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グランプリ・京都2016レポート

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9月10日(土)~11日(日)に開催されたグランプリ・京都2016は、国内では2013年以来、アジアでも昨年のグランプリ・北京2015以来のチーム戦でした。
Team Cygamesのメンバー4人は、それぞれ別のチームで参加。チームシールド14回戦+決勝ラウンドのチームドラフト2回戦の結果、市川さんのチームが優勝、山本さんのチームが準優勝と、見事なワンツーフィニッシュとなりました。
それでは、大会の様子を振り返っていきましょう。

 

 

●チーム結成について

市川
チーム「The Sun」

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左から松本友樹・市川ユウキ・瀧村和幸

――市川さんのチームはどうやってできたんですか?
市川「そもそもグランプリ・北京2015のときに三原(槙仁)さんとAさん(松本友樹さん)で組もうとしてたら、Aさんが来れなくなって代わりにナベ君(渡辺さん)が入ったという経緯があったんです。今度こそ当初の3人でと思って、僕とAさんが組んで三原さんを誘ってたんですけど、三原さんが別のチーム組んじゃったって言うんで……。ドラフト合宿後の飲みの席で、瀧村君が空いてるって話だったんで入ってもらいました。」

山本
チーム「kenkenbaaaa」

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左から山本賢太郎・行弘賢・北原憲章

――山本さんのチームはしばらく同じメンバーですね。
山本「一昨年のサンノゼと昨年の北京で2回組んでて、2回ともちょっとふがいない結果だったんで、3回目でリベンジしたいねって感じです。」

――昔から行弘さんが山本さんと組みたいと言ってたとか。
覚前「行弘君が和歌山に住んでたころ、僕も関西だったからよく練習してたんですけど、そのとき『俺は日本で一番うまいのはやまけん(山本さん)だと思ってる』って言ってて、そのころから行弘君はやまけんと組みたかったんだと思います。」

――ずっと前からなんですね。ところで北京では行弘さんが真ん中でしたが、今回は北原さんが真ん中ですね。席変更の理由は?
山本「賢ちゃん(行弘さん)が、『統計的に真ん中の人はリーダーが多くて、ゲームが長いデッキを使うことが多い』と。で、北原君はレアを引く才能があるからレアを使わせたいと(笑)。その場合、ゲームが長引けば自然とレアを引く確率も高まるということで、B席にしました。」

――ニコ生に出演した際、山本さんのC席は残り物のデッキが多いとも言ってましたね。
覚前「今回僕C席だったけど、間違いなくそう。」
市川「C席は雑魚デッキの確率がかなり高いね。BやAがエースデッキのことはけっこう多いけど、Cがエースってのはほとんどない。」
山本「白とか赤とか、殴るデッキになるね。」
渡辺「実際、真ん中には白が全然いなかったし。」

――実際に、北原さんはレアを引く才能は発揮されてましたか?
山本「ちょいちょい。」
渡辺「うちのチームと当たったとき、2回とも4ターン目に《膨らんだ意識曲げ/Distended Mindbender(EMN)》出してきたじゃん。あんなん無理だよ!」
山本「そういえばそうだった(笑)」

覚前
チーム「KYK」

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左から加藤一貴・八十岡翔太・覚前輝也

――覚前さんのチームも、メンバーは変わっていませんね。
覚前「そうです、前回からの続きです。」

――席順も同じですか?
覚前「席は変わりました。ヤソ(八十岡さん)がBなのは変わらないんですけど、AとCでちょっと噛み合いが悪くて1-2で負けるみたいなのが前は多かったんで、入れ替えました。」

渡辺
チーム「shota yasooka fanclub」

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左から渡辺雄也・中村肇・井川良彦

――渡辺さんのチームはどんな風に結成されましたか?
渡辺「3年くらい前からずっと、このメンバーで組もう、それでじゃんけんしようぜって話してたんですけど、国内のチーム戦もあまりなかったし、いろいろ噛み合わせが悪くて、ようやく今回出れました。」

――今回、漢気じゃんけんやってましたね。
渡辺「行きの弁当代から参加費、帰りの新幹線まで全部じゃんけんで誰が払うか決めてました。僕は平均よりちょい多めくらい、カカオ(中村肇さん)が負を背負って、井川がマネーフィニッシュしました。」

――マネーフィニッシュ(笑)。
渡辺「井川は、回数で言ったら僕らの倍以上じゃんけんに負けてるんだけど、金額は一番少ない。負けどころをわかっている(笑)ともあれ、前からずっと組みたいチームだったんで、結果はあまり伴わなかったですけど、和気あいあいとできてよかったです。」

――チーム戦は仲が良くないと大変ですよね。不戦勝もないから、1日9回戦ずっとですし。
市川「チーム戦においては1日を楽しく過ごせるメンバーかはかなり重要。マジックの思想でもめることもあるから、その後もぎくしゃくしないような関係性じゃないと。」

 

 

 

●チームシールド振り返り

 

覚前
覚前輝也の場合(戦績:5-4、最終順位:245位)

「KYK」(加藤・八十岡・覚前)

ラウンド 勝敗 対戦相手(A・B・C)
R1 × キシダ・カワシマ・イノウエ
R2 オカムラ・サトウ・カネコ
R3 ニシウラ・ハマダ・カツバヤシ
R4 モギ・コニシ・モギ
R5 クロダ・ヒガシ・ミウラ
R6 ヒロハタ・アライ・ヤマダ
R7 × 加藤・菱田・上田
R8 × ヨシカワ・ハマグチ・シオタニ
R9 × Li・Sun・Ai

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覚前「僕らはけっこう練習していて、デッキを3つ組むにあたって、白を省いた4色で最強のデッキを2つ作り、残りは白を含んだ装備品込みのビートダウンにするのが一番いいというのまではたどりついてました。できればアーキタイプの中でも強い赤青ビートと青緑現出を組んで、残りで白ビートを……カードが弱いながらも押し込めることはあるので、その3つを組めるのが理想かなと。」

――その白ビートを使ってる人がC席にいることが多いんですか?
覚前「僕はC席で、初日9回中7回白に当たりました。」

――実際に組んでみてどうでしたか?
覚前「僕は赤青ビートと青緑現出は同じくらいの最強ランクだと思ってたんですけど、原根さんのチームにいた松本郁弥さんが、『赤青ビートが最強で、青緑現出よりも1ランク上だ』と言っていて、あとで考えたら実際そうだなと。僕は赤黒マッドネスを組んだんですけど、赤青ビートと同じくらいの点数あると思ってたんですよ。けど、終わってから見返したら、明確に赤青にしたほうが強かった。それが初めからわかってたら赤青で組んでたんで、もう1、2勝はできてたと思います。」
市川「俺も2日間通して赤黒デッキを使ったけど、安定性がなさすぎてゴミだよ。2マナ2/2の共鳴者(《オリヴィアの竜騎兵/Olivia’s Dragoon(EMN)》)を除去られたら、手札がゴミだらけになって何もできなくなるから。」

――ほかの2つはどんなデッキに?
覚前「赤黒のほかは青緑現出と白黒コントロール……ビートができなくてコントロールになって、その3つの組み合わせになったんですけど、8-1/6-3/6-3できる強さのデッキにするか、7-2/7-2/6-3のデッキにするかの二択だったんですよ。で、青緑8-1/赤黒6-3/白黒6-3にしたけど、青緑の完成度を少し下げて青緑7-2/赤青7-2/白黒6-3にしといたほうが、チームとしてトータルで勝ててたと思いました。」
市川「そのほうが、噛み合ったときに勝ちやすいからね。」
覚前「そうしたら、黒のパーツを全部白黒に回せたので、白黒のデッキもよくなってただろうし。そこが反省点です。」

――誰がどのデッキを使いましたか?
覚前「僕が赤黒、加藤君が青緑、ヤソが白黒です。デッキを3つ組み上げた時点で、加藤君が『ヤソはこれ』って渡したんでこうなりました。」
市川「まあ、難しいデッキはうまい人に渡すというのがセオリーだからね。」
覚前「僕としては、エースデッキの青緑現出をヤソが使ったほうがいいと思ってて。プレイ1つミスったら負ける要素もあるし、サイドボードも多いし。でもヤソが白黒を使うなら、青緑現出みたいなロングレンジで戦うのは僕より加藤君のほうが得意だと思うから、僕が赤黒を使うことになりました。今回のチームではこの思いを発言できなかったことが最大のミスでした。」

――なるほど。デッキの出来としてはどれくらいでしたか?
覚前「プールは中の中で、7-2はしたいところでしたけど、言ったとおり構築がよくなかったので5-4してしまったのもしかたなかったかなという個人的な印象です。個人成績は6-3でした。」

――最後の3回戦で負けてしまったのが残念でしたね。

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渡辺
渡辺雄也の場合(戦績:10-4、最終順位:31位)

「shota yasooka fanclub」渡辺・中村・井川

ラウンド 勝敗 対戦相手(A・B・C)
R1 ヒラオ・イワハシ・ニシムラ
R2 谷口・右田・匠
R3 ホリ・タカハシ・エンドウ
R4 サマル・イシノ・タナカ
R5 Pengjie・Ruikan・Yimin
R6 × 行弘・北原・山本
R7 アキタ・マツヤマ・オカモト
R8 × Huang・Rogers・Chung
R9 タカハシ・リョウスケ・オオクボ
R10 ユウキ・ミナミ・トミオカ
R11 Tian・森・齋藤
R12 × マルオ・ヤマガミ・イシマル
R13 × ハルキ・タケダ・コバヤシ
R14 ツツイ・ナガオ・コクブ

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渡辺「僕は先週まで世界選手権に行ってたこともあって、チームシールドの準備はほとんどしてなくて、座ってるだけでした(笑)。30回以上シールドの練習やってたカカオ(中村肇さん)を主体に、細かい部分だけ指摘して、最終的な判断は任せる形でやってました。カカオがチームリーダーでエースでマスコットです(笑)」

――シールドの練習30回はすごいですね。
渡辺「カバレージにも詳しく載ってますけど、特にもめることもなくしっかり構築できたと思います。」

――色の分担などはどのように?
渡辺「基本は覚前のところと一緒で、赤青が組めたら組んで、あとは緑系と白系という感じで、僕はロングレンジになる緑系を使えと言われていました。」

――やはり遅いデッキはうまい人が使ったほうがいいってことですか。
渡辺「サイドボードも多いですしね。初日に組んだ青緑はまあまあ強くて、途中でノーゲームもあったので6-1か7-1くらいだったかな。分担としてはカカオが青赤、僕が青緑、井川はメインが白赤で攻めてサイド後は白黒で守るみたいなサードデッキでした。プールとしては中の上はあったかもしれないですね。」

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――2日目のシールドはどうでしたか?
渡辺「見た瞬間に帰ろうって言い出すくらい弱いカードプールで、下の中くらい。出たレアが青白土地、青黒土地、《即時却下/Summary Dismissal(EMN)》×2、《見事な再生/Splendid Reclamation(EMN)》、《岸の飲み込み/Engulf the Shore(SOI)》とか(笑)」

――それは悲しいですね。
渡辺「ほかのレアも1枚で勝てるようなものは全然なくて、一番強いレアが《闇の救済/Dark Salvation(EMN)》。みんなで頭抱えましたね。ただ、青赤だけは専用パーツがたくさんあって強いデッキが組めたのでそれをカカオに使ってもらって、僕がロングレンジの弱めの黒緑、井川が青白のぶちぎれビート……エンチャントを貼って《取り繕い/Turn Aside(EMN)》で守るみたいなデッキでした。さすがにカード格差で2日目は3勝2敗に終わりました。」

――でも、2日目は友晴さんのチーム(齋藤友晴・森勝洋・リーシータン)に勝ったりしてますよね。
渡辺「そこもデッキがかなり弱かったので。モリカツ(森勝洋さん)のデッキ、《棚卸し/Take Inventory(EMN)》2枚の青単だったからね。」
市川「えーっ、それはやばすぎる(笑)」

――そのほか、反省点などはありますか?
渡辺「使った黒緑デッキの構成ですかね。あきらめて3色目を入れて、ロングゲームのときの上げ幅を高くする構築にすればよかったかも。サイド後にタッチ白して無理やり昂揚のパーツを使ったりしてたんですけど、メインからマナサポートなしの3色にしちゃったほうがよかったなと。」

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齋藤友晴さんのチームとの対戦

 

市川
市川ユウキの場合(戦績:12-1-1、最終順位:優勝

「The Sun」松本・市川・瀧村

ラウンド 勝敗 対戦相手(A・B・C)
R1 サトウ・ハットリ・スズキ
R2 ナガイ・ササオ・ササベ
R3 × コヤマ・アカダ・オオモリ
R4 ハシモト・スギタ・イチカワ
R5 アカボシ・ヤマモト・ニシダ
R6 イワザキ・イスルギ・イノウエ
R7 マツモト・エノモト・イチカワ
R8 ヒロサワ・ツムラ・フジモト
R9 ツツイ・ナガオ・コクブ
R10 マツバラ・フクオカ・イクシマ
R11 Poh・Soh・Hee
R12 行弘・北原・山本
R13 Liu・He・Zhang
R14 △(時間切れ) Matousek・Sochurek・Ristovsky

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――このチームは、リーダーは誰なんですか?
市川「特にいなくて、お互い意見を出し合う感じでしたね。瀧村君と僕が先導して、Aさんに『どう?』って聞いたら『僕もそう思います』って感じでした。」

――前もって準備などはしましたか?
市川「3人そろっての練習はほぼしてなくて、前もって決めてたこともそんなになかったですね。瀧村君が白系、僕はビートダウンでサイドボードが少ないやつ、Aさんが緑系ってくらい。青赤が組めたら組んで、あとは青緑、余ったもので白系というイメージでした。」

――そのへんは共通認識ですね。
市川「ただ、2日間とも青赤が作れるプールじゃなかった。初日は《オリヴィアの竜騎兵/Olivia’s Dragoon(EMN)》3枚と、《錬金術師の挨拶/Alchemist’s Greeting(EMN)》が4枚プールにあって、赤黒で組まないとどっちも生かしきれなかったから組んだんですけど、そんなに強くなかった。で、赤黒を使った僕が4-5、白青の瀧村君も5-3-1くらい、青緑のAさんは8-1でした。プールは中の中くらいで、1枚で勝てるようなレアは全然なかったですけど、青緑はきれいにまとまってたエースデッキだったので。」

――なるほど。
市川「エースが勝って、あと2人のうちどっちかが勝つというもくろみどおりになって、個人成績は微妙でしたけど初日8-1で折り返せました。」

――噛み合いましたね。2日目はどうでしたか?
市川「似たようなプールだけど、コモンとアンコモンがそろってて中の上くらいあったかな。僕が赤黒、瀧村君が白黒、Aさんが青緑。青緑の完成度は一段落ちたけど僕ら2人のプールが初日よりまとまってて、僕が3-2、瀧村君4-1、Aさん負けなしみたいな感じで、結果4勝1分け。2日合わせて個人成績7-7でベスト4進出という(笑)やっぱりエースデッキが当たり前のように勝つのは非常に大事。Aさんがすぐ勝ってくれるので、すごい気が楽になるし、助かった。」

――構築に関しての反省点などはありますか?
市川「赤黒が弱いってことをそもそも知らなかったんですよね。見た目強そうだと思ってたら全然ダメ。」

――前日に行なわれていたプロによるチームシールド講習会で、配られていた資料に「赤黒に騙されるな」みたいなことがけっこう書いてありました。
市川「ああ、津村(健志)さんに当たったとき『赤黒はやっぱりやばいですよね』って話をされて、『こちとら初耳なんですが?』ってなった(笑)それで、2日目は赤黒を組みたくなかったのにまた組まざるをえないプールが来て、でも2段階くらい強くなったから、さすがにいけるだろうと思ったらそれでもダメで、やっぱり赤黒は無理だなと思いました。」

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1回戦のビデオフィーチャーマッチでは、Cygames社員のチームと対戦しました。

 

山本
山本賢太郎の場合(戦績:12-2、最終順位:準優勝

「kenkenbaaaa」行弘・北原・山本

ラウンド 勝敗 対戦相手(A・B・C)
R1 フジワラ・ニシグチ・イシムラ
R2 ウシジマ・カワイ・ヤマダ
R3 ササキ・ニシワキ・ナカシマ
R4 ヒビノ・ナカムラ・アカ
R5 ナカサト・イトウ・トヨタ
R6 渡辺・中村・井川
R7 アダチ・セキトモ・フクドメ
R8 Poh・Soh・Hee
R9 マツバラ・フクオカ・イクシマ
R10 ヤオ・クロダ・オモニシ
R11 水谷・佐藤・兼田
R12 × 松本・市川・瀧村
R13 × Matousek・Sochurek・Ristovsky
R14 ヒビノ・ナカムラ・アカ

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山本「うちのチームは賢ちゃん(行弘さん)が9割デッキ作って、僕と北原さんはちょっと意見を言うくらいです。」
渡辺「さすが15000円の記事を書く男は違うなー。」(行弘さんは直前にDig.cardsで有料記事を限定販売し、15,000円が即完売!)

――行弘さんの理論でも、やはり赤青が作れたら作るような感じなのでしょうか。
山本「記事は読んでないのでよくわかんないですけど、見てて思ったのは、平均点を3つ作る構築をしてるなと。弱いデッキと強いデッキの差が少ない、なるべく3つとも勝つチャンスを増やすようにしてるように見えました。あと、赤黒はダメってのは前から言ってましたね。」
市川「話を聞くかぎり、練習してる人の間では共通認識みたいですね。」

――作ったデッキの振り分け方は?
山本「北原君にレアが一番多いデッキを渡すというのはもとから決まってて、初日が青黒……レアは2枚と少なかったんですけど、《波止場の潜入者/Wharf Infiltrator(EMN)》と《膨らんだ意識曲げ/Distended Mindbender(EMN)》、どっちも引ければ勝てる系のレアだったのでそれを北原君が使って、俺が青赤、賢ちゃんが白緑昂揚。どのデッキも中の上という感じだったんですけど、勝敗が噛み合って初日全勝できました。」

――2日目はどうでしたか?
山本「2日目はプールが強くて、上の下くらいありました。北原君はレアが多い白黒ですんなり決まったんですけど、1日目に、僕がC席で赤のデッキに7回当たったんです。で、赤はタフネス1を殺すカードがけっこうあるのに対して青はタフネス1のクリーチャーがけっこう多いので、Cに青を置くのはやめようということになって、僕が赤緑、賢ちゃんが青白+《実地研究者、タミヨウ/Tamiyo, Field Researcher(EMN)》になりました。」

――構築に関して、反省点などはありますか?
山本「あんまり関わってなかったので……。」
市川「すごいな、チームシールドで関わってないなんてセリフ、聞いたことない(笑)。だって制限時間内に1人で3つデッキ作るって、よっぽどですよ。すごいセンスだと思う。」
渡辺「行弘は昔からリミテッドうまいからね。」
覚前「行弘君は3つのデッキに命を吹き込むのが一番うまいよ。勝ちパターンが豊富で、いろんな引き出し持ってるもん。」

――どこでそんなに練習されたんでしょうね。
覚前「やっぱり和歌山で昔からシールドとドラフトをすごいやってたからだと思います。」

――そこに山本さんのような上手い乗り手が加われば、当然勝つということですね。

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●準決勝ドラフト・市川編

松本・市川・瀧村 VS Matousek・Sochurek・Ristovsky
(デッキリストはマジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイトにて公開)

――それでは、準決勝のドラフトについてうかがっていきたいと思います。そもそも、チームドラフトの練習ってされてましたか?
山本「いや、1回も。」
市川「僕たちはプロツアーのあとで6ドラやったりはしましたけど、特に前もって何も決めてませんでしたね。普段の6ドラでも何も決めてないし、小手先で何かやって失敗しても悔やむだけだから。ただ、Aさんと瀧村君は《血茨/Bloodbriar(EMN)》が大好きなので、あれを入れるアーキタイプはやらないようにしようとは思ってました。」

――松本さんのデッキは強くなかったという話でしたが……。
市川「彼は準決勝以降はログアウトしてましたね(笑)嫌な予感はしてたんですよ、プロツアーの権利を獲得してやりきった顔になってたから。瀧村君と俺は『ここがスタートラインだ』くらいのつもりだったのに、Aさんは声のトーンも下がって1人だけゴールに到達してて、案の定やばいデッキになってました。」

――お2人のデッキは強かったんですか?
市川「僕と瀧村君のデッキは強かったです。瀧村君は《血茨/Bloodbriar(EMN)》がいっぱい取れて、《異界の進化/Eldritch Evolution(EMN)》から《ギトラグの怪物/The Gitrog Monster(SOI)》を出すすごいデッキで。僕も《ギサとゲラルフ/Gisa and Geralf(EMN)》が初手の、中の上くらいある青黒が組めたんで。」

――なるほど。松本さんは?
市川「Aさんは赤黒の痩せたビートみたいな感じでした。対戦相手が1-1《折れた刃、ギセラ/Gisela, the Broken Blade(EMN)》、2-1《消えゆく光、ブルーナ/Bruna, the Fading Light(EMN)》みたいな絶対勝てないデッキだったから、弱いデッキで逆によかったかもしれない。」

――確かに。
市川「瀧村君が順当に勝つとすれば、僕の相手のペトル君(Petr Sochurekさん)だけプラチナレベルだから、ここだけ格上とのマッチアップだけど、ここだけ勝てればと思って必死でした。」
覚前「うまくいったね。」

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準決勝でのデッキ構築

 

――このチェコチームと当たるのは、14ラウンド目と2回連続だったんですよね。
市川「14ラウンド目の対戦は、事故ってこっちが一瞬で負けました。あと、昔プロツアーのあとでペトル君と6ドラしたこともあって、そのときも負けたんで、苦手意識はちょっとありましたね。」

――カバレージによると、最後に相手がミスをしたようですが。
市川「あれだけで負けたというわけではないですけど、敗着にはつながりましたね。ペトル君が《甚だしい大口/Abundant Maw(EMN)》をパクって殴ってきて、それは適当にチャンプブロックしたんですけど、そのあと2マナの狼男を出して、チェックカードだったから本物をごそごそ探し出したんです。そしたらチームメイトが突然青ざめて。」
覚前「どういうこと?」
市川「ペトル君の手札に緑の現出クリーチャー(《忌まわしい群れの存在/It of the Horrid Swarm(EMN)》)がいたんだよ。パクった《甚だしい大口/Abundant Maw(EMN)》を生け贄にして出したらすごくいい盤面になったんだけど、ペトル君はまったく気づかず、手にあった適当なクリーチャーを出しちゃった。チームメイトが慌てて土地をアンタップして出した狼男を手札に戻そうとするから、『さすがにさすがにー!』って止めた。」
覚前「ペトル君、プラチナなのに……。」
市川「また1人、プラチナプレイヤーを《精神隷属器/Mindslaver(SOM)》してしまった(笑)」

――グランプリ・台北2016の準決勝に続いてまた1人(笑)。
市川「たまにあるんだよなー。何もしてないんだけど、相手が勝手に負けてくんだよなー。」

 

 

●準決勝ドラフト・山本編

行弘・北原・山本 VS 原根・松本・平見
(デッキリストはマジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイトにて公開)

――山本さんのほうは、前もっての計画などはありましたか?
山本「1人1色だけ決めてました。僕は赤、賢ちゃんは青、北原君が黒。絶対じゃなくて、なるべくやるってくらいなんですけど、それだけ決め打ちって感じです。そうすると、2パック目の返しにチームメイトの色の強いレアが出たら流していいって指針になる。結局僕は赤白、賢ちゃんは青黒、北原君は白緑になりました。北原君だけちょっとはずれちゃったんですけど、けっこうデッキが強くて、僕はまあまあくらい。相手の平見君のデッキがあまり強くなかったので、普通に勝てました。」

――チェコチームはチームドラフトが初めてだったそうですが、こちらの相手チームもあまりドラフトの練習はしていなかったとのことですね。
山本「僕も1回もやってないですけど(笑)」
市川「まあでも、素養が違うんじゃない? 昔から6ドラやってるでしょ。」
山本「最近全然やってないから3年ぶりくらいじゃないかな。でも確かに、昔やってた分はあるかもしれない。」

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準決勝でのデッキ構築

 

 

●決勝ドラフト

松本・市川・瀧村VS行弘・北原・山本
(デッキリストはマジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイトにて公開)

――続いて決勝ドラフトです。終わった後、皆さんの顔が暗かったですね。
市川「みんな弱くて、『頼むから相手のデッキも弱くあってくれ』って祈りしかなかった。」

――全員が「あまり強くないな」という印象だったと思うんですが、どうしてなんでしょうか?
市川「カードの出方じゃない?」
山本「けっこうかぶってる感じはあったけどね。」
市川「ああ、俺とやまけんは上下で赤白がかぶってた。」
山本「1パック目で、赤と黒と白のカードしか流れてこなかったんで赤白になって、たぶんAさんが青緑だろうなと思ってたんです。2パック目の返しは当然のように青緑のカードしか流れてこなくて、この時点でほぼ上とかぶってるのは確定。隙あらば青緑のカードをカットしようとは思ってたんですけど、強いカードがいっぺんに2枚来たりしてカットしてもしょうがない感じで、これならAさんのデッキは強そうだなと思ってドラフトを終えました。」
市川「まさかそのAさんがお豆腐デッキを作っているとは知らず(笑)」
渡辺「相手に栄養をあげることしかできないお豆腐。」
山本「Aさんは結局何だったの?」
市川「白緑タッチ《爪の群れのウルリッチ/Ulrich of the Krallenhorde(EMN)》。ほんとにやばかったよ。Aさん、俺らに相談せずにデッキリスト書いて隠して出そうとしてたから(笑)」
山本「Aさん、なんで白やってるんだろう?」
市川「よくわからない。『白緑昂揚が最近好きなんですよね』とか言ってたから、趣味でしょ。」
山本「途中から青緑に行ってもよかったのに。」

――ほかの人のデッキはどんな感じでしたか?
山本「準決勝と同じ色決め作戦でやって、俺が赤白、賢ちゃんが青緑、北原君が黒緑。賢ちゃんのデッキだけちょっと強くて、俺と北原君のデッキがちょい弱いから厳しいかなという戦前の予想でした。僕の相手のタキニキ(瀧村さん)のデッキがけっこう強くて、一瞬で負けました。」
市川「瀧村君のデッキが卓で一番強かったからね。あと、北原君が一番6ドラっぽいピックだったね。緑白か緑黒かみたいな感じで、カットもしつつ。」
山本「北原君、最初は『これはアカン、0点』って言ってたけど、いざ並べてみたら悪くなかった。『相手のせばやん(市川さん)はたぶん赤白だから、ちょい有利でいけるんちゃう?』って話してました。」

――なるほど。
山本「あと、最後の最後にピックを1つミスしました。」

――えっ、何ですか?
山本「3パック目の終盤、《今夜を生き延びる/Survive the Night(SOI)》と、《皮膚への侵入/Skin Invasion(SOI)》の二択で、《今夜を生き延びる/Survive the Night(SOI)》のほうがカードとして強いんでそっちを取ればよかったんですけど、エンチャント回収できる子(《鉄覆いの処刑者/Ironclad Slayer(EMN)》)がいるのを思い出して、シナジーあるかもと思って《皮膚への侵入/Skin Invasion(SOI)》を取っちゃったんです。それがかなり痛いミスでした。《今夜を生き延びる/Survive the Night(SOI)》が下のせばやん(市川さん)に回って、北原君との試合で、蜘蛛(《敏捷な巣紡ぎ/Swift Spinner(EMN)》)をそれで討ち取るって決定的な場面を横で見ながら、『アカンかったなー』と思ってました。」
市川「2ゲーム目は強化スペルで蜘蛛を倒して、飛行クリーチャーをなんとか通してくっていうゲーム展開だったからね。」
山本「チームの勝敗がそこで分かれたかなと思いました。」

今夜を生き延びる 皮膚への侵入

――市川さんのほうのドラフトはどうでしたか?
市川「1パック目の3手目まで赤いカードを取ってたんですが、《サリアの槍騎兵/Thalia’s Lancers(EMN)》が流れてきてて、山本さんは白いカードを取ったうえで白やらせようとしてんのかな? と思って、白にはあんまり行きたくなかったんです。で、1-4で《ケッシグをうろつくもの/Kessig Prowler(EMN)》と《悪鬼を縛る者/Fiend Binder(EMN)》が流れてきて、そこが赤緑に行くか、赤白に行くかの分岐点でした。悩んで、強化スペルだけで勝てるから赤白のほうがいいと思って《悪鬼を縛る者/Fiend Binder(EMN)》にしたら、赤いカードはともかく白いカードは全然取れないし、2-1で《爪の群れのウルリッチ/Ulrich of the Krallenhorde(EMN)》は引くし……まあそこは《鏡翼のドラゴン/Mirrorwing Dragon(EMN)》を取ったからよかったとはいえ。」

ケッシグをうろつくもの 悪鬼を縛る者

――赤白という選択自体が微妙だったと。
市川「そのあとで行弘さんが《アーリン・コード/Arlinn Kord(SOI)》をカットしてるんですけど、もし流れてきてたら使えたと考えると、やっぱり赤緑に行ったほうが強いデッキになってたと思います。緑を使うことで行弘さんに対するカットにもなったし。まあ、実際は行弘さんを弱くしてもしょうがなかったんですけどね、対戦相手のAさんが豆腐なんで(笑)」

――では、松本さんは負けて瀧村さんは勝つだろうなと思っていましたか?
市川「デッキ構築中は士気が下がるから言いませんでしたけど、思ってました。だから俺がなんとかするしかないと。Aさんのデッキは勝ち筋がないんで。僕のみたいなデッキも弱いけど、ビートダウンしきるという勝ち方は一応あるから。」
渡辺「そこが、一応攻撃はできる竹槍デッキと、痛くもかゆくもない豆腐デッキの差だね。」

――《爪の群れのウルリッチ/Ulrich of the Krallenhorde(EMN)》だけ入ってましたよ。
市川「《爪の群れのウルリッチ/Ulrich of the Krallenhorde(EMN)》は豆腐に乗ってるわさびか何か。まれに目に入ると痛い(笑)」

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決勝ドラフト

 

 

――決勝のピックが終わったとき、ちょうど森慶太さん(ニコニコ生放送の実況担当)が来て、「市川さんのピックは3パック目が厳しかったので、ここからドラマティックな展開にできるかどうかですね!」と言っていました。実際、ドラマティックな展開になりましたね。
市川「1ゲーム目は2枚目の《山》を引かなくて負けて、2ゲーム目は1マリガン後土地1枚だけの手札が来て、『いよいよ俺も終わったか』と思いました。」

――その手札をチームメイトに相談せずにキープしたんですよね。
市川「7枚しかない《平地》を引かないといけないんで、相談したら『マリガンしよう』ってなりそうだったから。」
渡辺「それでも行かねばならぬときがある。」

――勇気を出したことが功を奏しましたね。
市川「相手の展開とも噛み合って間に合いました。《夜明けのグリフ/Dawn Gryff(EMN)》を蜘蛛で止められる展開で、ちょうど強化スペルを2発持ってて致死ダメージに届いたので。3ゲーム目は相手が事故って勝ちました。」

――最後に《鏡翼のドラゴン/Mirrorwing Dragon(EMN)》を出して攻撃する前に、相談していましたよね?
市川「《鏡翼のドラゴン/Mirrorwing Dragon(EMN)》を出してからフルパンするか、出さずに行くかって点ですね。確か相手が1マナだけ立ってたから、万一手がかりつき強化(《未知との対決/Confront the Unknown(SOI)》)をドラゴンに撃たれたら嫌だなと。そうすると相手のクリーチャーが全部コピーで大きくなって手がかりトークンもいっぱい出ちゃうから。でも場だけ見たら出して殴るべきだから、一応相談だけしたら瀧村君も松本さんも『それで行こう』ってことだったんで、そうしました。」

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最後の一手の相談の場面。

 

 

――優勝したときのお気持ちは?
市川「マジックやってて、今までで一番うれしかったです。」

――やはりチーム戦は個人戦とは違いますか?
市川「全然違います。僕、普段勝っても対戦相手に失礼だと思うからあまり感情を出さないスタンスなんですけど、今回はうれしすぎてこらえられなかったですね。あそこは(棋士の)羽生さんでもガッツポーズすると思います(笑)」

――Team Cygamesとしても、国内でのグランプリ初優勝だったので感動しました。でも正直、どちらが勝ってもどちらかが負けるってことだから、複雑でした。市川さんが勝ってすごくうれしかったけど、山本さんが静かに荷物を片付けてるのも見えて……。
山本「終電があったので、さっさと帰りました(笑)」

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というわけで、山本さんと市川さんが大活躍したグランプリ・京都2016のレポートをお送りしました。
引き続き、簡単ではありますがグランプリ・広州2016と、世界選手権についてもレポートを掲載する予定ですので、お楽しみに。

※記事内の写真は一部【グランプリ・京都2016 イベントカバレージ】および【Magic: the Gathering】から引用させていただきました。

 

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