Articles

【MCⅤ】デッキテク:行弘 賢の「マルドゥエンバレス」【Day2】

MTG_LongBeach_Day2-00185

Team Cygamesの2人が苦戦する中で、日本人で唯一、見事トップ8に進出した男がいた。

MPLプレイヤー、行弘 賢。

放送席を幾度も沸かせた《エンバレスの宝剣/Embercleave》が4枚入った異色のマルドゥアグロに、行弘はどのようにしてたどり着いたのか。

今回のデッキについて、インタビューをお願いした。

 

 

 


行弘賢『マルドゥナイト』
MC5



5 《山》
3 《沼》
4 《血の墓所》
4 《神無き祭殿》
4 《聖なる鋳造所》
4 《試合場》


土地(24)


4 《熱烈な勇者》
4 《漆黒軍の騎士》
4 《黒槍の模範》
4 《鼓舞する古参》
4 《リムロックの騎士》
4 《評判高い挑戦者》
4 《朽ちゆくレギサウルス》


クリーチャー(28)


4 《鋼爪の槍》
4 《エンバレスの宝剣》


呪文(8)


4 《軍団の最期》
4 《害悪な掌握》
4 《アングラスの暴力》
3 《栄光の好機》


サイドボード(15)


 

――前日インタビューによれば、市川さんが行弘さんから『良いデッキあるから調整しようよ』と持ち掛けられたそうなんですが、それがこのデッキだったんでしょうか?

行弘「いや、まったく違う(笑) ちょうどその時《不屈の巡礼者、ゴロス/Golos, Tireless Pilgrim》ランプが流行っていたので、メインに《裏切りの工作員/Agent of Treachery》を4枚入れたバントコントロールを組んでいたんだよね。せばちゃん (市川) に声をかけたのは、ゲーム時間が長くて一人だと練習効率悪いなと思ったのと、せばちゃんが勝ってプロツアーに出続けて欲しいからと思って声かけた感じだね。」

――そのバントコントロールはどれくらいで挫折したんでしょうか?

行弘「最初の日の2時間くらいだったね」

八十岡「まずオレはそのデッキが回ってるの見ることなかったからね(笑)」

Agent of Treachery Midnight Clock

行弘「《真夜中の時計/Midnight Clock》を使ったデッキだったんだけど《時を解す者、テフェリー/Teferi, Time Raveler》と《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns》に弱いし、バントカラーでやるならゴロスを普通に使った方がええやんとなって。でゴロスの調整が始まったんだけど、みんな結構勝って、これは当日もゴロスいっぱいおるなぁと。そっからは『ゴロスを使うかゴロスを倒すか』でみんな調整していった。」

行弘「そしたらその過程で、誰かがグルールと当たったんだよね。で《エンバレスの宝剣/Embercleave》を使ってるの見て、『あ、確かにこれはいいな。ゴロスを倒しうるな』と思って注目して。でも『グルールはマナベースが弱い』という話をみんなとずっとしてて。じゃあ別軸で《エンバレスの宝剣》を付けられないかと考えたときに、『騎士』が一番しっくりくるかなと。」

Embercleave Rotting Regisaur

行弘「それで騎士を回してみたんだけど、どうも1スロット足りなくて、《義賊/Robber of the Rich》とか弱いカードが入っちゃう。サイズが細いし、《エンバレスの宝剣》を付けても大して打点が上がらんから、厳しそうだった。」

行弘「そこでちょっと試しに《朽ちゆくレギサウルス/Rotting Regisaur》に変えてみたら、これは結構デッキになったなと。でオレはこれでいいかなってなって、それが最終日の朝5~6時くらい。その時ほかのみんなは、オレのデッキがメタデッキっていうだけで不安定で、勝率はぶっちゃけそんなに良くなかったから、せばたくんとかレイくん (佐藤) とかはヤソのシミックに乗ることにして。」

行弘「オレはMCってトップメタがかなりメタられるし、シミックもあまり好きじゃないから、マルドゥで行くことにしたっていう流れだね。」

Steelclaw Lance

――《鋼爪の槍/Steelclaw Lance》って必要なんでしょうか?

行弘「3枚までは減らせるけど、あれがないとさすがに細いよ。一応ドミンゲス (《熱烈な勇者/Fervent Champion》) からの装備3/3アタックはいい回りだし、《朽ちゆくレギサウルス》を引かないときは結構盤面きついからね。まあサイドアウト候補ではあるけど。構造上クリーチャー以外のスペルはあまり入れられないから、スペルをサイドインする時は大体あれが抜けるね。」

Bonecrusher Giant

行弘「ただ今回やってみて《砕骨の巨人/Bonecrusher Giant》はちょっと入れたいなと思ったから、もう1回出るなら《鋼爪の槍》をちょっと削って巨人を入れるかな。」

――一般的なマルドゥ騎士とは全く違う形にたどり着いているのが面白いですよね。

行弘「オレは騎士から入ってないからね。『《エンバレスの宝剣》が4枚入れられるデッキないかな』から入ってるから。普通のマルドゥ騎士は弱いカードが入りすぎて、単体でキープできないからマリガンに弱いよね。その点オレのデッキはマリガンしても戦える形になってる。」

八十岡「実質赤黒ビートだからね。」

行弘「そうね。他にも《空騎士の軍団兵/Skyknight Legionnaire》とかも試して、悪くはなかったんだけど、白いカードを減らしたいから抜けちゃった。」

Skyknight Legionnaire Blacklance Paragon

――《黒槍の模範/Blacklance Paragon》と《エンバレスの宝剣》との噛み合わせは非常に良いですよね。

行弘「それ以外にも瞬速だから全体除去にも強いし、《熱烈な勇者》の先制攻撃とも相性が良いし、ダメージレースもひっくり返せるから、あれはかなりデッキのキーカードだね。あれがプールになかったら成り立たなかったと思う。」

行弘「今は横並びがそんなに強くないから、縦押しのコンボデッキが良いなと思っていて。やってることは感染と一緒で、コンボデッキなんだよね。ゴロスを倒すにはスピード勝負しかないから、その点でもコンボが良いだろうと。それでも、今回トップ8は上振れだけどね。どう考えても。」

行弘「もちろん始まる前から『いっぱい先攻とれたら勝てるな』とは思ってて、実際先攻いっぱい取れたからね。初日は7分の5.2日目は6分の4。まあそういう環境だよね。」

Noxious Grasp Angrath's Rampage

――サイドはシミック相手には《害悪な掌握/Noxious Grasp》と《アングラスの暴力/Angrath’s Rampage》を両方入れるんでしょうか?

行弘「先手後手次第だね。もともとは全部入れるつもりだったけど、調整したり当たってみて試したら、先手はない方がまだいいなと思って。まあ打てるかどうかという問題はそもそもあるけど(笑) その点も含めて、基本的には相手がある程度は事故ってくれることを期待するデッキではあるね。」

MTG_LongBeach_Day2-00426

行弘「ただアグロを使う以上はそういうリスクは受け入れざるをえない環境だと思う。アグロにマナベースが用意されてないからね。その点、今回トップ8に残った面子はちゃんとリスク取ってきたやつらが多かった。メインから《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke》を4枚積んだり、赤単使ったりね。MPLリーグとかアリーナMCはメタが寄るから、リスクはとらないとダメだなとオレも前回学んで、『今回は勝つにせよ負けるにせよリスクは取ろう』と思ってて、それがうまくいったね。全然自信なかったからなー。」

 

 


トッププレイヤーばかりの大会では、強いデッキをメタったデッキに対し、さらにそれをメタったデッキが活躍するなど、勝敗に対して異質なロジックが働く。

行弘はゴロスVSシミックというメタゲームに対して第3極である《エンバレスの宝剣》を持ち出すことで、強者たちの間隙を突いて勝ち抜くことに成功した。

だが、それは決して同型戦を避けた臆病者の選択というわけではない。優勝したJavier Dominguezも、参加する前はグルールに対して全く自信がなかったという。しかしリスクに見合うリターンは確かにあった。冷静な計算のもとで、《エンバレスの宝剣》と心中することを決めた。

すなわち、真に勇気ある者だからこそできた選択なのだ。

そして行弘もJavierも、賭けに勝った。

トップメタのデッキに対して自らのデッキで解答を示すという、プロプレイヤーとしての在り方をこれ以上なく見せつけた行弘は、三日目は決勝一回戦目で敗退してしまったものの、この大会を経てまたひと回り強くなった。次こそは、トロフィーを掲げた姿が見られるかもしれない。

MTG_LongBeach_Day2-00481

  • Top