【PTKLD】2日目構築ラウンドまとめと今後について【Day2】
殿堂セレモニーで使った渡辺さんのミニパネルがプレゼントされたので、それを窓辺に飾りつつのディナーです。
山本さんと渡辺さんはプロツアー『カラデシュ』の2日目を終え、それぞれプロポイント6点と11点を獲得しました。
会場でドラフトしていた市川さん・覚前さんも合流して、日本食のお店でディナーをとりつつ、今回のプロツアーを振り返ります。
●山本賢太郎の場合
Lee, Shi Tianさんとのフィーチャーマッチ
2日目ドラフトラウンドの戦績
3-0
2日目スタンダードラウンドの戦績(通算戦績 10-6、最終順位72位)/グリクシス現出
ラウンド | 対戦相手のデッキ(相手の名前) | 勝敗 |
---|---|---|
12 | 赤白タッチ青黒機体(Lee, Shi Tian) | 負け(×○×) |
13 | 赤緑エネルギー | 負け(××) |
14 | 白タッチ黒ビート(Craig Wescoe) | 負け(××) |
15 | ティムールエネルギー(Kelvin Chew) | 負け(○××) |
16 | ティムールエネルギー(Kelvin Chew) | 勝ち(×○○) |
3《山》 3《島》 2《沼》 4《尖塔断の運河》 1《さまよう噴気孔》 4《進化する未開地》 4《窪み渓谷》 3《燻る湿地》 土地(24)
クリーチャー(19) |
2《稲妻の斧》 4《安堵の再会》 3《苦しめる声》 4《終わりなき時計》 4《コジレックの帰還》 呪文(17) |
4《儀礼的拒否》 4《集団的蛮行》 1《稲妻の斧》 1《即時却下》 3《ゲトの裏切り者、カリタス》 2《膨らんだ意識曲げ》 サイドボード(15) |
デッキについて
――このグリクシス現出デッキを構築するにあたっての詳しい流れについては、市川さんがのちほどマジック日本公式サイトにレポート記事を書かれるとのことなので、そちらに譲りたいと思います。ここでは簡単に、どういうメタを想定してこのデッキに行き着いたかというのを教えていただけますか?
市川「イメージ的には、赤緑エネルギー、霊気池、あと既存の赤白と赤黒のビートダウン、あと僕らが使ったドレッジ系を軸に考えていました。ビートがわりと多いから、《老いたる深海鬼/Elder Deep-Fiend(EMN)》+《コジレックの帰還/Kozilek’s Return(OGW)》を使いたくて、このデッキの選択に至った感じです。」
――実際にふたを開けてみたらどうでしたか?
市川「まあ、どのデッキもアーキタイプとしては想定内ではありました。」
山本「すごくびっくりしたというようなデッキはなかったですね。」
市川「想定の範囲内ではあったけど、ぶっちゃけ、今回選んだデッキは弱かったと思ってます。2日目の構築ラウンドで、使った人たちがみんないい成績を残せていないので。想定内とは言っても、僕らは赤白機体とかはSCGで勝ったデッキをもとにスパーしてたわけで、その後赤白側も僕らの想定より強くなっていたというのもあったと思います。世の中の成長度合いに追いついてなかった、相対的に見てデッキパワーが低かったのかなと。僕はそんなふうに思ったんだけど、どう?」
覚前「そうだね。」
――ドレッジ部分の安定性を上げる構築にした、という話がありましたよね。一方で、ゾンビ(《秘蔵の縫合体/Prized Amalgam(SOI)》)を多く引けるかどうかに勝率が左右されるというのは、素人目には安定性がないように思えるのですが……。
市川「なので、いかにゾンビを引くかにデッキの構造を寄せて、引いたり墓地に落とすカードをほかのデッキより大量に入れていて、かつそれをクリーチャーに依存しないというのがコンセプトだったんですが、そもそもその方向性でデッキを育てていくこと自体が根本的に間違いだったのかもしれないと、今は思います。」
――そうですか。
市川「ただ、トップ8のデッキリストを見て、『ヤソのデッキはすごくいいね。このデッキで出てたらよかったね』と言ったら、それで終わってしまう。ヤソのデッキは作れなかったけど、僕らは調整で2ちゃんねるのスレッドが1つ埋まるくらいの量のやりとりをLINEでしてきたんです。その話の中で、ここをこう変えてたらこうなってたんじゃないか……たとえば赤白に青をタッチしてリーシータンのデッキみたいな方向に行けたかもとか、赤緑エネルギーを多色化してサイドからカウンターを入れる構成を考えられたんじゃないかとか、作りえたデッキについて改めて考えたいと思います。『こういう思考経路をたどってこういう流れで調整してきたけど、どの時点に戻ったらこういう別の進化形があったんじゃないか』という反省をして、次の調整の機会につなげるほうが建設的だと思うので。」
――確かに、それは前向きですばらしいですね。
市川「早いほうがいいので、この晩飯食い終わったらさっそく反省会をやるつもりです。」
――ちなみに山本さんは、このデッキを作るにあたってどんなふうに参加したんですか?
山本「最後にみんなで集まってサイドの枚数とかをディスカッションしたので、そこに参加したくらいですね。あと、ティムール現出をけっこう回していたので、リーグで使った結果をLINEで報告してフィードバックしたりもしました。」
――サイドボードもこの相手にはこれって決まってたんですか?
山本「木曜日に参加受付したあとで、みんなでホテルで相談して決めました。」
対戦について
――2日間戦ってみての感想をお願いします。
山本「今日はライブラリーの上のほうにあまりゾンビがいなかったですね。あまり機嫌がよくなくて吸い付いてくれなかった。結局、ゾンビが上のほうにいたら間違いなく最強のデッキなんですけど、4枚しか入れられないので、それが上のほうにいなかったときに、展開力がほかのデッキと比べて一段下がるという感じはありました。ゾンビだけに依存しない形は模索できたかもしれないですね。」
――ビートに無理やり寄せるプランがあったのではないかという話は、昨日も少し話に出ましたね。「グリクシス現出の別の形が勝つかどうか気になる」という。
市川「ただ、そもそもグリクシス現出は12人しかいなくてそのうち6人が同じデッキなので……。Kumazemiさん(熊谷陸さん)が最後らへんで勝って5敗で終わってるはずなんですけど、それは《査問長官/Minister of Inquiries(KLD)》と《傲慢な新生子/Insolent Neonate(SOI)》と、《密輸人の回転翼機/Smuggler’s Copter(KLD)》が入ってて、《屑鉄場のたかり屋/Scrapheap Scrounger(KLD)》も4枚入ってるので、けっこう殴れる形でしたね。」
――それは参考になりそうですね。
●渡辺雄也の場合
2日目ドラフトラウンドの戦績
1-2
2日目スタンダードラウンドの戦績(通算戦績 11-4-1、最終順位17位)/バント霊気池
ラウンド | 対戦相手のデッキ(相手の名前) | 勝敗 |
---|---|---|
12 | ティムール霊気池 | 勝ち(○○) |
13 | 青緑霊気池 | 引き分け(○×-) |
14 | ジャンド昂揚(Paulo Vitor Damo da Rosa) | 勝ち(×○○) |
15 | 白タッチ黒ビート(Craig Wescoe) | 勝ち(○×○) |
16 | 緑黒昂揚 | 勝ち(○○) |
6《森》 2《平地》 1《島》 2《大草原の川》 4《霊気拠点》 4《植物の聖域》 4《進化する未開地》 土地(23)
クリーチャー(13) |
4《霊気との調和》 2《予期》 4《ガラス吹き工の組細工》 4《織木師の組細工》 3《実地研究者、タミヨウ》 4《霊気池の驚異》 3《罪人への急襲》 呪文(24) |
1《払拭》 3《儀礼的拒否》 1《否認》 2《霊気溶融》 4《牙長獣の仔》 3《不屈の追跡者》 1《領事府の看視》 サイドボード(15) |
デッキについて
――渡辺さんはどんなメタを予想してこのデッキにたどりつきましたか?
渡辺「霊気池もいるし、赤白機体や赤黒マッドネス、赤緑エネルギーといったビートダウン系、緑黒昂揚もいるだろうと。ヘリコプター(《密輸人の回転翼機/Smuggler’s Copter(KLD)》)を使ったデッキが7割、《霊気池の驚異/Aetherworks Marvel(KLD)》を使ったデッキが3割……あるいはヘリコプター6割とその他系1割かもしれないけど、そういう感じで事前に想定してました。その中で、どちらも使わないその他タイプに行くのは、本当に環境を読み切らないと無理だと思うのであきらめて、自分がヘリコプターを使うか、霊気池を使うのかという選択でした。ヘリコプタータイプで最後まで候補に残ってたのは、せばちゃん(市川さん)たちも使ったグリクシス現出。彼らは入れてませんでしたけど、僕はカードパワーが高いからあったほうがいいと思ってて。」
――なるほど。
渡辺「一方、霊気池デッキも模索してて、PWCでは《金属製の巨像/Metalwork Colossus(KLD)》入りのタイプを使ったりしたけど、どれもいまいちだなと思ってたところに、鬼神ライザ様(石村信太朗さん)が、このバントデッキを送ってきたんです。0日目の記事でも言いましたけど、最初見たときは半信半疑で。でも実際に回してみたら、2ターン目にアーティファクトを出して、3ターン目にマナをオープンして自然に返しやすい形になるので、そこで相手が出してきたカードを《呪文捕らえ/Spell Queller(EMN)》したり、霊気池同型対決のときに《実地研究者、タミヨウ/Tamiyo, Field Researcher(EMN)》でこっちだけ相手の霊気池に干渉できたりとか、パッと見ではわからないような動きが強くて。」
――今のリストとほぼ同じものが最初からできていたんですか? ビート型になる変形サイドボードもありますよね。
渡辺「それも最初からしっかりできてたプランです。重いカードを減らしたり、昂揚しやすくする調整とかは少しだけしましたけど。」
――すごいですね。
渡辺「それで、このデッキとグリクシス現出との二択になったとき、グリクシス現出はみんな戦い方がわかっているデッキだろうと。でも、この霊気池デッキはわからないだろうなと思って。実際、初めて自分がこれを相手に試しに戦ってみたとき、どうすればいいのか全然わからなかったんですよ。さらにサイド後も変形するから、ますますわからない。そういう『わからん殺し』な点が、すごくプロツアー向けだと思いました。」
――実際、対戦してて相手がわからなくて対処を誤るような感じでしたか?
渡辺「全員そうでしたね。軽快に殴ってくる相手に《霊気池の驚異/Aetherworks Marvel(KLD)》を出して、相手が『《絶え間ない飢餓、ウラモグ/Ulamog, the Ceaseless Hunger(BFZ)》はやめて~』って言ってるところに、《罪人への急襲/Descend upon the Sinful(SOI)》がめくれてとんでもないことになったり。対戦後に『それ、どういう構成のデッキなの?』ってよく聞かれました。相手の常識からかけ離れた構築だったのはすごくよかったです。」
――確かに。
渡辺「ただ、相性差がはっきりしているデッキなので、霊気池と緑黒昂揚には有利。一方赤緑エネルギーと青系コントロールは厳しい。ビートダウンは先手しだい、という感じです。今回は、霊気池にたくさん当たれたのがよかったですね。」
対戦について
――スタンダードラウンドは想定の範囲内のデッキと当たって、予想とは大きく外れていなかったですか?
渡辺「そうですね。青系コントロールは嫌だったんですけど、メタがわからない状態で使う人はあまりいないだろうと思っていたので。赤緑エネルギーだけ不安だったんですが、昨日1回当たっただけですみました。昨日も言いましたけど、対策カードの《領事府の看視/Consulate Surveillance(KLD)》は2枚にしておくべきでしたね。」
――このデッキをさらに調整するとしたら、その部分ですか?
渡辺「正直、デッキリストが知れてしまったのでもう使わないほうがいいと思います。プロツアー専用デッキです。」
――ほかの人たちの戦績はどうでしたか?
渡辺「ライザが5-5、行弘が4-6だったんですけど、《霊気池の驚異/Aetherworks Marvel(KLD)》でちゃんとめくれるかとか、そもそも引けるかとか、上ブレ下ブレがすごく激しいデッキなのでしょうがないですね。僕はけっこうツイてた部分はあります。ただ、今回のプロツアーにいる霊気池デッキの中では、一番いいデッキだったと思ってます。」
――プロツアー2日目の構築でこんなに勝ったのは久しぶりだということですね。
渡辺「2日目に13点取れたのは初めてのレベルですよ。いつも2日目は1-4とか2-3とかがざらなので。2日目のプレイヤー層に合ったデッキを選べたのかなと思います。本当にライザに感謝です。次回もよろしく! 帰ったらおいしいごはんをおごりたいと思います。あと、カカオのアロハのおかげもありました。すごいブカブカだけどあったかくて助かったよ!」
●よかったデッキについて
――皆さんにお聞きしたいのですが、今回いいと思ったデッキはありますか?
――渡辺さんはどうですか?
――でも、チームミントの中ではそれぞれバラバラのデッキを調整してましたよね。みんなで同じデッキを使って出るという感じではなかったですから。
――「今回のプロツアーでこれが優勝したからこのデッキが最強だ」と、表面的に判断してはいけないということですね。
――ともあれ、今回はデッキの調整方法から得られた経験はそれぞれ多いと思いますので、これを生かして次につなげていただければと思います。
●今後の予定について
渡辺さんは今回の結果が、オポネント0.0015%差という超僅差で17位でした(オポネントは対戦相手の戦績によって決まり、勝敗数が同じ場合はそのポイント差によって順位が決まる)。16位は賞金5000ドルですが17位は3000ドルと、約20万円の損だったので、翌週末に横浜で開催される「渡辺雄也杯」のエキシビジョンマッチでもらえる賞金25万円を本気で狙いにいくとのことです。
渡辺さん以外の3人は来週、グランプリ・クアラルンプール2016に行く予定ですが、デッキはどうするのかという質問に対し、市川さんはそもそもプロツアーとグランプリはメタゲームの性質がまったく違うので、練習法がまったく異なるという話をしてくれました。
プロツアーというのは、仮想メタゲームを想定して、自分たちがどこまで踏み込むのか、レイヤー2で止めるのかレイヤー3で止めるのか、というのがポイントで、それは人によって変わってくるとのことです。このレイヤーというのは、最初の環境有力デッキがまずあって、それに対して強いデッキが現れて席巻するのがレイヤー1、さらにそれに対するメタデッキが現れるのがレイヤー2……という感じで、多層構造になっているということを示します。
しかしグランプリでは、そういう多層構造がなく、新しいデッキはほとんど出てきません。想定内のデッキの中で、一般プレイヤーがどのデッキを選ぶか、どのレイヤーで止まるかは予想がつくので、そもそもデッキ選択の基準や練習法がまったく違う、というのが市川さんの意見でした。
また、最終日の予定についてですが、覚前さんがドラフトをやり、渡辺さんが「じゃあ後ろで見てようかな」とのことで、「なべごく」記事のような監督付きドラフトが行なわれる可能性がありますが、そのほかには特に決まっていないそうです。
せっかくのハワイですが、今までにもプロツアーで何回も来ているのでもうだいぶ飽きていて、観光などは一切しないとか。そもそも、オーシャンビューのすばらしいリゾートホテルに泊まっていても、カーテンを閉め切って朝から晩までマジックざんまい、というのがやはり皆さんのトッププレイヤーたる所以だなと思う取材陣なのでした。
最後に、次回プロツアーから始まる6人チームで1年間のプロポイントを競うというシステムについてお聞きしましたが、現状ではチームの人員をどうするかなどは未定です。
Team Cygamesの4人にあと2人を加えるのが手っ取り早そうですが、入れたい人は何人もいるけれどそれぞれ別のチームに所属していたりするし、プロツアーの権利が一部しかないシルバーレベルの人はあまり多くできないという要素もあるし、難しそうです。そもそもTeam Cygamesの4人が同じチームになる必然性は?なども議論されていましたが、何にせよまだまだこれからということでした。
それでは、次は10月22日の渡辺雄也杯でお会いしましょう! 当日の展示品などの準備も着々と進んでいますので乞うご期待!!!
※おまけ
覚前さんと市川さんは行弘さんと一緒に海外のプレイヤーと6人ドラフトをしていました。プロツアー会場でこそ体験できる有意義な時間の過ごし方ですね^^