グランプリ・神戸2015 レポート
11月21~22日に開催されたグランプリ・神戸2015には2600人近くの参加者が集まり、Team Cygamesのメンバー3人のうち覚前さんと市川さんが2日目進出を果たしました。戦前「アブザンアグロが板(鉄板)」と言われていたスタンダード環境において、彼らが選択したデッキや戦略はどういったものだったのでしょうか? 今回は、グランプリに参加していたチームの一員としてCygames常務取締役の木村も交え、お話を聞いてまいります。
登場する主要デッキの簡単な解説
アブザンアグロ:白黒緑のミドルレンジデッキ。《包囲サイ/Siege Rhino(KTK)》に代表される1枚ごとのカードが強力。
エスパーメンター:白青黒のビートダウンデッキ。「メンター」こと《僧院の導師/Monastery Mentor(FRF)》がキーカード。
エスパードラゴン:白青黒のコントロールデッキ。「ドラゴン」として《龍王オジュタイ/Dragonlord Ojutai(DTK)》や《龍王シルムガル/Dragonlord Silumgar(DTK)》を使用。
アタルカレッド:グランプリ・神戸2015で優勝したのは、この赤タッチ緑の高速デッキ。《アタルカの命令/Atarka’s Command(DTK)》がキーカード。
赤緑上陸:アタルカレッドと似ているが、土地を置くたびに強化される「上陸」能力を取り入れている。
エルドラージランプ:マナを伸ばして重量級のクリーチャーを出す遅いデッキ。色はさまざま。
白黒戦士:グランプリ・神戸2015の準優勝デッキ。軽い戦士クリーチャーを並べてビートダウンする。
●使用デッキについて(覚前さん編)
5《山》 4《森》 2《燃えがらの林間地》 4《樹木茂る山麓》 4《血染めのぬかるみ》 4《吹きさらしの荒野》 1《進化する未開地》 土地(24)
クリーチャー(20) |
4《焦熱の衝動》 4《タイタンの力》 4《ティムールの激闘》 4《強大化》 呪文(16) |
3《噛み付きナーリッド》 2《龍爪のヤソヴァ》 3《引き裂く流弾》 4《焙り焼き》 3《前哨地の包囲》 サイドボード(15) |
――まずは大会前の、デッキ選択や調整過程についてお聞きしたいと思います。覚前さんのデッキについては公式カバレージで記事になっていますが、改めて詳しくうかがえますか?
覚前「前週のグランプリ・ブリュッセル2015ではアブザンアグロを使ってたんですけど、特別強いというイメージがなくて、違うデッキをいろいろ探して、勝率のよかった赤緑上陸を選びました。」
――ベルギーから帰ってきたあとでデッキを探したわけですよね。
覚前「そうです。だから、練習は2日間だけ、MO(マジック・オンライン)で21時間ずつやりました。」
――それはすごいですね。具体的にどんなふうにしていたんですか?
覚前「MOでずっと8構(8人による3回戦のトーナメント)に出てたんですけど、ほかの試合が終わるのを待ってるタイミングでご飯をササッと食べに行ったり、お風呂入ったりしてました。寝られなかった理由の1つには、グランプリ前なのにデッキが決まってなかったからというのもありました。」
――合計42時間やっていたうちの、どのあたりで「赤緑上陸で行こう」と決まったんですか?
覚前「15時間後くらいですね。1日目の終わりごろに赤緑上陸を使い始めて、しっくりきたので次の日はずっとそれを回してました。」
――赤緑上陸は、どんなデッキに強くて何に弱いんですか?
覚前「対エルドラージランプはbye(不戦勝)みたいなものなんで、熱望してたんですけど当たりませんでした(笑)。エスパードラゴンにはちょっと不利で、アブザンには若干有利です。あとはだいたい50%くらいで、まあまあ安定してます。」
――なぜアタルカレッドにはしなかったんでしょうか?
覚前「赤緑上陸の前はアタルカレッドを回してたんですけど、けっこう負けたんで……。ただ優勝デッキを見たかぎり、僕のアタルカレッドはサイドプランが弱くて、勝率が若干落ちてたなというイメージがあります。」
――赤緑上陸だと、トランプルが強いという話でしたね。
覚前「一般的な上陸のリストだと《噛み付きナーリッド/Snapping Gnarlid(BFZ)》が入ってるんですけど、同じ能力でトランプルがある《マキンディの滑り駆け/Makindi Sliderunner(BFZ)》のほうが強いなと。タフネスは1下がるけど、今の環境だと1と2ってあまり変わんないですから。」
市川「なんで《噛み付きナーリッド/Snapping Gnarlid(BFZ)》なのかは、上陸のリストを見て誰もが疑問に思ってたことだからね。」
覚前「しかも、今も《噛み付きナーリッド/Snapping Gnarlid(BFZ)》が主流だし。」
木村「《マキンディの滑り駆け/Makindi Sliderunner(BFZ)》のほうが700倍くらい強いよね(笑)。」
――そこは覚前さん独自の調整ポイントといえるでしょうか。
覚前「それに加えて、上陸ではクリーチャーが並ばないから《アタルカの命令/Atarka’s Command(DTK)》を抜いたことですかね。《ヴリンの神童、ジェイス/Jace, Vryn’s Prodigy(ORI)》に対応するための《焦熱の衝動/Fiery Impulse(ORI)》に替えたらかなり勝率がよかったので、そのままグランプリに持って行きました。」
●使用デッキについて(山本さん編)
2《沼》 2《平地》 1《島》 4《溢れかえる岸辺》 4《汚染された三角州》 4《乱脈な気孔》 2《血染めのぬかるみ》 2《大草原の川》 1《窪み渓谷》 2《吹きさらしの荒野》 土地(24)
クリーチャー(13) |
4《強迫》 2《勇敢な姿勢》 4《絹包み》 2《苦い真理》 1《シルムガルの命令》 4《残忍な切断》 4《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 2《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 呪文(23) |
3《自傷疵》 1《精神背信》 2《究極の価格》 3《軽蔑的な一撃》 4《アラシンの僧侶》 1《苦い真理》 1《龍王シルムガル》 サイドボード(15) |
――次に、山本さんのデッキについてうかがいたいと思います。
山本「とりあえず、アブザンアグロに有利なデッキを使おうと思ってました。アブザンアグロに強いのが《僧院の導師/Monastery Mentor(FRF)》だとまず気づいて、それでいろいろなデッキを組んでたんです。最初は玉田(遼一)さんがプロツアーで準優勝したジェスカイに組み込んで回してたんですけど、対抗色だしミシュラランド(クリーチャー化する土地)も使えないので、どうしても土地が弱くて。それで、友好色かつフェッチとバトルランド(基本土地をサーチできる土地と、それからサーチできる2色土地のシリーズ)が有効に使えるエスパーに変えました。変えたらすごくしっくりきたので、エスパーでいろんなカードをとっかえひっかえしながら調整しました。」
――調整はどんなふうに?
山本「MOで1人でやってました。グランプリの1週間前くらいに、飲み会で市川君に会う機会があったんですけど、たまたま55枚くらい一緒の同じようなデッキだったので、ちょっと意見交換して煮詰めた感じです。」
――そこからは話し合って決めたんですか?
市川「いや、意見交換はするんですけど、一緒のリストで出ようという感覚はあまりなくて、『俺はこう思うけどどう?』みたいな感じですね。」
――市川さんのデッキとは最終的にどれくらい違ったんですか?
山本「サイド合わせて5、6枚くらいですかね。」
――山本さんのデッキで、何か独自のポイントってありますか?
山本「独自ってほどではないですが、《苦い真理/Painful Truths(BFZ)》ですかね。ドロー枠は最初《宝船の巡航/Treasure Cruise(KTK)》だったんですけど、それだとどうしても終盤にしか撃てなくて、引いた土地を有効活用できなくて弱いなって思って。《苦い真理/Painful Truths(BFZ)》なら、3ターン目に撃って土地を引いてもうれしいし、2ターン目に《道の探求者/Seeker of the Way(KTK)》を出して3ターン目に撃つのがすごく強いムーブなんで。今回すごく見直されたカードだと思うんで、これに早めに気づけたのはよかったです。」
市川「探査枠をどう振り分けるかが重要なんですよ。普通のデッキだと、探査のカードって4枚かせいぜい5枚しか取れないんです。そうするとドローに貴重な探査枠を割くのがすごくもったいないんですよね。《黄金牙、タシグル/Tasigur, the Golden Fang(FRF)》や《残忍な切断/Murderous Cut(KTK)》みたいなカードでテンポを取るために探査を使いたい。だからドローは《苦い真理/Painful Truths(BFZ)》にするっていうのが、僕たちの中での結論でしたね。」
――3点のライフを失うのは、特に問題にならなかったですか?
木村「《道の探求者/Seeker of the Way(KTK)》があるからね。2ターン目に出して、3ターン目に《苦い真理/Painful Truths(BFZ)》を撃って殴ると、ライフが20のまま減らない。練習のときに、『なんで3枚引いたのに何も変わってないんだ! ずるいだろ!』ってなった(笑)」
山本「最初はその《道の探求者/Seeker of the Way(KTK)》の枠が《搭載歩行機械/Hangarback Walker(ORI)》だったんです。2マナ域は《搭載歩行機械》という先入観だったんですけど、《道の探求者》を見つけて一気にデッキが締まった感じがしましたね」
●使用デッキについて(市川さん編)
2《沼》 2《平地》 1《島》 4《溢れかえる岸辺》 4《汚染された三角州》 4《乱脈な気孔》 2《血染めのぬかるみ》 2《大草原の川》 1《コイロスの洞窟》 1《窪み渓谷》 1《吹きさらしの荒野》 土地(24)
クリーチャー(13) |
4《強迫》 2《勇敢な姿勢》 4《絹包み》 2《苦い真理》 2《破滅の道》 1《シルムガルの命令》 3《残忍な切断》 4《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 1《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 呪文(23) |
1《払拭》 2《自傷疵》 2《精神背信》 2《究極の価格》 3《軽蔑的な一撃》 4《アラシンの僧侶》 1《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 サイドボード(15) |
――それでは、市川さんのデッキ選択理由は?
市川「僕もアブザンアグロに強いデッキを使いたいと思ってて、アブザンアグロに強い色ってことで、エスパーのデッキをいろいろ回してたんです。エスパードラゴンとか、エスパートークンとか。そんな中で、LMC(千葉で開催されている草の根大会)で三原(槙仁)さんが使ったエスパードラゴンのデッキがちょっと独特なリストだったんですけど、それを回してみたら『メインに4枚入ってる《強迫/Duress(DTK)》から3ターン目に《黄金牙、タシグル/Tasigur, the Golden Fang(FRF)》が出てくるのは強いな』と。あと、『《龍王オジュタイ/Dragonlord Ojutai(DTK)》は押されてるときに強くないし、ランプに間に合わないからもう少し軽いフィニッシャーないかな?』と思って、代わりに《僧院の導師/Monastery Mentor(FRF)》を入れてみたんです。」
――市川さんと山本さんとで、別々のアプローチから似たデッキにたどりついたんですね。そして、やっぱりドローは《宝船の巡航/Treasure Cruise(KTK)》ではなくて《苦い真理/Painful Truths(BFZ)》だと。
市川「アブザンアグロに勝つには、4ターン目に3マナのカードを使ってから1マナで探査するような……たとえば《僧院の導師/Monastery Mentor(FRF)》を出しながら《残忍な切断/Murderous Cut(KTK)》するとか、2アクション取れることが重要なんですよ。4ターン目、5ターン目に連続で2アクション取っていくと、基本的に相手はまくれない盤面になるので、そのために探査枠を重視してデッキを組みました。」
――確かに、アブザンアグロと1対1交換を続けると負けますもんね。
市川「そうです。どっかで《棲み家の防御者/Den Protector(DTK)》とか《風番いのロック/Wingmate Roc(KTK)》とかが出てきて負けちゃうので。その前のターン……たとえば《始まりの木の管理人/Warden of the First Tree(FRF)》+《先頭に立つもの、アナフェンザ/Anafenza, the Foremost(KTK)》って盤面でこっちが4ターン目を迎えたとき、《絹包み/Silkwrap(DTK)》と《勇敢な姿勢/Valorous Stance(FRF)》の2アクションで除去できれば、勝てる盤面になる。だから探査枠は、2アクション取れる、盤面に影響力のあるカードに絞って、《宝船の巡航/Treasure Cruise(KTK)》は抜きました。」
――なるほど。調整はどのようにしましたか?
市川「MOですね。知り合いと2人で2週間前くらいから回し始めて、アブザンアグロに15連勝くらいしたんでこれならいいだろうと。グランプリにもアブザンアグロが4割くらいはいると思ってたんで。」
――実際、使用率は42%だったそうなので、その読みは合ってましたね。
市川「あと、ジェスカイブラックとエスパードラゴンにも基本的に強い構成なので、3大メタに強い。赤いデッキにはちょっと弱いんですけど、それ以外は行けるってことで選びました。」
――赤いデッキはそんなにいないだろうという読みですね。
市川「そうですね。アブザンアグロの2マナ域に《搭載歩行機械/Hangarback Walker(ORI)》じゃなくて《荒野の後継者/Heir of the Wilds(KTK)》が流行するなら赤単タッチ緑のほうが強いってのは通説だったんですけど、日本人は安定志向なのでそうはならないだろうっていうのが僕の読みでした。そうなると赤系はあまり上がってこないだろうと思ったんです」
――確かに《荒野の後継者/Heir of the Wilds(KTK)》はあまり見かけなかったですね。
山本「あと、直近のグランプリで優勝したエスパードラゴンが、メインに《忌呪の発動/Foul-Tongue Invocation(DTK)》4枚みたいなリストだったんで、《荒野の後継者/Heir of the Wilds(KTK)》を使うにはちょっと勇気がいるだろうなと思いましたね。」
――確かに、そういう世の中の流れもありますね。
●本戦の振り返りと反省点(山本さん編)
――それではここから、本戦での対戦について振り返っていきたいと思います。
大会結果一覧
山本賢太郎 | 市川ユウキ | 覚前輝也 | |
1日目 | 6勝3敗(3bye含む) | 7勝2敗(3bye含む) | 9勝0敗(3bye含む) |
2日目 | – | 2勝4敗(ID) | 2勝4敗 |
最終結果 | 369位 | 215位 | 61位 |
山本「じゃあまず、話が一番短い僕から(笑)。残念ながらアブザンアグロに1回しか当たらなかったんですよ。」
市川「それは悲しみ。」
木村「今回のグランプリは、アブザンアグロに何回当たれるかゲーみたいなところありましたからね。」
山本「市川君はアブザンアグロばっかり当たってたよね?」
市川「初日はアブザンアグロ5連続(笑)。」
木村「市川さんが巧みな情報操作でアブザンアグロの使用率を上げていたので(笑)」
市川「『やはりアブザンアグロが板』って言い続ける、巧みな情報操作で(笑)」
山本「アブザンアグロには勝てたんですけど、あとはダークジェスカイ1回、赤緑上陸1回、ラリー1回、赤黒ビートダウン1回、最後がマルドゥビートダウン。」
――当たったのが全部ばらばらなんですね。
山本「ラリーは明確に相性が悪くて、プレイミスして負けたのでしょうがないです。ほかに負けたのはマルドゥとダークジェスカイだったんですけど、ダークジェスカイは《カマキリの乗り手/Mantis Rider(KTK)》2枚出されて、こっちに除去がなくてもじもじしながら負けるっていう、よくあるパターンでした。」
市川「逆にそれ以外はあんま負けないんだけどね。エスパーメンターって、実はダークジェスカイに有利なんです。テンポで負けることがほぼなくて、だいたいロングゲームになる。そうなると、こちらの《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》、《僧院の導師/Monastery Mentor(FRF)》、《黄金牙、タシグル/Tasigur, the Golden Fang(FRF)》あたりは全部対処方法が異なるので、相手がちぐはぐになることが多い。逆にこっちの除去は何でも殺せるから、相手の場への対応はいくらでもあるという。」
――でもまれに、その豊富な除去が来ないこともあると。
市川「そういう、ロングゲームにできないときだけ負けますね。」
――山本さんのほうで、サイドボードとかでこうしておけばよかったなというところはありますか?
山本「サイドに1枚入れてた《龍王シルムガル/Dragonlord Silumgar(DTK)》は蛇足感があって、いらなかったなと。ロングゲームになった時に1枚でまくれるカードが欲しくて入れたんですけど、ロングゲームを目指すこと自体が間違いだったなと。それなら《苦い真理/Painful Truths(BFZ)》の4枚目があってもよかったなと。そこはちょっと後悔してる部分ですね」
●本戦の振り返りと反省点(市川さん編)
――次に、市川さんの対戦の思い出をお願いします。
市川「僕は幸運にも、初日アブザンアグロに5連続で当たったんですけど、1回負けちゃったんですよね。」
――全勝した高平(俊輔)さんが相手の試合ですね。
市川「よく覚えてるんですけど、3本目後手で、ミシュラランド・フェッチ・フェッチ・フェッチ・《黄金牙、タシグル/Tasigur, the Golden Fang(FRF)》・《自傷疵/Self-Inflicted Wound(DTK)》・《絹包み/Silkwrap(DTK)》でキープしたんですよ。」
木村「悪くない。」
市川「悪くないです。キープして、ファーストドローが《平地》。ここで俺、ミシュラランド(《乱脈な気孔/Shambling Vent(BFZ)》)を置いたんです。それを置いたことで、負けたんですよ。置かなかったら勝ってたんです。」
木村「えっ、どういうこと?」
市川「フェッチ×3枚置いて、3ターン目に《黄金牙、タシグル/Tasigur, the Golden Fang(FRF)》を出してたら勝ってたんです。相手の動きは、初動が《先頭に立つもの、アナフェンザ/Anafenza, the Foremost(KTK)》で、次が《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》だったんですけど、「この手札は《ギデオン》への対処法がないな」と思ってたら、4ターン目に出てきちゃって負けたんですよね。もし《アナフェンザ》の返しに《タシグル》を出してたら、次に《絹包み》と《自傷疵》で場を空にして、相手が出した《ギデオン》を落とせた。そのあとはアドバンテージで勝てるゲームになってたんで、1ターン目に盲目的にミシュラを置いてしまったのが負けにつながったのかなと。」
――「1ターン目からすでに負けていた」みたいな感じですね。
市川「そう。ファーストドローが《平地》だったことによって、たとえばフェッチ×3を置いたあと4ターン目にミシュラを置かざるを得なくて、2マナ×2回ぶん動けなくて負けるっていうパターンは存在しなくなってたんですよね。だから《平地》を引いた瞬間に『フェッチから入るべきだ』って考えられていれば、勝ってたと思います。」
――なるほど、難しいですね。
木村「土地を置くだけすら難しい。探査を使うために何ターン目には墓地を何枚にしておかないといけないっていうのがあるけど、とはいえ確定タップインを先に置かないとマナが足りなくて負けることもあるから、フェッチをいつ置くか難しいんですよね。」
市川「そうですね。初日最終戦の赤単に負けたのは、まあ相性的にしょうがないんでいいんですけど、2日目はかなり下ブレして、意識がないうちに5敗してた(笑)。」
――《支配魔法/Control Magic(4ED)》を撃たれてましたからね(笑)。
市川「よく土地2枚で止まって負けてましたね。しかも、サイド後に後手だから《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》を3枚に減らしたら、初手に3枚とも来たり(笑)。2日目は赤緑上陸とか、早いデッキにけっこう当たってしまったのと、ドローの下ブレも含めてどうしようもなく負け越した感じですね。」
――そうだったんですか。
木村「そういや僕、フィーチャーされてたときに市川さんのプレイを初めて間近で見たんですけど、相手をカードゲームじゃなくリアルで殺そうとしてましたよね(笑)。」
市川「いやいや(笑)ただ集中してるだけです。」
――生で見るとやっぱり迫力ありますよね。
木村「プロ感がすごいあって、あれは相手もミスるなと思いました(笑)。別にマナーが悪いとかじゃなくて、真剣なだけなんでしょうけど。『この人は絶対ミスんないんだろうな』って相手に思わせられるんで、いいと思いますよ。」
――優勝した諸藤(拓馬)さんのように、逆に対戦中ニコニコしてる人もいますし、いろいろですね。
●本戦の振り返りと反省点(覚前さん編)
――それでは、覚前さんの対戦を振り返ります。
覚前「コンボ決めたら勝ちみたいなデッキなんで、1日目はちょうど土地が3、4枚で止まってコンボが手札にあるような感じでうまくいって、2-1で勝つ展開が多くて全勝できました」
――2-1が多いというのは、1-1になってから3本目で勝つということですね。
木村「覚前さんのデッキは先手のほうが1.5倍強いですからね」
覚前「そうです。サイド後、単体除去を増やされるとちょっと厳しいので、3本目で取り返すマッチになることが多かったですね」
――奇跡的なトップデッキがあったそうですね。
覚前「そうなんですよ。僕の場に《僧院の速槍/Monastery Swiftspear(KTK)》しかなくて手札もゼロ。相手はライフが12くらいあって《見えざるものの熟達/Mastery of the Unseen(FRF)》を2回起動できる状態で、これは負けたなと。そしたら僕が《強大化/Become Immense(KTK)》と《ティムールの激闘/Temur Battle Rage(FRF)》を続けてトップデッキして。相手の手札が2、3枚あって、何かあったら負けだけど撃つしかない! と思って撃ったら、相手は『……ありません』と。」
木村「9/10の二段攻撃で、一気に18ダメージですね。」
――それは確かにすごいエピソードですね。ほかに印象的なことは何かありますか?
覚前「2日目の11回戦でエスパードラゴンの千葉(晶生)さんと当たったんですけど、1ゲーム目も2ゲーム目も相手がダブルマリガンで、あまりゲームにならなかったんですよ。まあ仕方ないんですけど、若干申し訳ないなと思ったんですよね。その次の12回戦で、いきなり僕トリプルマリガンして。その試合をきっかけに、そこからは引いても引いても土地ばっかりで……。」
――ニコ生でフィーチャーされた13回戦もそうでしたね。
覚前「土地10枚くらい並んでましたよね。エスパードラゴンの相手より土地が並んでる(笑)」
――そこから流れが変わってしまったんですね。
覚前「まあ、そんな時もあるとは思います」
※画像は【MAGIC: THE GATHERING】より引用させていただきました。
――覚前さんのデッキやプレイで反省点はありますか?
覚前「プレイに関しては、思い切ってぱっと行くべきところは全部行ったんで、特にないです。12回戦で高平(俊輔)さんのアブザンと当たった時に、サイドを1回だけミスりましたね。対戦相手に《荒野の後継者/Heir of the Wilds(KTK)》が入ってたら《焦熱の衝動/Fiery Impulse(ORI)》を残すんですけど、《搭載歩行機械/Hangarback Walker(ORI)》型だったら残さないサイドプランなんですよ。《搭載歩行機械》型やなとわかってたんですけど、その時トリプルマリガンしたショックなのか頭がボーッとしてて、2枚残してたんですよ。それが両方初手にあって……。その2枚を替えるなら《噛み付きナーリッド/Snapping Gnarlid(BFZ)》だったので、そこをミスしなければ勝ててたかもしれないです」
――ほんとにもうちょっとで惜しかったですね。あとはどういうデッキと当たりましたか?
覚前「ニコ生のフィーチャーは3回ともエスパードラゴンで、2回勝って1回負けでした。あとはやっぱりアブザンが多くて、初日は6回戦のうち4回アブザンでした」
●エスパードラゴンの欠点とは?
木村「アブザン多かったよね。俺ももっとアブザンと当たりたかったなあ。なんかダークジェスカイとか黒赤ビートとかで……」
――せっかくですので、木村さんのお話も少し聞かせてください。エスパードラゴンで出場したということですが、赤系デッキに当たって負けてしまったということですか?
木村「というよりも、僕は入院していたこともあってちょっと練習が足りなくて。とあるプロが『アブザンを使わないやつはアホだ』と言っていたので(笑)、僕もアブザンをずっと練習してたんですけど、Cygames内のMTG部でいろいろなデッキを使ってみて、最終的にエスパードラゴンが一番強そうだから、メンバーの多くが使うことになったんです。だけどやっぱりプレイングが問題で……《苦い真理/Painful Truths(BFZ)》とかをメインで撃つじゃないですか。僕がやってたころって青にメインで撃つカードってあんまりなくて、ドローはエンドに《嘘か真か/Fact or Fiction(INV)》が基本だったから、メインで撃つのに思いきりが足りなかったり、《時を越えた探索/Dig Through Time(KTK)》で何を持ってくるかが難しかったり。ある程度回さないとわからないですね。」
山本「昔の青とは違いますよね。昔はカウンター撃って《嘘か真か/Fact or Fiction(INV)》でドローして、最後に《サイカトグ/Psychatog(ODY)》みたいな感じでしたけど、今は青も自分から能動的に動いていかなきゃいけないんで、時代変わった感じがしますね。」
木村「でも久しぶりに青を使ったんで、やっぱり楽しかったです。《シルムガルの嘲笑/Silumgar’s Scorn(DTK)》が強くていいですね。負けちゃいましたけど……。」
――成績はどうでしたか?
木村「1回戦で負けてもうダメかなと思ってたらそのあと3勝して、そのあと2連敗しました。1回戦目はリアルでやるのに慣れてなかったのと、相手もエスパードラゴンだったんで、1本目が終わった時点で(制限時間の)50分経ってたんです(笑)。しかもミスって本当は勝てたのに負けちゃったんで、ミスらなければ1本目勝ち+2本目時間切れでマッチは勝ってたと思うんですけど。エスパードラゴンの最大の欠点は、(グランプリ会場内に出店していた)松屋の牛丼が食べられないことですね(笑)。」
市川「その点、赤緑上陸は毎ラウンド牛丼食える(笑)」
木村「エスパードラゴンだと毎回50分戦ってすぐ次が始まるから、昼ご飯を食べる時間がないしめっちゃ疲れる。同じデッキ使ってる人たちも、みんな1回は引き分けてました。」
山本「今はフェッチ環境なので、いつもよりよけいに時間を使いますよね。」
市川「特にフェッチから1枚しか入ってないバトルランドを持ってくるときとかね。」
木村「よくフェッチからフェッチを持ってきて怒られる(笑)。似てるんだよ! 赤黒とか絵柄ほぼ一緒だろ!(笑)」
山本「だから、フェッチは『オンスロート』版にしておくといいらしいですね。」
木村「確かに、枠と絵が全然違うから探す時に時間短縮になる。」
――エスパードラゴンは、デッキが強いけど時間切れ引き分けのリスクがあるということですね。
山本「(中村)修平さんがフィーチャーでエスパードラゴン対決やってて、お互いすごくプレイ早いのに延長ギリギリとかでしたから。」
木村「エスパー対決だとそうなるんで、デッキは強くても優勝するのは難しいかなと思いましたね。」
山本「引き分けたら、次のラウンドも引き分けの人と当たって泥沼ですからね(笑)。」
●注目のデッキ
――ところで、今回のグランプリで「これは!」と思ったデッキは何かありましたか?
市川「白黒戦士はけっこう台風の目みたいだったと思いますね。僕も1回だけ当たって、マナカーブのトップに《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar(BFZ)》を置いてビートダウンするという、《ギデオン》をうまく使ったデッキだなと感じました。当たったのは、(準優勝した)Joe Sohさんのとはちょっと違ったんですけど、それもいいデッキで、アブザンアグロのメタデッキという枠組みではなかなかすぐれていると思いました」
山本「僕は、高尾(翔太)君のエスパーメンターですね。僕たちのとはけっこう構成が違って、《龍王オジュタイ/Dragonlord Ojutai(DTK)》が入ってたり、《コイロスの洞窟/Caves of Koilos(ORI)》が4枚入ってたり。フェッチを抑えて《コイロスの洞窟》を増やして安定させてるのが、そういうやり方もあるんだなと思いましたね。」
木村「《コイロスの洞窟》が多いと、1ターン目に《強迫/Duress(DTK)》が撃てるんですよね。」
山本「確かにそうですね。土地がスムーズで、ベストムーブがしやすいのかなと思いました。」
市川「《進化する未開地/Evolving Wilds(BFZ)》も入ってたし、高尾君はいつもデッキが独特だよね。対処法が違うカードを散らして入れることによって、相手がプレイしづらくするみたいなデッキの作り方なんだと思う。《龍王オジュタイ/Dragonlord Ojutai(DTK)》がメインに2枚入ってるのも、そういう構築思想によるのかなと思います。」
グランプリ・神戸2015でベスト4入りした高尾翔太さん
※画像は【MAGIC: THE GATHERING】より引用させていただきました。
――高尾さんはグランプリ・静岡2014の「エスパー人間」でも知られているように注目のデッキビルダーですね。覚前さんはどうですか?
覚前「僕は2人(山本さんと市川さん)のデッキを見てすごいと思いましたけどね。エスパーメンターは大会時点ではそんなに公になってなかったですけど、かなり完成されてるなと。デッキシェアした人たちみんな勝ってたもんね。」
市川「そうだね。山本さん以外は2日目残ったから、5、6人いたかな。」
山本「(苦笑)」
●さらに増えたチーム特製サプライ
――今回のトピックとしては、Team Cygamesのサプライとして靴とスリーブ、ストレージボックスが追加されましたよね。感想はいかがですか?
山本「靴めっちゃ評判いいですよ! 会場でみんなに『かっこいいね』ってすごい言われました。」
覚前「言われた!」
木村「ナイキの特注品なんです。いい靴なんですよ。」
市川「スニーカーマニアを名乗る人から『それナイキのあれですよね』的なリプライがツイッターで来て、俺はまったくわからなかった(笑)。」
――「それはいいものですよ」って言われてましたね。
山本「めっちゃいいです。僕普通にリアルでも使ってますもん(笑)。」
市川「えー、普段づかいしようとしたら俺怒られたよ!『2足目が来たから普段履こう』ってツイッターで書いたら、『それは予備です』ってTeam Cygamesのアカウントからリプライが来た(笑)。」
木村「別に怒ってはいないでしょ(笑)。山に登ったりしなきゃいいんじゃないですか。」
山本「大丈夫です、ていねいに履きます。」
Team Cygamesの装備品に全身を包んだ覚前さん。
――スリーブを使ってたのは覚前さんだけでしたが、これは作り直すという話でしたよね。
木村「スリーブは3回作り直したんですけど、まだ満足いく完成度になってなくて……。」
――3回もですか。
木村「競技レベルで使えるスリーブを作るのって、めちゃくちゃ大変なんですよ。試行錯誤してるんですが、摩擦係数とか、反射とか、透過性とか……。」
覚前「僕が使ってた感じ、横入れシャッフルがしにくいとは思ってたんですよ。」
――でも、覚前さんがフィーチャーされてニコ生に映るたびに、「スリーブかっこいい」ってコメントを見かけましたね。
山本「シンプルで、デザインがいいですよね。」
――残りはズボンですか?
覚前「まあ僕はこれで満足してるんですが、『ズボンだけみんな違うね』って会場で言われたんですよ。」
市川「俺も『足元だけガラ空きやんけ』って言われた(笑)。」
――まあでも、完全に一緒にすると制服みたいになりますからね。
木村「全部そろえちゃうとだんご三兄弟になっちゃうから(笑)、多少はそれぞれの裁量があったほうがいいのではないかという、今のところの判断です。」
●神戸観光の思い出
――本戦以外の部分では、どんな思い出がありますか?
市川「初日が終わったあと、晩ご飯に連れてってもらったんですけど、べらぼうにうまかったです。」
木村「鉄板焼きですね。」
覚前「お店の人が目の前で焼いてくれて、目で楽しむ感がすごかった。」
山本「僕は2日目の観光が楽しかったです(笑)。」
木村「俺と山本さんで、初日落ちしたから神戸観光するしかない! ってことになって。」
――初日落ちしても、そういう楽しみがあるということですね。
木村「今後、初日落ちしたら無理やりそういう観光に行かされ、記事として取り上げられるっていう、実は罰ゲームです(笑)。」
市川「そういう流れになってしまったかー!」
山本「でもあちこち行ってすごい楽しかったです。」
――2日目のカバレージで見られなかったとしても記事が載るので、ファンの方にとってはうれしいですね。
木村「次は誰が観光に行くのかな(笑)? (次のグランプリ会場となる)名古屋にもいろいろありますよ。」
覚前「3人で観光行ってたらどうしよう。そうなったらもうマジックのチームじゃないよね(笑)。」
山本「来年から3敗まで2日目に行けるようになったから、さすがに大丈夫だと思うよ。」
市川「3byeあるから、3勝3敗でいいからね。2勝4敗はさすがにないでしょ。」
木村「次はリミテッドだから、僕も練習して頑張ります。」
――次のグランプリ・名古屋2016も期待ですね。
●12月の過ごし方
――現在はマジック的にわりとオフシーズンですが、その間はどんなことをやっていますか?
覚前「(山本さんに)腹筋でしょ?」
――ああ、山本さんが「1回負けるごとに10回腹筋する」と宣言してらっしゃいましたね。
山本「昨日10回負けたんで、100回やりました。」
覚前「そんなにやったんだ!(笑)」
山本「最近、MOでレガシーとモダンをやってるんです。MOCS(MOの世界選手権にあたる大会)の予選がレガシーなので、その練習を。モダンは次のプロツアーの種目なので、慣れておこうかなと思って。」
――腹筋を突然始めたのには、何か理由が?
山本「最近Cygamesさんに毎回おいしい食事をごちそうになってるので、太っちゃったんです。」
木村「そんなに行ってないでしょ(笑)。」
市川「いや、マジックプレイヤーの平均的な食生活と照らし合わせると、完全にオーバーパワーですよ(笑)。」
覚前「確かに。」
――覚前さんはシーズンオフに取り組んでることってありますか?
覚前「僕はシーズンオフでもドラフトしてます。スポーツ選手が走り込みするみたいなもので、常に素振りドラフトをしてます。僕はほかのゴールドプレイヤーの方たちより実力が劣ってると思ってるんで、上を目指すならそういうところで頑張っていかなきゃいけないと思ってるので。」
――オフでも基礎作りのドラフトなんですね。市川さんはワールド・マジック・カップ2015での解説が控えていますね。先日、日本チームの練習を見学したそうですが、どうでしたか?
市川「今回、間違いなく一番強いチームだと思うんで、期待できますね。」
山本「ツイッターとかで強いチームランキングをあげてる人は、みんな『1位JAPAN』ですからね。まあマジックですからわからないですけど、さすがに勝つと思います。」
覚前「チーム戦は実力がそろってたら一番勝ちやすいんで、けっこう行けそうな気がします。」
――市川さんから、解説への意気込みをお願いします。
市川「ギリギリを狙っていこうと思います(笑)。」
木村「あー、次はもう呼ばれないなー(笑)。」
市川「休憩後にパンダのぬいぐるみにならないようにします(笑)。でもまあ、僕が主役ではないので。マジックをもっと広く知ってもらったり、ゲームをもっと面白く見てもらえるようにするのが解説の仕事だと思ってるんで、自分が面白ければいいわけじゃなくて、自分の放送とはそこが違うというのは自覚してます。できるだけマジックの魅力を伝えるよう努めたいと思ってるので、ぜひマジックを知らない方も見てほしいですね。」
――楽しみにしています!