の贈り物

約束の刻 ハシェプのオアシス

対戦結果

ドラフトラウンドの合計戦績
5-1

スタンダードラウンドの戦績(通算戦績6-4、最終順位38位)/緑黒暴君

ラウンド 対戦相手のデッキ(相手の名前) 勝敗
4 青白コントロール 負け
5 白黒機体 負け
6 白黒機体 勝ち
7 青黒ミッドレンジ 勝ち
8 エスパーコントロール(市川ユウキ) 勝ち
12 青黒コントロール(Andrew Cuneo) 勝ち
13 緑黒ガルタ(ツボウチトモヤ) 勝ち
14 赤タッチ黒 勝ち
15 赤単 負け
16 赤タッチ黒(Reid Duke) 負け

02

このデッキができるまで

――どのようにしてこのデッキは生まれたんですか?
行弘「今回木曜の朝までにデッキを決めなきゃいけなかったんですが、月曜の時点で〈MUSASHI〉の中ではエスパーコントロールか赤黒を使うということが決まっていて、だいたいみんなエスパーになりそうだったんです。
ただ、エスパーってあらゆるデッキを受けきって対応して、デッキパワーの高さで少しだけ上回るから安定して6~7割は勝つみたいなデッキなんですけど、僕の性分にまったく合わなくて。」

――そうなんですね。
行弘「そしたらヤソ(八十岡さん)に『じゃあ赤黒をやってきてよ』と言われて、MO(マジック・オンライン)の5-0リストを探してたんです。そうしたら、緑黒の砂漠デッキが5-0してるのを見つけて、そっちについつい浮気してしまって(笑)。
こういうデッキはありだなって以前なんとなく思ってたんですが、自分で作ったときは全然形にならなかったんですよね。で、そのリストを見たときに、黒緑のミッドレンジで砂漠ランパンを使うって考えが僕にはなかったんで、なるほどこれは今の環境に合ってるかもなと思ったんです。」

――じゃあその名もなき5-0リストの人にも感謝ですね。
行弘「でも、そのデッキはすごい弱そうだったんですよね(笑)。《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves(DOM)》とかマナクリーチャーがたくさん入っていて、この形では赤系に勝てないだろうと。なので、そのへんを全部除去や《楽園の贈り物/Gift of Paradise(AKH)》に替えて、フィニッシャーとして《殺戮の暴君/Carnage Tyrant(XLN)》を採用して除去を腐らせるというコンセプトでいけば、赤黒にもコントロールにも勝てるんじゃないかと思いついて、火曜日は1日その緑黒の改造に費やしました。
最終的にはもとのリストとは全然違うデッキにはなってます。」

――なるほど。
行弘「1日かかってかなり回るようになったところで、水曜日にヤソにデッキを提出したんですけど、原根君は『赤黒やってきてね』と言われた僕が緑黒を持ってきたのを見て『とんでもねぇ……』って言ってました(笑)。」

――確かに(笑)。
行弘「で、試してみたら赤黒にもエスパーにも有利がついたんですけど、テストプレイする時間は水曜日1日しかなくて、覚前君とかみんなに手伝ってもらっていろんなデッキとスパーして、なんとか形にしました。ただ、やっぱりちょっと時間が足りませんでしたね。」

――では、「もっとこうしたらよかった」と思っているところがあるんですか?
行弘「メインの《秘宝探究者、ヴラスカ/Vraska, Relic Seeker(XLN)》は抜いて、サイドの《殺戮の暴君/Carnage Tyrant(XLN)》の3枚目をメインに移して、6マナのフィニッシャーを《殺戮の暴君》3枚にしてもうちょっとデッキを軽くすっきりさせたほうがよかったなと思いましたね。6マナ5枚はちょっと重かったので。
あと、《生命の力、ニッサ/Nissa, Vital Force(KLD)》は青白にしか強くないんで、なくてもよかったかなと思いました。除去を少しと《カーン》の4枚目を追加するのでもよかったかも。除去→除去→《カーン》っていう、もともと意識してた黒系のコントロールっぽい動きがすごく強いんで、そっちのモードをもう少し充実させてもよかったかなと思いましたね。」

秘宝探究者、ヴラスカ 生命の力、ニッサ

メタゲーム上の立ち位置

――青系コントロールと赤黒を倒すためにこのデッキを作ったということでしたが、今回のプロツアーにそれらが多いと思ったからですよね。
行弘「そうですね。青黒コントロールには絶対負けないくらい《殺戮の暴君》が強いので、自信がありましたね。
赤黒に対しては、正面から戦うと、赤黒のカードパワー……単純に強いクリーチャーとそれをバックアップする除去に対してはどのデッキもほぼ立ち向かえない。なので、相手の除去を腐らせるか、もしくは相手のクリーチャーを全部除去するかのどっちかのプランじゃないと、赤黒機体には勝てないんです。
そこで、相手の除去が当たらないか、もしくは当たってもいいクリーチャーだけ入れたり、相手クリーチャーをできるだけ幅広く除去できるカードを入れたりする構成を意識しました。」

――赤黒機体に当たった場合は、相手の除去を腐らせてこっちのペースに持っていくと。コントロールに対しては?
行弘「3枚入っている《強迫/Duress(XLN)》で妨害しながら、プレインズウォーカーにつなげます。こっちも除去は腐るんですけど、こっちのほうがちょっと有効牌が多い感じですね。サイド後はこっちだけ全部有効牌になるのに対して、相手は低マナ域の除去を抜きたいけど、全部抜くとこっちが追加したボブ(《光袖会の収集者/Glint-Sleeve Siphoner(AER)》)に負ける、みたいな感じになって、相手に不自由な二択を迫れます。なので、メインはそこそこ負けるんですけど、サイド後はほぼ負けないです。」

強迫 光袖会の収集者

 

――一方、早いデッキは苦手ですか?
行弘「赤単系は苦手ですね。最後に2連敗したのも、赤単と、赤単タッチ黒だったので。どっちもメインは取ってるんですが、サイドボードプランが悪かったと思います。そのへんは練習不足なところが出ました。」

――赤黒機体と違ってどこがきついですか?
行弘「除去がだいたい火力なので、余った火力は本体に撃てて腐らないという点と、こっちの見ているレンジより少し軽くて一段階早い分、対処しきれないと押し切られてしまうんです。ちゃんと動けば間に合うんですけど、そんなに毎回うまく噛み合わないんで。そのへんはデッキがちょっと重すぎたところも要因でした。」

――では、さっき言っていた《秘宝探究者、ヴラスカ/Vraska, Relic Seeker(XLN)》をサイドに落とす以外で、早いデッキに対抗する手段はありますか?
行弘「まだ全体を改善する案はないんですけど……赤系に勝ちたいなら《打ち壊すブロントドン/Thrashing Brontodon(RIX)》を入れるとか。ただ相手の除去は食らってしまうので、赤系のビートがいると思うんだったら入れればいいし、いないと思うんだったら入れない、そのへんはメタゲームによって変えればいいと思います。
今回はプロツアーのメタに絞って作ったデッキなので、今後これを使いたいならメタゲームに沿って変えていかなきゃいけないですね。」

打ち壊すブロントドン

キーカード

――このデッキのキーカードは、やはり《殺戮の暴君/Carnage Tyrant(XLN)》ですよね。
行弘「そうですね、再序盤は除去でかわして《楽園の贈り物/Gift of Paradise(AKH)》を張り、砂漠ランパン(《約束の刻/Hour of Promise(HOU)》)を撃ってゾンビを出しつつ《殺戮の暴君/Carnage Tyrant(XLN)》につなぐ、というのが一番きれいな動きです。」

――それに加えて、《オラーズカの拱門/Arch of Orazca(RIX)》が実はかなり大事なんですよね?
行弘「消耗戦したあとで手札がなくなるというランプ系デッキの弱点もそこそこフォローできるので、《約束の刻/Hour of Promise(HOU)》で2枚持ってくるときに余裕があったらぜひ毎回持ってきたい土地です。」

――ドローソースは《アルゲールの断血/Arguel’s Blood Fast(XLN)》もありますね。
行弘「あと《ウルザの後継、カーン/Karn, Scion of Urza(DOM)》が3枚入ってるんですけど、《カーン》は青くないデッキで使って手札を充実させるほうがより使いでがあるし、あとこのデッキでは土地が来るのもうれしくて、土地とスペルがセットでめくれても十分強いんで、デッキにすごく合ってます。その代わりマイナス能力はほぼ使いません。トークンは本戦で1回も出しませんでした。」

――完全にドロー用の《カーン》なんですね。
行弘「それに、《カーン》がいると相手は無視するか《カーン》を処理するか、ちょっと難しくなる。相手としては、下手に《カーン》にかまってるとこっちのライフが削れないし、《カーン》を残したら残したでスペルがどんどん追加されていって気づいたらまくれなくなってたりもする。なので、相手のプレイを難しくする面も含めていいカードでしたね。」

オラーズカの拱門 ウルザの後継、カーン

サイドボードの使い方

――サイドボードについても簡単に教えてください。
行弘「使い方がわからないカードはほぼ入ってないと思います。ビート相手には除去を入れて、コントロール相手には除去を抜いてボブ(《光袖会の収集者/Glint-Sleeve Siphoner(AER)》)と手札破壊を入れて《殺戮の暴君/Carnage Tyrant(XLN)》を足して……と単純なので、わかりやすいと思います。《豪華の王、ゴンティ/Gonti, Lord of Luxury(KLD)》はミッドレンジとか緑系にもサイドインしますし。」

――あとはメタゲームに合わせて調整ですね。
行弘「1つ気をつけることがあるとしたら、練習中には『青系に対しては指定するものが《ドミナリアの英雄、テフェリー/Teferi, Hero of Dominaria(DOM)》しかないから、《魔術遠眼鏡/Sorcerous Spyglass(XLN)》を入れないほうがいい』って話になってたんです。

――なぜですか?《テフェリー》は止めたいですよね。
行弘「《テフェリー》を相手が出す展開にあまりならないんで、損になりやすいんです。たとえば《殺戮の暴君/Carnage Tyrant(XLN)》がいたらもう出してこないから。」

――ああ、確かに。
行弘「ただ、実は相手の《廃墟の地/Field of Ruin(XLN)》が、思った以上にきつかったんです。練習段階ではあまりわからなかったんですけど、こっちの砂漠プランが崩壊してしまうんで。砂漠も割られるし、《オラーズカの拱門/Arch of Orazca(RIX)》も割られるし、こっちのやりたいことを封じられてしまうので。だから《廃墟の地》を止められるように《魔術遠眼鏡》を1枚サイドインしたほうがいいと思います。もちろん《テフェリー》も止めたい時があれば止められますし。」

廃墟の地 魔術遠眼鏡

こんな人にオススメ

――最後に、このデッキはどんな人にオススメですか?
行弘「赤黒機体や青系コントロールに反逆心を燃やしている人や、人とは違うデッキでマジックを楽しみたい人、“デッキ勝ち”したい人なんかにぜひ使っていただけたらと思います。」

――ありがとうございました!

今までもプレミアイベントにおいてたびたび独創的なデッキで活躍し、注目を集めてきた行弘さん。今回のメタゲームを読んだデッキもみんなを驚かせましたが、今後の新デッキにも期待が高まります。

 

03

フィーチャーテーブルでの行弘さん

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